第173話 新たな世界へ
トウの“お食事”が終わる頃に、丁度朝日が昇ってきました。
ん~。中々色々とあった一晩だったねぇ。
ミツハルさんの世界の一部問題児達の処分も終わったし、俺の“お仕事”も終わりかな?
んじゃ、サーコートを“純白”に戻してっと。
一応“食べちゃダメ”な方々へは、此処で見聞きした事は絶対に口外しない様に言っておきました。
善良なミツハルさんの世界に、俺みたいな異分子が紛れ込んだら厄介だったしね。
まして、ミツハルさんじゃなくて俺を崇拝する様な輩が出たら、それはそれで大問題だと思っての処置です。
粗方大使館内の捜索も済んでひと段落したら、俺やトウ。魂の神様。ミツハルさんと揃ってお家に帰ります。
ハゲ皇帝とベラン君の移送や、改めて大使館内の精査なんかはミツハルさんの近衛兵さん達に丸投げ。
時間外手当として、昨日出した分で余ったお酒類を部隊毎に配給して、ねぎらうぐらいはお願いしとくかな?
結構余ったらしいし。 近衛兵さん達もお仕事とは言え、こちらも口止め料代わりって事で・・・。
一応ベラン君も軽く拘束はされたみたいだけど、丁重に扱われてるみたいでした。ハゲ皇帝は別ですが。
で、ガタゴト馬車に揺られてミツハルさん家に帰宅。んで、食堂でやっと一息。
『終わったのかの?』
「始祖の神様。お留守番して頂いて、有難うございました」
『ワシの方は何も無かったからのぅ。実に暇じゃったわい。
まぁどうせそっちの方は、リュウノスケが暴れて終わらせたんじゃろ?
じゃったら此処でのんびりと酒でも飲んでおった方がマシじゃしの。構わん構わん』
ワイングラスをちょいと掲げる始祖の神様。一晩中飲んでいたのでしょうか?
俺が面倒臭い連中を相手にしてたってのに・・・。
・・・つーかそのワイン。例の睡眠薬入りの奴ですかね?まぁ突っ込んで聞きませんが。
「私は本当に暴れただけですけどね。
魂の神様の負担が一番大きかったんじゃないかなぁ?
今回の言い出しっぺも魂の神様だったみたいですし、やっぱりお怒りだったんですか?」
『ん~。分かっちゃった?』
「えぇまぁ。随分と魂の神様が乗り気だなぁとは思いましたからね。
やっぱりハゲ皇帝が以前からやらかしていた事がらみが理由なんですか?」
『そうだね~、ってハゲ皇帝って。 まぁあんな奴の事なんか、どうでもいいけどね』
「え?あの皇帝は、今回の件以外にも何かしていたのですか?」
『あ~それなんだけどさ。
ミツハルくん。悪いんだけど、一部の“儀式魔術”に関しては否定する様に意識改革しといてね?』
「どういう事でしょうか?」
『もう粗方の事はリュウノスケくんから聞いた事を話したと思うけどさ。
今回の件ってね?ミツハルくんが無意識に許容している“儀式魔術”の影響が大きいんだよ』
「あ~そう言えば、あのハゲ皇帝御一行は“力を奪う”とか言ってましたね。
アレってその“儀式魔術”とやらを使うって事ですか?」
『そうそう。ミツハルくんの世界には、“儀式魔術”ってのがあるんだよ。
要は単独行使出来無い様な現象を引き起こす“神の如き”魔術が使えるって事だね。
で、その“力を奪う”ってのが“儀式魔術”でしか実現不可能なんだよ。
ミツハルくんの世界では、ミツハルくんの認識でそういう事が可能な世界だって事』
「へ~。 で?実際問題として、私から“神”としての力を奪う事って可能だったんですか?」
『あぁ、それは無理。
そもそも存在としての“神”であって、普通の人類が扱える力じゃないよ。
それにリュウノスケくんはこの世界の人類じゃないし、今は“神の分体”だしね。どうやっても無理。
大体、“儀式魔術”自体が“普通の人類が考え得る神の如き力”を行使するって事しか出来無いからね。
ミツハルくんの世界で、“不老不死”とはどういう存在なのか。
まして“詳細に”どういう力なのかを理解して居ないからね。どうやったって無理な話だよ?
“力を奪う”にしても、“何の力”かを分かって居ないんだからね』
「ほ~。でも、実際に何らかの力を奪ったり付与したりは出来るんですよね?」
『それだけはね。
ん~リュウノスケくん達に判りやすく言うとしたら・・・。
力を奪われる対象者から、“筋繊維”とか“魔力の受容体”を削除して、
力を受け継ぐ対象者にそれら削除された力を付与するって感じになるのかな?
