双子とくじ引きと色と
遅くなりました。
今回は割と魔法についての説明会になります。
「今日はまず、無事中等部2年生になった君達に祝福の言葉を贈ろう。おめでとう。そして将来、素晴らしい魔導師になってくれることを祈っている。」
壇上から澄んだ良く通る声が響き渡る。
声の主は長いまっすぐな薄紅色の髪を揺らせて微笑んでいる。
満足そうに笑うその顔はとても美しいのだが、彼女の上には決して立てないと思わせるものでもあった。
彼女はシェルサーレ魔法魔導学園学園長のアルベルティーナ=ルーデンドルフである。
30代に届かない歳で魔法魔術戦闘部隊及び魔法魔術対戦警備視察隊、通称魔法戦隊及び魔法警察の重要職である魔法魔導戦闘部隊第2大佐に任命された超エリート。
彼女は魔法戦隊隊長のヒューバート=マーシャル=ホールに言われ(アルベルティーナはヒューバートの玩具にされていたりする)、現在学園長をやっているというわけである。
まあ、アルベルティーナ自身楽しんでいることは否めないのだが。
そして今現在、中等部2年生になった生徒達の魔法選定が始まろうとしているのである。
「私もつまらない長い話をするつもりはない。皆が今日楽しみにしているのは魔法選定であろうからな。」
生徒が沸き立つ。
魔法選定とは、中等部2年生になると所属しなければいけないパーティを決めることである。
それは465の色から成り、人数はまちまちではあるが、お互いに強さを競い合うこととなる。
良いパーティであれば成績も上がるし魔法も上達しやすい。
何よりも魔法戦隊及び魔法警察になるための第一歩なのである。
魔法選定では、魔法能力が合う者同士で組まれる。
そのため大抵は同じ歳の生徒のことも多いのだが、やはり例外もある。
高等部生も合同のパーティなので、能力によっては中高混じったパーティになることだってある。
つまりは、生徒達の運命を決める選定と言っても過言ではなかったりする。
「さあ、それではくじ引きを……っと、魔法選定を始めようか。」
絶対学園長魔法選定のことくじ引きだと思ってるだろ、と、そこにいた生徒……だけではなく先生までもがそう思った。
わざとらしく目をそらすアルベルティーナを見て、あ、この人嘘つけない人だ、と思ったことはその場にいた全員の秘密だ。
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講堂にいた中等部2年生たちは、クリーム色の生地に青系統の色の線が入っているワンピース、ミルキーホワイトのジャケットに黒のズボンに灰のブラウス、そして両方とも、深い青のリボンとネクタイをしている。
言わずもがな、これは制服である。
生徒たちが1年間着続けたその制服には、それぞれの〝色〟が染み付いていた。
けしてご飯のシミなどではない、はずである。
1年間の中で打ち解けた友達と共に並んでいる者が多い中、恋人同士で並んでいたり、好敵手同士で並んでいたり、友達と呼べる者がいない生徒は1人でその列に加わっていた。
しかし、その中のどれにも属さない少年と少女がいた。
2人は双子であり、漆黒の髪に白い肌に翡翠色の瞳は全く同じに輝いている。
少年は目立つ美形であり、目や鼻や口はバランスよく並んでいた。
切れ長ではあるが程よく大きなその瞳は吸い込まれるような魅力を持っていた。
少女の方は少し地味ではあるが目鼻立はとても整っていた。
周りの女子生徒たちは大抵化粧をしていたり制服に多少の装飾を施しているのだが、彼女は飾り気がなく、白い肌にはなにも施されておらず、制服も元のまま皺ひとつないものだ。
それが、彼女の真面目さを際立たせている。
そんな2人にちょっかいをかけようとするものはこの場にはいなかった。
それは今までそういうことをした人で無事に帰ってきたものなどいなかったからだ。
「クレアと一緒のパーティに入れるといいな。そうすれば毎日楽しみに学校に行ける。」
「そうだね。でも465もパーティがあるんだよ?それに私とエルバートじゃ魔力が違うもの。一緒になれる確率は低いと思うけど……」
魔法選定では、装置が勝手に魔法能力を判断して色を分ける。
装置に手を入れ、ガラス玉を取り出して、その色がパーティの色だ。
似たような色も多いので、装置が音声でどの色か言ってくれるが。
そもそも魔法能力とは、主に魔力、魔法原子保有量、魔法可能範囲の要素のことを指す。
