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第47話 さーびすしーん?

 第47話 さーびすしーん? 改


「ぬっはぁ~!!疲れも吹っ飛びますわー!」

「は~、日本人は湯に浸かるに限りますなあ~」

「おいおい、お前ら、静かに入れよ。お湯がこっちにかかるんだけど」

「いいじゃん、いいじゃん!同じお湯に浸かる仲なんだし、それ位は大目に見てよ、すーちゃん!」

「そうそう~。それにすずめくんや、これは無礼講ってことでさ~」

「いやいや、どこが無礼講なんだよ、どこが」

「あはは……。でも、良かったね。露天風呂を貸し切りなんて、なかなか出来ないことだよね」


 ………まぁ、確かに。

 こんな経験はなかなか無い。趣のある露天風呂を貸し切り出来るなんて、家族風呂として予約しない限り無理だ。京治さんの近所付き合いの広さには脱帽した。


 夜。俺たちは夕食を済ませ、明日の仕込みや準備等々も終わらせたあと、京治さん行きつけの銭湯を案内してもらった。

 そこは、京治さんの親戚が歴代で経営している銭湯らしく、男女共に露天風呂付きで、そこから眺める星空が綺麗なんだと教えてくれた。


 時間もかなり遅い時間だったので、ギリギリに入れてもらった。これ以上、お客さんを入れるつもりはないから貸し切りにしておくよ、と粋な計らいで現在に至るのだ。


 流石は伝統のある銭湯だ。きちんと手入れされた松の木が何本もあり、丸みの帯びた石や角ばった花崗岩、大きさ様々な石が日本の和を象徴するように綺麗に並べられていた。

 紅葉の木もあるのだが、色づくにはまだ早いようだ。もう少し時間をかければ、根元からその袖を紅く染めていく情景が浮かんだ。


 暖かみのある、程よい照明と自然の調和が取れ、銭湯と言うよりかは高級旅館の露天風呂にいるような気分になった。


 そんな景色を眺めながら、ひんやりとした石たちが、熱いお湯に浸かりながらも、過度な体温の上昇を抑えてくれる。とても、気持ちがいい。

 お風呂の底には石が敷き詰められていて、ちょっとした足ツボとしての効果もあるようだった。

 少し痛むが、程よい刺激だったのでむしろ気持ち良いものだった。


 しかし、なぜか田本と仁都がそこを踏んだ瞬間、ツボのどこかを刺激したのか、痛そうにしていたのが見て取れた。

 痛みを堪えながら、必死に笑みを浮かべているその姿は、かっこいいと言えるものではなかった。


 ざまあみろ。と、イケメンを目の敵にしてる坂田は、二人を見てニヤリと笑っていた。イケメン過ぎる罰だよ(?)、と嘲笑っていたその目を、俺は見逃さなかった。


 そして、白い湯煙が優しく体を包み込んでくれる。

 この露天風呂は、源泉100%の温泉だった。触れた瞬間、肌を滑り落ち浸透する感触は、全ての疲れに溶け込んでいくような心地良さだった。

 効能としては、疲労回復、筋肉緩和、美肌効果、アンチエイジングの効果……等など、女性も喜ぶようなものがたくさん書いてあった。


 空を見上げれば、照明に掻き消されない程に散らばる星たちが光輝いていた。空気が澄んでいるからか、いつまで眺めていても飽きることはなかった。

 あの時、仁都の家で見たプラネタリウムの星とは違い、本物の星は光にそれぞれ個性があるようで、白いだけではなく、赤やオレンジといった暖色系の光がその存在を主張していた。