しかも効率が悪くて、全部奪っても3割程度しか追加付与出来無いみたいだけどね』
「へぇ。・・・でも、それにしてはあいつら全員弱かったですけど?」
『当然じゃない。 力を受け継ぐ方だって、元はただの人類なんだから。
しかも相手をするのが、神々の中でも“超”が付くほどの武闘派のリュウノスケくんでしょ?
多少強化した所で、普通の人類程度が相手を出来ると思うなんて、無茶な話だよ』
「ん?・・・すみません。今の私の力量はともかく、それの何が問題なんですか?
“筋繊維”だの“魔力の受容体”だのを奪えるのなら、際限なく強化出来無いんですか?」
『もう少し考えてみてよ?
“魔力の受容体”に関してはともかく、単純に“筋繊維”が増えたらどうなると思う?』
「純粋に筋力が増加するんじゃないんですか?」
「・・・あぁ!なるほど。確かに“ただの人類”には無理ですね」
むむむ?何やらミツハルさんは分かったらしい。
「どう言う事です?」
「あ~。自分とリュウノスケさんの“認識の違い”が表面化した感じでしょうか?」
『そういう事だね』
何か遠まわしに、馬鹿にされている気がするんですが・・・。
「いやいや、だから。何故無理なんですか?お二人で理解してないで、私にも判る様に説明を!」
「リュウノスケさん。例えば、ですが。
際限なく強化出来たとして、今のリュウノスケさん同様に何十トンもの物を持てる様になったとしましょう。
で、実際にその何十トンだかの物を持ち上げたとしたら・・・その者はどうなりますか?」
「ん?持てるのなら、普通に持ち上げられるんじゃないですか?」
「実際には無理なんですよ? と言うか、“自分の世界の人類には無理”って事ですね。
持ち上げられる“筋力”を持っていたとしても、それを支える“骨格”が伴わない以上、先に骨が折れます。
分かり易く言うならば、老齢の人間にトップアスリートの筋力を追加したとしたら、
何もしなくても“老化した骨”が自身の筋力に耐えられずに自壊しちゃうんですよ。
意識して使って無くても、筋肉は収縮方向に動きやすいですからね。
“腱”に関しても同様ですよ?恐らく今回の件に関しては、“腱”も含めた強化だったんでしょうが、
あの皇帝達は、“骨格”にまでは意識が向かなかった様ですね」
「あれ?それも含めての強化じゃないんですか?」
「自分の世界では“ソレ”と“コレ”とは別ですね。
ある意味リュウノスケさんの世界と違って、そういうステータス制にはしていませんから。
ついでに言うと“血管”も強化される訳では無いので、“心筋”が強化されれば即血管破裂で死にますね。
まぁある程度は、強化される素体にもよるでしょうが」
「へぇ・・・」
『ま、そう言う事だよ。 そのせいで、彼らの強化限界も2人か3人の追加付与までが限界だったみたいだしね』
「それにしては、随分と魂の神様がお怒りだったみたいですが?」
『それはそうだよ。
たかが数人の強化の為に何人犠牲にしたと思ってるの?実験段階も含めると、数百人どころじゃ無いんだよ?
しかも犠牲になったのって、年若い子供達を被験者にしていたみたいだからね。
今回トウくんが食べた奴らは、自分から被験者として志願したみたいだから、まぁいいとしてもさ。
その他は何の罪も無い子供を無自覚に、しかも使い捨ての様に殺していたんだから。
だから、あの皇帝もかなり暴虐と言っていいんじゃないかな。他にも好き放題やっていたみたいだし。
まぁその辺はミツハルくんにはもう伝えてあるから、後処理はミツハルくん次第だね』
“了解しています”とばかりに、頷くミツハルさん。
「あらら。にしても、罪も無い子供が犠牲になってたって・・・もっといじめておけば良かったかなぁ。
やっぱり子供達を被験者にしたってのは、幼いほど筋力とかの“伸びしろ”が期待出来たからでしょうか?」
『そうだね。 まぁ後の事はミツハルくんの世界の事だし任せるけど・・・。
ミツハルくん?ヌルい処罰だったら私が許さないよ?
