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俺の創った箱庭世界  作者: コルム
生命誕生編
79/243

第079話 閑話 神々の酒宴

ミツハル君を彼らの世界に送り届けた後、全ての世界の中心へと向かう。

最上位神様が治める、神々しか立ち入る事が出来ない特別な世界がそこにはある。


これからしなければならない、最上位神様を含めた上位の神々への交渉を考えると面倒だが、今回はいい手土産も出来た。

恐らくは上手く事を運べるだろう。


最上位神様の世界へと降り立つと、早速湯帷子ゆかたびらと言う服に着替える。

ここ数百年、神々の間でもリュウノスケ君が言う“風呂酒”が流行している。

元々はただの広間で酒宴を行っていたが、私が“風呂酒”を紹介して以来、こちらが現在の主流となった。


当然、男神も女神も同席するため、湯に浸かっても透けない湯帷子に着替えるのが此処での流儀となっている。

湯帷子についてもリュウノスケ君から教えて貰ったものだ。


私としては、リュウノスケ君の世界の方がくつろげるのだが、此処では此処の流儀がある。

ままならないものだ。


浴室に入ると、リュウノスケ君の世界と同様に良い檜の香りがする。

これも彼の世界を模したものだ。


ただ、彼の世界とは規模が段違いではあるのだが、それは1度に同席する神が数千柱以上に及ぶため、当然と言える。


また、この浴槽にはリュウノスケ君の世界と違い、序列によって入浴する場所が決まっている。

上位の神になればなるほど、最も奥の最上位神様の近くとなる。

私にとっては面倒な流儀だが。


下級、中級の神々の間を素通りし、上級の神々が入浴する場所を抜け、先に最上位神様へと挨拶する。これも流儀だ。


上級神の数など数十柱程度だが、中級になると数百、下級ならば数千を超える。

移動するだけでも面倒なことだ。


最上位神様の近くにひざまずく。 さて、ここからが本番だ。


『お久しぶりに御座います。先ほど到着致しました』


『おぉ!久しいな! また“引き篭もりの神”の所で旨い酒をせしめて来たか?』


『はい。

つきましては最上位神様へご報告とお願いがございますが、ひとまずこちらをお納め下さい』


最上位神様の傍に控えていた、上級神である美の神へとリュウノスケ君の言う“幻の酒”とやらを一旦冷やしてから渡す。


飲んでいた杯を空にし、美の神から酌を受ける最上位神様。

この酒なら恐らく上機嫌となるだろう。


『おぉ!これはまた一段と旨いな!風呂酒と実に良く合うわ!

いい加減“引き篭もりの神”にも何か褒美を与えねば、我の度量も知れよう。

何か願いを聞いておらぬか?』


『それにつきましては、先ほど申し上げた願いをお聞き届け頂ければ、かの神も喜びましょう』


『ふむ。報告と願いがあると言っておったな?先に願いから聞こう。申してみよ』


他の神々が注目しているのが判る。

先ほどまで喋っていた神々も、黙ってこちらに注目している。

上級神であっても、最上位神様に対して願い出るなど滅多に無い以上、当然の事だろう。

最上位神様からの褒美となればさらに稀である以上、当然の反応と言えるかも知れないが。


『かの神は、他の神々からの一切の不干渉を望んでおります。

私の他に、かの神と同郷の1柱の神は特別に許可を得た上で交流を行っておりますが、

かの神は現状として、これ以上他の神々との交流や干渉を望んでおりません。


私ともう1柱の神も、かの神の世界への不干渉を確約した上での交流としております。

そこで最上位神様より、全ての神々に対して、かの神への不干渉を命として発して頂きたく存じます』


中級や下級の神々が『生意気な!』などと騒いでいるが、どうせ今のリュウノスケ君の世界に手出しは出来まい。

彼自身の認識では中級神だが、実力的には上級神となった今。手出し出来るのも上級神以上なのだから。


『それは、たかが下級神程度には過ぎた願いではないのですか?