違う項目が混じることもあるが、学校などは大抵この3つの項目を基本とする。
魔力とは、放出する魔法の強さ、と一概に言えばそうなるだろう。
数値が高ければ高いほど強力な魔法、つまりはレベルの高い魔法を使うことができるし、同じレベルの同じ魔法でも、数値が低いものより圧倒的な力がある。
しかし、魔法を使うには体のどこかにいつも蓄積されている〝魔法原子〟が必要だ。
レベルの高い魔法を使うにはたくさん必要だし、魔法の制御がうまくないとちょっとした魔法ですぐになくなってしまう。
そのため、学校ではまず魔法制御を重点的に習うことになっている。
魔法原子保有量は、その名の通り魔法原子をどれくらい持っているか、という数値だ。
持っていれば持っているほど魔法をたくさん使える。
この数値が高ければ強い、というわけでもないが強い基準をつくるのに重要な要素の1つであることは確かだ。
そして魔法可能範囲とは、魔法が発動できる距離を、自身を中心として円状に計られた数値である。
高ければ広範囲で魔法を発動することができる。
これらの要素は生まれつきの性質で、訓練によって数値を上げるのはほぼ不可能だ。
しかし、これらの数値が高いからといって魔法使いとして強いわけではない。
魔法制御を上手くすれば魔法原子の節約ができるし、うまく作戦をたてれば弱い魔法で勝つこともできるし、剣技などを磨いて接近戦で魔法を使えるようにすれば勝つことができる。
魔法能力が高ければ強いという要素になりやすいのは事実だが、低いものが魔導警察や魔導戦隊の将として活躍していることもまた事実だった。
「クレアには知識があるし、本当は強いだろ。同じパーティになれる望みは結構高いと思ってるよ」
「……総合学年一位だもん、エルバートは……。私は実技中の下くらいだからね。」
「それでも、クレアに筆記は負けてる。」
「だから魔法選定に筆記は関係ないんだってば〜……」
クレア=シンフォニアは、情けない顔をして諦めの混じった声を上げた。
双子の片割れであるエルバート=シンフォニアは、彼女にとって大事な存在である。
大事、何て言葉では貧相に聞こえてしまうほどに。
それはエルバートの方も同じようで、家を出る前からずっと同じ会話を繰り返している。
どうしても同じパーティになりたいようだ。
きっと同じじゃなかったら選定の機械を壊すぐらいして意地でも同じパーティになるんだろう______とクレアは本気で思っていた。
「じゃあ、俺は先に引いてくるから。」
いつの間にか順番は目前に迫っていたようだ。
今迄していなかった緊張が、今になって襲ってきた。
______エルバートと同じパーティになれなければどうなることか______
ただ、緊張していても頭の中に浮かぶのはそのことばかりだった。
そんな風にクレアが悶々としている間に、あっさりとガラス玉を引いたエルバートは、色を確かめるとクレアの方に戻ってきた。
「俺は〝紺碧〟だった。クレアも紺碧引けよ?」
有無を言わせない口調で耳元で言うと、エルバートは会場から出た。
引き終わったものは会場から早くでなければならなかったからだ。
双子の片割れがいなくなり、少し心細くなったが、クレアはゆっくりと機会まで歩を進めた。
〝紺碧〟というパーティはとても有名だ。
ここに所属しているのは皆高等部で、高等部2年の首席、次席、1年の首席がおり、さらにもう2人も異名がつくほどに有能な人物である。
その上皆美形だ。
校内1位の実力を持つこのパーティは、『神のパーティ』と呼ばれていた。
そんなパーティに中等部生が入るなど異例のことではあるが、エルバートなら納得がいった。
そして違うパーティになるだろうな______とクレアは機械に手を突っ込んだ。
紺碧は、青系統の色で深いが明るい不思議な色をしている。
本心ではその色のガラス玉が出ることを祈って指を伸ばした。
手に触れたガラス玉の冷たい感触を握りしめ、箱から出す。
そこには青系統の色に輝く玉が光っていた。
『センテイ、カンリョウ。ネーム、クレア=シンフォニア。〝紺碧〟ヲカクニン。アナタノパーティハ、〝紺碧〟デス。』
違和感のする機械の合成音声。
妙にパーティの名前だけは流暢に告げるそれは、クレアがエルバートと同じパーティになったことを知らせた。
クレアは喜ぶでもなく、悲しむでもなく、怒るでもなく______ほっと、溜息をついた_____。
エルバートはシスコンです。