-幕間- 波斯の英雄
「謝ったところで、許せると思っているのか!」
パンッ! と高い音が狭い部屋に鳴り響いた。
レオンの平手打ち。白雪は避けるつもりもなかったらしく、何時もと変わらぬ余裕ある微笑みでレオンを見つめている。
風の主の私室は狭い。彼が一人寛ぐのに必要最低限の長椅子。最近は食卓用にテーブルも用意されているが、それがますますこの狭い部屋を圧迫している。この峰の主としては信じがたいほど簡素な部屋。そこに四人の妖魔と、一人の人間が身を寄せているものだから、余計に圧迫感を感じる。
奥の小部屋へと続く扉の影から、こっそりと顔を出して、波斯はその様子を見つめていた。
「レオン、声を荒げるな。ルカが起きるだろう?」
「起きるか。さっき眠ったばかりじゃないか」
鴉が注意したが、聞く様子もなく彼は声を荒げる。毎日莫大な力を放出しているルカは、新月の夜より、この満月の峰で眠るようになった。しかも、一日の大半を眠って過ごす。もはや起きている時間の方が希少で、流石に波斯ですら心配になってしまう。
ルカに名前を縛られたらしい四名の妖魔たちが揃って大丈夫だと告げているため、おそらく問題は無いのだろう。しかし、波斯にとってルカは、力ないながらもくるくる動き回っていたイメージしかないため、どうも調子が狂う。
「別に私が直接手を下したわけではないよ。当時、彼女と利害が一致しただけさ」
「そんな他人事みたいに……!」
「他人事ではなくなったから、今教えているんだろう」
やれやれ、と、白雪はため息を吐く。
長椅子に腰掛けた風の主は、ぼやんと天井を見つめていた。アレが動いたか、とぽつりと言葉を吐き出す。
鴉も難しそうな顔を見せ、一体いつ、と呟いた。
「いつ、どの様にしてかは、私にもわからない。でも、我々上弦の手とは別の方法で、彼女はルカに影響を与えてた。私の魅了は確かに効いていたからね。間違いないよ」
「魅了、か――」
ふん、と、実に面白くなさそうに風の主は立ち上がった。真っ直ぐ寝台の方へ歩いて行っては、その中央で眠りにつくルカの側へと腰掛ける。
波斯は知っている。彼がいつも、そうやってルカの様子を見守り続けていることを。普段、涼しげで無感情な瞳が、その間だけ、ふと緩むことを。
風の主がルカを見るときの瞳は、波斯もよく知っている。波斯に対して、菫が向けてくる視線とよく似ているからだ。夜咲き峰の筆頭に立つ男が、下級妖魔である菫と同じ様な一面を持っているのは不思議な心地がした。
「寵愛するにはこの娘は年若いだろう」
「風――それを君が言うのかい」
至極冷静に判断した風の主に対し、白雪が苦笑する。もちろん、風の主は、白雪の目的が“寵愛すること”ではなかったことくらい知っているはず。なのに、一言文句を言わなければ気が済まなかったらしい。
「風こそ。彼女のような小娘を囲うなんて、どういった風の吹き回しだい」
少なくとも主に対する言葉ではない。隣で鴉がキッと睨み付けているが、白雪は軽く無視をした。
「――囲ってなどいるはずがなかろう」
ふん、と軽く受け流し、風の主はルカの頬へと触れている。ずっと見てきた波斯には分かる。風の主がルカに向けている視線は――恋慕とか、親愛とか、そう言った類いのものではない。
最初は所有物に近いとも思っていたが、そうではないらしい。ただ、風の主の側に彼女がいる。それがごく当たり前のことで、風の主も当然のように受け入れているかのような。隣にいることが“自然”そのものであるかのような感覚だ。
上級妖魔の感情など波斯には推し量るべくもないが――きっと、相当珍しい執着の形なのではないかと、波斯は思う。そもそも、執着という言葉すら相応しくない気がするが。
「あーあ、その気がないふりして、いいところは全部風が持ってくからなぁ。最近君が張り付いていて、僕はつまらないよ。実につまらない」
そう言いながら、ふよふよ空中に浮いているのは鷹だった。波斯から見ても、相変わらず、顔をしかめたくなるような奇天烈な格好をしているが、最近ひとつ変わったことがある。
