第092話 大切な神獣達
『リュウノスケの名において、我が従魔ルナとの従魔契約を破棄する!』
意思による従魔契約の破棄に関しては、モノリスの書に記述してなかったけど、ちゃんと契約破棄が出来たみたい。
俺とルナの間で繋がっていた“魔力のパス”みたいなものがぷつりと途切れた感覚がありました。
その感覚と同時にルナの首から“ポトリ”とチョーカーが地面に落下。
ルナからは【何故ですかっ!】って念話が来たけど、ごめんね。
他の従魔達も、突然俺が従魔契約を破棄した事で動揺してるみたい。
「ルナ。皆も。ちゃんと後から説明するからちょっと待って。
タリズ。おいで」
俺がタリズに近づくと、近づいた分だけ後ずさりするタリズ。
ルナとの遣り取りを見て、何をするのかが判ったみたい。
タリズからも【主よ!何故ですかっ!】って念話を送って来たけど、やらなきゃいけない事だからね。
「駄目だよ?必要な事なんだから。 『タリズ、来なさい』」
本当はやりたくは無いけど、命令で縛ります。
俺の指示に従ってこちらに来るタリズ。
ただ、タリズの意思に逆らう形で体が動いているみたいで、ぎこちない動きになっています。
「ごめんね、でも必要な事だから。
タリズも今まで有難うね。これからも頑張って」
長兄タリズ。
予想外の形で従魔にしちゃったけど、これっぽっちも後悔なんてしていません。
大空の覇者であり、極爆風魔法をも極めた爆風の巨鳥。
ルナから1歩下がった形で他の従魔達を見守っていた、頼りになる兄貴分。
そう言えば、結果的にタリズだけだったな。それなりに野生の魔物だった期間があったのって。
ルナと同じくタリズの首にぎゅっと抱き付いて、心から感謝の気持ちを伝えます。
今まで有難うと言う気持ち。これからも頑張ってねって言う、応援の気持ち。
俺の言葉だけじゃ伝えきれない気持ちを、少しでも多く伝わってくれればいいな。って思う。
『リュウノスケの名において、我が従魔タリズとの従魔契約を破棄する!』
紡いだ言葉で俺とタリズとのパスがぷつりと途切れた感覚。“ポトリ”と地面に落ちるチョーカー。
覚悟はしていたけれど、俺が予想していた以上に心が痛いです。
でも、これは必要なこと。いつかは必ずやらなくちゃいけなかった事。
今やるか、もう少し後でやるかの違いしかないのなら、
聖獣として新しく生まれ変わった今、俺が責任を持ってやるべき事なんだと。
心より思う。
俺の為だけじゃなくて、大切な家族達の選択肢を広げる為に。
「次はリヴィアかな? おいで」
タリズと同じく、俺が近づいた分だけ後ずさるリヴィア。
「リヴィア。お願いだから俺に命令させないで。ちゃんと自分の意思で俺の前に立って欲しい」
【ご主人様。何故この様な事を?避けられない事なのですか?】
そっか。リヴィアの中では俺の事を“ご主人様”だと呼んでいたのか。
今まで念話で会話しても、余りちゃんとした会話らしい会話じゃなくて、
俺に対して“是”か“否”みたいな形でしか受け答えしてくれなかったから、寡黙なイメージだったけど、
魂が宿ったからか、明確に意思を伝えられる様になったのかもね。
「うん。ごめんね。ちゃんとした理由があっての事だから。
だから、命令で縛るんじゃなくて、ちゃんと自分の意思で俺の前に立って欲しいんだよ。
理由は後から全員にきちんと説明するから。
だから、おいで」
されて嫌な事をしているのかも知れないけど、皆にとっても必要な事だからね。
嫌だと思ってくれているなら嬉しい事なんだけど、俺がちゃんと覚悟して受け止めさえすればいいだけの話。
諦めて近寄ってきたリヴィアの首を、ルナやタリズ同様に精一杯抱きしめる。
ほんの少しでも多く、俺の感謝の思いと、これからも頑張ってほしいって思いが伝わる事を願って。
鰭や棘なんかが俺の顔や腕を傷つけて血が流れ出してるけど、どうせすぐに回復するし俺にとっては瑣末な事。
リヴィアは気にしているみたいだけれど、それよりもしっかり俺の気持ちが伝わってくれた方が遥かに嬉しいんだよ?
