黄泉返りの魔王 51
しばらくそれぞれの状況説明や、意見交換があって、サロンは解散となった。
青田買いのために来たサロンだったが、思ったより収穫は大きかったな。
王国西方貴族が対帝国戦への参加に条件を付けてきていることも分かった。
アホかと思うが事実のようだ。
俺が後詰めなのは知っているだろうから、連中は自分たちだけで帝国軍に勝てると思っているということになる。
だから戦争そのものより戦後のことが気になって仕方ないのだ。
うーん、20年前の勝利が目を曇らせているんだろうな。
俺は当時を直接は知らないが、当時大森林に街道は無かったわけだし、それを抜けてきた帝国軍は満身創痍だっただろう。
普段はそれほど強い魔物がいるわけではないが、兵士というのはほとんどが普段は農民で戦闘訓練を受けているわけではないのだ。
むしろ大森林を抜けた後でピサンリを攻められたのが凄い。
いっそ救助を求めていてもおかしくなかっただろう。
だが今は状況が違う。
大森林には街道が整備され、移動は以前より格段に楽になった。
大軍が1度に移動できるようなものではないが、物資の移送には十分だ。
物資さえ確保できていれば、森の中を抜けていくのもそれほど苦ではないはずで、万が一シクラメンが落ちたら、ピサンリには十分な物資を備えた帝国軍が攻めてくるはずだ。
国王の命令があった時点で俺が吹き飛ばすことにはなると思うが、西の貴族がこの状態だとピサンリ陥落くらいまで命令は出ないかも知れない。
それはそれでどうしたもんかな、って感じだけど。
シクラメンが落ちた時点でアドニスも落ちるわけだし、俺としては介入しどころなのだけど、国王の命に逆らって帝国軍を撃退って、最悪の最悪を考えると俺に対してガルデニアが暗殺を仕掛けてくるな。
自分1人なら警戒していればなんとかなると思うけど、その状況ではもう王国に居場所がないのと同じだ。
家族や婚約者に累が及ぶことも避けたい。
最悪家族は連れて逃げるとして、ネージュは何も言わずについてきてくれるだろうが、シルヴィはどうだろうか? リディアーヌは国を選ぶって分かってます。
この部分、国王と確認しあっておかないと怖いな。
そう思った俺はまず観測所に向かう。
国王のところに行くときはネージュを連れていくと話が早いからだ。
ガルデニアを通して国王の居場所も分かるし、国王自身もこちらの要求を受け入れる可能性が高い。
要はエルフにいいところを見せたいんだろうなと俺は思っている。
昼過ぎ、というには少々時間の経ちすぎた頃合いだが、観測所はいつも通りだ。
つまり皆忙しく仕事をしている……という感じでもないな。
雰囲気が弛緩しているというか、なんというか。
まあ、前にも話したと思うが、重要そうな金属書は大体翻訳が終わったので、いま翻訳しているのはどうでもよさそうな金属書ばかりだ。
やる気がでないのも仕方がない。
日記すら通り越して、素人の詩集みたいなのとかだもん。
いま翻訳してるの。
ネージュはどこかなと思って探しているが中々見つからない。
観測所にはいると思うのだけど、と思って最後に自室に寄ってみると、俺のシーツにくるまれたネージュが転がっていた。
なんだこの状況。
「アンリ、おかえり」
異様な状況にもかかわらず、俺が入ってきたことに気付いたネージュは首をぐるりとこちらに向けて挨拶をしてくる。
「一応聞いておこうと思うんだけど、何してたの?」
「こうしてるとアンリに包まれているみたいで幸せになる」
「それ洗濯済みだと思うよ」
「じゃあその逆で」
俺がネージュに包まれるのかな?
気付いたことはなかったけれど、過去にもこういうことはあったのかもしれない。
というか、俺がメイドさんが付けてくれた匂いだと思っていたものがネージュの体臭だった可能性すらある。怖い。
「王様に話があるからネージュにも来て欲しいんだけど、見た感じとても忙しそうだね」
「もちろん行く」
ふわっとシーツが広がって、ネージュがささっとベッドメイクを済ませる。
手慣れすぎてて怖い。
ネージュを伴っていなくとも俺は国王の執務室に入っていいことになっている。
だけど国王がそこにいるとは限らないので、ネージュが城内のガルデニアにそれとなく接触して国王の居場所を聞き出してくれるのだ。
これがとても便利で、たらい回しにされることが絶対に無いというだけでネージュを連れてきたくなる。
まあ、流石に謁見の間にいたら乱入はマズいんだけど、謁見の間にだって国王の休憩室がある。
そこで待っていれば、謁見の合間にちょっと休もうとした国王を捕まえられるわけだ。
休憩しに来たのにね。
可哀想とは思わないけれども。
という話をしてみたのだけど、この時間は執務室で間違いないだろう。
謁見というのは午前に行われることが多いからだ。
「執務室だって……」
ほらね。
ところでネージュさん、いつ情報のやりとりがあったんですか?
全然気付きませんでしたよ。




