願いと出会いと飛ぶ人と
いつも通り短いです、すいません……
「よかった、クレアも同じパーティで。」
「うん。私も嬉しい。」
クレアとエルバートは今、パーティ棟の廊下を歩いていた。
ここにはパーティひとつひとつに割り当てられた部屋があり、大抵全員が放課後にそこに集う。
白と緋色と茶色で統一された落ち着いた雰囲気のこの建物は、校舎よりは一回りほど小さい。
しかしそれでも部屋が並ぶだけで同じ景色が続くので大量の迷子が出る。
「しかし、広いな。」
「そうだね。紺碧は6階だけど、ここだけで迷いそう。」
「微妙だよね。神のパーティと呼ばれてるにしては低い階だし。」
飄々と言ってのけるエルバートに、クレアは苦笑した。
そんなこと先輩方に言わないでよ、と念を押して地図を見ながら扉のプレートを確かめていく。
紺碧、紺碧……とぶつぶつ呟くクレアを見て今度はエルバートが苦笑した。
「あれじゃない、紺碧。」
そう言ってエルバートが指差したのは一番端の部屋だった。
何の変哲もない扉。
クレアはじっと見つめて、言った。
「何か、変われるかな。」
「……変わらなかったら、どうする気。」
「それはそれでいいんだよ。魔法が学べるんだから。」
「そう…。」
全ての感情を制御して押さえ込み、エルバートは扉を三回叩いた。
扉を三回叩くのは世界共通マナーと呼ばれる一般的に世界で使われる常識的な礼儀だ。
一般常識としてテストに出るほど重要なもの
でもある。
「はーい、入って大丈夫ですよー。」
音符が語尾につきそうな声が帰ってきた。
エルバートは吐き気を催したような顔をしたけれど、クレアは明るい女子______だと思われる______の声にほっとしたようだった。
今では一般的なノブのない扉に、クレアは手をかざす。
この扉には、魔法石という術式を記憶させる石に扉を開閉させるための移動魔法を覚えさせて内部に埋め込んでいる。
魔法使いでなくても少しの魔法原子は持っているので、誰でも扉の端に触れれば勝手に開いてくれる。
ちなみに魔法使いとして認められるには魔法原子保有量の数値が最低でも10000
は必要だ。
一般的な魔法使いの魔法原子保有量
は100000〜300000。
シェルサーレ学園の学園長であるアルベルティーナの魔法原子保有量は大体600000で、トップクラスの多さである。
アルベルティーナはそうやって持て囃されることは嫌いなようだったが。
そもそも、魔法原子保有量が少ないものが魔法を使うことはめったに無い。
それは危険性と無知からのものである。
なので、今では全く構造など気にしていない手をかざすだけで開く扉を、非魔法使いが初めて見た時はとても驚いたそうだ。
この扉は障害者やたくさん荷物を持った人々にとってとても役に立っているようだった。
_____しかしその扉は時に、人に怪我をさせることがあるようだ。
クレアが扉を開いた瞬間、人間が飛んできたのだ。
後ろ向きに。
「ひゃあっ!?」
もちろん向き合っていたわけではないので漫画のようにぶつかった瞬間に唇が触れる____なんてアクシデントが起こるはずはなかった。
もしそんなことになったらたとえ高等部生の制服を纏う男子生徒であっても命はなかっただろう。
しかしクレアは、その飛んできた男子の体に比べればとても小さい。
よって、その男子生徒の下敷きになって廊下に倒れこんでしまった。
「クレアっ!」
エルバートは飛んできた人間になど興味はない、という風に男子生徒を片手で廊下の壁に叩きつけ、クレアを起き上がらせた。
うがっ、と呻き声を漏らしたことなど、エルバートは無視する。
「大丈夫か?クレア。」
「うん、ギリギリで重力を制御してくれたみたいで、重くはなかったし。驚いただけだよ。」
どこにも痛みがなさそうなところを見ると、本当にそうだったようだ。
あの至近距離で魔法を発動してクレアに怪我をさせなかったことはエルバートにとって初めて見出したその男子生徒のいいところだった。
壁に叩きつけたことは謝る気はさらさらないが。
「ごめんね、大丈夫だった?怪我してないっ?」
高く明るい声の調子から言って、先程の返事をしてくれた女子生徒だと思われた。
鮮やかなオレンジの髪を高い位置で2つに纏めている。
黒のワンピースを着ているところから見ると高等部生のようだ。
そもそも紺碧には中等部生はいないはずなの
だから当たり前だが。
「はい、大丈夫です。」
「すまない、扉が開くとは思っていなくてな。危害を加えるつもりはなかったんだ。」
部屋から出てきたのは、茶髪の、背の高い男子生徒。男子生徒、というには少しばかり肩幅が広いかもしれない。
服の上からでもわかる鍛えられた筋肉はしっかりと引き締まっている。
彼は先程クレアの方に飛んできた金髪の男子生徒を文字通り摘み上げると、部屋の方へ放り込んだ。
少々雑に扱われすぎているのはクレアの気のせいではないだろうが、部屋にいた3人の高等部生も特に気にしていないようだったので、考えることを放棄した。
心なしか茶髪の高等部生はすっきりしたような表情を顔に浮かべ、エルバートとクレアに向きなおった。
「俺は高等部2年のデイヴ=アルカシアだ。紺碧のリーダーとして先程の非礼に謝罪する。すまなかった。」
「い、いえ、私は全然大丈夫でしたので。中等部2年、クレア=シンフォニアです。今日から紺碧所属となりました。よろしくお願いします。」
「エルバート=シンフォニア。同じく紺碧所属となりました。よろしくお願いします。」
2人は深々と頭を下げた。
クレアは少し照れ混じりながら。
エルバートは冷静に。
頭を上げたそんな対照的な2人は顔を見合わせると、すこし笑った。
そんな2人の様子を見て、デイヴも口元だけに笑みを映しながら、
「ああ、よろしく。」
と声をかけた。
部屋の中にいたオレンジの髪の先輩は、椅子から立ち上がって満面の笑みで「ほんと!?初めての後輩ちゃんだー!よろしくね。私はモモ=レインだよ。」と言った。
豊満な胸と輝く髪を揺らしながら。
クレアは少し引き気味に「よろしくお願いします。」と言ったが、エルバートの方は完全に引きまくって無言を貫き通していた。
デイヴは苦笑交じりに、「取り敢えず、部屋の中に入ろうか。」とクレアとエルバートを紺碧の部屋へ招き入れたのだった。
話が進まない……(;_;)
もっと先の話ばかり思い浮かんでしまうのはなぜなんでしょうか。