黄泉返りの魔王 53
国王は椅子の背に体を押しつけるようにしてから、はぁぁぁぁぁ、と長いため息を吐いた。
一気に10は老けたように見える。
また俺なんかやっちゃいました?
まあ、国王は元々が若く見えるタイプなので、それで10年分老けてようやく年相応って感じではある。
「なるほど、リディアーヌの機嫌が悪くなるわけだ。もう無理矢理卒業させるか? いや、流石にそれは学院の権威に泥を塗ることになるな……」
虚空を見上げたまま、ぶつぶつと考え出した国王だけど、この国、戦争前夜ですよ。
継承権順位の低い王女の結婚とか後回しのほうが良くない?
国民だってお祭り騒ぎがやりにくいだろうし。
「本来なら王族の婚姻ともなれば事前準備が、いや、しかしこれ以上引き延ばすのは良くない。本当に良くない。怖い」
そう言って国王は両手で顔を覆った。
国王が独り言で怖いって言うの本当に怖いから止めて。
いや、まあ、リディアーヌが怒ったら本当に怖そうではあるけれども。
「もう結婚すれば良くない?」
ネージュが首を傾げて言う。
君は自分が結婚したいだけでしょ。
リディアーヌ、シルヴィ、ネージュの順番になることは彼女も理解している。
1日でも早いリディアーヌとの結婚が、俺と家族になる日を早めることになるのだ。
だからネージュは真剣な顔でプレゼンテーションを行う。
「新年のタイミングなら主要な貴族は王都に揃ってるし、コルネイユ侯はいないから、さっと済ませて、後は事後報告で……」
ネージュはちゃんと貴族の動向も分かっている。
そうでないとガルデニアの技術を習得できるわけがないんだよな。
でも、それコルネイユ侯がめちゃくちゃ怒るやつじゃない?
そこは考慮外なの?
「……アリだな」
ぽつりと国王が呟く。
いや、アンタはエルフの言うことだからって視点になってるでしょ。
常識的に考えて!
もう3カ月もしないうちに新年だよ!
「さっさとリディアーヌとくっつけて王族に籍を移せば、学院生だろうと戦争徴発の言い訳は立つ。嫁が学院生ならともかく、夫が学院生というのは前代未聞だが、アンリが休学期間に帰らずの迷宮を攻略したことは誰もが知るところだ。反対はできない」
一応、帰らずの迷宮を攻略したのはレオン王子ですよ。
俺は手伝っただけだし。
流れが良くないと思った俺は慌てて口を出す。
「準備段階で絶対にバレますって。コルネイユ侯がなんて言うか」
早馬を飛ばせば侯爵領との往復は容易い。
連絡のやりとりは間に合う。
なんなら本人がすっ飛んでくるだろう。
あの人、優しそうに見えるけど、なんか殺気が漏れてるんだよな。怖い。
「もうまとめて結婚しろ。それだったらコルネイユ候の面子も立つ。王家としては微妙なところだが、リディアーヌが我慢すればいいことだ。そもそもリディアーヌが不機嫌にならなければ、こうはしなかったわけだしな」
ああ、ついに娘に責任を押しつけ始めたよ。
親としてそれはどうなの?
「いくらなんでも戦争前夜はマズいですって。せめて戦勝祝いの席で発表して、そこから予定調整じゃないですか?」
そう俺が言うと国王は半目で俺を睨み付けてきた。
「その間、リディアーヌにあの目で睨まれ続けるのか? 胃に穴が空くぞ。というか、お前、まさか卒業してから式の予定を立てればいいとか思ってたのか?」
「いや、流石に王族絡みですし、こっちでどうにかできるとか思ってないですよ」
つまりそっちでなんとかしてくれるもんだと思ってました。
「お前、それ言質だぞ。言質取ったぞ。こっちで予定調整したらそれでいいんだな? よし、さっさと話を進めるぞ」
「王様、こんなアイデアがある」
嬉々として相談を始める国王とネージュ。
もう止めらんないね、これは。




