第14話 よぞらにさくたいりんのはな(前編)(2018.6.30加筆修正済み)
第十三話 よぞらにさくたいりんのはな(前編)
……ば、ばかだー!!なにやってんの俺ー?!
商店街の通りの奥、御代志神社の横の公園のベンチで俺は一人頭を抱えていた。ベンチのそばにある街灯が、俺を罪人かの如く照らしている。
もし、俺に罪状があるのなら、友人の友人を傷つけた罪で罰してほしい。仁都の時と言い、俺はなんでこうも他人を拒絶するのが上手いのだろう。
皮肉にも乾いた笑いが口元から零れる。行き場のない俺の苦痛は、ため息と共に地面に落ちた。
「なにやってんだよ、ほんと……」
自分の不甲斐なさにがっくりと項垂れた。坂田のあの目、表情が脳裏をよぎる。驚いて目を見開き、他人から拒絶されたと痛感したあの表情が、俺の心の奥を締め付ける。
絶対に変な奴と思われただろうな……いや、最悪、嫌われたかもしれない。重りが乗ったかのように瞼が落ち、大げさに天を仰いだ。
あーあ……馬鹿だな、俺。
天を仰いだまま、暗い夜空を見上げる。祭りの明かりが眩しいからか、星は一つも見えなかった。
仁都と見たプラネタリウムの雰囲気と違い、星の無い虚無な夜空は余計に俺を苦しめて仕方ない。【後悔】という二文字が頭から抜けない。
……ふと、仁都の言葉が過ぎる。
『……だって友達と友達が友達になるなんて、素敵なことだと思わない?』
そう彼は言ったのだ。どんな形であれ、坂田と俺を引き合わせたのは彼だ。自分の友人同士が出会ったことを自分のことのように喜んでいた。それなのに俺は……。
「……これじゃあ、合わせる顔がねぇよな」
俺がもし、坂田の立場だったら、こんな奴と仲良くするのは嫌だろうな……。いや、きっと嫌になる。そんな奴と友達になりたいなんて思わないもんな、普通。
脳内の図書館の本をめくりながら悶々と考える。坂田が俺のことを嫌いになっても、俺は坂田に謝るべきなのではないか、それで口を利いてもらえなくても仕方ない……でもそれじゃ仁都の立場が……。
あーもう!と頭をくしゃくしゃ掻き回すと、何かがこちらに駆けて来る音が聞こえた。
「……すずめくんっ」
そう呼ばれ顔を上げると、そこには俺の帽子を持った坂田がいた。急いで駆けて来たのだろうか、息を切らし肩をを上下に動かしている。
額の汗を拭って、呼吸を整えると帽子をこちらに差し出して頭を下げてきた。
「……ごめん」
彼はその三文字を告げると頭を上げた。
「俺、馴れ馴れしかったよね。もうちょっと、すずめくんとの距離感を大事にするべきだった」
だから、本当にごめんね。そういうと、彼は申し訳なさそうに笑った。逆光で暗くなったその顔はあまりにも儚く切ないものに見えた。
坂田は悪くないはずなのに、どうして俺にそんな顔をするのだろうか。仁都と言い、坂田と言い、どうしてこんなにも優しいのか。
本当なら嫌われてもおかしくないのに、彼らはどうして俺を追いかけてくれるのだろう。そう、胸の中にこみ上げる熱いものを抑え、立ち上がって俺は口を開いた。
「……俺も、ごめん。仁都以外と話すのは初めてだったから……難しく考えすぎてた。ほんとに、ごめん」
そう言って頭を下げた。許してもらえる分からなかったが、自分の正直な気持ちをぶつけた。
言い方がぶっきらぼうではなかったか、選んだ言葉に間違いは無かったか、ぐるぐると頭の中で分析していると、坂田は「すずめくん、顔を上げて」と言った。
言われた通り、顔を上げると自分の頭の上にふわりと何かが乗った。それは、自分が被っていたカンカン帽子だった。
「……俺達って案外、似たもの同士なのかもね」
そういうと坂田は柔らかく微笑んだ。その表情は先程の申し訳ない表情とは違い、本当に嬉しそうだった。
そうだな、と俺もつられるように笑った。安堵の言葉が思わず零れ、心が軽くなった気がした。すると、坂田は思いついたように、そうだ、と手を叩いた。
「すずめくん、俺と遊ぼうよ。いっそ、仁都のこと置いて、二人で遊んじゃおうか~」
そう言うと、先程と打って変わり、坂田は口笛を吹きながらスマートフォンを取り出して、なにやらポチポチと打ち始めた。
は?仁都を置いていく?なんで……?頭に疑問符を浮かべながら、どうしてかと訊くと、坂田は、んーと、スマートフォンを口元にあてて考えるポーズをした。
「仁都へ仕返し、ってのもあるんだけど、それよりも……」
「それよりも?」
「友達の友達と、友達になりたいからかな~、なんてね」
そう悪戯っぽく笑った。『友達になりたいから』そう言われ、俺はどうしようもないくらいこそばゆい気持ちになった。
嬉しくて思わず口元が緩んでしまうのが自分でも分かった。すると、坂田は続けて俺の耳元でこう言った。
