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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 39

 さて方針が決まったところで今夜の寝床を決めなければならない。

 とは言っても王城にいるから、観測所か、学院の寮だなあ。


 冬支度に入った領地の様子も気になるが、代官がちょっと優秀すぎて、俺の来訪日から転移に気付く可能性がある。

 普段から領地に転移するときはものすごく気を遣っているのだ。


 ぶっちゃけ、あいつがいれば良くね?


 って状況なので、俺は金と方針だけ決めておけばなるようになる。


 実は一番落ち着くのは学院の寮だったりする。

 あそこ男子寮だし、個室なので気が楽だ。

 少なくともネージュが突撃してくるようなことはない。


 ただ寝床の手入れがちゃんと行われているのは観測所の方だ。

 こっちはメイドさんがいるので、俺がいなくとも毎日掃除が行き届いている。


 観測所かなあ。


 量が量なので金属書の翻訳作業はまだ続いている。

 古代文字の解読はかなり進んだので翻訳ペースは上がっているのだが、重要そうなものから翻訳作業を行ったので、今はわりとどうでもいい内容のものが多く、所員のモチベが下がってるんよな。

 なのでこの時間はもう残業しているような悪い所員はいなくて、今頃は観測所内で飲むか、遊ぶか、飲みながら遊んでいる人が多いだろう。


 しばらく留守にしていたので様子も気になる。


 観測所に向けて徒歩で向かった俺たちは、所員たちの熱烈な歓迎を、受けなかった。


「え? 早ッ!」


 みたいな反応がほとんどである。

 まあ、2カ月くらいかかる予定って言って1ヶ月くらいで戻ってきたからね。


 だけど少しは寂しがってくれていてもいいんじゃない?


 いや、まあ、上司が予定よりずっと早く出張から帰ってきたら、それは確かに嬉しくなさそう。

 俺、前世で働いたことないけど。


 照明があえて抑えられた薄暗い遊戯室は酒と煙草の臭いでむせかえりそうだ。

 主に男性陣がソファなどに腰掛けて、歓談や、遊戯に興じている。


 俺とネージュが入室してきたときに、一通り挨拶は受けたが、その後は元の喧噪に戻っていく。

 まあ、俺たちここで偉そうにしてないもんな。

 業務後の時間にリラックスしてくれているならなによりだ。


 仕事の終わった時間に、進捗を聞くのは、俺の思う悪い上司のそれなので、できるだけ仕事の話題は避けて、話しかけられそうな雰囲気の所員から話を聞く。


 クララ・フォンティーヌが業務以外の時間を使って魔法を習得しようと努力しているという話を聞いて、ちょっと気まずい。

 中途半端に魔力を感じ取れるようになってしまったため、希望の光が見えていると感じているのだろう。

 彼女に与えた黒い宝石は、ネージュに能力を与えるために魔力をほぼ使い切った出がらしだ。

 それでも通常はあり得ない魔力量が残存しているため、ある程度の性質変化があったようだが、それ以上は起こるまい。

 そこまで消費したネージュやシルヴィでも魔法の行使には至っていないのだ。


 いや、そんなこともないか。

 ネージュは魔物を産み出し、シルヴィは魂の蒐集を行っていた。

 これらは限定的な魔法とも言える。


 彼女らの言葉を信じるなら黒い宝石を摘出されてから能力は使えなくなっている。

 シルヴィが顕現させていた鋼の肉体や黒い翼も今は無い。


 ということは変質した肉体、あるいは魂と、黒い宝石が合わさって初めて能力が発動するのかもしれない。


 クララ・フォンティーヌは2つ必要なカギの1つをすでに手に入れているということになるのかも知れないな。

 ならば黒い宝石がゆっくりとでも肉体なり魂を変質させれば、いずれ彼女もなんらかの能力を発現させるのだろうか。


 だとして、そのときに彼女が俺の敵にならないことを祈るばかりだ。


 しかしそういうことだとすると、手元にあるほぼ完全な状態の黒い宝石の扱いに困る。

 出がらしであの魔力量だったので、完全な状態のそれを割ってしまうと、魔力の嵐が吹き荒れるだろう。

 それがどういう結果を生み出すか、実例が無いのでちょっと分からない。


 まあ、そもそもダンジョンコア?的なのにぶつけるか、黒い宝石同士をぶつけるくらいしか割る手段が思いつかないので、杞憂と言えば杞憂なのだが。


 他にも誰それがメイドに手を出したとか、ここにいない人の悪口だとか、実に世俗にまみれた話題がそこかしこで繰り広げられている。


 さらっと聞き流したけど、メイドに手を出すのは不味くない?

