第099話 閑話 女子会
***ルナ視点***
主様方が入浴される為にタリズ達を連れて、リビングから出て行かれました。私とリヴィアだけが居残り。
せっかく主様とこれからもご一緒出来ると思っていた矢先だった分、蔑ろにされた様に感じて少しだけ悲しいです。
ですが、私共は主様と新しい関係となれました。従魔だった今までとは、全く違った関係。
私の失言で失いかけた絆ですが、何よりも大切な部分は残って居ますし、主様のお考えも知る事が出来ました。
結果的には良かったのかも知れません。
主様が私共を“自らを殺す存在”として育てていた事は、承服しかねる想いがありますが、
それが“主様の分体”だけであるならば、私共としても承知しない訳には参りません。
主様ご自身がこの世界に飽きられず、快適に過ごして頂けれられる様にすれば良いだけですし。
最悪の場合であったとしても“主様ご自身”の存在が消える訳でもありませんので。
それにしても、“従魔”だった頃はお風呂もご一緒出来たのと言うのに、
“契約従魔”となってからは、雌雄でお風呂を分けるとおっしゃられました。
主様自らのお手で私の体を清めて頂ける事は、この上ない快楽でもあったと言うのに、
今後は我慢せねばならないと言う事は本当に辛い事です。
しかし、もしかしたらではありますが、
私とリヴィアを、ちゃんと“雌”として認識して頂ける様になったのかも知れないと思えば、逆に嬉しくもあります。
リヴィアも私と同意見なのか、少しは寂しい気持ちはあるものの、何処か期待した様な目をしています。
これからは“雌”として“長姉”として、絶対に負ける訳には参りませんね。
どちらが先に主様のご寵愛を頂けるのか。
決意を新たにしていると、ミーさんがリビングにある接客スペースへと誘ってくれました。
そこは昔、主様が御創りになられた“バーカウンター”と言う人型専用の接客スペースです。
過去に1度だけ同席させて頂いたものの、魔物だった頃では余りにも不便で、すぐに寄り付かなくなってしまいました。
今まで人化が許されなかった私共にとっては、お誘い頂いた事には感謝致しますが、
最初のお誘いが主様からではない事が残念です。
が、どうせならと言う事で私とリヴィアも人化して参加させて頂きます。
「ルナニャン達も“女性”ニャら、女同士で女子会ニャ!
普段は言えニャいご主人様とかに対する愚痴とかニャって、言いたい放題ニャ!」
どうやらこれから“女子会”とやらを始める様子。何やら楽しそうです。
先の件もありますし、主様に対して不平不満がある訳ではありませんが、私とて、言いたい想いぐらいはありますので。
“女子会”とは、そういったものを発散する場の様ですね。
ミーさん達も我々と同じく、神に仕える者として共感出来る部分も多いと思い、期待してしまいます。
「最初ですし、ルナさんとリヴィアさんはゲスト側へどうぞ。
海もそちら側でルナさん達をフォローしてあげてね?
ちゃんとしたマナー等をお伝えしておきたいし」
「はい」
最初は歓待して頂ける様ですね。
主様から“従者教育”を行うとお伺いしている分、しっかりと学ばねばと思います。
ミーさんとクレマチスさんの手によって、多種多様なお酒の中から数種類を混ぜた飲み物が人数分創られていきます。
私の目から見ても、無駄の少ない綺麗な動きをされている様子。
こうやって創っている姿を見るだけでも楽しめます。
とりあえずの目標とするべき存在が居る事は、実に幸運な事ですね。
「ルナニャンとリヴィアニャンの新しい門出を祝して、乾杯ニャ!」
「「「「「乾杯!」」」」」
ミーさん達の手によって創られた美しい飲み物で乾杯。
お味も今まで主様から頂いていたお酒とは違った、複雑で奥行きのある実に美味しいお酒でした。
その後も立て続けに数杯創って貰い、適当につまみとなる物を食べつつミーさん達と雑談に興じます。
「ところでミーさんやクレマチスさんは私共がこれから主様より指導して頂く“従者教育”とは、
どういった内容になると想像されて居られますか?」
「う~ん。難しい質問ニャ。
多分ニャけど、基礎的な事しか教えて貰えないと思うニャ」
「そうですね。
ルナさんやリヴィアさんはリュウノスケ様に対してどの様な“従者”で在りたいと、お考えでしょうか?