こんな魂を弄ぶ様な輩をのさばらせたのは、ミツハルくんにも責任があるからね』
「はい。承知しています。
“異世界の神を誘拐した”なんて事をやらかした以上、穏便に済ませるつもりは全くありませんので。
自分がその事に気付けなかった事は反省すべきだとは思いますが、今後はこの様な事が無い様に致します。
始祖の神様。魂の神様。リュウノスケさん。今回は本当に有難うございました」
テーブルに頭がつくほど、深々と謝意を伝えるミツハルさん。
『別に気にせんでも良いわい。
ワシはどうでも良かったが、魂の神の怒りを買った事が、あ奴らの破滅への始まりじゃしの。
まぁ、リュウノスケが居ったせいで派手になってしもうたが、どちらにせよ同じ事じゃったろうしな』
「あれ?何か私が余計な事をしたみたいな風に言われてますが・・・。
元を正せば、今回の件の切欠は魂の神様に頼まれて私が動いたはずなのですが?」
『結果的にだけど、リュウノスケくんが色々と使い易かった事は否定しないよ?』
「くっ!性格悪っ!・・・まぁ今回に関しては、ミツハルさん達に恩返しが出来たと思って納得しますがね。
ルナ達の出産の件で、色々とお世話になりましたし」
その後、ミーさん達も含めて全員が揃ったら、朝食前に太極拳。
のんびりと朝食を済ませてまったりしていたら、昨晩の件を聞きつけたらしく、
わざわざ主席宰相と昨晩の警備を担当していた近衛隊長が謝罪に来た以外は特に問題も無くまったりしました。
つーか、その時になって初めてミーさん達は昨晩の件について聞いた模様。
まぁ赤ちゃんが居るんだし、厄介事は使える相手に丸投げして貰ってOKですよん~。
そのままのんびりとした昼食の後、始祖の神様が『そろそろ本題に戻るかのう』と。
「あれ?本題って何でしたっけ?」
『リュウノスケへの頼み事の件じゃよ』
「あぁ!確かそんな話がありましたね。って今回の件は完全に別件だったんですか?」
『そうだよ?言ってみれば突発事案って感じ。 本当の目的は別の神の世界での頼み事だからね』
「へぇ・・・また何をやらせられるのやら・・・」
『まぁ心配せずとも、今回の件でお主の実力は分かったじゃろ? じゃったら大して問題にもならんわい』
「なら・・・まぁいいですけどね」
「そうですか。もう少しゆっくりして頂きたかったのですが。
自分の世界を色々とご案内する事も出来ませんでしたし」
『ミツハルくんは、そんな事よりも先にもっとちゃんと自分の統治する世界に目を配る事!
もし次に同じ様な事をやらかしたら、リュウノスケくんの世界への出入りを禁止にするからね?』
「それはご遠慮したいですねぇ。自分達もせっかくの楽しみが減ってしまいますから。
まぁあの国に関してはお任せ下さい。かなり内政に干渉する事になりますが、ちゃんと収めますよ。
リュウノスケさんに派手に動いて頂いた分、自分は消化不良ですしね。
自分達を殺すだの、海を妾にするだのと言った責任はきっちりと取らせますよ」
おぉぅ。ミツハルさんてば、その話を忘れていなかったのね。目がマジ過ぎてちと怖いっす。
『頼んだよ?』
「はい。確かに承りました」
「で・・・何時頃その別の神の世界に移動するんですか?」
『とりあえず夕食まではご馳走になってからで如何でしょうか?』
『そうじゃな。別に急ぎでも無いが、余りのんびりとミツハルの世界に居っても仕方が無いしの』
「おや?自分達の御持て成しでは、ご満足頂けませんでしたか?」
『そうとは言わんが・・・リュウノスケの世界と比べるとのぅ。ちと堅苦しいわい』
「あ~。自分達自身で御持て成ししていた訳ではありませんから、確かにそうかも知れませんね・・・。
今後の給仕等々は、ミー達にお願いした方がいいのかなぁ。自分だけじゃ、まだまだ出来ませんし」
ミーさん達や陸くん達もその事に納得しているのか、“頑張ります”的な事を言ってます。
『ま、気にせんで良いわい。我の世界に居るよりは、余程気が楽ではあるからの。比較対象が悪いだけじゃ』
「褒められているのやら、私としては“もっと私にも気を使って下さい”と言うべきなのやら・・・」
『がっはっは。リュウノスケの所は今のままが良いぞ!』
「まぁ別にいいですけどね・・・」
その後も終始食堂で談笑。
つーか談笑ついでに、グラネイア帝国の今後について話すとか、ノリが軽過ぎませんか?
