表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

(4)

 【イゼルの大迷宮】の最下層は、進入できる人の上限はおよそ300人と言われている。

 地下6階で退路を確保するために残る約100人を含め、400人の上位者達が地下7階・地下8階に突入していった。

 浅い階層においては、帰路を確保するための人員-おもに兵士-を除き、【大迷宮】から離脱していった。


「お前、顔色悪いぞ。術式の行使で疲れているんだろう?もう、ここはいいから、一旦、休憩しな。」


 トーマは、パーティーのリーダーであるフロウドから、この場を離脱して休んでいいと言われた。

 フロウドは、前衛職の【戦士】である。髪は短く肌は浅黒い。口調はぶっきらぼうだが、見下しているような感はない。

 トーマ自身、体感的には「熱っぽい」感じである。何とか動けるものの、しんどいのも確かなので、リーダーの言葉に甘えた。


「今度、また一緒に潜ってみようぜ。」


 フロウドは軽く手を挙げて言った。


 救護の部隊が陣取っている部屋の隣に、探索者や兵が休む部屋があった。トーマは、布を借りて部屋の壁際に座り込んだ。

 はじめて、可能な限り広範囲の付与を行使しているせいだろう、本来、ほんの僅かな効果のため、ほんの僅かな魔力を使用する術式であるが、それも「積もり積もれば」である。


「トーマさん、大丈夫ですか?」


【治癒士】の一人がトーマの傍らに来た。女神官のティルだ。


「ああ、ティルさん、大丈夫ですよ。使い慣れていない魔術の使い過ぎで、ちょっとフラフラしているだけなんで…。ちょっと、みっともないところを見られて恥ずかしいなあ…」


 少し、ティルはきょとんとした表情を浮かべていた。

「少し、魔力を分けますね。」呪文を唱え、トーマに手を翳す。

 トーマの表情が落ち着く。魔力の回復により、心も身体も先ほどより楽になった。


「ごめんなさい、馴れ馴れしい口を聞いちゃったかなあ。」

「いいのですよ。同年代の人に普通に話してもらうことなんて、あんまりなかったから。」

「それはどうして?」

「幼い頃から、【教会】で育ちましたから…」


 何か事情があるんだろうなあ…。そうトーマは感じた。


「立ち入った事を聞いて、ごめんなさい。魔力をありがとう。」


 トーマは軽く頭を下げた。ティルは手を振る。

 ティルもまた頭を下げ、ひそひそとトーマの耳元で囁いた。


「エイベル司教から伺いました。まずもってお詫びします。トーマさんは【落人】で、【迷宮】の中で不便なことがあってもまずいので、支援するようにと言付かっています。とはいえ、あなたに無断で司教と私は、あなたの秘密をやり取りしてしまいました。司教も、後日、お詫びすると申していますので…」


 プライバシーの侵害かあ…、本当は困ることもあるのかも知れないけれど、今のところは関係ないよなあ、魔力も回復してもらったし、美人だし…。


「そのかわりというわけでもないのですが、別に口調なんて気にしていただかなくて結構ですよ。」

「そうかあ。俺、畏まって話をするのに慣れてなくて。ティルさんも、言いたいように言ってくれたらいいよ。」

「いえ、私はこちらのほうが、慣れていますので。」


(うわあ、断言されちゃった。お友達になるのは厳しいなあ。でも、普段だと気軽に若い女性に話しかけることはできないし。今は、酔っているときや熱にうなされているときと、同じような状況なんだろうなあ。)


「そっか。ところで、ティルさんも鑑定することができるの?」

「はい、ある程度までなら。」

「今の俺、どんな感じなんだろう。」

「それは「診て」みないと、なんとも言えません。」

「…結構、勝手に診たりしないの?」

「ええと、相手の承諾なしに、鑑定するのは禁忌の一つなのですよ。」


(ええ、そうなんだ。ユーナさんは、いつも勝手に俺の状態を診ていたような…。そういえば、一応、形だけでも「いいよね?」っていってたか。形だけだけど。)


「じゃあ、ちょっと診てくれないかなあ。俺の魔力の状況…」

「いいですよ。それでは…」


 ティルがまっすぐトーマの瞳を覗き込む。

 トーマといえば、ティルの青い瞳を間近にみて、かなりドキマキした。


「トーマさんの魔力総量は、【探索者】の人たちの中ではやや多いくらいです。専門の術士達と比べると低いかも知れませんが、現状の技能でみれば問題ありません。むしろ、【支援の加護】で魔力回復自体も、かなり早いようです。

 今は、いつもと違って、魔力の行使量が回復量を上回っているため、しんどいのでしょうね。」

「じゃあ、今は「身の丈にあっていない」支援を俺はしてるってことか。」

「そうですね…。ちょっと待ってください。」


 ティルは立ち上がり、救護区画に向かっていた。

 数分の後、トーマの元に戻ってきた。


「トーマさんが、魔力行使により魔力枯渇の症状がでたので、私が支援するということで了承を得てきました。だから、安心してくださいね。」


(あれ、何だろう?

 まあ、司教の関係者ということで了承を得たのかな。)


「ええと、ごめんね、手間をかけさせてしまって。でも、意外だったよ。」

「…?」

「ティルさんとは前に一度しか話をしたことがなかったけれど、こう、気軽に話かけてはいけない人なのかなあ…って勝手に思ってしまっちゃって。」

「そうなんですか…。」


(ああ、また、余計なことをいってしまった…)

 トーマが再度再度お詫びを云う前に、ティルが語り掛けた。


「私は、あまり同年代の人たちと気軽にお話する機会がなくて、司祭様達としか、お話することがなかったものですから…。」

「そうなんだ…、じゃあ、今は特別扱いってこと?」

「そ、そんな事はないですよ?私だって、孤児院での奉仕活動のとき、子供達と普通にお話してますよ。」

「え…、それって、俺、近所の悪ガキ共と同じ扱いってこと?」


 ティルは、「少しきょとん」ではなく、「本当にきょとん」とした表情になった。

 そして、小さいながら、零れるように笑った。

 その姿を診て、トーマとしては、女性を意識しはじめる頃から、はじめて同年代の女性に親近感-親しみ-を持てたことに気が付いた。


「まあ、いいや。ティルさんは今何歳なの?」

「普通、そんなことを、【神官】に尋ねますか?」

「だって、俺の歳は「診た」でしょう?」

「…そうですね、私は18歳です。」

「ええー」

「何か、問題でも?」


 ティルの声に少し棘が生じたが、トーマはそれに気が付かなかった。

 でも、次のトーマの台詞で、トーマに悪気はない事を知り、少し安心した風だった。


「だって、年下の女の子に教えてもらってばっかりでしょ。何か、恥ずかしいよなあ…」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