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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 38

「共和国首都で消費される半年分の食料か」


 その日のうちに王国に舞い戻った俺が国王への面会を求めるとあっさりと通った。

 なんなら待っていたと言えるほどの早さで。


「で、具体的な量と、対価は?」


 あっ……。

 しまった。

 誤魔化そうと心が動いたが、言い訳も出てこなかった。


「聞いてません。そのアレクサンドラを送った上に、戦争を促しているわけですから、無償で提供するものとばかり」


「大統領もお前がそう勘違いしていると気付いて話をしなかったのだろう。今から価格を付けても聞いていないと言われるだろうな。だがそれでも無償で、ということはありえない。首都の半年分だぞ。王国が破産する」


「私の個人資産から支払うのでは? 親書にはそう書かれていた、と」


「それは提供が可能だ、という話であって、無償供与するなどとは書いていない」


「私の失策です。個人資産から無償での供与ならできます」


 というか、余裕がある。

 ぶっちゃけ処分させて欲しい。


「ならん。理由はいくつもある。まず王国が本来支払うべき負担を領地貴族に肩代わりさせたとなれば、領地貴族の王国への帰順意識が弱まる。国が守ってくれないなら、と離反を促す結果になるぞ。それから共和国との関係性だ。王国は国家としてアレクサンドラ姫を共和国に亡命させた。その際に取引を行い、食料を提供するのは構わないが、お前が個人的に共和国に寄付をしたとなると、共和国は王国よりもお前との関係性を重視するようになる。それにこれから帝国に攻め込む共和国をお前が支援していたということが帝国に知られたら、お前を引き渡せと要求が来ることになる。受け入れはしないが、その要求は国際的には認められるものになるだろう。もちろん立場に違いはあるだろうが、要求を行うこと自体は自然だ」


 俺は収納魔法に山ほど入っている魔物の死体を手放したいだけなのに。


「よって、形としてはお前から王国が食料を買い上げ、それを共和国に供与という流れになろう。最悪、共和国へは無償供与でも構わんが、何かで少しでも回収したい……」


 国王は難しい顔で考え込む。

 食料の販売が最初から既定路線だったのなら教えておいてくれれば良かったのに。


「お前ならどうする?」


「……共和国の協力は絶対に必要です。アレクサンドラと難民だけでは戦争にもならないですから。その上で共和国から利益を引き出せるかというと……」


「利益など期待していない。損失さえ抑えられたらいい。赤字は織り込み済みだ。問題は王国の財政は無償供与した途端に破綻するということだ」


「そこまで厳しいですか?」


 国家なのだから財政難であれば増税するという手段もある。

 そう思ったのが顔に出ていたのだろう。


「増税を決めるのは簡単だが、増税によって失った貴族や民の信用を取り戻すのは難しいからな」


 うーん、至言。

 だけどそんな余裕も無いというのが実情のようだ。


「私には金を払ったということにだけすればいいのでは?」


「そんなことをすれば財務大臣がすぐに気付く」


 気付かれてもいいのではと思ったが、大臣が気付くということは他の職員が気付くかもしれないか。

 後出しでそういう事実が露呈するのは最初から報せておくより悪い。


「では私からの貸し付けにするのはどうでしょう? 無期限無利子で構いませんよ」


「身内からであればそれもありだが……、今すぐリディアーヌと結婚するか?」


 嫌なこと聞くなあ。

 結婚すること自体は拒否しないけど急すぎる。

 ネージュが嫌がるんじゃないかなあ。


 ちらりと隣を見ると、ネージュもこちらを見ていた。

 それから国王に目線を向ける。


「……私も一緒に結婚する」


「王家としては歓迎するが、コルネイユのがな……」


 嫁としての序列は決して婚姻順で決まるわけではないが、順番に拘ってしまうのも事実。


 何よりコルネイユ侯がシルヴィの結婚順位が3位以下になるのを許さないだろう。

 例えネージュが国王のお気に入りだとしても、だ。


 それくらいの力がコルネイユ侯にはある。

 国内で無事だった穀倉地帯を有するコルネイユ侯を国王としては無視ができない。


 そして今はスピード勝負だ。

 さっさと共和国の協力を取り付けて、難民を鍛えてもらわなければ困る。


 だが国王にとっては同じくらいネージュの機嫌が大事なようだ。


 国の運命と、ひとりのエルフ、それって同じ天秤に乗せていいもんなんかな?