我ら上位の神々からの干渉を受けたくないなどと、不遜ではないですか!』


最上位神様の返答を待たずに発言するのも大概不遜だと思うが、発言した神も実におあつらえ向きの神だ。

後々どのような顔をするのか、内心ほくそ笑みつつ、私は黙って最上位神様の判断を仰ぐ。


恐らくこの願いは通るだろう。何もしない事を願うなど、予想外に違いない。

大概の神々は何事に対しても飽きている。通常と違った変化や、自身の予想外の出来事を喜ぶのだから。

それは最上位神様とて同じ事。


『ははは。良い良い。面白いではないか。

なるほど“引き篭もりの神”らしいと言えば正しくその通りであるな。その願い聞き届けよう。

皆の者も良いな?我の命として、かの神に対して干渉する事を一切禁ずる!

これで良いのか?』


『はい。有難きお言葉に御座います。かの神も喜びましょう。

続けてご報告させて頂きたかったのですが、先に酒の神にも最上位神様へ献上した酒を1杯分けて頂けませんでしょうか?』


『む?構わんが・・・』


『あぁ、ご心配なされずとも、十分な量を持って参りましたので、他の神々へも下賜かし頂ければと存じます』


そう言いつつ、“幻の酒”とやらを100本ほど取り出し、冷やした上で美の神へと渡す。


『そうか。さすがは“全ての魂を司る神”よの。抜かりが無いわ。

皆も飲むと良い。実に旨いぞ?』


酒を飲んだ神々から『旨い』『信じられん』などと聞こえるが、これも予想通り。

中級神である酒の神が飲むまで待ってから、次の一手を打つ。


『酒の神よ、その酒はどうだ?』


『“全ての魂を司る神”様。やはりこれほどの酒を独占する事は酒の神として看過出来ませぬ。

これもミツハル殿と交流している神が創ったものでしょうか?』


『そうとも言えるし、違うとも言える』


『どういう事でしょうか?』


『その酒を創った神から酒の神へ伝えて欲しいと言葉を預かっている。

かの神曰く「今までに創った酒は全て元居た世界にあった物。それを、記憶を元に再現している」と。

今までに創った酒以外にも、今回は様々な酒を用意してくれた。


例えば違う種類の酒を混ぜる事で全く新しい味を生み出す方法なども披露してくれた。

それらも全て元の世界にあった物だそうだ。その事は同郷であるミツハル神も知っていた』


『では、これらの酒を今まで隠していた神が居ると!?』


『酒だけではないぞ?この風呂酒もそうだし、食や遊戯盤に関する事もだ。


私が最上位神様へ“引き篭もりの神”がやっていたと報告した事全てが、元居た世界にあったそうだ』


『何だと?“全ての魂を司る神”よ、その話、間違いないか?』

予想通りに事が運んだようだ。最上位神様もお怒りのご様子。後は仕上げだな。


『はい。彼らは共に“太陽系地球の日本”と言う国が出身との事です。


また、先頃問題としていた輪廻転生の輪の問題に関して、特に顕著な実績を上げた者達も同様の出身者達が多く居ります。


先に名が出たミツハル神も既に中級神となっており、他にも数柱が中級神へと格を上げております』


一斉にざわつく神々達。

それはそうだろう。せいぜい千数百年程度で中級神に昇格するなど、異常にもほどがある。


『何だと!既に中級神に格が上がっているなど早過ぎる!して、それはどの神の世界か?