 ここのメイドって貴族関係者がほとんどで、ガチの令嬢も混じってるんですけど。

 気がついたら格上の家の令嬢を身ごもらせていたなんてことが発生しないことを祈るばかりだ。

 業務時間外のことに俺は責任取らないよ。


 さて長居をしてもネージュの教育に悪そうなので、一通り話を聞けたところで退出する。


 廊下でメイドさんに声をかけて風呂の空き時間を確認した。

 観測所に戻ってきた時の楽しみと言ったらこれですよ。


 観測所では数の多かった浴室を多少改装はしたものの、そのままの数で運用している。

 屋敷が作られた時の想定より入居している人数が多いということもあるし、男性も女性もいるからだ。

 空いている時間になるがメイドも風呂に入るようにさせている。


「今の時間ですと1番でメイドたちが入浴させていただいていますけれども、そこはいかがですか?」


 1番は観測所で唯一の大浴場、つまり複数人での利用が前提の造りだ。

 男性の時間、女性の時間に分けられていて、それさえ守れば自由に入浴ができる。


「わーい、そこにする、って言うわけないでしょ」


「アンリ様も大人になられて……」


「いや、ここできてまだ1年くらいだし、成長はしたけれども」


「冗談です。2番なら入れますよ。他は埋まっています」


 冗談を言ってもらえる関係性を作り上げられているのなら、まあいいか。

 男性陣が遊戯室でだらだらとしているこの時間は女性陣が一気に風呂に入っているのかも知れない。

 ひとつとは言え、空いていたのはラッキーだな。


「じゃあネージュはメイドさんたちに洗ってもらって」


「一緒に入る」


「駄目に決まってんでしょ!」


 もうこのやりとりも何百回目だか。

 今のところ俺の貞操は守られている。

 ネージュのもね。


 幼い頃はともかく、今は俺のほうが身長も高い。

 ネージュも本気で言っているわけではないだろう。

 俺とのコミュニケーションなのだ。


「お着替えなどは勝手に用意させていただきますのでどうぞ」


「じゃあ、ありがたく」


 至れり尽くせりなのが観測所の生活だ。

 まあ俺がお金出してるからでもあるんですけど。


 風呂のあるエリアに行った俺は2番の風呂場の扉を開けて中に入った。


 風呂の造りはそれほど変なものではない。

 扉の内側に脱衣所があり、その奥の扉の向こうに風呂がある。


 脱衣所にはメイドが勝手に出入りして、脱いだ衣服を回収したり、洗濯済みの衣服を持ってきたりはするが、まあ、そういうものなので恥ずかしさは特にない。

 スーパー銭湯で、男湯のお湯のチェックに女性が入ってくるようなものだ。


 俺はさっさと服を脱いで、洗濯カゴに放り込んだ。

 メイドさんに裸を見られないコツは、素早く事を為すことだ。


「ん、着替え持ってきてくれたの?」


 だが風呂場に入ろうとして扉を開けようとしたら、向こうから勝手に扉は開いた。

 湯気と共に風呂場から姿を見せたのは、長い髪をタオルで巻いて、そのくせ体は一切隠すことなく、堂々と背筋を伸ばして立つシルヴィだった。


 薄いと思っていた体に、ある程度の膨らみがあることにちょっと驚く。

 肌の上を流れる液体は、張りのある肌に弾かれて、丸く流れ落ちていた。


 彼女は全裸の俺に気付いた。

 というか正面にいたので隠れることもできやしない。


「きゃっ――」


 悲鳴を上げかけ、飲み込んで、シルヴィは俺の顔を見た。

 それから視線を下げて、俺の顔に戻し、少し立ってからまた視線を下げた。


「むぎょぉぉ――」


 悲鳴ではないなにかの鳴き声みたいなのを上げかけて、やっぱり自制するシルヴィ。

 顔が真っ赤なのは、お湯につかりすぎてのぼせてるんだよね。

 そういうことにしておこう。


 シルヴィは顔を真っ赤にしながら、体を震わせ、ようやく気がついたとばかりに両手でその胸を隠すと、その場にぺたんと尻餅をついた。

 結果的に一番大事なところが隠せていないですよ……。


「あ、あ、あ……」


 シルヴィの視線は、角度がついていない。

 彼女の顔の正面。

 尻餅をついた彼女の頭の高さにあるものと言えば……、ノーコメント。


「アンリ? メイドがシルヴィがこっちに入ってるって」


 脱衣所の外からネージュの声がする。

 あ、やば。


 シルヴィもそう思ったのか、慌てて立ち上がり俺の手を引いた。

 風呂場の中に引っ張り込まれる。


「アンリ?」


 ネージュがなんの躊躇もなく風呂場の扉を開ける。

 そういう思い切りがいいところ、あんまり良くないと俺は思うよ。


「シルヴィ?」


「どうしたの、ネージュ? そんなに慌てて」


 お湯に浸かったシルヴィは何食わぬ顔でネージュに応じる。


 俺? 俺はシルヴィの尻の下だよ!!!!


 魔法の行使に実際の呼吸が必要なくて良かった。

 飛翔魔法で高高度を飛んでいる時に酸素を含んだ空気を供給する魔法がある。

 水中で使用するのは初めてだったが、うまく作用してくれたようで苦しくない。


 ふにふにと柔らかい尻の感触が背中を押している。

 いや、ぐいぐいか。

 うりうり?


「……アンリ、見なかった?」


 風呂の外の様子はお湯が乳白色であることもあって見えないけれど、ネージュが風呂場の中にまで入ってきたようだ。


「見てないわよ。そもそも女性の入浴時に入ってきたらぶん殴るし」


 ええ、俺これからぶん殴られるの?


