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(8)

 地下7階。中央付近の区画まで、パーティは進んでいた。

 少し先行したトーマが振り返り、フロウドに囁く。


「何か、群れがいます。かなりの数です。気づかれている…」

「ここでの群れ…。大銀狼の群れか。隠れても見つかるだろうな。」


 大銀狼の群れと聞き、やや緊張が走る。

 1パーティで100匹余の群れにあたれば、相当の手練れの探索者であっても、かなりの苦戦が強いられることとなる。ただ、さすがに【大浄化の祝祭】の後では、その規模の群れを準備することは、【大迷宮】であっても困難であろう。


「トーマ、後方は?」

「特には。」

「では、隊列を組もう。」


 【戦士】と【護衛士】は5人2列で盾と槍を構える。

 その後ろにティルとトーマ。トーマは弩を引き、矢を番え、弓支援の術式をかける。ティルは、まず身体強化の術式を味方にかけ、その後、魔獣の行動を阻害するための催眠の術式の準備に入った。


『ガウ、ガウウ、ガウウウウウウウウウウウウウウ、グワアウ!』


 30m先にかなり数の大銀狼が現れる。

 尾を除いても体長は1.5mを超える。その大型の魔獣が群れを成して突撃してくる…まさに【大迷宮】の地下7階層であると云える。

 トーマの弩が矢を猛烈な勢いで打ち出す。

 群れの先頭を走る大銀狼の眉間に矢が突き刺さり、その大銀狼は足をもつらせて、勢いよく転倒する。後続の大銀狼達が、それを回避する、突撃の勢いがやや鈍化する。そこに、ティルの魔法が靄のように大銀狼達に降りかかった。


「数は20匹余り!」

「問題ない、いけるぞ!」


 大型魔獣の群れによる突進は、【迷宮】の中でも、【探索者】が大きな痛手を被る魔獣の攻撃である。これをどう封じるかが、大きく戦況を左右することとなる。ポイントは「助走をさせない」こと。行動阻害の術式-相手の鼻先に靄を生み出し、その靄を相手が見ることにより、相手の意識を朦朧とさせる術-は効果的な術であるといえる。

 大銀狼の動きが鈍化する。

 それでも、数匹の大銀狼は、態勢を立て直し、再び、助走体制に移る。


 そこで、フロウド達が呪文を唱え終える。3人の戦士達の盾の表面に、ゆっくりと炎が生じ、その炎を、盾ごと、戦士達が前面に押し出す。

 大銀狼の突進がさらに鈍る。それでも、苦し紛れに飛び掛かるものに、2列目から槍が突き出され、大銀狼の喉や腹部に槍が突き刺さる。


 パーティの3m手前で、大銀狼の群れが、威嚇の声を放つ。

 兎に角、群れで行動させてはいけない。大型魔獣の数と速さの圧力は、容易く【探索者】を飲み込むことが可能なのだ。

 しかし、威嚇の声を放った大銀狼の喉元に、弩の矢が喰い込み、その大銀狼が倒れる。トーマはかなりの早さで弩の2射目を準備していた。その準備速度に、トーマ自身、かなりの違和感を覚えていた。

おそらく、【大浄化の祝祭】でレベル上昇していると思われ、その効用が出ているのであろう。そして、弓支援の術式もうまく効き、大銀狼を連続で、一撃で仕留めることができた。

こうなると、大銀狼は一斉に飛び掛かれない。

 突進すると、炎を突き付けられる。一定距離から飛び掛かるため、「貯め」を作ろうとすると、矢が確実に大銀狼の急所を捉える。

 大型魔獣とはいえ、バラバラの個体からの攻撃になれば、フロウドの的確な指示により、大銀狼を一匹ずつ確実に仕留めていける。苦し紛れに左右からの迂回を試みた大銀狼は、2列目の神官達の槍の的となり、トーマの【魔刀】の的となった。


 大銀狼は、残り6匹となったところで、逃げだしていた。


「周囲の確認を!」


 フロウドの指示で、それぞれが隊列を組み直し、周辺の確認を行う。

 安全を確認したところで、ティルによる治療が開始された。


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