次姉リヴィア。
誕生直後に俺の従魔にしてから、ずっと一緒に過ごしてきた可愛い従魔。
俺の望んだリヴァイアサンになってくれた、大海の王者。
純粋な戦闘能力だけで言えば一番強いのに、他の従魔達のフォロー役で縁の下の力持ち的存在。
一番弟達の面倒を見てくれた、本当は誰よりも気配りの出来る優しい子。
『リュウノスケの名において、我が従魔リヴィアとの従魔契約を破棄する!』
リヴィアとのパスが途切れ、チョーカーが外れたのを確認して、そっと抱きしめていた腕を放す。
流れ出た血を舐め取りつつ、回復してくれたリヴィア。
本当に今まで有難う。
「次はフェンだね。 おいで」
俺が近づいても微動だにせず、ただじっと俺の目を見つめ返すフェン。
【主よ。何故この様な事をなさるのか、本当に説明して頂けるのですね?】
「うん。後でちゃんと皆に説明するよ?
俺の気まぐれなんかでこんな事はしない。
俺だってやらなくていいのなら、本当はやりたくはないんだよ?」
俺だって本当はこんな事をしたく無いって思いが伝わったのか、そのまま黙って受け入れてくれるフェン。
次兄フェン。
リヴィアと同じく、誕生直後に俺の従魔になった孤高の魔狼。
他の従魔達からは1歩引いた所で、自分の役割や出来る事を模索し続けていた姿を思い返します。
戦闘に関しては、完全にルナの下位互換的存在だったから、色々と大変だったかも知れないけど、
それでも挫けずに頑張って強くなってくれた努力を、俺はちゃんと知ってたよ。
首に抱きつき、数回優しく撫でてから言葉を紡ぐ。
『リュウノスケの名において、我が従魔フェンとの従魔契約を破棄する!』
有難うって気持ちと、これから頑張ってねって言う思いを込めて、
チョーカーの外れた首を改めて軽く撫でてからそっと離れる。
「最後はシファード。 おいで」
相変らずおろおろしているシファード。
末弟のちょっとだけ甘えん坊な所が残ってる俺の大事な家族の一員。
リヴィアやフェンと同じく、誕生直後に俺の従魔になった、俺達のマスコット的な存在。
実際は、戦闘に関しても最上位のクラスの実力を持ちながら、超位神聖魔法を極めた強力な聖獣。
最初は一番直接戦闘に向かない存在だったけど、挫けずに頑張って強くなってくれた我慢強い優しい子。
最後にシファードの全身を包み込む様に抱きしめて、万感の思いを込めて最後となる言葉を紡ぐ。
『リュウノスケの名において、我が従魔シファードとの従魔契約を破棄する!』
“ポトリ”・・・全員との“魔力のパス”が切断された事を感じ取って、これで俺のやらなきゃいけない事は終わったか。
と、改めて思う。
後は従魔達にどうして“従魔契約を破棄しなければならなかったのか”を説明するだけだな。
何時までも俺がメソメソ泣いてちゃおかしいもんな。
“俺が”従魔契約を破棄したのに、“俺が”泣いてるなんてみっともなさ過ぎる。
本当に最後に、シファードを改めてぎゅっと抱きしめてから、気持ちを入れ替えるつもりで深呼吸。
改めて全員を見渡せる場所まで戻って、もう一度俺の最強の従魔達だった全員と視線を合わせてから、
もう一度深呼吸して気持ちを落ち着けなきゃな。って思う。
目を瞑って何度か深呼吸を繰り返し、気持ちが落ち着いた所で、
“しっかりしなきゃ”って意識を切り替えます。
「主様。我々との従魔契約を破棄された理由を、お聞かせ願えますでしょうか?」
人の声でそう問い掛けて来たのは、さっきの立ち位置的にルナだったらしい。
瞑目していたから気付かなかったけど、眼球の色も白色だし、完全変身で人化した様子。
傾国の美女ってこんな感じなんだろうな、って思うぐらい美人でした。
色白で金髪金瞳。白人科の美人って感じかな?
