第093話 俺の危惧していた事
俺以外の全員が、
“全裸で正座”のちょっと異様な状態だけど、ちゃんと説明はしないとね。
「さて、何処から話せばいいかな・・・。
とりあえず発端と言うか、既にタリズを新しく従魔に加えようと思った時点では、気付いていた可能性だったんだ。
いずれ従魔契約を破棄しなければならない可能性が高い。と。
ルナ?従魔魔法の詳細について何処まで知っている?」
「従魔魔法の詳細・・・で御座いますか?」
「あぁ、正確には従魔魔法を使用して従魔とする条件と、従魔として従えた後の詳細についてだな。
あと、堅苦しい言葉遣いを無理して使う必要は無いぞ?
どうせ今の俺だと、お前達の内の誰か1人だけを相手にした所で、手も足も出ないからな。
現状だと、この中で俺は最弱の存在なんだから、そんな相手に気を使うな。
もう俺の従魔でも無いんだからな」
「言葉遣いに関しましては、ある程度は承知致しました。
が、私は従魔契約を破棄されようとも、主様は主様としか思えませんので、ご了承願います」
ルナに同調して頷く元従魔達。
全く俺には過ぎた忠誠心を持ってくれたものだねぇ。本当に嬉しい事を言ってくれる。
無理無茶が当たり前で、命の遣り取りが普通だった訓練とかを散々やったのにな。
だがこれからは、その考え方じゃぁ困るんだけどな。
「まぁそれはどうでもいいや。好きにしてくれ。 で?どうなんだ?」
「私が承知している従魔魔法は、実力差のある相手を無条件に自身の従魔として従えられる。
と言う事のみで御座います。
それ以上の事は存じ上げません。皆はどう?」
他の皆の意見も聞いてみるルナだけど、全員が頷くだけ。
全員その程度の知識しか持っていないらしい。
「全員同意見・・・か。
まぁ実際に、モノリスの書を記述した俺と同程度の知識を求める方が間違っているとは思うから、仕方の無い事か。
そうなると、従魔魔法に関しての説明から始めた方が早いな。
従魔魔法の従魔として従える為の条件としては、自身と相手の力量差で決定される。
知っての通り、相応の実力差があれば無条件で従魔とする事が可能だ。
そこまではお前達の知っている事で間違って無いと思う。
多分ここからはお前達は知らない事だったのかも知れないが、
従魔を従えた者は従えた相手に対して、対価として従えている従魔の力量に相応するMPが一定時間毎に消費される。
当然、従える従魔の数が増えれば増えるほど、消費されるMP量も増加していく訳だが、
消費されるMP量よりも回復量の方が上回っている場合なら特に問題は無い。
が、当然回復量よりも消費量の方が上回った場合、特に従魔を従えている者が対価となるMPを供給出来なかった場合、
供給出来なくなった瞬間に従魔契約は自動的に解除される。
その場合、と言うか今回の場合だな。
俺でも誰が従魔契約から解除されるかは判らない。完全にタイミングの問題になるのだろうな」
「それが理由で我々の従魔契約を破棄された。と言う事でしょうか?」
「まぁそうだな。それも理由の1つではある」
「私は主様よりも遥かに多くの従魔を従えて居ります。
主様が私共よりも少ない数である、我々しか従えていないにも関わらず、
従魔契約を破棄せねばならないほどの対価を供給出来ないとは思えないのですが?」
「それに関しては2点の理由がある。
先ずは1点目。
それは俺が、余り成長する事が出来ないからだ。
よく思い出してみろ?俺がお前達を従魔とした時と今とを比較して、お前達ほど俺は成長しているか?
同じ様な訓練をしてきたのに? 俺だってほぼ毎日、飽きもせず魔物を狩り続けてきたんだぞ?」
「それは・・・」
「この世界においては、俺だけは成長する事に関して限界点みたいなものがある。
無論、他の人類や魔物達も含めて、お前達全員にはそういった制限は無いがな。
それが理由の1点目。
もう1点の理由は、お前達自身が魂を持った事が理由だな」
「魂を持つ事で何があるのですか?」
「実際に自身のHPやMPなんかを確認してみるといい。
あぁ、今はステータスチョーカーがないから、ギルドカードでも出して確認したらいいかな?」
各自がギルドカードを出現させて、自身のステータスを確認している。
全員が全員、自身のステータスを確認して驚愕しているのはまぁ予想通りかな?
