第228話 出立準備
リザアース歴1300年1月3日(月)。
正月休みも最終日って事で、全員(当然男女別)で皇族居住区から行ける温泉にて風呂酒なう。
「いや~。とうとうリューノくんも旅立ちかぁ。
でもまぁ準備は念入りにしていたみたいだし、大丈夫なんでしょ?」
手酌でやってるウルズさん。
「ですね。完璧と言ってもいいんじゃないでしょうか。
一番難航していた馬車・・・と言って良いのかな? まぁそれの準備が終わりましたからね」
「で?結局誰を連れて行くんじゃ?」
リアンさんに酌をさせつつジンさんから、ある意味予想通りの質問が。
「私の召喚獣を5体だけですね。
既にそのメンバー選抜も済ませてありますし、特別に追加で鍛錬もしましたから問題ありませんよ」
【主よ。我らはともかく、トウすらも連れては行かれないのですか?】
珍しく狼状態のフェン・・・口さえ閉じて居れば、相変わらずカピバラを彷彿とさせるロンリーウルフ状態で今日は癒し要員かな?
「そのつもりは全く無いねぇ。
つーか俺の召喚獣達も捨てたもんじゃないぞ?
何せ選抜したメンバー達は、単独で俺の秘密基地ダンジョンの30層以上まで行けるしな。
ぶっちゃけそれだけのメンバーを揃えた上で、更に連れて行ったら過剰に過ぎるわ」
「確かに。
まぁ今の自分達よりは・・・正直劣るでしょうが、“個体”として見ればこの世界では強すぎますものね。
やっぱりダンジョンのレベル上げ効率は良いですねぇ」
エスさんの発言に同意したのか、分体全員で「うんうん」と頷きが返ってきます。
そう。ダンジョンで修業した結果、かなり高効率で成長出来たのです。
これは正直俺としても予想外。まぁ結果オーライって事で。
ジンさん達が俺の秘密基地に到達してから100年以上。
その間に帝都はさらに人口増加が加速して、とっくの昔に100万人都市として目標達成。
とは言えまだまだ開発可能な余剰地が余っている状態なので、今後益々増えそうな感じ。
まぁそのせいで世界樹の影響範囲外に、北極人類が進出するのはもう少し先の話になりそう。
財政面でも財政担当のフェンや宰相であるルナ達行政担当者からは、俺が最初に持ち出した資金を“即時返却可能”な状態にまで余っているとの報告は受けて居ます。
が、返されてもどうせお金の使い道が無いので、投資と言う形で国に貸し付けている状態。
ウチの国には国債なんてものは無いので表現が正確かどうかは微妙ですが、国全体がバブル景気って所。
それ以外にも、召喚獣の追加やスキルの追加なんかもしていたので・・・ぶっちゃけ俺は国の事はそっちのけだったんだけどね。
いやー。マジでルナ達には感謝ですわ。
まぁそのおかげで俺の召喚獣達も充実。
レベル的にはほぼ全員がカンスト。進化的にもほぼ最終段階の集団なので、その気になれば“大陸の制圧も可能なんじゃないか?”って面子が揃って居ます。
執事長であるバトルバトラーのセバスとメイド長のバトルメイドのミザリーは別として・・・。
先ずアルファー(スレイプニル)・ブラボー&チャーリー(パラディン)・デルタ&エコー(グレーターミニドラゴン)を、今後連れて行くメンバーに選出。
(さすがにデュラハンは見た目的に邪悪過ぎたので、メンバーからは除外。
一応人類との接触を主目的にした旅なのに、そんな所で不要な警戒心を持たれるのも何なのでね。
ついでに言うと全員が飛翔可能なので、万が一逃走しなくちゃ状況になったとしても安心なメンバーです)
各部隊の“~ゼロ”が、一応その部隊内でのリーダー的なポジション。
んで、召喚獣は各部隊12体編成で1部隊とし、アルファーゼロからタンゴイレブンまでの20部隊全員が戦闘系特化職。
