第068話 神酒
リザアース暦802年12月31日(土)夕方。
魂の神様とミツハルさんご家族ご一行が来られました。
『リュウノスケ君、またお世話になりに来たよ』
「「「「「「お世話になります」」」」」」
あら。陸くん達も喋れるようになってるわ。
「皆様、ようこそ。こちらこそ宜しくお願いします。
ミツハルさん、陸くん達も普通に喋れるようになったんですか?」
「ええ。そうなんですよ。
半年ほど前あたりから段々と喋れるようになって、今では普通に会話が出来るようになりました」
「まだ2歳と少しぐらいですよね? やっぱり成長が早いですね」
「そうですね。自分達も驚いています。
ただ、身長はそれなりなので、頭の良さや運動能力に関しての発達が早いと感じる程度ですね。
危惧してた通り、全員がかなりやんちゃに育ってしまったので、色々と苦労してますが、
頭の回転も悪くないので躾もなんとかなっている感じですよ。
まだまだちゃんと躾られてないので、失礼な事をしたり言ったりするかも知れませんが、その辺はご容赦下さい」
「ははは。まぁ子供のする事ですからね、大丈夫ですよ。
陸くん、海ちゃん、空くん。俺の事覚えてるかな~?かなり前に会ったんだけど?」
「「「はい、覚えています!リュウノスケ様ですよね?」」」
お子様から様付けとか違和感バリバリだけど、まぁミツハルさんの躾方針だと思ってスルー。
「お!ちゃんと覚えててくれて嬉しいよ。また一緒にいっぱい遊ぼうね」
と、お子様同士で内緒話。で、代表?して陸くんが一歩前に。
「リュウノスケ様。フェンさん達と遊んでもいいですか?」
早速お願いが来たか。う~ん今からだとちょっと時間が微妙だな。
「う~んと。もうすぐ晩御飯の時間だから、先にお風呂に入っちゃってくれるかな?
今日はもう遅いから、ルナ達と遊ぶのは明日からって事でどうかな?
そっちの方がいっぱい遊べると思うんだけど?」
「・・・判りました」
お子様達はしょぼ~ん。悪いことしちゃったかな?
「すみません、陸達はまた空を飛びたいらしくて、今回来るのを楽しみにしていたんですよ。
ウチの世界でも喋れるようになったら、全員が空を飛びたいって我侭言いまくって非常に困りましたよ。
結局、グリフォンを捕まえて騎乗用に調教して我慢させてますが、ルナちゃん達みたいな飛行は出来ませんからね。
1人で乗るのも禁止してますし、1匹しか騎乗用に出来なかったしで中々上手くいかなくて・・・。
まだちょっと心配ですからね。賢いと言ってもまだ2歳ちょっと程度ですし」
「あ~。悪い遊びを教えちゃったかな?
楽しいかな~って思ってやったんですけど、ご迷惑お掛けしたみたいですね。
改めてすみません。
あ、そういやーウチの世界にはグリフォンが居ないな。また今度追加しとくか。
陸くん、空ちゃん、海くん。
ここに居る間はちゃんと良い子にして、お父さんとお母さんが良いって言ったらルナ達と遊んでいいからね。
ちゃ~んと、お父さんとお母さんの言う事をしっかり聞いて、言いつけを守る事。判った?」
「「「はい!」」」
「よし、偉い偉い。
それじゃ、遊べないけど、ルナ達と一緒にお風呂入っておいで。
その間に晩御飯の準備しておくからね。
ミーさん、クレマチスさん。毎回で申し訳ないのですが、ウチの従魔達も一緒にお願い出来ますか?」
「こちらこそお気遣いありがとう御座いますなのニャ。皆行くニャ~」
「それではお先に失礼致します」
「宜しくお願いしますね。
あぁ、ルナ!今日は特別に入浴剤を入れていいよ。
ただし、お風呂で泳ぐのは陸くん達も含めて禁止ね?あと入浴剤で遊ぶのも禁止」
ミーさん達に連れられて移動するお子様&ウチの従魔達。
お客様なんだけど、お風呂で泳ぐのは禁止させて貰いました。ウチの世界ではマナー違反なので。
子供も入れて10人だけど、まぁウチのお風呂だったら問題なく全員同時に入れるでしょ。
洗う方は大変だけど、2人掛りで宜しくお願いします。って感じ。
「それじゃ、年越し蕎麦の用意をしてきますので暫くお待ち下さい。
あ、『出ろ!』(酒を3本ほどと枝豆を作成)
とりあえずこれで時間を潰して頂いている間に終わらせますので。
ところで陸くん達も普通にお蕎麦は食べられるんですか?
食べられる様なら用意しますが?」
「多分問題ないですよ?今は普通に食事を食べられるようになってますし。
まだ自分の世界では蕎麦が無いので、アレルギーがあるかどうかが心配ですけど、お願い出来ますか?