少なくとも元の倍以上にはなっているのだから。
「判ったか? ちなみにだが『出ろ!』これが大体人類の初期ステータスだ」
全員に見えるように創造魔法で“擬似”ステータスカードを出現させてみる。
“自身がどれほど異常に強い存在であるか”と言う事が判ればいいだけだから、全員が確認したらさっさと消したけどね。
「魂を持つ前から比較して、確実に元の数倍になっているはずだ。
魂を持つ事で“魔物”は“聖獣”へと進化する。
進化する事によって、それに付随する形で元々持っていた各種ステータスは数倍に増加するんだ。
聖獣になる以前でも、この世界では最上位と言っても間違いない従魔を5人も従えていたんだぞ?
その“魔物”と言うか、実際には“神獣”になった事も予想外だったが、そんな奴らが一気に“聖獣”へ進化したんだ。
当然、対価として供給しなければならないMPの量も跳ね上がる訳だな」
「では、“我々が魂を持った事で、主様の従魔では居られなくなった”と言う事でしょうか?」
「まぁある意味ではそうだな。
お前達が魂を持つ存在となった事によって、お前達を従魔として維持する為のMPを供給する事が厳しくなった。
その事自体は、否定出来ない事実だ。
だが、お前達の誰かがまだ魂を持たない存在であったなら、俺は全員の従魔契約を破棄するつもりは無かった。
実際に、後数年から数十年程度なら、まだ全員の従魔契約を維持する事自体は可能だったかも知れなかったからな。
誰か1人でも魂を持たない存在のままの従魔が居るのか、全員が一斉に魂を持てるのか。
が心配だったって事だな。
俺としては、誰か1人を残して従魔契約を破棄するつもりが無かったからな。
まぁこれに関しては、単純に俺の思想的な問題ではあるから、特に深い意味はない。
ただ、何となくって感じだな。
俺はお前達に優劣を付けるつもりが無いのに、誰かを残して他は従魔契約を破棄するような行為が単純に嫌だっただけだ。
全員を一斉に従魔契約を破棄出来るのか、俺が従魔としてお前達を維持出来る限界が来るのが先か。って所か。
俺がこの数百年間、危惧していた事はその点もある」
「しかし神である主様なら如何様にでも出来たのでは御座いませんか?」
「何だ。俺が神だと言う事まで理解していたのか。まぁ、その点に関しては否定はしない」
「では何故!」
「正確に言うなら、俺は神ではなく、神の分体だからだ。
神の分体として存在している以上、神の創った理に従って生きている。
勿論、その理自体も俺が創ったものだがな」
「ならばその理を変更されれば良かったのではないのですか?」
「簡単に言ってくれるな? だがお前達自身でも考えてもみろよ?
俺がお前達を従魔として維持する為に、ある程度無条件で従魔を維持出来る様な世界を。
それがどれほど歪な世界となるのか想像出来るのか?
大体お前の言う事を実現しようとすれば、この世界の魔物全てが俺の従魔となる可能性を持つ様な世界だぞ?
俺はそんな世界は御免だな。俺の懐はそんなに広くはない。
俺が愛情を持って接する事が出来る従魔の数なんて、今のところお前達だけで既に十分だ。
今まで共に暮らしてきたお前達なら判ると思うが、
俺は自身の従魔となった者の敵対者に対して寛容で居られるほど、理性的な性格じゃないからな。
お前達は知らないと思うが、この世界の基本的な構図としては、人類と魔物が生存競争を行う世界だ。
そんな世界で俺が片方だけに加担してみろ?一気に世界が安定を失って狂うぞ?
あとお前達を従魔にした後に思いついた事なんだが、
お前達を強くした事にだって、俺としてはちゃんと意味があったんだぞ?」
「それはどういう意味でしょうか?」
「元々は、神の従魔であるなら弱者で居て欲しくなかった。
と言うのが最初に訓練を始めた理由だな。
その辺は訓練を開始した当初に話した記憶があるが・・・ルナ?覚えているか?」
「はい。
主様より直接選択肢を頂いた上で、私は主様を支える事が出来る従魔で在りたいと思いました」
「ルナ以外には聞かなかったし、結果的に他の選択肢を与える事もなかったが、
本当に訓練当初は神の従魔として弱者は必要ないと思っていた。
この点に関しては間違いない。
俺自身の中で、従魔と言う存在に対しての目的が変わり始めたのは此処に居る全員が揃った後、暫くしてからだな。
追加する形で、ある程度俺を越え始めたあたりから明確に訓練の目的が別の方向へと変わったんだ。
つまり訓練の目的は2つになった。
最初の1つは従魔にした当初から、俺自身がこの世界に飽きてこの世界自体を破壊したくなる衝動を抑える、
いわば心理的な抑止力を従魔であったお前達に求めた。
少なくとも、お前達がこの世界で生きている以上、俺はこの世界を守りたいと思う。
こんな俺でもお前達に愛着を持っていたからな。
勿論、“全ての事象から完全にお前達を守れる”とまでは思っていないが、
少なくともこの世界そのものを、俺自身の手で破壊しようとは思わないだろう。
お前達がこの世界に居る限りは。だが。
あともう1点。
こっちはさっき言った、ある程度俺を越え始めてからお前達を強くする目的になった事なんだが、
さっき言った心理的な抑止力としての意味の他に、物理的な抑止力をもお前達には求め始めた。
俺は基本的には神として、ではなく分体であるこの体で生活しようと思っている。
今後は今まで以上にな。
だが、この体であってもこれから数千年。
どれだけ早くとも数百年間はこの世界で敵となれる存在はお前達しか居ない。
考えた事は無かったか?
