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俺の創った箱庭世界  作者: コルム
異世界冒険編
194/243

第194話 閑話 異世界冒険者生活7日目 その2のその後

前話の後日談且つ説明回です。

外伝集に投稿すべきか悩んだのですが、時系列的に本編に差し込んだ方が良いと判断した事。

外伝集に投稿した場合、今後も同様に後日談を投稿しようとしたらややこしくなるので、

本編の方に投稿させて頂く事にしました。


なお今話に関しましては、読んで頂かなくても次話以降には全く影響は御座いません。

ちょっと予想以上に頑張ってしまい長文になってしまったので、

本編以外は“イラネー”って方はスルーして頂いても問題が無い事を、予めご了承願います。


でも、楽しんで頂けたら作者としては嬉しいのですが・・・^^;

冒険者“リューノ”が立ち去って暫くの間、カタリーナ達は相変わらず呆然としていた。


当然と言えば当然かも知れない。

伝承として残ってはいたが、オリジーのダンジョンの最奥に創造神が存在しているかも知れない事。

伝説とまで言われている鉱石が実在し、今、自分達の手元に存在しているという事実。

リューノがちらりと見せた、大都市の年間予算に匹敵しうるほど大量の大白金貨。


こんな事はカタリーナ達にとって非日常の出来事であり、余りの暇さ加減で3人とも寝てしまい。

“実は夢の中の出来事だった”と言われた方が、余程真実味がある。


・・・が、確かにリューノは“オリハルコン塊”を残して去っていった。



その事に改めて気付き。また、事の重大さに今更ながら気付いたカタリーナ達は慌てて動き出す。


買取を担当していた2人の受付嬢。

ニーナとルセットはギルド長と鍛治組合長の所へと、それぞれ飛び出して行った。

カタリーナも同様に走り出す。何としてでもリューノを引き留める為に・・・。



真夜中に叩き起こされたギルド長と鍛治組合長は非常に不機嫌だった。

特にギルド長は、職務を放棄した様に思えるギルド職員に対して、

“職務中に受付業務を放棄するなど、再教育が必要か?”などと考えて居たほどだ。

何しろ、自分達を呼び出したギルドの受付嬢の話は要領を得ない。

ただ非常に興奮している事と“兎に角急いで来て、確認して欲しい”としか分からなかった。


そしてカタリーナ。

衛兵から確かにリューノが門から出て行った事を確認出来てしまった事で、途方に暮れてしまった。

自分の足では幾ら走っても到底追い付けないだろう。日頃から過度の運動などしていないのだから。

何よりも自分の大きな胸が邪魔で走り辛い。

今すぐ早馬での捜索を頼みたい所だが、今は深夜。何処に行っても引き受けては貰えないだろう。

幾ら整備された街道とは言え、

月明りしかない夜道で、しかも人を探しつつ馬を走らせる事など難事でしかない。


「ギルド長にリューノさんの探索をお願いするしかないわ!」


カタリーナはそう言いつつ、ギルドへと引き返した。




ニーナとルセットに連れられて来られたギルド長と鍛治組合長は、ほぼ同時にギルドへと到着した。

そこで見た物で、漸く受付嬢達の興奮と事の重大さを理解する事が出来た。


今までに見た事が無い鉱石。伝説とまで言われているオリハルコン。

しかもその鉱石塊が大量にあったのだから。


改めてギルド長がニーナとルセットに落ち着く様に促しつつ、詳しい話を聴く。

鍛治組合長は目の色を変えて、ひたすらオリハルコン塊を調べていた。



そこへカタリーナが戻ってきた。

ニーナとルセットに間に合わなかった事を伝えると同時に、ギルド長にリューノの探索願いを出す。

即座に了承したギルド長は、丁度食堂スペースで寝ていた冒険者達を叩き起こし、

緊急依頼としてリューノの探索を破格の報酬で依頼。

冒険者達もその破格の報酬に釣られ、即座に了承してギルドを飛び出して行った。

本当にたまたまではあるがこの冒険者達。

リューノが初めてギルドにやって来た時に、冷やかした連中であった事は幸運だったと言える。


ギルド長がカタリーナ達からようやく詳細を聞き出せた頃には、夜も明ける頃となっていた・・・。



翌日・・・いや、その日の朝。オリジーのギルドは騒然としていた。

いや、ギルドだけでは無い。オリジーの街全体が喧噪に包まれたと言っていい。


当然と言えば当然だろう。

最早伝承でしか残って居ない、オリジーのダンジョンの完全踏破者が現れたのだから。

しかも攻略情報や創造神に関する情報、モンスターの詳細やドロップ情報まであるのだから。

完全踏破者本人が不在とは言え、現物としてオリハルコン塊がある以上、信憑性は高い。

命を賭してダンジョンに挑む冒険者達にとっては、有益な情報である事は間違い無い。


スキル取得の為に教会へと急ぐ者。より詳細な情報を得ようとカタリーナ達を問い詰める者。

ひとまずは様子を伺っている者。低層で燻っている様な者の中には、金策へと動く者も居た。

(この世界でのスキルや魔法の取得は、教会で金銭を創造神への供物として捧げる事によって、

ある程度は任意で、取得したいスキルや魔法等が取得出来る世界である。

供物である金銭は井戸の様な深い穴に投げ捨てるだけで良いし、

スキルや魔法を取得する為の巻物スクロールは一定量以上の金銭を供物として捧げた後、

深い穴の横にある小さな横穴に、供物を捧げた本人が手を突っ込めば入手出来る。

その為、スキルや魔法の取得は“金で買う”ものであり、得た巻物も売買可能である。

ただし、

儀式魔術は教会で得られるスキルでは無く、魔法陣を用いた魔術である為、全くの別物である。


また、教会自体は冒険者ギルドの下部組織として存在しており、

教会の運営はステータスの閲覧を有料としている事で収益を得ている為、

スキルや魔法の取得の為の供物とは一切関わりが無い。

その為、一般的には教会では無く“ステータス鑑定所”や“巻物屋”などと呼ばれている)


