意地と秘密と自己紹介と
遅くなりまして。
「魔法選定は終わったな……
今回入ったのはこの2人だけってことだな。」
「そうですね。でも最近後輩が入ってこなかったのですから、だけって言い方はないんじゃないかしら、デイヴ。」
「そういうな、オーレリア。これはデイヴの照れ隠しなんだからな。」
「ジェラルド!」
クレアとエルバートが部屋に入ってから、紺碧のメンバーはこんな風に軽口を叩き合っていた。
エルバートはそろそろイライラしていたのだが、クレアが楽しそうにその光景を見ているためぐっと我慢している。
そんなエルバートに救世主が現れた。
「先輩達、クレアちゃんとエルバートくんが困ってますよー。」
「「「「あ」」」」
話に夢中になっていた彼らはモモの言葉で我にかえった。
エルバートがモモに初めて好感を抱いた瞬間だった。
クレアは、会ったばかりだったがクールな印象だったデイヴの意外な一面を見たような気がした。
「じゃ、じゃあ取り敢えず自己紹介でもするか。」
デイヴは取り繕うように咳払いをしてから提案をした。
新しく入ったメンバーと親しくなるには基本の行為だが、デイヴにとっては誤魔化しで提案した色が強かった。
他のメンバーはその事をなんとなく察してはいるがそのままスルーしてデイヴの顔を持つことにする。
「さっきも言ったが、俺はデイヴ=アルカシア。紺碧のリーダーをやっている。高等部3年。よろしく。」
デイヴは恥ずかしそうに焦げ茶色の髪を搔きまわしながら自己紹介した。
隣のつい先程投げ飛ばしたばかりの男子生徒を見てくい、と合図をする。
「……え、次俺?俺はクリフォード=セントラル。一応副リーダーやってます、よろしく。高等部3年。」
「因みに女たらし。」
「え、ジェラルド…?」
「事実だろ。」
「事実ですね。」
「事実だと思います。」
「……みんなして俺の扱い酷くない?」
自己紹介した金髪の男子生徒、クリフォードは、やはりいじられキャラのようだ。
顔は整っていて、ホストをやっていてもおかしくないくらいのかっこよさのはずなのだが。
紺碧のメンバーはそんなものに興味はないら
しい。
「ごめんなさいね、副リーダーがこんなので。私はオーレリア=ブラックウッド。高等部3年です、よろしくお願いしますね。」
射干玉の黒髪が腰まで垂れた美人。
まさにお嬢様、という言葉がぴったりである。
最後の微笑みはクレアの頬を染めさせるほどの威力を持っていた。
「オーレリアって綺麗だよね。エルバートは動じないみたいだけど。」
「……クリフォードは綺麗な顔をしているけど騙されないでね、クレアちゃん。エルバート君は誰にも靡かなそうだから安心だろうけれど。」
「え、あと…はい。」
クレアの方に2人が視線を向けながら話しかけてくる。
このパーティには顔の綺麗な人が多いようだ。
「すまない、自己紹介してもいいだろうか。」
「あら、ごめんなさい、ジェラルド。お願いします。」
「……俺はジェラルド=カンパネラ。高等部3年。よろしく。」
大人しく無口な印象のジェラルドだったが、先程からデイヴとクリフォードを弄っているところを見ると、実は面白い男のようだ。
一見すると黒髪だがよく見ると深い深い青の髪をしている。
陽に当たっていないような白い肌は軟弱そうに見えるが、実は相当剣の腕が立つ。
「じゃあ次は私ね。私はモモ=レインです。よろしくね。唯一の高等部2年だよ。」
満面の笑顔で彼女が首をかしげると同時に、オレンジのツインテールがひょこん、とゆれる。
オーレリアを綺麗と評すなら、モモは可愛いという分類に入るだろう。
「クレア=シンフォニアです。中等部2年です。よろしくお願いします。」
極々普通の挨拶になってしまったが、クレアの仕草がなんともパーティ全員の母性本能を刺激した。
女子だけじゃなく、男子も。
男子だから父性本能というべきだろうか。
「……エルバート=シンフォニア、中等部2年。クレアに変な目向けないでくれますか。」
敬語を使っているはずなのに、何故かイラっとくる言い方をしてくるエルバート。
尊敬の念など微塵もないことがひしひしと伝わってくる。
パーティの全員はなんとなく目をそらしてしまった。
エルバートの勝利である。
「……もう解散するか?決まりごととかは後々話すことにして、今回は自己紹介だけで。」
気まずい沈黙を打ち破ったのはデイヴ。
さすがにリーダーだけあって一番初めに立ち直っていた。
他の面々は食い入るように縦に首を振り、早く解散したい!と心の声を訴えている。
もうその全員の間で音声が聞こえたような気
がしたのは、長年の付き合いなどではなく、ただ気が合っただけ、なのだろう。きっと。
「それじゃあ、俺たちは帰らせていただきますね。今日はありがとうございましたさようなら。クレア行こう?」
お礼と挨拶は絶対に適当だ。
あれが棒読みというものなのかと思った程に平坦な口調だった。
エルバートはさっさと立ち上がって扉の向こうに消えてしまう。
クレアは慌てたように扉をでていった。
メンバー全員がその様子を見ていたのだが、クレアがでていった扉の向こうにはちゃんとエルバートが待っていて、ツンデレかよ、と心の声が揃っていたような気がする。
「で、新入生の能力は?」
「エルバートは学年首席、クレアは筆記で1位を取ってるようだ。エルバートはデイヴに似た感じだよ。」
「クレアちゃんの実技の成績、あんまり芳しくないんですね。魔力値が低いわ。」
「そうですねー。でもこのパーティに来たからには何かしら理由があるはずですから。」
パーティ高校生メンバーは、2人がいなくなると会議を始めた。