(一部エント系とかゴーレム系の防衛特化部隊も居ますが)
アンダーゼロからズールイレブンまでの6部隊が内政系職として分けました。
(と言うか給仕だったり鍛治だったりの、要は非戦闘系を主とした任務に就いているだけなので、戦闘行為が出来ない訳では無く、むしろ戦闘もそれ以外も出来ちゃう“何でも屋”みたいな存在。
あと、個人的な嗜好としてメビウス隊は飛行種限定にしました。
メビウスゼロがAWACS(早期警戒管制機)的なポジション。
メビウスワンがウチの召喚獣達の中でも最強のグレータールシファードラゴン・・・つーか、ウチの召喚獣の大半が飛行可能なんですがね。
数が数だけにいちいち名前を付けるのが面倒臭かったので、ミリオタのロンメルさんからお知恵を拝借して地球のミリタリー用語?(一部改変有り)を流用させて貰いました)
追加スキルの方は要望があったやつ3つと、今後便利に使えると思って個人的に追加したものが1つ。
先ずは要望があったやつから。
1つ目、中級スキルとして“震脚”。
酔拳の別バージョン的なATK増加スキルとしました。
派生元に太極拳があるので中級スキルの癖に習得困難なスキル。
2つ目、上級スキルとして“熱感知”。派生元は適当に“鷹の目”って事で。
隠蔽系のアンチスキルその1。
ジンさん達が俺の秘密基地に到着して数年後ぐらいの正月休みに、たまたま俺VSジンさん達分体全員との模擬戦をした時に、「俺の“完全隠蔽看破”がチート過ぎる!」って事で追加。
“ピット器官みたいなのが作られる訳じゃなくて、単純に熱感知に敏感になる”ってスキル。
3つ目、上級スキルとして“反響定位”。派生元は“梟の聴覚”
隠蔽系のアンチスキルその2。
追加した理由は“熱感知”と同様。ただしどちらも“完全隠蔽看破”&“影隠れ”のコンボだと無意味なんですがね。
4つ目、伝説級スキルとして“特殊空間魔法”。派生元は“亜空間魔法”。
コイツは今後の便利系スキルとして追加。ぶっちゃけると“亜空間魔法”の亜種って感じ。
ただし“亜空間魔法”とは違い生命体をも中に収納可能なスキルなので、どちらかと言えば昔“神の居住区”を拡張した時に使った空間拡張の方が近いスキル。
実際に“亜空間”に接続する訳じゃなくて、“ある程度閉鎖された空間の内部を拡張する”ってスキルなので、“亜空間魔法”とは完全に別物なスキル。
そんな事(スキル追加やレベル上げ等)をやっていたせいで、予定よりもかなり遅れたものの、とうとう明日。俺は北極大陸を旅立ちます。
ジンさん達も俺に続いて数年後には旅立つ予定。
俺の作った馬車(ぶっちゃけ馬車と呼ぶよりはキャンピングカーと言った方が正解なんだが)に触発されて、只今絶賛製造&改良中。
俺の作った馬車ですが、全体がミスリルとオリハルコンの合金製。
6輪(見た目的に4輪だと品素だったので)独立式の油圧ダンパーとバネを使ったサスペンション付きの快適馬車になってます。
その上から偽装として木材等を貼り付けた“箱馬車”って風体。
ちなみに引っ張るのはアルファーの予定。御者役は俺がやるし、自動走行機能は付いて居ません。
これも偽装の一環って事で。
とは言え舐められても嫌なので、前後左右にルナ達をモチーフにした“キメラ”っぽい純金製の紋章は掲げてあります。
(九本の狐尻尾を持つ鷹か鷲の翼を持った狼頭で体はドラゴンな風貌。
ついでなんでコレ。国章指定してウチの国の国旗としても採用しちゃいました)
一見すると内部は6人乗りの馬車。後部に両開きの扉があり、左右に2人ずつ座れるソファー。
そのソファー奥のそれぞれ横に大き目の棚等があって、食料や武器類の保管スペース&簡単な給仕が可能な調理台等。