此度こたびの酒の件、風呂酒の件、黙って居ったのはどの神ぞ!』


上出来だな。とりあえずは先ほどの“不遜な”神を糾弾しておくとするか。


『先ほど“たかが下級神が”などと言っていた神の世界だったと記憶しておりますが?違いますか?』


冷ややかな視線を投げると、既に身に覚えがあるのか、青ざめた神が居る。自業自得だな。



最上位神様を含め、多くの神々から責められる神を肴に私も風呂酒と洒落込もう。

どうせ当分の間自身の世界への謹慎処分程度で済むのだから、これを機会に自身の世界を改めて見直してくれればいい。

魂に欠損を生じさせるような世界を正しい方向へ導いてくれるのなら、“全ての魂を司る神”としては文句はない。

後は残った爆弾を放り込むタイミングを見計らうだけだな。



暫く責められる神を肴に風呂酒を飲んでいたが、やはりリュウノスケ君達と飲んでいる方が遥かに楽しい。

いい加減私の用事を済ませて、さっさとこの場から去るか。

私にとって、この場は癒される楽しい空間ではない。


『酒の神よ。少し良いか?』


『“全ての魂を司る神”様、何用でしょうか?』


『かの“引き篭もりの神”より先ほど話した酒を混ぜ合わせる道具類やそれに使う酒などを受け取った。

酒の神に預ける。最上位神様に直接献上するよりも酒の神に預けた方が適任だろう』


『む?我にはないのか?』


『かの神曰く「この酒は持て成す相手にその都度作るたぐいの酒」との事でした。

であるならば、直接最上位神様に献上するよりは、酒の神に一旦預けた方が適任かと判断致しました。


私も1つ作り方を覚えて参りましたので、試しとして献上致しますが、以後は酒の神に作らせた方が適任かと思います』


リュウノスケ君が好んで飲んでいたという酒を試しとして最上位神様に献上する。

ついでに酒の神にも渡しておこう。

まぁこれは単純に混ぜるだけなので、作るのも楽なものだ。

何度か作って貰ったし、配分分量も覚えている。


『む?ただ混ぜただけではないか?』


『それぞれの原酒を飲んだ上で、改めて飲んで頂ければ違いがお判りになるかと思います』


先に元となる2種類の酒を渡し、そのまま飲んで頂く。

その上で、先ほど混ぜ合わせた酒を飲んで頂く。


『なるほど。確かに違う酒と言えるな。

混ぜる元の酒自体も旨い酒ではあるが、混ぜる事でより深みが増す。

これもまた面白い楽しみ方よな』


『恐れ入ります。

酒の神よ、かの神より預かった物一式を預ける。

最上位神様や他の神を持て成す参考にすると良い』


リュウノスケ君から預かった道具一式と色とりどりの酒、参考とする書物を酒の神に渡す。

当然、珍しい色も多く、多様な種類の酒に注目が集まるが、ここから先は私の知ったことではない。


『1杯あたりの消費量はそれほど多くないため、可能な限り多くの種類を預かってきた。


他にもあるらしいのだが、かの神では「現状再現することが不可能」との事だ。

以後はかの神ではなく、秘匿していた神より献上させるべきだと思う。


あぁ、最初に献上した酒について、こうも言っていたな。

「私が居た時点での、最上級の酒であるのは間違い無いが、現状ならばもっと進化しているかも知れない」と。

また「私でも飲んだ事がない、旨いと言われる酒はもっとあった」とも言っていた。


詳細についても、秘匿していた神に問い質すと良いだろう』


最上級神様と酒の神の目に怒りが宿るのを感じたが、私の用件を済ませて早々に立ち去りたい。


『最上級神様。

ご報告せねばならない事がありますので、先にご報告させて頂いても宜しいでしょうか?

秘匿していた神への詰問はご報告させて頂いてからでも遅くはないと思われます』


『そうだな。ではその報告とやらを聞こうではないか』


相変らず怒りを目に宿しているが、秘匿していた神がどうなろうと知ったことではないからな。

今はどうでもいい。


リュウノスケ君の件については、中・下級神に聞かせる必要もないからな。

結界を張らせて貰おう。


『む?わざわざ結界を張るなど、上級神以上にしか聞かせられないような事なのか?』


『はい。先に結論から申し上げますが、

かの“引き篭もりの神”は上級神と同等のと力を持った中級神へと昇格致しました』


『何だと!』


『私自身が現場に立会いましたので、間違いないと思われます』


一斉に騒ぎ出す神々。

まぁ当然だな。私も現場に居合わせなかったら信じられるものではない。


間違いなく史上最速で中級神になったのだから。

しかも過去の例とは桁が違う速度での昇格だ。


リュウノスケ君は神となって1000年も経過していない。

神々が騒ぐのも無理はない事だ。


『まだ神になったばかりではないか!