普段ならすぐさま練習をし始める努力家達なのだが、真面目な話をするのには訳があった。
来月、シェルサーレ学園最大の行事とも言える新入生歓迎校内親善魔法魔術舞踏大祭なる長ったらしい名前のものがあるのだ。
通称、魔法大祭。
名前の通り、入ってきたばかりでパーティに所属していない一年生たちが魔法とはどういうものか理解させるもの、歓迎するためのもの、という建前なのだが______殆どこれはパーティの力比べをする場であり、さらには卒業後の就職先を左右する場でもある。
重鎮たちが観戦に来るわ力比べができるわ目立てるわ新入生はハイテンションだわのてんやわんやの行事だ。
そこで、デイヴ達四人がパーティを組んだときからの無敗記録は更新され続けている。
それはモモが加入してからも同じだ。
ここまでくれば卒業するまで勝ち続けたいと思うのも当然だろう。
しかし、新たにメンバーに加わったクレアとエルバートの実力を知っている訳ではない。
モモの場合は治癒魔法の適性があり回復担当としてパーティに欠かせない存在となった。
それはモモが新入生の中でも首席として注目されて能力を知ったからだ。
しかし、エルバートは首席で注目株だったにもかかわらず、飛び抜けて得意なものがある、という訳ではなく噂は少なかった。
苦手なものがない、という意味なのだが。
それにクレアも筆記一位と言うだけで魔力値が低いこともあり、特に注目されるようなことはなかった。
そのために、シンフォニア兄妹に関する特筆した情報がないのだ。
そもそもこの魔法大祭はパーティ全員で戦うものと個人競技とペア競技で構成されており、個人個人の得意分野で競技を振り分けるのが普通だ。
そこで2人の得意分野がわかっていないというのは少しばかり悩みどころである。
「まあ、どうせ同じパーティになった以上毎日顔をあわせるんだから、明日聞けばいいじゃん?」
「確かにそうなんだが……競技申請期限が明後日までなんだ。明日から練習できるようにしたかったんだよ。」
「まあ、あの2人なら要領良さそうですし、大丈夫じゃないかしら。そんなに心配すること、デイヴ?」
「実力が計り知れないからな。ペアを組ませるとしても得意魔法の相性もある。」
「そんなに焦らなくても、そう簡単には負けてやらないさ。得意魔法が分かり次第しごいてやればいい。」
「地味に鬼畜ですね、ジェラルド先輩。」
それぞれ持っている思いは違うらしく、表情も行動も様々だ。
しかし、目指すところは皆同じである。
魔法大祭での優勝。
他のパーティは成績目当てのものが多いが、紺碧のメンバーは皆魔法使いということに誇りを持ち、また無敗記録を持つ者としての矜持と意地がある。
魔法大祭の後には、優勝したチームは魔法連盟学園の20校が参加する大々的な大会もある。
できるなら新たに入った後輩、今まで共にやってきた仲間と優勝を掴み取りたい。
そのためにもクレアとエルバートをしっかりと鍛え上げなければならないと全員が考えているのだ。
それが、自己満足なのだとしても。
それでも、勝利することの喜びには勝てないということなのだろうか。
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「エルバートっ。待って!」
紺碧の部屋を出てきてから、クレアはエルバートをずっと追っていた。
追っていたというよりかは、引っ張られているというほうが正しい。
クレアはいつもより余程速いスピードで歩くエルバートに引っ張られて息がきれている。
普通の女子よりは体力があるはずだがエルバートは息すら切らしていない。
いつの間にかパーティの部屋がある棟からは出ていて、教室の方へ向かっていた。
「エルバート?」
「……わかってるよな、バレたら殺されるかもしれないって。」
教室の扉を開くと、エルバートはクレアと共に体を中にねじ込んだ。
教壇の上にクレアを座らせると、その上に覆い被さるようにして顔を近づける。
誰もいないシンとした教室は薄暗く、静寂が2人を包んでいた。
クレアは息を整えると、少し目をそらしていう。
「わかってる。どうして急にそんなこと……」
「わかってないよ、クレアは。紺碧の奴らと親しくしすぎるとバレる。馬鹿も多いが敏感な奴ばかりだ。無駄にああいうのは鼻がきく。」
「エルバートっ、そんなこと言わないで。絶対にばらさないから。」
「……髪の魔法が取れかかってる。」
「えっ!?」
エルバートはクレアの一房の髪をシュルリとすくいあげた。
漆黒の髪の中に混じる、うっすらと灰色のその髪を。
「ごめん、なさい。」
「帰ろう。家で掛け直すから。」
「うん、ありがとう。」
エルバートはクレアに手を差し出して立ち上がらせた。
先ほどの座らせ方は乱暴だったのではないかとこっそり怪我がないか確かめているところにシスコンの要素を感じる。
エルバートにとってクレアは、大切な存在。
それを失えばストッパーのない砲弾のようなもの。
何もかも壊してしまうだろう。
それは、ものだけでなく人も。
そして国の一つくらいは無くなってしまうのではないだろうか。
エルバートの魔力はそれだけ強い。
そして、クレアを護れるように。
クレアを支えられるように。
そうなれなければならないのだ。
ここに来た目的はそれだけ。
エルバートにそれ以上に重要なものなどないのだから。
シェルサーレ学園には寮はありません。みんな家から通ってます。
教室は完全防音なので外に音は漏れません。
設定はまだ色々あるけどなかなか書けない…ので、ご了承ください。
人物表をしばらくしたら作ろうと思ってます。