冒険者以外の者でも、“創造神が願いを叶えてくれる”と言う噂は絶大な影響を及ぼした。

今までは冒険者では無かった者も、新規に冒険者になろうとする者。

そんな冒険者達を相手として、新規に商売を始めようとする者。

伝説と言われている鉱石を何とか入手した者は、如何に加工するかを試行錯誤する者・・・。


・・・やがて噂は人から人へ、街から街へとこの世界全体に拡散してゆく事となり、

今まで以上にオリジーの街へと人を集める事となる。



数週間その様な喧噪は続いたが、次第にオリジーの街自体は比較的落ち着いていった。


先ず、リューノの探索に向かった冒険者達によって、リューノの行方が不明であった事が大きい。

彼ら冒険者達は隣の街まで行って、彼が来ていない事を確認したのだから、間違いは無いだろうし、

例え森の中へ探索に分け入ったとしても、見つかる可能性は低いだろうと判断された為だ。


次に、下層や低層で燻って居た冒険者達の多くに死亡者や重傷者が続出した事が大きい。

この事自体はある意味で仕方の無い事ではあるのだが、自身の実力を過信した者達が多かったのだ。

“犬の召喚獣を連れて、1週間程度で攻略出来るダンジョン”だと、甘く見たせいもあるのだろう。

リューノの攻略情報は50階層以降での連戦を基本とした情報であった為、

実力が伴わない者には全く意味が無かったのである。

また、中層を主に活動の場としていた冒険者の中にも死亡者や負傷者が出た事によって、

攻略情報自体に懐疑的になった者がさらに多くなった。

これはリューノが伝えた攻略情報の中に、

“光源の確保やトラップ類に関する情報”が一切無かった事が原因と言える。


最後に、物的証拠であるはずのオリハルコンの加工が全く出来なかった事が拍車を掛ける事となる。

伝説とまで言われている鉱石であっても、使えなければ“ただの石ころ”と変わりないのだから。



そうしてリューノが伝えた攻略情報は、

“使えない”もしくは“全くの嘘”情報と見做みなすす者が大勢を占める一方。

“確かにその攻略情報は有益である”と判断した者達も居る。

カイオス達を始めとするリューノに好意的だった者達や、元々高ランクの冒険者達。

盗賊シーフ系、探索スカウト系を主な生業としてきた冒険者達である。


彼らはリューノがもたらした情報を精査し、その上で独自の攻略方法を模索し始めた。

最初は、リューノの様にピクシーなどの光源を確保出来る召喚獣を使役したりして、

いきなりソロから始めるのではなく、今まで通りのパーティーを組んだまま地力を上げつつ、

戦術の幅を広げる為に“範囲攻撃”を取得して攻略を行った。

そういった試行錯誤の中で、

一部の冒険者の中では“確かに範囲飽和攻撃が有効である”と、実証していったのだ。




・・・あれから数年が経過した。

カイオスはカタリーナと。ガイはニーナと。ルータはルセットと。

エボス、エルロ、ニック達“白銀狼の牙”の面々もそれぞれ“美人なギルドの受付嬢”と結婚し、

子を育てつつ、冒険者としてダンジョンに潜り続ける日々を過ごしていた。


カタリーナ、ニーナ、ルセットは、

リューノが伝えた情報が“偽情報”だと大多数の冒険者が判断している様な状況であった為、

“命に関わる情報”を扱うギルドには不適切だと。冒険者達からの評判がすこぶる悪かったのだ。

ギルド長達は取り合わなかったが、直接言われる当の本人達は、さぞかし堪えた事だろう。