なのに上級神と同等のと力を持つなど信じられん!しかも中級神でだと?』


『それについても説明させて頂きますが、もう1点ご報告が御座います』


『まだ何かあるのか!』


ちらりと、ある上級神に視線をやってから改めて最上級神様に視線を合わせ、追加報告をする。


『以前、誕生直後の神が自身を上級神であると認識した例が御座いましたが、

此度こたびの“引き篭もりの神”が中級神へと昇格した際に逆の現象を確認致しました』


『は?どういう事だ?』


先ほど視線をやった上級神も若干居心地が悪そうにしつつ、興味深そうにこちらの話を聴いている。

確か、あの神自身はその後の努力により、史上最速で上級神へと到ったが、

今回のリュウノスケ君とは段違いの速さだった。

いや、遅さだったと言った方が正解か。

まぁ、まだリュウノスケ君の認識的には上級神にはなっていないのだけれど。


『以前、誕生直後に自身を上級神として認識した神の場合は、神としてのが伴わない為、

魂としては問題が御座いませんでしたが、

“引き篭もりの神”が昇格した際は、逆に神としてのが上級神へとなっているにも関わらず、

自身を下級神として認識しておりました。


その為、神としての存在自体が魂ごと消滅する可能性も御座いましたが、現在は無事中級神として存在して居ります。


ただ、神としてのと力としては上級神と同等の力を持っている事も確認致しました』


『ふむ。その様な事は聞いた事がない。

“全ての魂を司る神”としての見解を聞こう』


『はい。何分、私も初めて遭遇したものですから、憶測である事をご了承頂いた上で話となります。

少し長くなりますが、順を追ってご説明させて頂きます。


まず前提として、かの神自身は神格位そのものに全く興味が御座いませんでした。

だだ単純に「自身の頂いた世界を問題無く統治出来れば良い」と考えていた様で御座います。

その点につきましては、以前ご報告した、

“魂に欠損を持った神がどういった行動を取るのか”

と言う点が影響しているものと思われますが、

かの神自身が“神として存在する以上、余りにも弱者では統治出来ない”と考えていた様で御座います。


その為、神体ではなく分身体を作成し、分身体で生活等を行い、その分身体で得た力を神体へと送って居りました。

また、分身体自身を神としての力を成長させる存在として認識していた様で御座います。


分身体自身は、その分身体で得た力を神体へと送り、改めて新規に作成した場合、

分身体としては得た力をほぼ持たない・・・・状態での分身体として活動を行って居りました』


『その様な事をしておれば、いつまで経っても分身体自体は弱者のままではないのか?』


『はい。

ある程度の力は分身体にも残していた様ですが、基本的にはご指摘の通り、

得た力を引き継ぐ存在としては認識していなかった様です』


『それでは意味が無いではないか?』


『いえ、分身体としては確かに意味は御座いませんが、

神体自身は延々と力を蓄積してゆく事となります。


再び憶測の話となりますが、

下級神から中級神へと昇格する事は、上級神に昇格する事と比較すれば容易に昇格出来ます。


いわば、かの神は下級神から中級神への昇格行為を延々と繰り返す事で、

神としてのと力を上級神となれるまでに一気に成長させる方法を発見したのだと思われます』


『なるほど。

確かにこの話が真実なら中級以下の神には聞かせられん話ではあるな。

もしその方法が真実有効であるならば、この世界が上級神で溢れかえってしまうわ』


『いえ。実際には、それも難しい話であると思われます』


『なんだと?』


『先ほどご説明致しましたが、かの神は神格位に全く興味が御座いませんでした。

つまり、中級神にすらなるつもりが無かったと言えます。

実際に下級神のままで良いとまで言って居りましたから。


もし、自身の格を上昇させる為に先ほどのやり方を行った場合、中級神への昇格はたやすくはなるかも知れませんが、

中級神から上級神へと昇格する場合は、かの神ほど異常な速度で昇格する事はないと思われます』


上級神になってくれと言った時のリュウノスケ君の反応を思い出して、思わず笑ってしまった。

最上位神様もリュウノスケ君が他の神々とズレた考え方をしていると気付いたのだろう。

微妙な表情になっている。


『つまりは何か?

自身を下級神だと認識しており、かつ昇格の意思のない神でしか使え無い方法で昇格した。

と言う事か?』


『はい。恐らくは。

ただし、本当に自身が下級神であると認識している場合に限りますし、

最初に申し上げた様に、自身が消滅する危険性を賭けた大博打となりますが』


『“その自身が消滅する”と言う事が理解出来ませんが?』


先ほど視線を投げた上級神が問い掛けて来た。


まぁ、自身を上級神だと思えるほど明確な認識を持った神には理解出来ない事だろう。


『先ほども言いましたが、かの神は神格位に全く興味がないのですよ?