「それに、お互いに普段から仁都に振り回されてるし、たまにはこういうのもありでしょ?」
坂田は俺よりも相当振り回されているのだろう、悪い顔をして笑うと、かもな、と俺もあははと笑った。
「んじゃあ、決まり。ここからが俺が財布持つよ~。お詫びもかねてだし」
「いやいや、俺も出す……」
「んーん、気にしなくていいよ。俺、バイト民だから金だけはあるし」
「でも……」
「はいはい、すずめくん?ここは黙って奢られるべきだよ~」
友達がいいって言ったら素直に受け取らなくちゃ、ね?と坂田は笑って俺の腕を掴むとそのまま走り出した。
ちょ、えっ?!という俺の声も気に止めなかった。もしかしたら、こういうところに関しては、坂田と仁都は似ているのかもしれない。
「花火大会まであと少ししか時間が無いから、急ごう?」と俺は連れられるがまま、商店街へと戻った。
ヨーヨー釣りに射的に輪投げを巡った。意外なことに、ゲームの類での坂田の才能は異常なものだった。
百発百中とはいかないが、射的や輪投げではほぼ九割の確立で獲物を仕留めている。
坂田曰く、休日はゲーム三昧とのことで、祭りの屋台などはそれの応用問題みたいなもので簡単だと言う。これは姉貴と並んで勝負できるレベルかもしれない。
「そういや、すずめくんってゲームとかする系男子?」
「ゲームはあんまりしないかな。姉貴は結構やってるけど……」
「へー、お姉ちゃんの方がゲーマーか」
「ジャンルは偏ってるんだけどな……たまに一緒にやるけど普通に負ける」
「ほうほう、それは一度手合わせしてみたいな~」
坂田の話し方はとても心地よかった。相手から言葉を引き出すのがうまく、それに対して相槌を返すのを忘れない。
緩い話し方だからか、人との距離感を大切にしていた。先程のことを気にしているからか、それともこれが坂田の友好の深め方なのか、仁都とはまた違ったタイプだった。
時間が経つのは案外早く、二人で屋台を制覇し、三十分ほど遊んだ後、花火大会の会場である河川敷に辿り着いた。
ちょうど開始十分前だからか、たくさんの人が座り込んで待機していた。見たところ、カップルや家族連れが多く、俺たちのような男だけというのはほぼいなかった。
こっちこっちと坂田に手招きをされて、河川敷を少し下って、俺は坂田の横に座り込んだ。川から感じるひんやりとしたそよ風が、浴衣の袖を通って遊んだ熱を下げてくれる。
「おっと……そろそろゲームオーバーかな」
坂田がスマートフォンの時刻を見てぼそりと呟いた。何がゲームオーバーなんだ?と訊くと、今に分かるよと言ってカウントダウンを始めた。
5、4、3、2、1、と言ったところで、坂田は、しーっと人差し指を口元に寄せ、俺の後ろを指差した。すると、そこには息を切らした人物が、険しそうな顔でこちらを見ていた。
「……すーちゃん!!」
俺のことをそう呼ぶのは一人しかいない。そこにいたのは、汗だくになりながら息を切らした、仁都だった。そして俺らを見るなり、俺の肩を掴んできた。
「大丈夫?!すーちゃん、何もされてない?!」
「は?いや、何もっていうか、普通に坂田といただけだし別に何も……。ってか、なんでお前そんなに汗だくなんだよ、何かあったのか?」
そう言うと、仁都は「はあぁぁあ、なんだあぁぁ……」と、膝から崩れるように顔を下げ、安堵したように大きく息を吐いた。いやいや、何があったんだよ。全然先が見えてこないんだけど。
「おっけーおっけー時間通り。さすが仁都、お見事!」
坂田はそう言うとパチパチと拍手をした。すると、仁都の何かが切れたのか、坂田の肩をガシッと力強く掴んだ。
ぜいぜい言いながら汗を流す彼の姿は、横から見てもどこか恐ろしいものに見えた。そして、ニコニコと笑いながら、でも青筋を浮かべていた。
「……そーちゃん、言い分によっては俺今すぐ殴っちゃいそうだから、発言には気をつけた方がいいよ」
言い方はいつもの仁都だったが、声のトーンが明らかに低くなっていた。さすが元不良。ドスの効いた、他者を圧倒させる威圧感のあるものだった。
だが、坂田はそれにも慣れているのか、表情を変えず両手を前に出して、「まぁまぁ、そうカッカしないで」と落ち着かせてからスマホを取り出した。
一向に話が読めない俺が何とも言えない中途半端な顔をしていると、ごめんねと一言俺に謝ってからスマホのメッセージ画面を見せてきた。
『雀宮泪を誘拐した。返して欲しければ今から言う場所に来い。』
と、写真付きで仁都宛に送信されていた。その写真に写っているのは、俺が射的に夢中になっている姿だった。いつの間に撮ったのだろうか。
「……誘拐?」
「そう、これが仁都への仕返しね」
坂田はそう言うと、また口元にスマートフォンをあて、簡単な推理ショーでも始めようか、と笑った。