“寿退職”するには丁度良かったのかも知れない。

その頃には、リューノの情報を元にカイオス達“白銀狼の牙”は90階層まで到達していたので、

エボス達と結婚した女性達も、ある意味“玉の輿”だったと言える。


この頃になると、オリジーの冒険者達ははっきりと2分され始める。

“白銀狼の牙”を筆頭に高層で活躍する冒険者達と、低層辺りで燻っている冒険者達とだ。

リューノの情報を信じていたり、他の街から流れてきた高ランクの冒険者と、その他とも言える。




そんな状況がさらに数年続いた頃。オリジーの街で1つの大きな出来事が起こる。

それは“オリハルコンの加工に成功した”事だった。これにより、状況は一気に変化する事となる。

既に100階層をも突破し、

“オリハルコン鉱石・・塊”を持ち帰っていた“白銀狼の牙”達の功績も大きい。


そうなると、最早流れは止めようがなかった。

高ランクの冒険者と低ランクの冒険者の格差は一気に広がっていく。

より深い階層を、しかも連戦で軽々とこなす高ランクの冒険者の収入は並みでは無い。

強者はより強力な装備、スキル、魔法を手に入れる事が出来、さらにより深い階層へと挑む。

一方弱者は、低層で燻り続けるまま・・・。




その様な状態がさらに数年続いた。ある意味停滞していた時期とも言える。

オリジーのギルドでも“白銀狼の牙”の面々は頭1つ分以上、他のパーティーより勝って居た。

カイオス達は潤沢な資金を背景に、さらに装備面やスキル、魔法を充実させてゆく。


だがカイオス達でも、すぐには131階層へのポータル解放戦には挑戦しなかった。

それを聞いた高ランクの冒険者達は影で“腰抜け”などと揶揄していたが、

カイオス達は一切無視を決め込み、ただひたすらに自身達を強化する事にのみ集中していた。

“131階層へのポータル解放戦から、初見殺しが居る”・・・その言葉を信じての事だった。

それは、

自分達が数年掛けてようやく到達出来た階層を、召喚獣を連れているとは言え、たった独りで。

しかもわずか数日で踏破してみせた、猛者であるリューノが残した言葉を重く見ただけの事だった。


事実、その言葉を甘く見ていた高ランクの冒険者の中には帰らぬ者も出た。

幾つかの高ランクの冒険者達のパーティーが、131階層へのポータル解放戦へと挑戦し、

全ての者が帰らない事が続き、漸く“白銀狼の牙”が正しい選択をしているのだと知る事となる。


カイオス達“白銀狼の牙”の面々は、ひたすらソロで111~120階層の連戦を繰り返し、

十分に余裕を持って戦える事を確認出来た上で、ついに131階層へのポータル解放戦へと挑んだ。


結果として見れば完勝。

ただし、カイオス達はリューノが残した言葉が事実だと改めて実感していた。

十分に鍛錬を繰り返し、万全の準備をしていたはずの彼らですら、

“1つでも歯車が狂えば、誰かが死亡していたかも知れない”・・・そう思い知らされた。

と同時に、それを初見で突破してみせたリューノに対する畏敬の念を抱いた。


“白銀狼の牙”が131階層へ到達したとの情報は、オリジーの街へと瞬く間に広まった。

ここ数年停滞していた状況が、一気に動き出す・・・。


カイオス達から直接生きた・・・攻略情報を聞き出した高ランクの冒険者達は、

続々と131階層へのポータル解放戦へと挑んで行き、見事成し遂げる事となる。


一方でカイオス達は、他の高ランクの冒険者達が131階層よりも深く潜る中。