自身の世界を統治するだけであるならば下級神のままでも可能なのですから、中級や上級神へ昇格しようとも思わない。

自身の認識が下級神のままであり、昇格の意思も認識もないのであれば、神としてのと齟齬が生じます。


憶測ですが、上級神としてのを持つ存在でありながら、上級神である事を無意識的に拒否した。

拡大解釈をするならば、神であることを拒否した。とも言えます。

神自身が神である事を否定したならば、その存在は神ではなくなります。

そのために存在そのものが消滅しようとした・・・と考える事も可能となります。


無論、全て憶測に過ぎませんし、

今回は上級神ではなく中級神としての昇格だけで、存在自体の消滅は避けられた様子ですが』


『私には理解出来ません。なぜ昇格したいと思わないのです?』


『重ねて言いますが、

かの神は“自身の世界を問題なく統治出来ればそれで良い”と考えているのですよ?

逆に問いますが、世界を統治するだけの為に昇格する必要性がありますか?』


『それは・・・』


『はっはっは。なるほど。正しく“引き篭もりの神”である。という訳か』


『はい。最上位神様のご想像の通りかと』


『して、かの神のは今どの程度なのだ?

“全ての魂を司る神”として、今後も上がると予想するか?』


『恐らくは。

現状では少なく見積もって私と同等と考えますが、今後さらに上昇する可能性も十分に高いかと思われます』


再び神々が騒ぎ出す。

まぁ当然と言えば当然の反応と言えるか。

自身を超える可能性を持った神がこの短期間で誕生するのだから冷静では居られないのだろう。


そのうち『最上位神様へ挨拶に来させるべきた!』などと言い出す神まで出てきた。

先ほど最上位神様から不干渉の命を受けたばかりだと言う事を忘れているのか?

愚かな。


最上位神様だけは泰然として居られる。

さすがと言うべきか、“引き篭もりの神”だと言う事を正確に理解して居られる御様子。

私はリュウノスケ君をよく知っている以上、この状況が滑稽に見えて仕方が無い。


『何を笑って居るのですか!上級神としての威厳に関わる話だと言うのに!』


どうやら知らず知らずのうちに笑っていたらしい。


『いや、何をそんなに騒ぎ立てる必要があるのかが、私からすれば不思議で仕方が無いのですが?


何度も言いますが、かの神は“引き篭もりの神”なのですよ?

何か我々に不都合でも生じますか?


それに、先ほど最上位神様から不干渉の命を出されたばかりなのに、その命に背いて干渉されるおつもりですか?


あぁ、そうそう。

かの神自身は、他の神々に対して干渉する気は一切ありませんよ?

