小さな手
私の足に絡みついた、枯れた葉っぱ。縮れて丸まった、庭のモミジの。
まだ、夏なのに。
「お母さん、紅葉」
花が好きな、母。庭の手入れをしていたのも、いつも母だ。私が言いたい事を悟ったのだろう。静かに首を振った。
「元気ないなって、思ってたんやけど。もう、無理みたいやね」
私が生まれる前からずっと、庭にあった、紅葉。それは、この家に引っ越した時に父が植樹した樹だった。
高木にはならない品種なのだろう。あまり目立つ存在ではない。だからこそ、いつもそこにあると安心していた。いつも、そこに在ると。
それが、枯れた。
樹は、確かにそこに在る。でも、二度と若葉を生み出さない。それが、とても悲しかった。
紅葉が葉をつけなくなってから、二年後。母親が誇らしげに手製の盆栽を見せた。
勿論、私には盆栽のなんちゃるかなんか、解らないのだけれども。母が誇らしげなのが何か。それにはいち早く気づく事が出来た。
「これ。うちの、紅葉?」
盆栽の中で、小さくても若葉を茂らせている。そういえば、うちの紅葉は、夏になればヘリコプターのような花を咲かせていた。
小さな幹から、小さな手のような青葉が生えている。
強いよね。
そんな言葉を伝えたい人が居ます。