彼の顔を覆っていた目隠しはいつの間にかなくなっており、その双眸が覗く。ルカと同じ金色。どういった事情があったのかは波斯にわかるべくもないが、彼を取り巻く妖気が以前のものよりもハッキリ伝わってくることを考えると、何かしらの呪いでもかけられていたのだろう。
もちろん、波斯には呪いのこともよくはわからないが。
まるで空中で寝っ転がるように寛いだ姿勢で、ため息を吐き出す。はぐれの彼からは気品のようなものをまったく感じられず、正直波斯は苦手だった。
「君が張り付いてちゃ、護衛もいらないだろうしね。仕方ないから、僕はちょっくら遊んでくるよ。彼女の居場所も探さないといけないしね」
そしてそれだけ言い残し、まるで空気に溶けるようにして姿を消した。彼女、と。皆そう言っているが、一体誰のことだろうか。宵闇の一件が落ちついたというのに、未だにルカを取り巻く妖魔たちは一定以上の警戒心を持ち合わせている。
「――あいつ、まだ話は終わっていないのに」
ちっ、と分かりやすくレオンが舌打ちをしている。鴉はじいと、風の主――そしてその先のルカを心配するかのように視線を向けており、白雪は、ふむ、と考え込むように顎に手を当てていた。
「鷹は飽きっぽいからね。続きはまた今度にしようか。――宵闇のこともあるし」
「……ふん」
レオンの不機嫌はまだ収まらない。ルカが起きていないときは、彼はいつもこの調子だ。ルカに対しても態度がぞんざいなことは往々にしてあるわけだが、彼女がいないときは取り繕う気も起きないらしい。
それでも、彼のひとつひとつの所作や、節々に見せる折り目正しさは長い年月をかけて身につけたものらしく、人間ながら非常に美しいと思う。
妖魔の生まれつき持った自然のものとは全く違って、訓練し、洗練された美しさ。それに波斯は、強い魅力を感じていた。
――菫が、すごいって言うはずだ。
たかが人間であるにも関わらず、彼は上級妖魔どころか、峰の主とすら対等に話をしている。白雪に対して決して屈する姿勢を見せないし、風の主に対してもルカの従者らしい態度ではいながら、決してその心を折ることはない。力を持たぬ者が、どうしてここまで、と波斯は思う。
レオンは鴉、白雪とともにこの後の予定を確認しているようだった。その一挙一動を見逃すまいと、波斯は彼を目で追う。
未だ白雪には不信感をぬぐえないながらも、こと仕事の話になると冷静に対応している。この後、宵闇の開発について打ち合わせているようだった。
ぼーっとそれを眺めていると、彼はほう、と呆れたようにため息をついた。
「……で。波斯、そこで何している」
「っ……」
こっそり話を聞いていたつもりだったのだが、やはりばれていたらしい。レオンが目を細めていることから、また彼の拳骨が落ちてくる未来が予想できる。
あ―、う―、と言葉に詰まるが、咄嗟に言い訳など出てくるはずもない。
仕方なしに顔以外の部分も、光の扉を破るようにして風の主の部屋へと移動した。
「――ごめん、レオン」
バツが悪くて、視線を背けた。ここのところ、レオンには怒られてばかりだ。
宵闇の事件が一段落したのと、雛の容態もすっかりと良くなったため、波斯たちは宵闇へと帰るかと話を持ちかけられたこともあった。しかし、波斯も雛も、夜咲き峰の城に残ることを決断した。
短い間だったが、夜咲き峰で過ごして――そして、宵闇のために奮闘している下弦の妖魔たちを見て、幾つか、考えている事がある。これからの未来のことを思うと、少しでも、ルカたち人間の側で過ごした方が良いのではと思ったからだった。
それに――。
ちら、と目の前の青年に顔を向ける。落ちついた金の髪。彼は厳しい表情を浮かべたら、それは冷徹な色へと変化する心地がする。
たかが人間、と侮っていたが、レオンのことを知れば知るほど、自分がちっぽけな存在に見えてしまう。
たかが、と言うならば、自分もたかが下級妖魔だ。もともと妖気も僅かなものしか持っていないし、まだ年若い。出来ることなど限られていると、妖魔の矜持すら持てずに過ごしてきた。
