俺が好きになった人、実は…。
登場人物
初瀬野 燐
浅野 力
園澤 風娘
橋本 美依
篝佐波 曽女乃
雪森 ささら(ゆきもり ささら)
高校の入学式。入学式だが、桜はまだ咲いておらず、ましてやまだ寒いくらいの春。
日本の北の方に位置する場所に住んでいるとある主人公は、クラス表を見ながら思う。
…俺、高校言ったら青春したいな。
そんな憧れを抱きながら、これから高校生活を送ろうと決意をした。
「おっ、燐じゃん!」
燐の隣から男の声がした。
「力だ」
力とは、主人公の初瀬野燐の小学生の時の友達。中学の時に力は転校してしまい、一緒に中学へ入学できなかったが、今こうして再開できてるだけでも嬉しいであろう。
「燐と同じクラスがいいなぁ~」
そう言いながら力はグラス表とにらめっこしている。
「俺は…A組だな。はせやはどこだ~?」
「あっ、俺もA組だ」
「マジか!やった!ぼっちにならなくてすむ!」
お前の性格ならぼっちは免れると思うけどな。と、心の中で思う燐。そもそも、燐の方がぼっちになる確率が高いだろう。中学の時に、力が転校してしまったせいで貴重な話友達がいなくなり、ぼっちになりかけたことがあるのだから。
「またたっくさん話そうな!燐!!」
「おうよ!」
燐は憂鬱な学校生活を送ることなく、楽しく過ごせそうだと満足した。
「ここが教室か。思ったより狭い」
「どんだけ広いのを想像してたんだよ」
「いや~、高校って人数多いからさ、少し縦長かな~と」
「そんなわけないし」
笑いながら燐は答えた。
「あらら、席は遠いいのか~」
「え?」
初瀬野と浅野、結構離れている。力は一番端の一番前。燐は二列目の一番後ろの席だ。
「ま、俺が駆け付けてやんよ」
「ははっ、ありがとう」
ひとまず二人は席に着くことに。
(一番後ろって嬉しいんだか、なんなんだか…)
そんな事を思いながら席に着くと、前からこちらへ向かって誰かが歩いてきて、燐の隣の席に座る。
(ん?)
燐は気になり、隣をチラ見してみると、凄い美少女が座っていた。
(えっ、俺の隣美人…)
急に意識してしまった。しかも顔を赤くして。
燐は隣が気になってしょうがない。チラ見しては戻り、チラ見しては戻りの繰り返し。
(意識しすぎだろうがよぉ…)
自覚していた。
隣の席の子が気になって仕方なかった一日が終わり、二日目。早速授業も始まる。だが、授業と言っても、きっとオリエンテーションだろう。
朝、燐は自分の席で顔を伏せながら隣の席の子の事を考えていた。
(可愛かったなぁ…)
完全に一目惚れしてしまった。燐は人生で初めて恋をしただろう。いつも、二次元の女の子にしか興味がなかったから。今でも二次元の女の子が好きなのだが。
(俺が恋をしたのか…)
オタクに部類されてるかと勝手に思っていたらしく、恋愛など一生しないと思っていた。
「りーんー!」
「え"っ」
妄想をしている途中で急に声を掛けられ、つい野太い声が漏れてしまった。
「今のヤベー声だな」
「うるさいよ」
「そう言えばさ、早速お前の事を話してる女子たちがいてさ。びっくりしたよ」
「俺の事?」
「おう。イケメンだよね~。ヤバくない?私好きになっちゃったかも…って言ってたよ」
「え」
あっけらかんとする。
確かに燐はイケメンなのだ。自覚してないだけで中学の時もかなりモテていた。一つ一つのパーツが良く、髪の毛もいい感じに癖がついており、いい感じになっている。
「だから、女子に気を付けろよ」
「え、何言ってんの」
「この学校の女子、きっと肉食だ」
「はい?」
「じゃあな!」
「ちょっと!」
用事は今の事だったのか。気を付けろよって何を気を付けろと言うのか。なぜ女子が肉食だってわかったのか。なぜか燐は恐怖を覚え始める。
「初瀬野君」
「ん?」
燐は一瞬固まる。
「な…何?」
話し掛けてきたのは女子だった。燐は反射的に力が言った言葉が瞬時に甦る。
「私、篝佐波曽女乃って言うの。よろしくね」
「あ…はい」
俺を狙っているのか?と思う。
「曽女乃って読んでほしいな」
そう言って、曽女乃は燐の隣の席へ座る。燐の初恋相手の席だ。
「燐君、かっこいいって評判なの」
「あ、そ、そうなの…?」
「うん、気を付けてね」
また気を付けてかよ。と、内心思う燐だが、少し嬉しく思ったりしてしまう燐もいる。皆に見てもらっているのだから。
「私と一緒にいれば問題ない…」
「はーせーやーくーん!」
曽女乃の話を遮り、他の女の子が燐の元へ。
「ねぇねぇ!私初瀬野君の事知ってるんだよー!」
「えっ?」
「初瀬野君、中学の時バドミントン部だったでしょー?」
「あ、そうだね…」
「私もバド部だったの!いっつも初瀬野君の事気になってて~、もしかして恋かなー?なんて思ってて!そしたら今ここで初瀬野君と会えてるって…これって、運命だと思わない?」
「えっと…」
一人でべちゃくちゃと話進めるものだから、ついていけずにオロオロする燐を待ってくれる人などおらず、
「何が運命よ。ただの偶然でしょ、ぐ・う・ぜ・ん!」
「ささら!邪魔しないでくれる?」
「見なさいよ、初瀬野君戸惑ってるでしょう?」
「は?話し掛けちゃいけないの?」
「あんたはコミュニケーション能力を高めた方がいいわ」
「何よー!いいでしょ?好きな人と話したって!」
「ちょっと…静かに……」
燐の話も聞かずに勝手に喋り出して、喧嘩し始めて。とんだ災難だと思ったのも束の間、もっと災難が降りかかる。
「えーい!」
「うわっ」
突然、誰かが後ろから抱き付いてきた。
「りーくん人気だね」
耳元で囁かれ、ぞっとする。
「何!?」
後ろを振り向くと、そこには幼馴染みの橋本美依がいた。
「けど、りーくんは私のものだから!」
燐の周りにたかる女子に美依は怒鳴る。
「っはぁ~?何馬鹿言ってんの」
「脳みそ足りないの?」
「高校に上がってるから脳みそはたっぷりあるもん!」
またまた喧嘩。懲りないなと燐が呆れた所で、
「あの、よけてもらえるかな…?」
(!?)