 国王という立場から見た視座ってそんなもんなのかもしれない。


「……春までまだ時間がある。そんなに急ぐような話?」


 この点は俺と国王で意見が一致している。


 時間は圧倒的に足りない。

 どうしたって足りていない。

 アレクサンドラが、共和国がどんなに頑張ったところで、難民がちゃんと訓練された兵士と同じ働きをできるようになるまで年単位の時間がかかるだろう。

 たとえ訓練できたところで数で勝てない。


 つまり最悪を、ちょっとだけでもマシな未来にするために払える努力と時間があるというのなら、どんなにあっても構わない、ということだ。


 もちろん俺が出れば最終的にすべて解決する。


 だけど国王がそれをギリギリまで望まない以上、俺のほうから戦争に参加はしたくない。


 仕方なく人を殺す覚悟はできているつもりだが、自分から人殺しになりたいとは思っていないからだ。


 通常戦力でできることを探るなら、アレクサンドラたちに期待するのが一番いい。

 王国は数倍の帝国兵相手ならば、シクラメンと大森林を使った機動防衛でなんとかなると分析している。

 要はそこまで王国方面の帝国兵が減るように、アレクサンドラたちが帝国兵を引きつけてくれればいいのだ。


 一番うまく行ったら帝国は攻めてこない。

 最悪の場合は王国軍が壊滅して、俺が出陣することになる。


 この二つの天秤を、良いほうに傾けるために必要なのはとにかく時間だ。


「ネージュ、寝坊してすでに約束の時間は過ぎたとして、急がない理由があるかい?」


「……遅刻したら、二度寝してもいい」


「ごめん、俺の例えが悪かった」


 ネージュは寝坊とか気にするタイプじゃなかったな。

 彼女にも分かるようにこの状況を例えるとするならば……。


「食卓に並んだ色んな料理があったとして、一番食べたい料理はすでに全部食べられてしまった。でもまだ2番目や3番目が残ってる。でも今もどんどん食べられて行ってる。どうする?」


「……作り直しを要求する」


 ネージュの場合、要求が通っちゃうんだよなあ。

 王国が甘やかしすぎた結果がこれである。


 だけど今回はそういう問題では無い。

 いや、無駄なことをしている時間すら惜しいという意味では、この問題の本質を突いている。


「それをしている間にどんどん料理は無くなって行く。このままだと食事にありつくのも難しそうだ。どうする?」


「……本当はどこかに取っておいてある」


「それも無い。時間切れだ。ネージュ。君は食事にありつけなかった。現実の窮状を認めず、最高の結果を求めた結果、最悪の結末だ。自分の求める最高の結末に辿り着く手段を模索することも時には必要だと思うけれど、そのリスクを考えなければいけない。今回の最善手、かどうかは分からないけれど、俺と陛下はただただ共和国にいる難民を鍛える時間を作ることが必要だと思っている。その時間の長さだけ最悪の結末から遠ざかれる」


「……ならお金の問題なんて後回しでいい。時間を確保してから考える」


「うん。ひとつの真理だ。陛下、共和国に金の話は後回しにしましょう。一旦食料は供給し、金の話は戦後に。いま必要なのはとにかく時間です。それも先延ばしにはできない類いの。共和国大統領も言っていました。元首に必要なのは決断だと」


「そういう側面はある。アンリ、お前は王にはなれないな」


「そんな大それたこと考えたこともないですよ」


 王になんてなりたくない。

 俺はほどほどの位置で安穏と生きていくのが目標だ。

 そしてそのための大前提として、自分にとって大切な人を守りたいだけだ。


「分かった。ではこうしよう。王国は共和国支援のために臨時国債を発行し、ストラーニ男爵への支払いに充てる。これで今のところ金の問題は先送りできる」


 うーん、国に借金を背負わせた男になってしまった。

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