あぁ!勿論量は少なめでお願いします。
それにしても年越し蕎麦って何百年ぶりだろう。楽しみだなぁ」
「了解です。
が、ウチのとミツハルさんの所で同じ年越し蕎麦だったかどうかが微妙なので、過剰な期待はしないで下さいね?
一応不味くはないと思うのですが、家庭によって違うらしいですからねぇ」
「リュウノスケさんの所では何か特別な物が入ってたりしたんですか?」
「いや~。よそ様の所で年越し蕎麦を食べた経験が無いので全く判らないんですよ。
一応ウチの年越し蕎麦は、揚げと鰊の甘露煮が乗ってるぐらいで、他は普通に蕎麦だけでしたから」
「結構豪華な年越し蕎麦じゃないですか!ウチのなんて本当に蕎麦だけだったのに」
「ははは、まぁ各家庭で違いましたしね。
それじゃ、準備してきますので暫く失礼しますね」
『よろしく~私の分はちょっと多めでお願いね?
楽しみにしてきたからいっぱい食べたいんだよね~』
「了解しました。
・・・けど、年越し蕎麦の後にお寿司も出しますけど食べ切れますか?
結構な量になるかも知れませんが?」
『あれ?年越し蕎麦って年末最後の食事じゃないの?』
「普通はそうなんですけど、ウチではお酒を飲む時のつまみ代わりにお寿司も食べてたんですよ。
まぁ“鰯の頭も信心”と言いますし“年越し蕎麦を食べる”って事自体が、ウチでは行事化してただけなんですけどね」
『ふ~ん。まぁお寿司も初めて食べるから、そっちも楽しみかな?
それじゃ、お蕎麦の方は並盛りでお願いするね~』
「了解です。それでは改めて失礼しますね」
給仕室に入ったら、とりあえずは年越し蕎麦の準備から。
まぁ前もって殆どやっちゃってるので盛り付けぐらいですが。
従魔達用のどんぶり大を3つ、中を2つ。神様達用の中を5つ。お子様用の極小を3つ。
あとはお寿司を30人前ほど(殆ど従魔達用)を創造魔法で出したら終了です。
台車に乗せて、すぐに配膳が出来る状態まで準備が終わればお風呂上がり待ちなんでリビングに戻ります。
「とりあえず準備が終わったので戻ってきました。
お風呂組みが戻ってきたら、始めましょう」
『お疲れ様~。
ところで、さっき出してくれた中で1本だけいつもと少し違ったお酒を用意してくれたよね?
何なのこれ?』
「あぁ、泡盛ですよ。
清酒系ばっかりだといい加減飽きられるかな?と思いまして。
たまには違う酒を・・・と思って前に頑張って思い出したんですよ。
私は清酒を好んで飲んでたので、しっかりしたイメージが持てなかったから今までお出ししてなかったんですけどね」
『へぇ。これはこれで旨いけど、何が違うの?』
「確か製法が違ったんだと思いますよ?あと原材料もだったかな?
今までお出ししていた清酒が米なんかの発酵酒で、今回お出しした泡盛が焼酎に分類されるんだったっけ?
確か焼酎って蒸留酒だったと思います。原材料は同じ米だったっけ??
すみません。詳細までは覚えてないです。
私の味覚だけを頼りに思い出して創ったので。
ミツハルさんは覚えておられますか?」
「リュウノスケさんの認識で大体あってたと思いますよ?
自分も詳しくは覚えてないですけど、確かにそんな感じで分類されてたはずです。
焼酎だったらあと麦と芋もありましたよね? まぁ好みが分かれる部類の酒になるとは思いますが」
『ふ~ん。
だったらリュウノスケ君。悪いんだけど、帰るまでに頑張ってその焼酎ってやつを思い出してね。
で、毎年貰ってた分と、追加でその焼酎ってやつを各30本づつ持ち帰らせて貰うから』
「は? 何で急にそんなに増えるんですか?」
『いや~ミツハル君の世界経由で酒の神にバレてね。
結構うるさいんだよ『自分達だけで旨い酒を独占するな!』ってね。
まぁ私より下位の神だからリュウノスケ君の所に影響はないと思うんだけど、
正直うんざりするぐらいうるさくてね』
「ミツハルさん!何やらかしてるんですか!!」
「すみません!
そんなつもりは無かったのですが、毎年頂いていたお酒を自分の世界の新年に各国の国主に下賜してたんですよ。
そしたらそれがいつの間にか“長寿の神酒”なんて呼ばれるようになって、プレミアまでついちゃって・・・。
実際に長寿効果もあるみたいで、極一部ですがリュウノスケさんを祀る人まで出てきちゃって。
自分としても予想外だったんですよ!
