第096話 ルナの想い
あれから少しの間、沈黙の時間。
フェンは完全に我関せず状態で寛いでいます。
つーかお前ら正座しっぱなしだけど、足痺れたりしないの?
俺だと無理だわ~とか、ぼ~っと考えています。
そろそろ飽きてきたし、結論を出して貰おうかな?
「ルナ。結論は出たか?」
「主様・・・」
「俺としては十分な時間を与えたと思っている。
お前自身の考えをそろそろ聞かせて貰おうか」
「主様、少しだけお話させて頂いても宜しいでしょうか?」
「構わんぞ。俺だってちゃんとお前の考えを聞きたい」
「有難う御座います。
私の話の前に確認させて頂きたいのですが、今後“従魔”や“契約従魔”を新たに従える事をお考えでしょうか?」
「“契約従魔”に関しては一応4匹追加する予定だ。
こいつらは、北極大陸の門番代わりにしたいから、お前達とは全く接点が無いだろうがな。
とりあえず魂が宿っていれば四聖獣あたりを従えようかと、今の所では考えている。
他にも追加するかも知れんが、その辺は完全に未定だな。俺の気分次第と言った所か。
北極大陸に移住させる為に従えるかも知れんが、どうにせよお前達とは“確実に”対応は異なるだろうな。
俺の家族はお前達5人だけで十分だからな。これ以上お前達と同様の存在は要らん。
“従魔”に関しては完全に未定だな。
俺が冒険者となった時に“もしかしたら足代わりに従えるかも”程度の可能性ぐらいか?
俺自身が自分で移動した方が早いが、一応実力を隠して行動したいからな。その為のフェイク用に従えるかも知れん。
だから、スレイプニルかグリフォンあたりを従魔にするかも知れない、と言った程度だな。
いずれにせよ、お前達と同じ存在にするつもりはないけどな。
せいぜい不死を付与するぐらいか?
まぁ完全に未定だから、どうなるか判らんが」
「そうですか・・・」
「で?お前の考えは纏まったか?」
「主様がどの様なご意思を持って居られるのか、なんとなくではありますが理解したつもりです。
それが私の“想い”とは今のままでは相容れない事も。
ですが、それでは確実に主様との繋がりを絶つ事となります。
それだけは絶対に受け入れられません」
「参考までに聞かせて貰えるか?
今のままでは俺と相容れないお前の“想い”が何なのか。
当然、聞くだけであって、それでどうこうしたりはしないから、気兼ねなく言ってくれ。
お前には今まで散々苦労を掛けたし、多少大目に見てもいいだろう。
まぁ逆に迷惑も掛けられたが」
「有難う御座います。
ご迷惑をお掛けした事に関しては、改めてお詫び申し上げます。
主様のご意思としては、私共が“個々に判断出来る、自由意志を持った自立した存在”を求めて居られるのだと思います。
が、今の私の“想い”は”常に主様と共にある事”で御座います。
今の私の“想い”は“白面金毛九尾”の存在意義としても“主様のご意思”とも相容れない事も理解して居ります。
その板挟みとなり、身動きが取れないのが現状です」
泣きながら苦笑するルナ。そこまで悩む事でも無いと思うがねぇ。
「難しく考え過ぎだな。
もうぶっちゃけてしまうが、基本的には現状と殆ど変わらない状態になるだけなんだがなぁ。
ただ毎日顔を合わせる事が無くなるのと、俺が食事を用意する事が無くなる事ぐらいの差でしかないはずだぞ?
それすら拒否するほどの理由があるのか?」
「主様は私の“想い”を軽く見られて居られるのですね。
毎朝主様を起こして差し上げるのは、誰にも譲りたくない私の大切な日課。
何時でも主様のご寵愛を賜る事が出来るよう自身を磨く事も同様ですわ」
「ご寵愛ねぇ。
俺は家族だと思う相手を抱くほど飢えても居ないし、倒錯的趣味も持っていないつもりなんだがなぁ」
「その辺は私の愛で乗り越えて見せますわ」
「嫌な自信だな。その辺もう少し妥協して欲しい所だが?」
「お断り致します。
あぁ、ついでに言いますとリヴィアも主様を狙って居りますよ?
そういう意味では、私とリヴィアは競い合う競争相手ですから」
「予め言っておくが、俺の意思を無視して事に及んだ場合は俺の寝室への出入りを禁止にするからな」
「あら、また余計な事を言ってしまった様ですわね。ごめんなさいねリヴィア」
「構いませんよルナ姉様。私はご主人様の“契約従魔”となったのですから。
後はゆっくりと時間を掛けて、ご主人様にその気になって頂ければ良いだけなのですから。
“ただの聖獣”如きには、関係の無い事ですし」
怖っ!色々言いたいけど、とりあえず女同士って怖っ!