それは雛も同じで、宵闇の村で最も早く倒れた彼女の妖気量も推し量れよう。誰よりも小さくて、未熟な自分たち――なのに。目の前のレオンは違う。それがひどく、羨ましい。
「いや、まあいい。俺たちは今から宵闇に言ってくるが、波斯はどうする? 矢車に顔を見せに行くか?」
「え? あっ。ううん、いい。また、会えるし」
てっきり怒られると思ったが、そうではなかったらしい。この峰に留まると宣言したときも、矢車はいろいろ言いたそうだった。
しかし、波斯は波斯のしたいことがある。それはいくら矢車と言っても止められることではない。
まだこの峰で何も学んでいなければ成長できていない状態で、矢車には会いたくない。啖呵を切って飛び出してきたなりの誇りがあるからこそ、首を縦にふるわけにはいかなかった。
「そうか。では、峰を頼む。とはいえ、波斯に出来ることは……」
「勉強してる」
「……そうか。わかった。後で進捗を報告しろ」
「うん!」
波斯の返事に、レオンは満足そうに頷いた後、部屋を立ち去っていく。鴉と白雪も一緒に行ってしまい、風の主だけがのこっていた。
風の主と二人きりなのは慣れている。今日は雛は菫と共に下弦の峰にいるため、彼に対応できるのは波斯だけ。一応従者として見習う立場で峰には上がっているが、波斯一人に出来ることは何もない。せめて奥に引っ込んでいようかと思っていたときだった。
「勉強? 何をするのだ?」
風の主に話しかけられ、波斯はどきりとした。
ルカたちが宵闇の村の開墾に尽力し、雛が眠りに落ちていた時期、ルカは問答無用で、波斯たちを風の主に押しつけていた。
夜咲き峰の筆頭妖魔で、本来ならばその姿を見ることもないだろう者と四六時中過ごす羽目になった波斯は、生きた心地のしない日々を過ごしていたが――それはあくまで、波斯の気持ちの問題だったらしい。
風の主は波斯の存在を気にもとめず、ただ日々を過ごしていた。
話したり、話しかけたりもなく。レオンにも何かを教わっている時期でもなかったため、波斯は彼の目に触れないように、最初は身を小さくして過ごしていたのを覚えている。
しかし、最初に話しかけてきたのは彼だった。
宵闇は、どうだと。そんなたわいのない会話だったように思う。まるで、今みたいな。
「レオンが、僕のために準備してくれましたから。読み書きの練習を……」
妖魔の中には人間の書き言葉を知っている者も少なくはない。
それが何故なのかは分からないが、生まれつき知っている者、後天的に何故か知識を手に入れる者、そして波斯のようにまだ知らない者が入り交じっていた。
後天的に知識を得る――世界の摂理についての知識を得ることは、稀に起こる現象らしい。波斯は未だ体験したことはないが、草花や石――特に自分の生まれに関わるものを糧にした際に発生するとか。
波斯からすると、波斯菊の花を糧にすれば良いと言うことなのだろうか。未だにピンとこない。
そういった運に左右される会得には興味はない。レオンを見ていると、彼は努力して何かを身につけているようだった。波斯も彼を見習って、努力というものをしてみたいと思う。少なくとも、頑張る姿勢を見せると、レオンは褒めてくれる。
「――読み書きか。そのテーブルを使うと良かろう」
そう言って、風の主は狭い室内にポツリとおいてあるテーブルを指さした。先ほどまでレオンや上級妖魔たちが陣取っていたもので、自分が使用していいものか戸惑う。
「ルカが其方たちを気にしている。好きにするがいい」
それだけ告げて、風の主はルカへと視線を戻した。
命令されたわけではないが、使って良いと言われてその通りにしないと、何か不満でもあるように受け取られる気がする。
遠慮することすら躊躇われて、波斯はこくりと頷いた。レオンならばここで、遠慮するなり、堂々と借り受けるなりするだろうに。他の上級妖魔も同じだ。彼らは立場を気にすることなく、もちろんへりくだることなんてしない。
自分の力なさに辟易しながら、波斯は一度彼の部屋の奥へとひっこむ。連なる小部屋の一つを、波斯は借り受けていた。
