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(3)

 【イゼルの大迷宮】の地下6階。

 【ファルベーレルの小迷宮】と異なり、迷宮内の空気は乾燥している。壁面は人工の石積みの壁で、光苔はなく、数m間隔に設置された燭台に明かりが灯されている。揺らめきがないことから、魔石によるものであろう。

 灯りの管理は、【迷宮】が行っているようだ。これまで消えたことはないらしいが、あくまで【迷宮】側の管理であり、いつ灯りが消えるかは分からないので、【探索者】はランタンを携行するのが、この【迷宮】での通例であった。


 今回の、【大浄化の祝祭】では、約千人の【探索者】と【軍兵】・【神官】が投入されていた。

 まずは、中級者を中心とした一団が、順次、【迷宮】に入り、浅い階から順に魔獣を制圧していく。その後、支援技能を持った一団が地下6階に在留し、その支援を受けた上位パーティが、地下7階・地下8階の魔獣を制圧し、【迷宮主】を倒す。

 そういう段取りである。

 そして、トーマは、支援技能を持った一団に配属されていた。

 複数のパーティでその一団は構成され、トーマが属したのは、前衛の【戦士】4人、後衛の【治癒士】2人、最後尾に【猟兵】のトーマという組み合わせである。

 とはいえ、背後からの魔獣の強襲のリスクは低い。レベル40の【猟兵】として、「おまもり役」での配置である。

 つまり、突発的な事件が起きなければ、特に大きな役割はない。ただ、中級者以上の【探索者】は、そうした「念には念を入れる」リスク管理が重要であることを認識している。さらに、効果自体はそう高くないとはいえ、トーマは、持ち前の【支援の加護】を発揮し、身体機能強化の術式を継続して周囲のメンバーに付与し続けており、この一団の中でも、決して悪い印象でみられることはなかった。


 地下6階の魔獣は、身長約2mの人喰鬼と、その配下である黒牙犬である。

 人喰鬼は、毛で覆われている大猿のような姿をしており、額には1本角が生え出ている。

 今回は【大浄化の祝祭】であり、中級者の【戦士】達は盾と槍を標準装備としている。

 盾で壁をつくり、魔獣を槍で突き、弓強化の術式により後衛から矢で射掛けていく。この戦術は、【迷宮】内で機動性に優位を持つ魔獣には通用しづらい戦い方であるが、【迷宮】のルールの上限枠の最大戦力を投入する【大浄化の祝祭】では、非常に効果を発揮する戦術であった。

 極めてまれに、前衛職の足元をすり抜けてくる黒牙犬に対して、トーマも剣を振るって対応した。それで危なげなく進行することができる。


(成程、ケイズさんが俺を【大浄化の祝祭】に参加させたいといったのは、こういうことか。)


 元々、猟兵であるトーマにとって、【迷宮】の中の具体的なイメージ-どの階のどの区画がどうなっているか-を認識することで、その支援効果を最大限に発揮することができる。ただ、トーマはこれまで【ファルべーレルの小迷宮】の地下3階までしか、経験していない。

 本来であれば、【大迷宮】の地下6階までの視覚的イメージを持つことは非常に時間がかかることだろう。でも、【大浄化の祝祭】のときであれば、極めて安全な環境で、一定の階層まで隅から隅まで見聞きし、感じることが可能である。

 活性化が進んだ【イゼルの大迷宮】で、本来、上位の探索者しか立ち入れない地下6階での活動は、現在のトーマにとって、本当に貴重な経験であった。


 やがて、地下6階での戦闘がほぼ終結する。

 安全が確保された区画に、順次、地下7階・地下8階を制圧するための上位パーティが進んでくる。

 支援技能を持つ者達は、これらのパーティに支援術式を講じていく。

 そして、支援の機能を付加された上位パーティが、地下7階へ降りていくのだ。

 この後、怪我を負った上位の【探索者】達は、一旦、地下6階まで撤退し、【治癒士】達の治療を施されることになる。

 ただ、ここまでの円滑な一連の動きをみると、【軍】と【教会】の段取りは手堅くまとまっており、問題なく【大浄化の祝祭】を終えることが可能そうである。


 トーマは、身体機能・精神機能強化の術式を講じ、順次、上位パーティに付与していた。

 トーマの支援術式の特徴は、一戦闘に限定して機能強化する術式と、長時間にわたり機能強化する術式の2つのパターンを操れることだろう。

 前者の術式を扱えるものは、結構多く、【探索者】達にとっては重要かつ一般的な技能であるともいえる。

 しかし、後者の術式を扱えるものは極めて少ない。これは【支援の加護】を持つ者の特殊な能力ともいえる。その付加される効果は僅かであり、一見「ないよりはまし」という程度の効用である。

 ただ、多くの者に、長時間使用できるこの技能は、多くの戦力を投入する【大浄化の祝祭】においても、とても効果のある技能である。

 -【教会】側の段取りを進めた司教エイベルは、この時、場合によっては、トーマが置かれる立場のリスクに気が付いていた-


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