ただひたすらに、120~130階層への連戦を続けていた。

そして着実に力を蓄えつつ、131階層、132階層と他の冒険者よりも遅れながらも、

徐々に踏破階層を増やしていく。

この頃のカイオス達は、

“リューノが成し遂げた160階層を確実に、そして全員無事に踏破する事”を目標としていた。

だから決して無理はしないし、少しでも力不足や不安を感じれば撤退する事もいとわなかった。

これはカイオス達の本来の気質であったのだろうが、結果的に安定したパーティーとして活躍する。


事実、131階層を突破した冒険者達の中でも、帰らぬ者が出て一部のパーティーが瓦解したり、

死亡者の穴を埋める為に、新たなパーティーメンバーを揃えなくてはならなくなり、

結局踏破階層が停滞する事態が相次いだ。

特に最初に141階層へのポータル解放戦に挑んだパーティーは、全員が生きて帰らなかった為、

“白銀狼の牙”の攻略方法の方が正しいと、高ランクの冒険者達は再認識する事となる。


また、この頃から特に顕著に高ランクの冒険者達同士の結びつきが強くなっていった。

当然の流れと言えば当然ではあるが、彼らの目標は“創造神に願いを叶えて貰う事”である。

そういった意味で、彼らの思惑は完全に一致していたのだった。

瓦解したパーティーのメンバーを、同レベル帯のパーティーで死亡した補充要員として確保したり、

攻略情報の共有。最適化など、131階層へと到達した者でしか分からない世界がそこにはあった。

当然この結びつきには“白銀狼の牙”の面々も含まれる事となる。


じりじりと。だが着実に“白銀狼の牙”は160階層へと近づいて行った。

周囲の冒険者達や、オリジーの街の住人達にとって160階層の突破は最大の関心事であったが、

相変わらずカイオス達は連戦周回を辞める事無く、力を蓄える事に専念していた。


そんな“白銀狼の牙”の面々だが、80階層以降に手に入る召喚石だけは決して売らなかった。

むしろ市場に出るとの噂を聞けば、直接売り手の所へ赴き、言い値で買い取っていたほどだ。

当然だろう。最早、金銭的な問題は全く無い。

1日のソロでの稼ぎが、オリジーの住人達の生涯収入を超える金額を余裕で稼ぐのだから。


そして、“白銀狼の牙”が131階層へと初めて到達してから1年ほど。

個々人が高ランクパーティーに匹敵する“化け物集団”と呼ばれる様になった“白銀狼の牙”が、

ついに160階層へと挑む事になる。


その噂を聞いた冒険者達や住人達は、

“白銀狼の牙”が160階層に挑む数日前から、彼らの動向に注目していた。

そしていよいよ“白銀狼の牙”がダンジョンへと消える・・・。

見送りには数多くの冒険者達や関係者達が詰め掛けて居た。


1日経ち、2日経ち・・・“彼らですら、完全踏破は無理だった”かと、誰もが諦めかけた3日目。

ついに“白銀狼の牙”は全員が帰還した・・・オリハルコン製の装備品すらボロボロの状態で。

魔力が尽き掛けてはいたものの、後遺症が残る様な重傷を負わなかった事は、幸いだろう。

そして、ダンジョンから帰還した“白銀狼の牙”の面々から驚くべき情報がもたらされる。


確かに最奥にて創造神様と会えた事。

そして代償を捧げる代わりに、幾つかの選択肢の中から生涯に1つだけ、願いを叶えて貰える事。


10年ほど前に、オリジーのダンジョンを完全踏破した“リューノ”が言った事は正しかったのだ!