まさかここまで大事になるとは思ってなくて・・・」
「何やってるんですか全く・・・」
「いや~。
自分の世界でも、これぐらい旨いお酒を作って貰いたいなぁと思って始めた事なんですけどね?
最初は杜氏をやってる方に渡そうとしたんですけど、人気がある王様の所で「王より先に物を頂く訳にはいかない」
とか言われちゃって、仕方なくバランスを取って各国の王経由で下賜する事にしたんです。
そしたら王族や杜氏も含めて大人気になっちゃって・・・。
今では杜氏の間で、リュウノスケさんが酒の神として認識されちゃってます。
そのせいでお酒の神様にもバレてしまって・・・すみません」
「は~。そりゃお酒の神様も文句を言いたくなりますよ・・・。
でも長寿効果なんて付けた覚えなんてないんですが?
創造魔法でイメージして作ってるただの酒だし。
そのあたりについて、魂の神様の見解としてはどうなんですか?」
『実際にミツハル君の世界の人類からしたら、若干の長寿効果はあるよ?
多分ミツハル君の認識でそうなってると思うけど、神から貰った酒っていう一般認識も混ざってるかも知れないかな』
「結局ミツハルさんのせいってことですか・・・。
面倒事が嫌で引き篭もってるはずなのに、どうして自分の知らない所で問題が起きてるんです・・・」
「いやぁ。何と申し開きして良いやら。
自分の世界では“神酒を下賜される=善政を敷いている”みたいな証明になっちゃってて、
今更渡さない訳にもいかなくなっちゃんたんですよ。
まぁおかげさまで、善政を敷かないと神酒を貰えないって認識されてるから、各国頑張ってくれて有難いんですがね?」
「ミツハルさんの世界の事まで関与してるみたいな表現は辞めて下さい!
全く・・・こっちはミツハルさん達用にと思って渡していたのに、そんな使い方されてるとは」
「申し訳ないです。
あぁ!だからってお土産を無しにするとか勘弁して下さいね?
あれ、自分の世界で売ったら、一般人なら一生遊んで暮らせるぐらいの価値になるので有難いですから」
「そんな価格なんて知ったこっちゃないですよ! 全くもう・・・」
『まぁまぁ。リュウノスケ君もその辺で勘弁してあげなよ。
ミツハル君の所にだってリュウノスケ君に対する交流要請が来てるくらいだから。
ミツハル君はミツハル君なりに苦労してるんだし』
「え?そうなんですか?」
「ええ、確かに来てますね。
ただまぁ“魂の神様にお願いして”と丸投げしてますが」
「全然苦労してないじゃないですか!」
『あ~あ。せっかくフォローしてあげたのに。もうし~らないっと』
「うわ、失敗した!
でもリュウノスケさんも言うほど苦労されてないのでは?
創造魔法ですぐ出来るとおっしゃってましたし・・・」
「今まで作っていた分に関しては問題ありませんが、新しい物を創る時は創造魔法を使うのが大変なんです!
創りたい物の詳細をイメージ出来れば問題なく作成出来ますけど、
薄れていく記憶をなんとか思い出しながらイメージで作成しなきゃいけないんですから!
今回の焼酎に関してはミツハルさんにも協力して貰いますから、覚悟しておいて下さいね!
どれだけ不味い物でもちゃんと飲み干して下さいよ? 神なら死なないでしょうし。
私は焼酎を好んで飲んでませんでしたから、殆ど覚えていないんですから!」
「うぐっ。判りました・・・ちゃんと自分も協力させて頂きます・・・」
あんまり引っ張るのも何なので(陸くん達の飛行の件が、こちらとしても負い目を感じているし)、
魂の神様からお酒の神様へ伝言として太陽系地球の話を振って貰えるようにお願いしておきました。
俺が創った偽物じゃなくて本場の方がいいだろうし、より美味しく進化してるかも知れないからね。
ついでにカクテルもご紹介。お酒の神様なら飛びつく話だろうと思って振ったんだけど、魂の神様も食いつきました。
覚えていたカクテルを何種類か創らされた上に、お持ち帰りに追加されそうになりましたが、
これは持ち運べるものじゃなくて、“その都度作る物”だと説得して納得して頂きました。
が、ジンとかウォッカとかのベース系&リキュール系を数種類、追加で30本づつ渡すハメに・・・。
さらにはシェイカーやらマドラーなんかのカクテル作りの基本セットも10セット追加です。
もう神様達の前で創造魔法を使うのは辞めたいです・・・。
最初にお土産を渡した自分を少し後悔しています。
魂の神様曰く。
『リュウノスケ君ってまだ引き出しありそうだから、これから新しい楽しみが増えたね~』
だって。 他人事だと思って!!