なぜこの世界にはお前達より圧倒的な弱者しか存在しないのか?と。
自分達よりも圧倒的な弱者しか居ない状態にもかかわらず、なぜほぼ毎日俺が鍛練を課していたのか?と。
結論を言ってしまうが、万が一俺が明確に道を誤った場合、お前達なら確実に俺を殺してくれると思ったからだ。
俺自身はと言うか、これから新しく創る分体に関しては、不老不死ではないからな。
お前達なら十分に俺を殺せる。
だから、個人として明確な意識を持つ事が可能である“魂を持った存在”に、お前達がなる事を待っていたんだ。
まぁ情けない話だが、ある意味で俺はお前達に“依存している”って事だな」
「それは・・・」
「酷い事を言っている。と言うのは十分に承知している。
俺の勝手な思いを、お前達に押し付けているだけだからな。
だが、従魔魔法とは本来そういう物だ。契約者の意思に従う様な強制力を持った魔法だからな。
其処に、従魔の自由意思は存在しない。
自分で創っておきながら、酷い物だと知りつつ使っていたのだから、余計に度し難いがな。
だが、契約者自身が自らを殺す様に命じたとして、それが実行可能な事なのかどうかは判らない。
だからもう、俺の従魔のままで居られるのは困るんだよ。
従魔のままで、俺を殺せるかどうかが判らないからな。
俺が危惧していたもう1つの理由が此処にある。
お前達が、自身の判断で俺を殺してくれるかどうか。だな。
俺は1つだけ明確に決めている事がある。
それは、お前達の誰かに殺された場合、絶対に二度と地上には行かないし、二度と地上の世界に対しても干渉しない。
これは俺のと言うよりも、神としての意思だ。
それらを踏まえた上で、お前達の判断で必要だと判断したのなら。
遠慮無く俺を殺して欲しいと思っている。
そして、その為だけに過剰にお前達を強くした。と思って貰って構わない」
「それはっ!」
「ただの魔物には絶対に不可能な事だろう?
神の分体とは言え、俺を殺す事が出来る存在になるなんて。
かと言って、従魔のままだったのなら実行可能かどうかが不明だっただろう?
俺を殺す事が出来る実力を持っていても。
だからこそ従魔契約を破棄した。従魔契約を破棄した最重要な理由として。
お前達は既に魂を持った存在だ。
もう自分自身で、理性的な判断を下す事も可能となったはずだ。
第一お前達は俺よりも頭がいいしな。
その辺の“理性的な判断”に関しては心配していない。
お前達の衝動で俺を殺す可能性もあるかも知れないが、それはそれ。だ。
その結果も受け入れるつもりだしな。
まぁ、殺してくれとは言っているが、実際に“俺”という存在が消えて無くなる訳じゃないから、それほど気にするな。
死ぬのは俺の分体であって、神としての俺を殺してくれと頼んでいる訳じゃないからな。
もし可能であるなら、神である俺も殺して欲しい所だが、さすがにそれは望み過ぎだと俺だって判っている。
ま、今までの訓練中に散々お前達を殺してきただろう?逆に殺されもしたが。
それと同じ事だと思ってくれればいいさ」
全員が黙ったまま、今となっては身に着ける事が出来ないチョーカーを握り締めている。
まぁ当然か。
今まで散々努力して強くなったと思ったら、突然一方的に従魔契約を破棄され、
その本当の理由が“俺を殺してくれる存在が欲しかったから”だもんな。
「以上が俺がお前達の従魔契約を破棄した理由だ。
当然、“俺を殺せる可能性”を持った以上、改めて従魔魔法をお前達に使うつもりはない。
納得したか?」
今話あたりから、若干主人公の口調が変化しますが、こちらが本来の姿です。
身内かつ元従魔が相手って事でご了承下さい。
今回の顛末が終われば、元に戻す予定です。