改めて確証が得られたこの情報に、再びオリジーの街は世界中から注目を集める事となった。


今回“白銀狼の牙”の面々が持ち帰った“創造神から叶えて貰える願い”について、

改めて幾つかの詳細な事も判明した。

1つ、確実に何らかの代償が必要であり、80階層以降で手に入る召喚石で代用が可能である事。

代用物が無いのであれば、四肢や感覚器官などの本人にとって重要な物でしか代用物にならない事。

1つ、願いは踏破者本人に影響を及ぼす物しかなく、代理で願いを叶える事は出来ない事。

1つ、願いは絶対にその踏破者の生涯で1つだけしか叶えて貰えない事。

1つ、死者蘇生は無理だが、四肢欠損などの治癒は可能である事。

1つ、不老不死は叶えられない願いである事。

1つ、願いは保留する事も可能である事。


それら、叶えて貰える願いの選択肢は以下の通りであった。

・長寿命化(若返りも含む)。

・身体欠損部位や病等の完全治癒及び復活。

・ある程度任意の場所にダンジョンを誕生させ、自身が管理する事が出来るダンジョンを得る。

(ただし、他のダンジョンからはある程度離れている事と、ドロップ率等の変更は不可能。

また、最大でも100階層までとし、誕生させたダンジョンは永久に存在する)

・絶対に損壊しない、神によって祝福強化された武器若しくは防具類を1つ。

(この願いで得た装備品は、その願いを申し出た直系親族しか装備不可能)

・任意で金銭を生み出すことが出来る手を得る。

(本人が死亡したり、胴体から切り離された時点でこの能力は喪失する)

・召喚獣のMP消費無効化。

(この願いを叶えた時点で召喚可能な召喚獣限定)