私達もそうですが、結果として“従者”としての在り方が全く同じ事は少ないと思うのですが?」
「“従者”としての在り方ですか?
私は“主様と共に歩める存在となる事”と“主様とのお子が欲しい”と考えて居るのですが?
リヴィアはどう?」
「私も基本的にはルナ姉様と同じですが、追加するなら“ご主人様を支えられ、頼られる存在となる事”ですね。
ミーさん達はミツハル様にとって“どの様な従者”で在ろうとされて居られるのですか?」
「私もミーもご主人様に対して抱いている感情としてはルナさん達と同様だと思います。
ただ、従者としてご主人様を“助けたい”と思っているミーと、“支えたい”と思っている私の違いはありますね。
どちらも似た様な事なのですが、立ち位置が微妙に違うのですよ。
ミーはご主人様の隣に立てるように。私は後ろから支えられるように。
想いは同じですが、同じ場所には居ないのです。お判りになられますか?」
「何となく、ですが判りますわ。丁度私とリヴィアも同じ様な感じですわね。
私は主様の隣に立ちたいと考えておりますが、リヴィアは隣から半歩下がった位置で主様を支えたい。
と、考えているのでしょう?」
「はい。ルナ姉様の言った通りですね。
確かに少し立ち位置としては微妙な違いはありますが、私はクレマチスさんと同じ立ち位置でご主人様を支えられれば。
と、考えています。 その違いと考えれば良いのでしょうか?」
「そうニャ。
私とルナニャンは基本的には同じ立ち位置を望んでいるから、私と全く一緒ニャとしても、
クレマとリヴィアニャンはちょっと違う分、微妙に立ち位置が違う所はあるけど、殆ど一緒ニャ。
だったら私はルナニャンを。クレマはリヴィアニャンにアドバイスすれば良いニャ」
「「宜しくお願い致します」」
「気にする事無いニャ。
同じ“神に仕える者”として、これからも仲良くしてくれたら嬉しいニャ」
「それは勿論ですわね。こちらからも是非にお願い致しますわ。指導もして頂きたいですし。
ところで海ちゃんはミツハル様を支えたいと不老になったと聞いたけれど、どう言う立ち位置を望んでいたの?」
「私達の場合は母様方やルナ様方と違って、隣に立ちたいとは思いませんでした。
神の子供として生まれた訳ですし。
父上様の手が届かない場所を、お助け出来れば、と考えての事です。
父上様達は、神や神の従者として行動されて居られますから、それ以外の部分でお助けする事が出来れば。と」
「なるほど、ですわね。同じ“支える”にしても、色々とあるのですね」
「そういう事ニャ。
多分リュウノスケ様が私達に教えて欲しいと求められたのは、
“従者”としてではなく、“手の回らない場所を助ける存在”を求めて居られたんじゃニャイかと思うニャ。
だから私達にご指名があったと思うニャ」
「“従者としてではなく”ですか?」
「はい。
リュウノスケ様のお考えの詳細はお伺いして居りませんが、恐らくご自身を“助けてくれる存在”として、
“従者教育”をなさるのではないかと思われます。
現状ですと、お客様を御持て成し出来る様な存在、と言う事になりますね。
リュウノスケ様ご自身からも改めてお話をして頂けるかとは思いますが、私達もそのつもりで対応させて頂きます。
ですので、私達が今出来る事は基本的なアドバイス程度になりますが、精一杯お伝え致しますね」
「重ね重ね宜しくお願い致します」
その後、ミーさん達からは“従者として”から始まり、色々な話をお伺い出来ました。
今後主様に仕える者としての心構えなども話して頂き、大変参考となるお話でした。
人化時のマナー等もお聞き出来たのは、これから役に立つ機会も多いと思います。
楽しい時間は過ぎるのも早いもので、女5人で談笑していたら、主様方がお風呂から出て来られました。
入れ替わるように私達もお風呂へ。
主様から入浴剤の使用許可も頂けたので、今後はさらに自身で自分を磨いて行かねば。と思います。
ミーさん達はわざわざ脱衣されて居ましたが、私達は主様から頂いた腕輪で一瞬で脱衣が完了です。
非常に羨ましがられましたが、これは主様から直接頂いた物ですのでお譲り出来ませんわよ?