まぁ、完全に全裸だからそれはちゃんと注意しなきゃなって思っていたら、
ルナに続く様に他の元従魔達も完全変身で人化しました。
タリズは緑髪緑瞳の黄色人科って感じ。かなりの渋い系の顔立ち。身長もかなり高いです。
リヴィアは蒼髪蒼瞳の同じく黄色人科みたい。ただ、ルナと違ってちょっとだけ筋肉質っぽい感じ。、
全体としては、シュッとした麗人って感じかな?
元の体型のせいか、かなりの高身長だし。2m近くあるかな?
それでも女性らしい丸みを帯びた体型ではありますが。
フェンは黒髪黒瞳の白人科で、完全なイケメン容姿。高身長だし、女性にモテるだろうね。
シファードはルナと同じく色白で金髪金瞳。どちらかと言えば白人科だと思う。
リヴィアとは逆方向で、元の体型のせいか身長は低め。
俺よりも低いから、150cm弱ぐらいしかないと思うけど、かなり容姿も整っているし、
一部の女性の心を鷲掴みしそうな容姿です。
全員がそれぞれ別系統とは言え、かなり整った容姿をしているのは、宿った魂のせいかな?
いつもだったら“人生勝ち組め”って思う所なんだろうけど、どうしてか憎めません。
全員が、外れてしまったチョーカーを大事そうにぎゅっと抱きしめてくれて居るから。
その分だけ、俺との繋がりを“大切だ”と、思ってくれているって気持ちが伝わって来るから。
やっぱり俺は“俺の家族”だったと思っていたんだなぁと、改めて感じて微苦笑。
とりあえず説明しなくちゃいけないんだけど、先に全員が全裸なので注意する事に決定です。
最後まで締まらんよなぁ。 全く・・・。
その辺も実に俺ららしい。本当に良い“家族”だったよ。
「ちゃんと説明はするけど、全裸になるから人化する時は注意するように言ったでしょ?
俺の話を聞いてなかったの?それとも覚えてなかったの?」
「覚えて居りますよ?しかし此処に居るのは全て身内のみ。
何の問題もありませんし、今更お互いに気にする様な間柄でもありません。
そんな瑣末な事よりも、主様がどの様なお考えで、我々を従魔としての存在を拒否されたのか。お聞かせ下さい。
我々に何かご不満やご不興を買う様な事でもあったのでしょうか?
主様より、何らご指摘も頂きませんでしたので、謝罪なら幾らでも致します。
何かしらの態度がお気に障ったのでしたら、すぐにでも全て改めさせて頂きます。
何卒、主様の従魔として、今後とも御傍に控えさせて頂きたく存じます。
その為に必要な事でしたら何でも致しましょう。改めてご再考をお願い出来ませんでしょうか?」
平伏して懇願してくるルナ。続いて同調するように全員が俺に対して平伏。
俺の知らない所で、随分と俺を高く評価してくれてたんだな。
と再認識しました。
さて、あんまり落ち着いて話す環境じゃないけど、気にしないようにしてちゃんと説明しますか。
「魂が宿ったせいか、かなり饒舌になったな?
まぁそれはいいとして、平伏したり畏まった所で従魔契約を改めて再契約するつもりはないぞ?
それも含めて説明するから、ちゃんと話を聞ける体勢になりなさい。
とりあえず座って話しをしよう。
俺からの話はそれほど長くはならないだろうけど、お前達からも言いたい事も出てくるだろうしな」
先にその場に胡坐で座り込む俺。
「お前達も楽な体勢でいいぞ?別に人化してる必要性もないしな。
と言うより、ルナとリヴィアは目のやり場に困るから元に戻ってくれると嬉しいんだが?」
「こちらの方が主様とお話をしやすいので、このままの姿で失礼致します」
そのまま全員が車座になって、座りました。 俺以外は正座。
う~ん。正直このままだと話をしづらいわ。
特に指摘したルナとリヴィアには視線を気を付けよう。
今までは自分の娘分だと思っていたし、従魔だったから特に気にした事が無かったけど、一応雌だったんだよなぁ。
それなのに、自然と“女として”目が行っちゃいそうで、そんな自分が情けないやらみっともないやら。
「ふぅ。まぁいいか。
それじゃ、どうして俺がお前達の“従魔契約を破棄したのか”から説明していきますかねぇ」