それらの情報を得た“白銀狼の牙”を出迎えた面々は騒然となった。

が、ある1人の高ランク冒険者が言った言葉で、静まり返る事となる。


「では、君達は何を願ったんだい?」


カイオスが答えた回答によって、別の意味でその場は再び騒然となる。


「俺達の手持ちの召喚石の数じゃぁ、全員分の願いは叶えられなくてな。

全員の意見が“当面は保留すべき”だと一致したんで、保留にした」


出迎えた面々・・・特に高ランクの冒険者達は、

カイオス達が80階層以降でドロップする召喚石を、買ってまで集めている事を知っていた。


・・・それでも神に願いを叶えて貰うには足らない・・・。


事情を知る面々にすれば、衝撃的な情報だった。

何故か80階層以降で得られるモンスターの召喚石のドロップ率は異常に低いのだ。

これは他のダンジョンでも同様である。その代わりに、他のレアドロップ率は高いのだが・・・。


情報をギルドに提供し終わった“白銀狼の牙”の面々は、各々家族が待つ家に帰って行った。



数日後、再び“白銀狼の牙”の面々は意図せず揃ってギルドにやって来た。

完全武装した妻子や召喚獣達を伴って。


カイオス達は神への願いを保留した直後に、今後の事について話し合っていたのだ。

「今ある召喚石を均等に分配し、各々おのおの独自に自分達に必要な分の召喚石を確保しよう。

次にパーティーを組む時は、誰かの願いを叶える際、手助けが欲しい時にまた集まればいい」と。

流石は・・・と言うべきか、

ソロでも130階層程度までなら気を抜いていても殲滅踏破が可能な、正に猛者達の言い分である。


人間とは欲深い生き物である。そして、身内には甘い傾向が強い。

だからカイオス達は、有り余る財力にモノをいわせ、妻子を可能な限り強化する手段を取った。

実際一緒にダンジョンに潜ってさえ居れば、自身が戦闘に参加していなくてもレベルが上がる。

ソロであっても“ヌルい”80階層以降程度を周回するのならば、足手纏いが居ても全く問題無い。

むしろ、家族が強くなれば強くなるほど、色々な面で安心出来る。


もしこの状況をこの世界の創造神が知れば、『重課金寄生チートだな』と言いそうな状況だった。


しくも無言のうちにお互いが同じ選択をした事に、ゲラゲラと笑い声を上げつつ、

それぞれが家族達と共にダンジョンへと挑んでゆく・・・。


彼らの攻略は単純かつ最速だった。

雑魚を己が持つ圧倒的火力で掃討し、10階層を突破する毎に脱出。

残った時間は、家で家族達と共にゆっくりと休む。

次の日はその続きを10階層分行い、また脱出。

たまに休みの日を挟んだりはしたものの、それを繰り返すだけだった。

余裕を持って攻略を行っていたのは、単純にまだ子供達が幼い事を懸念しての事である。

彼らにしてみれば、ただ歩いて付いて来られさえすれば、それで良かったとも言える。

(ニック夫妻の様に、幼子を妻が抱いたまま踏破してしまう様な例外もあったが)


80階層へ到達するのに、2週間も掛からなかった。

130階層へ到達するのに、1ヵ月も掛からなかった。

後は今までに自分達が行ってきた事を、パーティーメンバーを変えて再びなぞるだけ。

家族や召喚獣達が十分な戦力として育つまで。

各々が必要とする量の召喚石を得られるまで。

ただひたすらに、80~130階層の連戦周回をするだけである。


ある日、本当にたまたま“白銀狼の牙”の面々全員がダンジョンから脱出し揃った時、

ギルドの食堂スペースで家族と共に久々に宴会を行った。

その時に、カイオスが昔を懐かしむ様にぽつりとこぼした。


「リューノもあの時、こんな気持ちだったのかなぁ?

範囲攻撃で一掃しちまえば、ソロでも何て事は無い。お荷物が居たって楽なもんだ。

あの時は本気で考えて居なかったが、改めて思うとあいつはすげぇ奴だったんだな・・・。


確かに効率はハンパねぇ。つーかお前らは覚えてっか?

昔の俺らは70階層への攻略する為に、命懸けでヒーヒー言ってたんだぜ?

今じゃぁ自分達のガキ共にすら、あの時の俺らはとっくに抜かれちまってんだぞ?

まだまだこんなちっこい奴らだってのによ!」


自分の娘と息子の頭をぞんざいに撫でつつ。ゲラゲラと笑う。

釣られる様に、他のリューノを知っている面々も笑い声を上げた。




それからさらに数年が経過し、カイオス達が連戦周回を重ね続ける中、

ついに新たな完全踏破者達が現れた。


そのパーティーメンバーの1人であり、リーダーだったある男。

その男の変化に気付いた周囲の冒険者達は驚く事となる。

既に中年に差し掛かっていたはずの熟練の冒険者が、

若々しい20歳ほどの青年として若返っていたのである。


最早誰も“オリジーのダンジョンの最奥に創造神様が居る”

そして、“願いを叶えて貰える”という事実を疑う者は居なくなった。



オリジーの街に増々人が集まる様になる。そして新たに冒険者となる者達も。

オリジーの街には人が溢れかえり、間違い無くこの世界最大の都市となってゆく。



そんな中、さらに数組のパーティーが完全踏破を果たし、新たに願いを叶える者達が出てくる。

ある者は長寿命化を願い、またある者は唯一無二の装備品を願う。

事実“神の装備品”は既存の装備品とは一線を画す破格の性能を誇り、益々高効率化が加速する。



ある時、既に完全踏破を果たした高ランク冒険者達が、とあるこころみを行う。

その試みは、劇的な成功とは言えないものの、多少の成果を挙げた事で一躍注目を浴びる事となる。

それは、“完全踏破したパーティーメンバーの1人を低ランクの冒険者と入れ替える”

という試みだった。


“その階層に到達していない低ランクの冒険者と一緒であれば、ポータル解放戦が可能なはず。

であるならば、通常戦よりもレアドロップ率の高いポータル解放戦を数多く出来るのではないか?”