「大体アンリっていざって時にビビりだから、入ってきたりしないでしょ」


 その評価酷くない?

 大体あってるけど。


「メイドがね、2番が空いてるって言ったの。イタズラのつもりだったみたい」


「そうなんだ。でもアンリは来てないわよ」


 シルヴィは平然と答えているように見えるけど、お尻に敷かれているから分かる。

 ちょっと震えてる。

 もちろん寒いはずがない。

 お湯は熱いくらいだもん。


 俺からは見えないけどネージュは相当怒っているに違いない。

 シルヴィはネージュよりかなり強い。

 そのシルヴィが震えているのだ。

 相当のお怒りモードだ。


 まさか抜剣してるとかないよね?


 俺は魔法の影響が外に及ばないように細心の注意を払いながら、水中で空気を作って吸って、その空気から二酸化炭素を取り除いて、お湯から酸素を生成し、空気中に混ぜてまた吸い込む。

 わずかな泡でも水面に見せてはならない。

 ガルデニアとして訓練を受けたネージュの感知能力は本物だ。


「大体、脱衣所までくれば誰かが入ってることくらい分かるんだし、アンリだって気付くでしょ」


 はい。

 気付きませんでしたね。

 すみません。


「じゃあ、アンリはどこに行ったの?」


「私に聞かないでよ。お風呂に入ってたんだから」


「……そう。シルヴィ、用事は終わった?」


「……まあ、ね」


 すみませんすみません。

 その話長くなりそうですかね?


 大魔法は得意だが、繊細な扱いは苦手なのだ。

 今やってることは、どちらかというと飴細工を加工するような感じで、精密な精神力が要求される。


「結局なんだったの? アンリを後回しにするような用事ってなに?」


 ネージュさん、俺がいないところだとちょっと口調がキツくないですか?

 普段からそうなの?

 俺が言うことじゃないけど、こんなじゃ友だちできなくない?


「言えない。でも私はアンリのためになると思って行動してる。それは誓うわ」


「アンリのためなのに言えないの?」


「アンリのためを思っているから言えないのよ」


 そう言われるとなんか俺も気になってきたな。

 だけどシルヴィが伝えないことが正解だと思っているなら、それを尊重したい。


「いつ言えるの?」


「それも分からないわ。すぐかも知れない。一生言わないかも知れない」


「……そう。シルヴィがちゃんと考えてるなら別にいい」


 言葉がなんかキツいんだよなあ。


「アンリを探してくる。上がったら手伝って」


「分かったわ。観測所に帰ってきたなら、どこかにいるでしょ」


「うん。一緒にお風呂入る」


「それは止めときなさい」


 それからネージュが遠ざかる物音がして、扉が閉まった。

 それからさらにたっぷりと十数秒は待ってからシルヴィは腰を上げる。


「大丈夫? アンリだから大丈夫だとは思ってたけど」


「なんとかね」


 お湯から顔を出して答える。

 大変だったけれど、苦しいってことはなかった。


「助かったよ。ネージュの言ってた通りメイドのイタズラだったみたいだ」


「まあ、イタズラというよりは後押しみたいな気持ちだったのかもね。私たちって正式な婚約者なのになんの進展もないし、心配してくれていたということにしてあげて」


「シルヴィがそれでいいなら俺は大丈夫。問題はネージュのほうだけど」


「それはこの後次第よね……」


 今だから言えるけど、シルヴィが俺を隠したのは悪手だった。

 俺を脱衣所に放置して、シルヴィだけが風呂場に戻り、まだ扉を開けていないことにすれば、俺はまだ何も見ていないことになり丸く収まったのだ。


 それはシルヴィも分かっているのだろう。

 風呂の中に座り込んだ俺の隣に腰を下ろす。


 2番は1番とは違い、個人用の浴室なので浴槽はさほど広くなく、どうしても肌が接触する。


「ごめん、えっと、あの、その、つい引っ張り込んじゃったわ」


 シルヴィにしては珍しく言葉を濁しながら、目線を彷徨わせる。

 どこを見ればいいのか分からないみたいだ。


「つい、って?」


「それは、その、ね、アンリが、ちゃんとその、私でその気になってくれてたから、いえ、ちが、そう、ちゃんと貴方と子どもが作れそうで良かったって」


 ばっか、真っ赤な顔で、火照った体で、そんなこと言われたら我慢できなくなっちゃいそうだろ!


「心配だったの。私はちんちくりんだし、アンリはよくリディアーヌ様に目を奪われてたし、結婚はできても子どもはできないんじゃないかって思ってた……」


「そんなわけないよ。俺はちゃんとシルヴィが好きだし、……リディアーヌを見ちゃうのは男の性質サガなんだ。すまない」


「バカ」


 シルヴィはそう言うと両手で俺の頬を挟んで自分のほうにぐいっと向けた。

 いくら乳白色のお湯とは言え、これだけ近いと色々透けて見えるわけで。


「他の女の名前を出さないで」


 先に言ったのはシルヴィのほうだけど、そんなことを指摘するべき時ではないことは、俺にでも分かった。

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