いつも通り薔薇の香りのする入浴剤を入れてから、先に体を洗うのですが・・・。
人化時の洗い方が判りませんでした。
結局ミーさん達に教えて頂く事に。
こんな事になるのであれば、もっと主様がご自身を洗われている姿を見ておくべきでした。
シャンプーやタオル、ボディソープと言った物の使い方を教えて頂き、今後の為にちゃんと自分で洗います。
何時でも主様に求められても恥ずかしくない様に、体の隅々まで丁寧に磨き上げる事も忘れずに。
その後はしっかり薔薇の香りに包まれた浴槽へのんびりと浸かります。
仄かに酒精の残り香がしているので、主様方はまたお風呂で飲まれたのでしょうか?
機会があれば、ご相伴に預かりたいものです。
暫くのんびりとしていたのですが、私やリヴィアを見てクレマチスさんが、
「それにしても、ルナさんやリヴィアさんは系統が違うとは言え、どちらもお美しいですね。
同姓の私から見ても、見惚れてしまいそうです」
と言って頂けました。
「有難うございます。ですが、主様からは“雌”として見て頂けないようで・・・」
「ルナニャン。そこは“女”として見て貰わないと駄目ニャ!
リュウノスケ様は人の姿をしている以上は、“雌”じゃ駄目だニャ!」
「そうなのでしょうか?」
「そうニャ。ただでさえルナニャン達は長い間獣の姿で居た分、新しい姿で悩殺しないと駄目だニャ。
子供が欲しいからと言って“雌”の部分を前面に出してしまうと、かえって逆効果になるニャ」
「私としては、早く主様のご寵愛を頂き、子供が欲しいのですが・・・。
ただ、主様は子供が出来ない存在だとおっしゃっていたので、気になっていたのですが、
ミーさん達もお子さんが生まれるまでに時間が掛かりましたよね?」
ちらっと海ちゃんを見つつ、気になっていた事を聞いてみました。
「ニャ?ご主人様との間にでも子供は出来たのニャ。
リュウノスケ様は出来ない体なのかニャ?」
「主様よりはその様に伺って居ります。ねぇ?」
「はい。私もその様にお聞きしました」
「それは・・・神との間の話でしょうか?」
「・・・あぁ。なるほど、そういう事ですか」
「ルナ姉様は何か気付いたのですか?」
「まぁ黙って居たい所ですが・・・リヴィア。暫くは共闘しませんか?
