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転生チートで世界一の魔法使いになりました。ただし魔法使いは俺だけです。(改題)  作者: 二上たいら
第5章 黄泉返りの魔王

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黄泉返りの魔王 37

 フリュイ共和国大統領官邸は大きな建物ではあったが、図書館と比べたら見劣りする。

 立派、とも言い難い。

 ハレニカに立ち並ぶ他の建物の巨大版という感じで、特別な建物という感じがしない。

 警備に立つ兵士の数が多く、ただの建物ではないというのはすぐ分かるのだが。


「驚かれたでしょう?」


 ニコニコと笑みを浮かべ、円卓に座るのはフリュイ共和国大統領レルキア・スートバーニその人だ。

 頭の横で巻いた角からして羊系の獣人だろうか。

 物腰が穏やかで、国家の元首であるように思えない。


「元々図書館の建物が官邸だったのですけどね。集めた本が溢れ出そうだったので、先々代が移転を決断されて、官邸と図書館が入れ替わったわけです」


 それでやっぱりこの人も図書館の話を始めちゃうんだなあ。


「国民に智を開放するのは統治に問題がありませんか?」


「アレクサンドラ姫殿下、ご懸念はもっともです。アルブル帝国のような統治制度下では、国民は無知であったほうが都合がよろしいのでしょう。しかしフリュイ共和国では違います。国民に職業の自由があるこの国では、より良き人生のために人々は学び、より適正のある人物を正しく活用できます。算術の得意な者に財務を担当してもらい、人を使うのが上手い者に地方統治をしてもらいます」


「それでは大統領閣下は、この国で一番統治が得意ということでしょうか?」


「いえいえ、とんでもない。この国を実際に運営しているのは官僚たちですよ。大統領の指名は議会が行いますが、指針としては決断を行える者です。迷ってもいいですし、他人の意見に耳を傾けてもいいですが、必要な時までに決断を行える者であることが、大統領を選ぶときに重要視されるところです。つまり――」


 レルキア・ヌートバーニ大統領はテーブルに置かれた開封された親書を手に取って、もう一度ちらりと文面に目を落とした。

 そして俺たちには文面が見えないように裏返してテーブルに戻した。


「この作戦書は検討の必要がありますが、アレクサンドラ姫が難民をまとめて組織を作ることは、この場で承認します。必要な協力も惜しみません。難民問題は社会問題化してきているので、早急な対処が必要なのです」


「感謝いたします」


「そのために必要な人員はこちらで用意しましょう。長旅……ではなかったようですが、ひとまず体を休めてください。準備を整えて、近いうちにアレクサンドラ姫にも活躍していただきます」


「はい。大統領閣下。……アンリ様、ありがとうございました。私を攫った当人にお礼を言うのは変な感じがしますが、貴方様が私の命を気にかけてくださったお陰で、私はいま生きています。私は私のやるべきことをしにいきます」


「上手く行くことを祈っています。お互いのために」


「ストラーニ卿にはもう少し話があります。残っていていただけますか?」


「承知いたしました」


 メイドに連れられてアレクサンドラが部屋を出て行く。

 彼女は最後に1度だけ振り返った。


 今生の別れかもしれない。

 全てが上手く行けば、今度は女王になった彼女に使者として会うことがあるかも知れないが、今のような関係性はここで終わりだ。

 だがなんと声をかけたらいいのか考えているうちに、アレクサンドラは前を向いて部屋を退出していった。


 扉が閉まるのを待って、レルキア・ヌートバーニ大統領は苦笑と呼ぶべき表情を浮かべた。


「花の王国は随分としたたかになりましたね。泥の国としてはありがたい申し出なのですけれども」


 あー、国王はこんなやりかたしないもんな。

 今回の件はリディアーヌの発案だ。


「ですが、問題もあります。親書によればストラーニ卿が解決できると」


「そうですか。どのような問題でしょうか?」


「食料です。難民たちを練兵し、軍事行動を起こさせるとなると、彼らを食わせていかなければなりません。なんでもストラーニ卿は大量の食料を魔法で持ち運んでいるとか。フリュイ共和国からフラウ王国へ、ストラーニ卿が供出できる食料から、ハレニカで必要とする半年分の食料を求めます」


「親書にそうするように書かれているのでしょうか?」


「いいえ、しかしこちらの要求は予測されているようですね。今回の作戦は共和国、王国双方に益のある提案です。ですが、私たちにとって降って湧いた話であるのも事実。悪いことにもう冬に入ってしまいました。今から必要な食料の増産はできません。他国から輸入するにしても、この季節では相当ふっかけられるでしょう。備蓄食料でも春までは持ちますが、軍糧に回せる分が足りなくなります。この補填は作戦のためにどうしても必要です」


「1度持ち帰って検討しても?」


「それがなければこの作戦が成立しないのですよ。検討の必要が?」


 うーん、俺に与えられている裁量権の範囲なのかな。

 確かに俺が保有する食料は、俺の個人資産で、王国のものではない。

 王国に命じられて供出するのであれば、王国に対して見返りを求める必要が出てくる。

 いや、求めてもいいんだけど、王国は王国でいま資金的に苦しいのよね。

 特にこれから戦争準備でさらに財政が苦しくなる。


 俺が戦争から遠ざけられている分、ここで個人的に同盟国に支援をするくらいは構わないのでは?


「私が保管している食料はほとんどが未加工の生肉です。精肉すらされていない状態で、ハレニカを半年維持する分となると、1度に出しても処理しきれないのでは?」


 肉と言うより死体だからな。魔物の。

 食料として欲しいということだが、手間を考えると魔物の素材も一緒に提供することになるだろう。


「それこそ難民を無理にでも動員しますよ。アレクサンドラ姫の組織が動き出すまで、難民が我が国の抱える問題であることに変わりはありませんから。それから――」


 レルキア・ヌートバーニ大統領はにっこりと笑った。


「アレクサンドラ姫に難民をまとめていただく手伝いをするくらいなら、私の独断でできますが、軍事行動、それも難民に偽装して帝国に攻め込む、ということになると議会の承認を得なければなりません。その時に食料の問題は必ず議題に上がります。議会が開かれるまでに食料問題を解決できていれば、採決までの時間も相当短縮されるでしょう。春には帝国に圧力をかけられるほどの戦力にするのですよね?」


 さっさと決めろということか。

 確かに飛翔魔法で行って戻ってくるなら、どうしても明日にはなる。

 転移だと一瞬なんだけど、情報は与えられないからな。


「1日もお待ちいただくことはできませんか?」


「肉の加工を始める前提で人員設備を用意しておきますが、それでよろしいのであれば」


 つまりその場合、是以外の返答は認めない、ということか。

 それでも俺が勝手に判断はできないんだよなあ。


「分かりました。必ず許可を取ってきますので明日またお時間をください」


「はい。よろしくお願いいたしますね」


 これだから交渉ってヤダー!

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