「あぁ!そう言えば私共も女体化が可能なのですよね?
主様がお求めになられるのでしたら、ご意思に沿いますが?」
「いや要らんから!と言うよりも頼むから辞めて。俺にはそっちの趣味ないから!
幾ら女体化しても元が雄だって判ってて、事に及んだとしたら、色々と終わっちゃうから!」
超恐ろしい発言をするタリズ。
ちょっとお前、自分の渋めの顔見てからその発言してくれ!
「じゃぁ僕なら如何ですか?」
女体化するシファード。
完全にツルペタの合法ロリじゃねーか!そっちの趣味も無いっつーの!
「お前も悪ノリしないの!」
“ペシッ”と頭を叩いてシファードを男に戻します。
まぁこいつらがやってるのは単純にルナの後押しをしているだけであって、本気じゃないだろうしね。
・・・本気だったら尚更恐ろしいけど。
今だけは、我関せずで寛いでいるフェンが憎いわぁ・・・。
「・・・判りましたわ。主様、私とも皆と同様の“契約”をお願い致します。
私の“想い”は主様と共に歩める様になる事。
そして何時の日にか主様の子を産む事と致します!」
「ルナ・・・お前も悪ノリにいちいち反応するな」
「ノリや酔狂で申し上げている訳では御座いません。私の本心で御座います。
少なくとも、現状のままでは居られないと言う事を改めて理解致しました。
その上で、主様と新しい関係を築いていける可能性に、私は賭けたいと思います」
「俺はお前の“想い”には応えられないかも知れないぞ?」
「先ほどリヴィアが申し上げましたが“ただの聖獣”如きでは、私の想いそのものが意味の無い事となります。
長姉として、何より最初に主様に従った者として。
その事は到底受け入れる事など出来ません。
主様が私の“想い”に応えて頂けなかったとしても、それは無念では御座いますが、可能性が無い訳では御座いません。
ならば、ほんの僅かでも可能性のある方に私は賭けたいと思います。
私の“想い”に応えて頂けなかったとしても、私の僅かな希望の芽を、主様は拒否なさいますか?」
「その問い方は卑怯だな?俺が拒否出来ない事を承知の上で言っているだろう?」
「はい。卑怯だと承知して居りますが、私としても必死で御座いますゆえ、お許しを」
「ふぅ・・・まぁいいだろう。
俺の子云々は別とするが、お前の“想い”は確かに聞けた。
ならば“契約”しよう『我が求めに応じよ!』・・・『修正!』
重ねて言うが、俺の子云々は別の話だからな?」
「ふふふ。それは私やリヴィア次第でしょう。
“どちらが先に主様をその気にさせるのか”楽しみで御座います」
「・・・改めて言うけど、俺を襲うなよ?」
「おほほほほ・・・・」
「おい!・・・全く。
・・・あぁ、言っておくが、俺を襲った所で子は出来ないからな?」
「あら?そうなのですか?」
「あぁ。俺はそういう存在だ。これ以上余計な事を言うつもりはないがな」
「ふふふ。承知致しました。
あぁ!申し訳御座いませんが、幾つか確認させて頂きたい事が御座います。
宜しいでしょうか?」
「何だ?答えられる範囲なら答えるが?
俺の子云々に関しては答えるつもりはないぞ?」
「それもお聞きしたい所で御座いますが、全く別の事で御座います」
「ならいい。何が聞きたい?」
「先ずは今回“契約従魔”となった順番がフェンからとなりますが、フェンが長兄となるのでしょうか?」
「いや。
俺の従魔でなくなったとしても、俺はお前達を家族だと思っている事に変わりが無いと言ったよな?
結果的に“契約従魔”となった順番は変わったが、俺の中では相変らずルナが長姉だ。他も同様だな」
「もう1点。主様がここ数百年悩まれていた事は何だったのでしょうか?
今回の事で解消されましたでしょうか?」
「あぁ、その事か。
俺の危惧していた事は一応解決した・・・かな?
