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EnjoyLIFE BoringLIFE  作者: どうにかなる(ならない)
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異質な少年

少年の育った家はモノが少ない家だった。この家の薄い壁はこの部屋を、冬は体をアイスのようにこうらせようとする冷凍庫にし、夏は砂漠のの中にあるサウナにした。兄弟すらいなかったけれど、母子家庭であった彼の家に不穏な雫がこぼれ落ちることはなかった。そもそも、毎日が遊びの日々だった。彼の母は隠れんぼと言って家を出て働きに行った。彼は母を探すが、いつも夕方にならないともみつけられない。でも、彼はめげずに毎日森も中で母を見つけようとする。根性だけは無駄なほどあった彼は毎回諦めずに母親を探した。実のところ、知らない女の人に連れていかれて知らない場所に縛られて数日過ごしたことがあった。然し、彼にとって真っ暗な場所に身動きが出来ないままの経験は何度もあった。森の中で入った洞穴にはまって出られなかったり、崖から落ちたり……。縄に縛られた経験はなかったが、縄を縛ったり、解いたりした経験は沢山あったため、容易に解くことはできた。母との隠れんぼはサバイバルだった。彼の母はこの世界の何処かにいるというヒントしかいつも差し出してくれない。彼は毎日、森の中をくまなく探し、街まで行って、彼の行ける範囲を探し、夕方までに家に帰るのだ。ルールは1週間以内に家に帰るくらいしかなかった。然し、夕方には姿を現す母と少しでも長くいたかったため、日が沈む前に帰るのが普通だった。寂しいとは感じなかった。彼にとってに普通に彼の母は殆ど登場しなくて、物心ついた頃から母とは隠れんぼの毎日だった。彼の思い出に母は鮮明に刻まれていたが、その時間は短く、あっという間だった。

彼には友達がいなかった。小学校に行かなかったのが一つの原因だろう。行かせなかったわけではなかった。彼の母は彼にランドセルや、筆記用具を持たせ、入学式に行かせた。然し、野良犬のように育った彼は他の子どもたちと馴染むことができず、喧嘩すらしなかったが、彼によってくる人はいなかった。どんな人も彼の異様な精神力や身体能力に怯えるのだ。母親は何も教えなかった。けれど、彼は圧倒的に優れていた。家に山のようにおいてあった本のおかげか勉強も出来た。ただ、人の気持ちを考えられなかった。彼にとって他の人は違う動物で、踏み潰せば死んでしまうような貧弱な人ばかりで、まず、他の人を軽蔑していたのだ。人が近づく蟻を煙たがるように嫌がった。気持ち悪いとまで思った。異様な彼に誰も近づこうとしなかった。

そんな彼が15歳になった今の趣味は小説を書くことである。応募の広告をたまたま見た彼はなんとなく書いた小説が面白いと特別賞が与えられたのだ。なぜそうなったのか?理由は「異様さ」である。感情がなく、発想が普通でない彼の小説は誰が読んでも引き込まれるものだった。王道はないのに、なぜだか引き込まれるその作品は彼そのものだった。彼自身は人に嫌われ恐れられ、他人から見たら孤独な人生を歩んできたが、小説を読む読者はそのままに彼を面白がったのだ。それが案外、彼にとって不愉快ではなかった。編集者さんに「どうですか?」と聞かれたとき、「悪くない。こんな小説を面白がる人間を観察してみたいもんだ。」などと答えた。編集者さんは険しい表情になったが、彼を知るものにとっては嬉しい発言だった。ここからだ。彼は人間を面白がった。彼の母はきっと安心したことだろう。と言っても、少年を育てた本人であるから並の神経の持ち主とは思えないから平然とした様子で息子の興味に興味も示さないかもしれない。然し、偏見かもしれないが女性が育てたようには思えないような欠落部分である。と、いうのは、女性であったらもっと愛情たっぷりの優しい子が育つという偏見があるからなのだ。もちろん例外はあると思うが、この子場合はなんとかその例外にはまらない方法があったのではないかと思う。彼にできること。それは、たしかに大きい。もしそれも愛ならば彼女の子育ては成功だったのだろうか。彼は並外れた身体能力、精神力、生命力に学力とかなりの英才教育である。母親は子供の向上心も影響しているものの、その向上心を最大限に活用して最高の教育を施しているようにも思える。そして、欠落した部分に気がつけなかったのは彼は小学校に入学して1ヶ月もたたないうちに彼女が亡くなったからかもしれない。

彼は長い間を施設で育った。ただ、人間関係があまりにも苦手な彼はいつも読書していた。読むスピードといったら読めているにかというほどの速さであったが、どんな話であったか聞くと初めから最後まで暗唱するのだ。いつしか「天才くん」と呼ばれるようになったが、彼はその名を妙に嫌った。「天才も何もやれば出来るようになる。天才と言って羨ましがるくらいなら少しでもやったらどうなんだ?」彼は、天才と言われるたびにそのようなことを言った。彼にとっては他の呑気に遊んでいる人々が無駄な時間を過して努力者のちょっとの失敗を馬鹿にするだけの惚気者にしか見えなかった。彼は天才と言われるたびに「失敗を許さない」などと言われているようで変なプレッシャーで嫌だったのだ。そして、「天才」と言って自分とは違う人だから負けてもいいなどと言い訳をしているようにしか聞こえなくて不思議にも嫌気の指す言葉だった。そんなことを思っていれば勿論、彼をよく思わない人は多くいた。然し、彼を慕う人も多くなった。そのような人は彼が成長すればするほど多くなるのだ。15歳で小説家という者になってくるとクラスの殆どの人が彼に歯向かうことはなかった。

だが、彼は嫌だった。人にいくら慕われても慕ってくる人間に面白いような人はいなかったのだ。つまり、彼にとってはただ、ウザいだけだった。そして、バイトを始めた。一人暮らしをしたかったのである。

この性格の良くない彼にあった選択肢は非常に少なかったが、その中で彼が選んだのは新聞配達員だった。

そして、その届け範囲には彼女の家があった。そう。楽しげに自殺をする彼女に。

彼はあの張り紙を見た瞬間久しぶりに笑った。そして、ドアを開けた瞬間、彼は初めて恋をした。

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