現状のままだと、私達の事を“娘”としか見て頂けていない様ですし、私達を抱いて頂ける可能性を高める為に」
「構いませんが・・・」
「どういう事ですニャ?」
「主様は意図的に子供が出来ない存在だとおっしゃったのですよ。ご自身が“神の分体”である時に」
「あぁ、なるほど。そういう事ですか」
「ルナ姉様。良く判りませんが?」
「いいですかリヴィア。
ご主人様は“神の分体”である時に“子供が出来ない存在”であるとおっしゃっただけであって、
“神”としてなら子供が出来る可能性は否定されて居られないのですよ。
確実に言える事としては“神の分体”で居られる時は、幾らご寵愛を頂こうとも、子供は望めませんが、
“神”の時も子供が出来ない可能性は否定されて居られない。 と言う事です」
「なるほど。
でもルナ姉様。それだとご主人様の子を宿す事はかなり厳しくなりませんか?」
「だから共闘しようと言ったのですよ。
ご主人様は今後“神の分体”で過ごされる時間が長くなるとおっしゃって居られましたし、
“神”として居られる時に、何とかして抱いて頂かねばなりませんから。
まして、ミツハル様の場合と同様だとするならば、長期戦の覚悟もせねばなりません」
「そうだニャー。陸達の時でもかなり時間が必要だったニャ・・・。
そもそも、ご主人様をその気にさせるまでにも時間が掛かったニャ・・・」
「そうなのですか?」
「そうニャ。
私もクレマも元々はルナニャン達と同じ様に“娘”みたいな存在としてしか見てくれて無かったニャ」
「その辺りのお話は初耳ですわね」
「まぁ言った事が無かったニャ。私もクレマも元々は親が居なかったんだニャ。
私達はご主人様が作られた“孤児院”って言う施設で育ったんだニャ。
他にも同じ様に親が居ない子供達が一杯居たニャ。
その中で私とクレマだけは特にご主人様に懐いたから、ご主人様に引き取られて“娘”として育てて頂いたニャ」
「お母様方。そのお話は私も初耳ですが?」
「わざわざ言う必要が無かったからですよ。
あなた達が生まれた頃には既にどうでもいい過去の話になっていましたから」
「私達と同じく、主様から“娘”同様の存在としか見て頂けてなかった状況をどう打開されたのですか?」
「ご主人様もなかなかの難敵だったけど、ひたすらに押しの一手ニャ。
押し過ぎも駄目かも知れないけど、とりあえず迫るしか方法が無かったニャ。
色々と考えて、今考えると恥ずかしい事とかもやったのニャ・・・」
「そうでしたね。まぁそれも含めて、陸達が生まれた今となっては良い思い出ですが」
「押しの一手ですか・・・」
「下手に搦め手から攻めたら、逆効果になるかも知れないから気をつけるニャ。
私達も何度か失敗しかけて、ご主人様と一緒に居られなくなりそうになったりもしたのニャ。
でも、とりあえず一度抱いて貰えればもうこっちの勝ちニャ。
後はそのままずるずる引っ張り込むだけだニャ」
「なるほど。参考になります。
しかし主様が“神”として居られる機会自体が少ないとなると、子を宿すのは難しくなりますね・・・」
「ルナニャン達は何か拘りがあるのかニャ?無ければ襲ってしまえばいいのニャ。
実際に私達はご主人様の寝込みを襲って既成事実を作っちゃったのニャ。
一度でも一線を越えてしまえば“娘”としては見られなくなったニャ」
「お母様。実の娘の前で話される内容では無いと思うのですが・・・」
「海は相手から好きになって貰ったから判らないのニャ!
私達がどれだけ苦労して、ご主人様にその気になって貰おうと必死だったか・・・。
お前達はその辺を全く理解して居ないのニャ!」
「まぁまぁ。母娘関係は私には判りかねますが、海ちゃんをいじめないであげて下さいな。
話を元に戻しますが、私としては初めては主様に求めて頂きたいのですが。
リヴィアはどう?」
「私も同じですね。
ただそれだと、“神”として過ごされる機会が今まで以上に少なくなるとおっしゃられて居ましたし、
ご主人様の子を宿す事は不可能になってしまいそうですが」
「そうなのよねぇ。どうしましょうか」
「それならこう言うのはどうですかニャ?」
・・・・・・
・・・女子会は、たま~に暴走するのかも知れません。
だって、雄の目を気にせずに好き放題、言いたい放題出来る場なのですから。