・・・その予想は正しかったのだ。

高ランク冒険者達が望む召喚石が確実に得られる訳ではないが、少しは確率が高くなったのだから。


ある程度の成果を挙げた事により、この方法は完全踏破を果たした冒険者達へと一気に普及する。

正に高ランク冒険者達による、低ランクの冒険者の青田刈り状態になった。

が、全く問題が無かった訳ではない。

高ランク冒険者達による低ランク冒険者の搾取にも繋がった為だ。

低ランク冒険者の力量も鑑みず、無理な階層に挑み、

結果、低ランク冒険者も含めて死亡する様な事例も頻発した。


その事態を重く見た冒険者ギルドが間に入る事により、沈静化を図る事となる。

高ランク冒険者達と低ランク冒険者の仲介を、新たな業務として加えた事。

ドロップ品の均等分配の義務化などにより、低ランク冒険者にも一定以上の報酬を確保する事。

これらの介入により、事態はある程度沈静化する。無論、完全に無くなった訳では無いが・・・。


だが、高ランク冒険者達は僅かでも召喚石を得られる機会が増加し、

低ランク冒険者は一気にソロでも中層踏破が可能な程度の実力と、収入の増加に繋がる事となり、

お互いに“Win-Win”の関係を築く事となった。

この事により、オリジーの冒険者達の中に低ランクの者はほとんど居なくなる事となる。


この頃になると、ようやくオリジーの街の為政者達はある事を憂慮し始める。

それは物価の高騰である。

当然と言えば当然と言えるだろう。

街の年間予算に匹敵するほどの額の金銭が、

たった1日の稼ぎの額として、冒険者達によってダンジョンから持ち帰ってくるのだから。

冒険者達は良いとしても、他の一般市民の生活に影響を与えかねないほどの額なのだから。

しかしこの憂慮はほぼ杞憂として終わる事となる。

冒険者達が持ち帰った金銭は、その大半がスキルや魔法を得る為に教会で消費されるか、

装備品等の充実の為に使われた為だった。

結果として多少の高騰はあったものの、それはごく一部に限られ、一般市民への影響は少なかった。

逆に、装備品を扱う店やそれらを作る鍛冶屋。食料品店。衣料品店などは莫大な収益を上げた。

それに付随する形で多種多様な産業が活性化し、結果的に町全体が好景気となったのであった。


一方カイオス達“白銀狼の牙”の面々は相変わらず連戦周回を行っていた。

最早ソロであっても、150階層程度では傷一つ負わない猛者達である。

自身達も、“例えソロであっても、160階層を突破出来る”と自信を持つ頃には、

家族達の分も含めた、十分な量の召喚石を得ていた。


カイオス達は意図して行っていなかった事だが、

ここ数年の連戦周回により自身達の力量が他の冒険者達とは隔絶した領域に到達していたのである。

事実、自身達ですら拍子抜けするほど、あっさりと160階層を突破し、

カイオス達はほぼ時を同じくして、再び創造神と相見える事となる。


既に壮年と言って良い年齢に達していた夫妻は長寿命化を。

子供達はダンジョンや装備品を望んだ。

この際親達は“保留すべきだ”と忠告したが、まだ成人にも達していない子供達にとって、

長寿命化などは魅力的では無く、新しい玩具おもちゃを得る感覚で願いを叶えてしまったとも言える。

が、図らずして“白銀狼の牙”のそれぞれの子の中の1人がダンジョンを選択していた事は、

ただの“偶然だった”と言うには出来過ぎていたのかも知れない。


後にオリジーの街を正六角形の形で囲う様に。

しかも高レベルのダンジョンが配置され、彼らの有り余る資金を背景に都市を形成してゆく。

それらは後に“白銀狼の6街”と呼ばれる街となるのであった。




後年、“白銀狼の牙”の面々は各々が子がダンジョンマスターとなった街へ移り住み、

“6街”それぞれのダンジョンをも、妻子らと共に完全踏破する事となる。


ただ必ず年に一度。

“リューノ”と言う伝説の冒険者と彼らが出会った日に。

オリジーの街の、しかも冒険者ギルドの食堂スペースと言うありふれた場所で。

自分達の子孫の愚痴を楽し気に言い合う若い姿となった冒険者達が居たのだった。

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