俺が危惧していた事は何点かある。
最初の危惧として、全員に魂が宿るまでに従魔契約を維持出来るかどうか、が心配だった。
実際には従魔契約の維持が出来そうに無いと判断して、神として世界の理の記述を変更したりもしたがな。
さらに神獣になった事で危険性が高まった訳だが、どうもある程度以上になると成長が鈍化するのかも知れないな。
かなり際どかったと言えばそうだが、結果的には何とかなった訳だ。
次に、お前達全員に魂が宿るタイミングだな。
既に言ったと思うが、全員が1000年時点で同時に魂が宿るかどうか。と言う事が問題だった。
これについては以前、魂の神様から恐らく同時に宿るだろうと指摘を受けていた。
だから正直な所、その点に関しては余り心配はしていなかったんだ。
だが、魂が宿った時点で従魔契約が勝手に破棄される可能性が高かった。それについては何とか間に合った感じだな。
理由としては先に述べた通りだと思う。
俺としては、ちゃんとお前達と向き合って従魔契約を破棄したかったからな。それが出来るかどうかが心配だった。
次は・・・俺を殺す覚悟を持って貰えるかどうかだな。
魂を持った存在となった上で、俺の勝手な理由で従魔契約を破棄する事でその覚悟を持って貰うつもりだった訳だが、
結果的に契約従魔の契約内容に入れる事で解決出来るだろうとも判断した。
魂を持った以上、俺を殺す必要があれば可能だろうとも思っていたから、結果的にはどう転んでも良かったんだがな。
だからその次として“契約従魔”の存在に気付くかどうか、が問題だった。
これも既に言った事だが、
従魔契約を破棄した後で契約従魔の存在に気付いていれば、俺はその時点で契約従魔にするつもりだった。
もし気付かなければ、俺はお前達に聖獣としてリザアース上で生きて貰う覚悟もしていたからな。
当然二度と会うことも無い可能性も考えた上でな。
・・・ルナそんな顔をするな。結果としてはお前達の“想い”も聞けたし、俺としては十分満足しているのだから」
悔しそうな、悲しそうな、微妙な表情のルナ。
まぁ俺としては予想以上に満足出来る結果になったから、本当に良かったんだけどね。
「最後に契約従魔の存在に気付いた場合の契約内容が心配だった。
“俺を殺せない”契約内容しか提示出来ない場合だな。
その時は俺も契約をするつもりがなかったし、気付かなかった時と同様にするつもりだった。
魂の神様から指摘されていた事だが“俺を殺せない”契約しか提示しない可能性も高かったらしいからな。
俺としてはこのパターンが一番最悪な想定だった訳だが、お前達はちゃんと受け入れてくれたからな。本当に有難う。
とりあえずはそんな所か?まだ何かあったような気もするけど、大体こんな感じだったはずだ。
俺は余り頭が良くないからな。
良くないなりに色々と考えてはいたが、漏れがあるかも知れないって事も危惧していたと言えばそうかも知れん。
これでいいか?」
「はい。有難う御座いました。 あともう1点だけ宜しいでしょうか?」
「ん?何だ?」
「今後はどうされるおつもりでしょうか?
私共を“契約従魔”とされた以上、何らかの役目を命ぜられるのでしょうか?」
「あ~。殆どの事に関しては、だが。お前達は自由に過ごせばいい。
年末年始の食事は俺が用意するが、それ以外の日の食事は毎食自分達で用意しろよ?
だから、今後は日々を居住区で生活する必要も無い訳だ。
別に此処に居たければ居てもいい。
風呂に入りにだけ此処に来るって事も構わない。ただし入浴剤は基本的には禁止になるがな。
ま、年末年始には必ず俺は居住区に帰って来るから、その時は顔を出してくれると嬉しいな、程度だ。
俺は北極大陸の開拓をする予定だから、余り此処には帰って来なくなるからなぁ。
一応今後の方針としてはそんな感じかな?
ただ、暫くの間は、お前達に“従者”教育をするつもりだから、今まで通りなんだがな?
俺の北極大陸の開拓も進めながらだから、まぁ数年は今まで通りの生活になるだろう。
せっかく人化も出来る様になったし、その間にでも調理系のスキルも上げられるだろうしな。
お前達が俺の“従者”代わりになってくれたら、俺としても色々と助かるし。
そうそう、それ用のスキルとかも追加してあるから、後で付与するからな。人化時用の装備一式もだな。
両手が自由に使えないと、“従者”教育もままならんからな。
その辺は一応考えてある。
あぁ後、四聖獣を“契約従魔”にする時に着いて来て貰おうかな?
一応面通しだけはしておいた方がいいだろうし。
もし四聖獣が俺との“契約従魔”を拒否したら討伐する必要もあるしな。
あいつらが魂を持ったとして、どの程度強くなっているか判らんから、お前達にも戦闘に参加して貰うかも知れん。
それぐらいかな?」
「承知致しました。入浴剤に関しては後ほどご相談させて頂きますが。」
「判った。誰か他に用はあるか?・・・無いみたいだな。
んじゃ、念話防止の結界を消してっと。 『消去!』
それじゃ、一旦リビングに戻るぞ~。
・・・とりあえず、ちゃんといつもの姿に戻りなさい」
全員が元の姿に戻ったのを確認したら、リビングに戻ります。
あ~やれやれ。色々あったけど、丸く収まって本当に良かったよ・・・。