隣には同じく、下弦の峰から移ってきたレオンの部屋がある。一時的なものだが、ルカがある程度自由に動けるまでは、風の主の部屋を拠点に動くらしい。
書き取りなど自分の部屋でも十分出来るはずだが、風の主の言葉もある。仕方なしに、波斯は彼の部屋へと戻った。
風の主の生まれ石は、色彩を変え、柔らかく部屋を照らしている。その温かい輝きに目を奪われながら、波斯はテーブルの元へと足を進めた。
記号がずらりと並ぶ石版。レオンの手本が一番上にあり、下は空白が広がっている。
とても美しい手記を習うように波斯も手を動かすが、上手いこといかない。妖魔たるもの、その手で美しいものを作り上げることはとても興味のあることなのに、いざ動かしてみると思うように行かなかった。
妖気を吸い上げるようにして文字を消し、再度新しく書き直す。今度は幾ばくか、まともな文字になった。
レオンの見本石版はなかなかの量で、同じ文字を繰り返し書く練習を終えると、今度は短文を書き取ることになる。普段は何気なく話している言葉なのに、書き言葉になるとまるで仕立ての良い服装のように、改まった言葉遣いになる事に魅力を感じた。
口語と書き言葉の違い。レオンが風の主や花梨に対するとき、とても丁寧な言葉遣いをしているが、それに近い気がする。
文章を書き取ることはとても楽しくて、心躍る。まだまだ美しい文字を書くにはほど遠いが、レオンは筋が良いと褒めてくれていた。
何度か書き直して、見本通りの美しい文字列になったとき、波斯はうっとりと目を細めた。自分の手によって、こんなにも美しいものを生み出せるとは思わなかった。
琥珀や花梨のように、ただの素材を装飾品などに作り替える能力など持ち合わせていない。それでも、自らにも生み出せるものはある。
嬉しくなって、すぐにレオンに見てもらいたくなった。けれども、彼が戻ってくるのはきっと日が落ちる頃だろう。
この心躍る気持ちをぶつける相手が見つからない。ひどくつまらなく感じたが、それならば、もっと練習して美しい文字を書けるようになれば済む話だ。
字の払いや止め、まだまだ思うようには制御出来ない。今書いたものは非常に出来が良いが、一旦消してもう一度書き直そうかと思い直す。
「ふむ、悪くないな」
が、後ろから声をかけられて、波斯は仰天した。
縹色の髪がこぼれ落ちるのが目に入る。もしかしなくても、この部屋の主。風の主がわざわざ波斯の手習いを見るために、側に寄ってきていた。たまに興味を示されることはあるものの、未だに慣れようがない。
「悪く、ないですか……?」
でも、彼は否定をしなかった。むしろ褒めてくれるような感触があり、波斯は目を見開いた。
風の主こそ妖魔の中の妖魔。彼の審美眼は正確で、疑いようがない。お世辞を言う性格でもないため、その素直な感想が、じわりと心にしみこむ。
「レオンの文字は全てが均一で濃淡がないが――こうして、文字列になると統一された美しさがある。文字の一つ一つの意匠に拘るよりも、内容を伝えることに重きを置いているのだろう」
風の主の考察に、波斯は少しがっかりした。
悪くない、と言ったのは、レオンの見本のことだったのか。肩を落としている横で、風の主は気にすることなく言葉を続けた。
「其方も目指すところは同じなのだろう。己の存在を消し、主張を控えることへの拘り。私は嫌いではない」
「……っ」
嬉しくて、頬が緩む。風の主は、きちんと自分のことも見ていてくれた。そして、言葉にしてもらい、ようやく納得する。
――主張を控える、拘り。美しさ。
ああ、そういうことかと波斯は理解した。
レオンは、自分の存在を主張しない。人間にしてはあり得ないあの見た目でありながら、彼自身が華になろうとはしない。あくまでも誰かを引き立てる、そして補助する立場であることに誇りを持ち、気付かないうちに力添えをしている。
妖魔は皆、誰もが主役であり、誰かに仕えることなど考えもしないだろうに。
――レオンみたいに、なりたいのか。僕は……?