何しろ“引き篭もりの神”なのですから』


私の発言で騒いでいた上級神達は黙り込む。

反論があるなら言ってみればいい。自身の愚かさを露呈させるだけなのだから、好きにすればいいのだ。


『“全ての魂を司る神”よ。

我も実際に一度会ってみたいのだが、繋ぎを頼めるか?』


最上位神様の興味を引いてしまったか。


中級神でありながら上級神と同等のと力を持つ神。確かに興味を引く対象ではある。

全てが上手くは行かなかったが、最上位神様を味方に出来るなら、より事が進めやすくなる。


『即答はしかねますが・・・少し内密なお話をさせて頂いても宜しいでしょうか?』


最上位神様が片手を振ると、即座に私と最上位神様だけの空間が創られた。


『これで良いか?』


『お手数お掛け致しました。

他の神々に聞かれると、また煩わしい事になりそうでしたので』


『良い良い。して、どうだ?』


『先ずご了承願いたいのですが、かの神は自身の世界から他の世界へと干渉する気が一切御座いません。

その為、如何に最上位神様の召喚であろうと拒否する可能性が高いかと思われます。

お会いになる際は、最上位神様御自ら出向かれる他は、すぺが無いかと思います』


『はっはっは。良い良い。

“引き篭もりの神”である事だしの。我が自ら出向くとしようぞ』


『有難きお言葉に御座います。

では、ご了承頂いた上で幾つか条件が御座います。


まず第一に、近々にと言うのは難しいと思われます。かの神自身が拒否して居りましたので。

かの神の世界が安定した後であれば、かの神自身が考えると申して居りましたので、それまでお待ち頂きたく存じます。


第二に、既にお話致しましたが、かの神は魂に欠損を持ったままの神で御座います。

“全ての魂を司る神”として、過剰な魂の負担となる行為は避けたいと考えます。


第三に、最上位神様に申し上げるのは不遜とは承知しておりますが、ただの1柱の神として会われるべきかと存じます。

こちらは第二に挙げたものと同じ理由で御座いますので、ご了承頂きたく存じます。


第四に、かの神の世界にも独自のルールが存在します。無論常識の範囲内ではありますが、

重ねて最上位神様には不遜では御座いますが、そのルールに従って頂く必要があるかと存じます。


第五に、先に述べたルールの中でその世界と申しますか、神が生活する場所では互いをほぼ同格とみなします。

無論、お互いがお互いに敬意を持って接しておりますが、最上位神様に対して不遜と思われる態度を取るやも知れません。


以上の5点をご了承頂き、かの神の世界への不干渉を確約頂けるのであれば、

責任を持って繋ぎを勤めさせて頂きますが、如何でしょうか?』


『ふむ。

第一に関しては当然であるな。自身の世界を放置するなど、神として不適格であるからの。

第二・第三に関しても同様に仕方の無い事ではあるな。

第四・第五に関しても受け入れよう。たまには不自由な生活も面白いやも知れん。

不干渉に関しても確約しよう。 では改めて繋ぎを頼むぞ?』


『はい。承知致しました。時期が来ましたら改めてご報告致します。

あぁ!申し訳御座いません。もう1点御座いました』


『む?まだあるのか?』


『はい。申し訳御座いません。最も重要な事柄が抜けておりました。


かの神の世界に滞在出来る時期と日数は既に決まっており、滞在出来る日数はかの神の世界での日数換算で、

最長でも4日となります。これは絶対に曲げられませんのでご了承願います』


『は?それは重要な事なのか?』


『はい。如何なる理由があろうとも、最長で4日で御座います』


『ふむ。それほどの場所なのか?』


『場所と言う訳では御座いませんが、居心地が良過ぎるのです。

正直に申しまして、私が下級神に格が下がる事でかの神の世界で居続けられるのでしたら、喜んで下級神になるでしょう』


『“全ての魂を司る神”にそれを言わせるほどか!

う~む。それは楽しみであるな。可能な限り早急に繋ぎを頼むぞ?』


『承知致しました。

あと、こちらがかの神より預かって参りました新しい酒となります。“焼酎”と申しておりました。

同系統ではあるものの、原材料が異なる3種10本づつしか御座いませんが、献上させて頂きます。


また、かの神自身が「これ以上新しい酒を創り出す事は難しい」と申して居りました事を、併せてご報告致します。


私の用件は以上で御座いますので、退席させて頂いてもよろしゅう御座いましょうか?』


『ん?何だ。ゆっくりして行かんのか? 土産話も聞いておらぬぞ?』


『申し訳御座いません。

土産話としましては、かの神が昇格した事など諸々の事情が重なったものですから、良い土産話が御座いません。


私は現在、かの神より指摘された“損傷した魂の修復”機能を“輪廻転生の輪”自体に持たせられないかと、

色々と試行錯誤しておりまして、余り時間も無いのです』


『ふむ。ならば仕方ないの』


再び最上位神様が片手を振り、元の浴室に戻った。

私が創った結界も消去して頂けたようだ。


『繋ぎの件。くれぐれも頼むぞ?』


『はい。確かに承りました。

御前をお騒がせしてしまい、申し訳御座いませんでした。では、これにて失礼致します』


最上位神様に対して改めて跪礼きれいした後、そそくさと退席する。


後ろから、先ほどよりも若干苛烈に責められる1柱を放置しつつ、浴室から出た。


『やれやれ。そこそこ上手くは行ったな。

リュウノスケ君にはまた面倒を掛ける事になるが、まぁ彼なりに頑張って貰おう』


さっさと着替えを済ませると、宇宙空間へと飛び出した。

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