「あ~……星が綺麗だなあ~……」


 仁都は俺の隣で腕を、石の上に大きく広げ、空を見上げるように頭を石の上に置いていた。おっさんか、お前は。


「空気が澄んでるから、より綺麗に見えるんだろうね」

「あ~あ、こんな野郎だけじゃなくてさ~、もっとこうさ!1人くらい女の子がいたら良いのになあ~」

「……それは言ったら悲しくなるからやめろ」

「えー?女の子的な役割なら、すーちゃんがいるから良くない?」

「良くねぇよ!!なんでも俺で補おうとするな!」

「ってかやっぱり、雀宮くんは男の子だったんだね……」

「なんでそこで納得するんだよ、田本」


 そこ、悪ノリしなくていいところですから田本さん。笑い堪えてるじゃないですか。おい、そこ、坂田さんよ、親指たててグッジョブとかしなくていいですから。

 仁都なんか普通に笑ってるじゃんか。おい、主犯はお前か。


「つーか、女の子っぽいって言うんなら坂田だろ。髪まとめてるんだし……」


 そう。後ろに小さくおたんごで髪をまとめていた。髪色はともかく、一瞬だけ見間違えるかもしれない。あくまで、『かもしれない』だが。

 俺の精一杯の反抗だったが、坂田は顎に手のひらを添えて「あら?そんなに私は美しいかしら?」とポーズするもんだから、あまりの適応の良さに少し引いてしまった。


「うわ……」

「うわって、酷いな~すずめくん。俺は女性役も出来るカメレオン人間なんですよ~だ、うふっ」


 なんて艶っぽく言うと、仁都と田本はほぼ同時に「ぶふっ!」と吹き出して口を開けて大きく笑い出した。今日はやけにこの二人のタイミングが合ってる気がする……。


「へーへー、分かってますよ」と、二人の反応を見ながら坂田は口を尖らせながら頬を膨らませた。何で笑われているのか分かっているからだろう。


「どうせあれなんでしょー。俺の顔を見てチミ達笑ってるんでしょ~。

 は~、いいよな!イケメンはさ!羨ましいよちくしょ~!」


 坂田はそう早口言うと、バツが悪そうに唾を吐く振りをして、仁都と田本を見た。僻み妬みのオーラが見て感じ取れる。

 ……まぁ、坂田の言いたいことはわかる。一応、俺も男なのだから、その気持ちは痛いほど伝わってくる。


 確かに、この二人はずるいな~とぼんやりと考えてしまう。ええ、ずるいですとも。同性から嫉妬されても仕方がないくらいに、だ。


 顔を半分湯船に浸かりながら、ぼんやりと二人を眺める。まるでスパイのような気分だ。


 眼鏡を外すと印象が変わると言われるが、仁都自身もあながちそれに当てはまるのだろう。大抵は、イケメンかそうじゃないかに分かれるが、仁都に関しては前者だ。

 眼鏡を外してもイケメン。なんというか、大人っぽい色気を感じた。

 顔立ちもそれなりに整っているのだから余計だ。前世で得を積みすぎてるのか、神様はえらく贔屓している。

 本当に高校生なのかと思うくらいに大人びており、お前は一生眼鏡でいてくれた方が、坂田も俺も有難かった。

 ただ、それは見た目だけで口を開いてしまえばボロボロと残念な部分が出てくる。本当に勿体ない。


 まぁ、ある意味そこは、俺を含めた全国のイケメンじゃない男性(?)の意を汲み取ってくれた神様の恩恵かもしれない。


 そして、田本だ。仁都は違う美形系男子だ。水も滴るいい男、なんて謳い文句は田本にこそ相応しいのかもしれない。人工的に染められた銀の糸に雫が垂れる時、なんとも言えない妖艶な雰囲気が漂う。またこれも、違った意味で大人びている。


 しかし、そんな田本にも思いがけない弱点はあった。視力が相当悪いようで昼間はコンタクト、普段は眼鏡をかけているらしい。

 どのくらい悪いのかと言うと、至近距離で相手の顔を見ても、相手のことを間違えてしまうのだという。


 申し訳ない程度の弱点を神様が与えたのか、それとも、俺と坂田を含むイケメンじゃない男性一同からの呪いなのか……。馬鹿馬鹿しいが、真面目に考えてしまう。


 これは喜んでいいのか悲しむべきなのか、俺はなんとも言えない複雑な気持ちに包まれていた……。


 ………なーんてことを姉貴に話したら、食いつきが良さそうだ。面食いな上にギャップ萌え?なんて言うのも好物だというのだから。

 ってか、そもそも、これはギャップ萌え?と言うのに入るのかも不明なのだが……。


 そう言えば……姉貴は今頃何をしているのだろうか。

 さっき、スマホで天気予報を見たらどしゃ降りの大荒れとの事だった。しっかり戸締りをしていればいいのだけれども……。


 ……気がつけば、いつの間にかお湯の方がばちゃばちゃと揺れていた。水しぶきを上げて、容赦なく俺の顔や髪にかかっていた。坂田と仁都が水を掛け合っている。正確には、仁都がまた何か言って追いかけ回されているようだった。


「もう!やめなよ~!貸し切りとはいえ、お風呂では暴れないの!」

「いいよ、田本。無視無視、あんなの放っておけばいいよ」

「んまぁ、そりゃあそうなんだけど……」


 触らぬ神に祟りなし。奴らに注意したところで馬の耳に念仏だ。

 聞く耳を持たないのか、持つ気がないのか、彼らは小学生のように水をかけあっていた。

 すると、お湯の波が大きく揺れ、そのまま俺の顔にバシャッと音をたてて当たった。頭の先から全身びしょ濡れになった。毛先から雫がポタポタと落ちだし、水面に静かに揺れて落ちた。


「あははー!すーちゃん、濡れた子犬みたい~!!髪の毛ぺったんこ~!」


 ……あんの野郎っ……!!


 水をかけた張本人は可愛い可愛いと、連呼していて笑っていた。しかし、俺の怒りのゲージはフツフツと湧き上がり、ついには沸点を突破した。


「だあーっ!もう許さねえからなぁっ!!こんっっのイケメン野郎!!」


 俺は前髪をかけて、二人に目掛けて大量のお湯をかけたのだった……。


 お湯掛け合戦はとうとう、田本を巻き込む自体となり収集がつかなくなった頃に、田本が激怒して全員に説教をしたところで終わったのだった……。


 そうやって、旅行一日目が終了した……。



 ……俺達がこうやって、露天風呂を満喫しているところで、実は裏ではあんな事が起きているとは、夢にも思わなかったのである……。











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