妖魔にあるまじき思考だと、自分でも思う。それでも、まるで眷属のような働きをしながらも自分を持ち続ける彼は――力なくしても、皆が頼りにしてしまう彼のような存在は――波斯の、憧れだった。
「僕が、彼みたいになりたいというのは、おかしなことなのでしょうか?」
だからこそ、波斯は問う。
妖魔のあるべき価値観を持つであろう、この峰の主に。
「……ルカなら、喜んで、其方を褒めるであろうな」
「ルカ様は、人間ですから」
寝台に眠りこけている少女を思う。
レオンが彼女に傾倒していることくらい、波斯にだってわかる。自分にこの生き方を与えてくれたのは、彼女だったと。レオンは確かにそう言った。
下弦の皆も、レオンだけでなく、彼女のことを信用している。
まだ言葉を交わしたことは少ないものの、なんとなく、理由が分かる気がする。
波斯が憧れているレオン。彼が、彼らしく居られるのは、彼女の存在が大きいらしい。
どんなときも、皆を認め、笑っている彼女。
波斯を見つめる瞳も、何故だか爛々としていて怖いと思ったこともなくはないが――持ち前の明るさで、皆に対して臆することなく、彼らのためになる行動を考えている。
何時も細やかに気を配っているレオンにとっても、心の支えなのだろう。
だから、彼女が波斯の生き方を認めてくれることくらい、波斯は聞かずとも分かっていた。
そうして、少し腑に落ちない答えに戸惑っていると、風の主が言葉を足してくれる。
「……其方が目指したいところへゆく。それが、妖魔のあるべき姿だろう」
風の主の涼しげな瞳が、まっすぐと波斯を見下ろしている。
波斯は、両手に抱いた石版をじっと見下ろし、ぎゅうとその手に力を込めた。
力なくても、まだ年若い妖魔でも、目指したいものがある。
そしてそれは、あるべき妖魔の姿とは少し違うのかもしれない。それでも――。
「……風の主、お茶を召し上がりませんか。少しは、淹れられるようになったのです」
「ふっ……今日はレオンがいないからな。頂こう」
「はい、少々お待ち下さいませ」
立ち上がり、波斯は背筋をピンと伸ばした。
レオンの立ち方は美しい。少し緊張感を持った、硬い立ち振る舞い。こんなときの礼の角度は――浅く。
首を曲げないように、腰から体を僅かに倒す。右手を胸に当て、敬意を相手へと傾ける。
誰かのために在る生き方。見よう見まねでも、波斯だって、目指してみたい。
踵を返して、一旦部屋の奥へと向かっていく。
そんな波斯を見送る風の主の瞳が、僅かながらに緩んでいた気がした。
二人の人間が夜咲き峰に蒔いた種は、確実に芽吹きはじめています。
次回から第二章となります。九月第一週公開予定です。
まずは週一更新で進めていく予定ですので、おつきあい頂けましたら大変嬉しく思います。