燐の好きな人が来た。
「あっ、ごめんね」
ささらが避けると、
「りーくん、皆、昼に決着よ!」
「挑む所だし!」
「私も、負けてられないかな」
「は?何言ってんの?」
燐の意見も聞かないまま、三人は戻っていった。
「…凄い騒ぎだったね。廊下でも聞こえてたよ」
「あ…な、何か、ごめん」
「モテるんだね」
「えっ!?い…いやいやいや、そんなことはないって」
「女の子達に囲まれて、君の為に言い争って、抱き付いたりして…ハーレムだったね」
笑いながら美少女は言う。
「これは…その……」
「私ハーレムもの好きで。普通女なら逆ハーレムを望むんだろうけど、私は普通のハーレムが好きなんだ」
「あ…そうなんだ」
意外な性格に少々引き気味の燐。
「…はっ!ご、ごめんなさい、キモい話しちゃって……」
「いや、いいよいいよ。話せるだけで嬉しいと言うか…その」
「よかった!」
ニコッと笑う美少女を見て、燐は幸せだなと思う。
「私、そのシリーズ好きだよ」
「え?」
美少女は燐のペンケースに付いてるキーホルダーを指差す。
「あ、これ?本当に!?」
「うん」
戦争ゲームのキャラクターのキーホルダー。結構マイナーなゲームだ。
「実際にエアガンもコレクションしてて、自分が買える範囲の物は全部買ったんだ。あと、迷彩柄のつなぎも買っちゃって」
「おぉ…」
これはもう、戦争ゲームオタクと言ってもいいのではないかと思うくらいの言動。
「見て、これ。サイン入りのファイル!」
「すげ~…」
かなりのハマリっぷりに少し見方が変わりそうだが、その美少女の事か好きなのは変わりがないのだろう。
「あっ、またペラペラと喋っちゃった」
一回一回喋っては照れて、喋っては照れての繰り返しで、いちいち可愛い反応をする美少女に燐は見とれるばかり。
「あ、あのさ。名前なんて言うの?」
「あっ!名前言ってないね、ごめんね。私、園澤風娘」
「ふうこ…」
可愛い名前だな~なんて思いながら、心の中で名前を言ってみた。
「君の名前は初瀬野燐でしょ?」
「えっ」
「さっき散々名前言ってて、覚えちゃった」
「あ…そうなんだ」
風娘は学校にはついていたが、風娘の席に女子がたかってたため、座ろうにも座れないからと廊下から教室を少し覗いていた。その時に女子達の会話を聞いており、何回も呼ぶ燐の名前を聞き、自然と覚えたのだ。
「ごめんね、勝手に聞いてて」
「いやいや、さっきのは聞きたくなくても聞こえちゃうし、仕方ないよ」
「そうだね。……これからも、戦争ゲームのことでお話したいな」
「えっ…?」
「嫌ならいいんだよ?嫌なら普通の会話をするよ」
「全然嫌じゃないよ!むしろ嬉しい!たくさん話したい!」
…そして、いつかは告白したい。
そんな想いを心の中で呟く。
例え相手がオタクだろうと、何だろうと、きっと好きな気持ちは変わりないんだろう。
「よかったー。あ、雑談していいかな?」
「いいよ」
まさか、好きな相手がオタク女子だとは思わなかった燐。
大体、一目惚れしたのだから、性格が悪いだのなんだのって言ってられる立場ではないだろう。
何はともあれ、燐は青春をしたいという憧れを達成しつつあるのだから、これからを楽しまなければ。
燐は今までの地味な性格をリセットし、新たな自分を作るため変わり始めるのだった。
思い付きで書きました。