一国を左右する話なのに、部外者が“あーだこーだ”言うのもどうかと思うのですが・・・。
とか思いつつ、一応ベラン君の復帰を提案しておきました。
彼なら人格的にも問題が無いし、多少の混乱はあっても最小限で済むでしょうしね。
ミツハルさん的にも、「情状酌量の余地があるから、前向きに検討します」との事でした。
ちなみに、ですが。今のミツハルさんの国の名前が“レウィ○ア神権国”って・・・。
思いっきり某エロゲーのパクリじゃないですか・・・。
俺も知っていたので、突っ込みで“水の巫女”とか居るんですか?って突っ込んだら、一部で大盛り上がり。
俺とかミツハルさんは良いとしても、魂の神様まで知ってるとか・・・正直どうなの?って思いました。
え?オマージュだって?いやいやミツハルさん。それだったら、少しぐらいは変えて下さいよ・・・。
夕食後、準備が出来たら祭壇(?)の部屋に移動。
ミツハルさんご一家総出でお見送りに来てくれました。
『んじゃ、準備はいいかい?』
「はい」
『よいしょっと』
魂の神様が軽く手を振ると、俺&トウ。始祖の神様。魂の神様を包む様に丸い結界(?)みたいなものが。
「何です?コレ」
『ん~。今のリュウノスケくんなら大丈夫だとは思うけど、トウくんが居るからね。
今回ミツハルくんの世界に来た時は、ご期待に添えなかったみたいだからね。
惑星間移動って奴を実感して貰おうと思ってね。
ま、一種のサービスだよ。楽しんでね?』
「ほー。お気遣い有難う御座います」
『それじゃぁ行きますか。 ミツハルくん。頑張ってね?』
「はい。お任せを」
「んじゃ、ミツハルさん。またウチの世界での年末に宜しくお願いします」
「こちらこそ。毎度の事ですが、宜しくお願い致します」
『始祖の神様も宜しいでしょうか?』
『うむ。ミツハルらよ。またリュウノスケの世界での』
「はい。また」
『それじゃぁまたね~。出発!』
ミツハルさん達に“バイバイ”と手を振りつつ、魂の神様の合図で高速移動を開始。
“高速”って言うよりも“光速”かな?
もう既に宇宙空間を・・・多分物凄い速度で移動しています。
比較対象が全く無いので、どれぐらい早いかは不明ですが・・・。
俺達は一切動いて居ないけど、多分外部から観測出来たら、彗星みたいになってるのかな?
『どう?リュウノスケくん。初めての惑星間移動の感想は?』
「う~ん。すごいなぁって感じですね。 と言うか、正直に言って早過ぎてよく分からないです。
何処かの恒星なんかが通り過ぎていってるので、移動してるのは分かるんですけどね?
こんな経験を今までした事なんてありませんでしたから、実感としては薄いですね。
でも結構楽しいですねコレ。見ていて綺麗だし」
『そっか。まぁ仕方が無いよね』
「ところで、どの程度の時間移動するんでしょうか?」
『ん?もうすぐ到着するよ?』
「あれ?そうなんですか?」
『うん。とか言っている間に・・・ほら到着。此処が今回の目的の世界だね』
移動が止まったので、目的地っぽい惑星を眺めてみると・・・第一印象としては“パンゲア”か?
大きな三日月型の大陸が1つ。残りは全部・・・海かな?
ちょっとした小島っぽいのは見かけるものの、やっぱり目に付くのは1つの大きな大陸。
月っぽいのもあるし、他の惑星の並び的にも太陽系のコピーっぽいです。
ただ、この世界では降水量が多いのか、大陸内部でも砂漠っぽいのは多くない感じ。
「もしかして、この世界を統治している神様も“地球”出身者なんですか?」
『そうだよ?名前はヒロアキくん。
彼もリュウノスケくんの指摘どおり“地球”の“日本”出身者だし、趣味的にも馬が合うんじゃないかな?
ちなみに、ヒロアキくんはまだ中級神なんだけどね?
後、ヒロアキくんは妻帯者で、奥方は下級神の山吹ちゃん。仲良くしてあげてね?』
「了解です。私の事はご存知なんですかね?」
『“引き篭もりの神”としては、知ってると思うよ?
ヒロアキくんの世界も落ち着いてるし、以前から面会希望も来てたからね。
ちなみにミツハルくんとはご近所さんだから、かなり前から面識がある神だよ。
まぁ、ヒロアキくんの世界は落ち着いてはいるんだけど・・・。
ぶっちゃけ、ちょっとした問題が起こっててね。その解決の為にリュウノスケくんが来たんだけどね?』
「へぇ・・・って、また厄介事かぁ。まぁいいですけどね」
『んじゃ、先にヒロアキくん達と顔合わせしとこうか。リュウノスケくんを呼んだ用件は、その時にね』
「了解です」
早速降下開始。目的地は・・・でっかい大陸の三日月部分の・・・右上の端っこかな?
さて、どんな神様なんですかねぇ。 魂の神様曰く、俺と“趣味的にも馬が合う”らしいけど・・・。