で、奥に2人掛けのソファー。その向かって左側に御者台への扉。向かって右側には大きなクローゼット。
このクローゼットには仕掛けがあって、奥に2重扉が隠されていて、その奥が追加した“特殊空間魔法”によって拡張された本当の居住スペース。
“特殊空間魔法”のスキルレベルが200ちょっとの時に作成したので、1辺が200m四方程度の森の中の湖畔に一軒屋が立って居り、周囲に問題が無ければ長旅になった時はそこで生活する予定。
食料等もある程度自給自足可能な状態にはしてあるので(畑類もあるし湖には魚類が。森には最大で鹿程度の草食動物が居るので、最悪それらを捕食して食料とする予定。まぁ魔芋も植えてあるので大丈夫だとは思う)、本当に問題は無いと思う。
一応外部からの連絡も馬車の扉をノックしたら、その“特殊空間内”にも通知が来る様にしてあるので、不測の事態があったとしても大丈夫でしょう。
「んぐっ・・・ぷはぁ~。んで?最初は何処に行くんじゃ?」
「ぷはぁ~。そうですねぇ・・・とりあえず・・・南極大陸を目指してみようかと」
「そりゃまたどうして?」
「皆さんは自力で移動した範囲にしか転移出来ませんからね。
私が旅立った後、皆さんもそれぞれ旅立たれるのでしょう?
だったら一番遠い場所から行ってみるのがいいかなぁと考えたのが1つ。
後は他大陸の人類と比較しても南極大陸って過酷な状況でしょうからね。
幾ら“神の守護層”である程度守られているとは言え、ウチみたいに人口にモノをイワせた開拓なんて出来ないでしょうし、一番気になって居る場所・・・と言えば南極大陸の人類なんですよ」
「なるほどな」
「で?皆さんはどちらへ?」
「ワシらはそれぞれのパーティーで別方向に向かう事にしておる。丁度4パーティである事じゃしの。
まぁ早くても数年後になるじゃろうがな」
「ですね」
「そうですか。んじゃ・・・次に皆さん全員とお会いするのは何年後になるんでしょうねぇ・・・」
「そうじゃなぁ・・・区切りも良いし、100年単位で一旦全員集合すると言う事でどうじゃ?
飽きたら早めに帰って来るも良し。100年ギリギリまで他大陸を堪能するも良し・・・じゃな」
「了解です・・・あぁ!お約束した件だけはくれぐれもお願いしますね?」
「うむ。ワシらは一応“リュノ神国から選抜されて各国に行っては居るが、如何なる理由であろうとも“神の依頼”以外の依頼は一切受けてはならない”。
それと“絶対に各国の国政や知識等に関与してはならない”じゃったな?」
「はい」
「まぁ大丈夫じゃろ。問題があったとしてもワシらにしてみれば、最早雑魚しか居らんしな」
「ジンさんのソレが心配なんですけどねぇ・・・何でもかんでも力技で事を収めないで下さいよ?
今後どんな影響が出るか分かりませんし・・・」
「まぁその辺は私達がフォローしますよ」
「エスさん・・・くれぐれもよろしくお願いします」
「全く・・・信用無いのぅ・・・ぷはぁ~」
「一応設定的には、“国を代表した外交使節”って事じゃなく“武者修行の為に祖国を飛び出した冒険者”って設定ですからね。
あと、“将来的には祖国に帰るつもりである”って設定も忘れないで下さいよ?」
「わかっとるわい」
「何か御座いましたらご遠慮無く国軍を動かされても宜しいのですが?
むしろ鍛錬ばかりで暇で御座いますし・・・」
「タリズ!お前は防衛担当大臣なの!こちらから攻める事は考えない事!」
「承知しました」
「ま、タリズくん直属の軍隊出すだけで戦争じゃなくて蹂躙になっちゃうしねぇ」
「は~。何処で間違えたのやら。
治安維持担当のはずのリヴィアも嬉々として軍隊を派遣しそうだし、本当にお願いしますよ?」
「はいはい」