第170話 情報収集
ハゲ皇帝達の気配が完全に遠のいたら、むっくり起き上がって状況確認。
うん。向かいの牢屋の中で泣いている若者(?)が居るぐらいで、問題なさげだね。
泣いている奴は、こちらの様子には一切気付いて無いみたい。
つーかね?最初は号泣してたけど、今では“シクシク”泣いているのですよ。
猿轡を噛まされてるから、“うっ・・・うっ・・・”って感じ。ちょっとしたホラーです。
薄暗い中(一応ある程度の照明みたいなのはあります)に、幽かに響く泣き声・・・。
ちょーっと怖いから早めに止めたいし、丁度良さげな相手っぽいから情報収集と参りますかね~。
ちなみに、なんですが。
こいつにも俺と同じ様な手枷が嵌められてるんだけど、後ろ手じゃないんだよねぇ。
普通拘束する場合って、後ろ手に拘束するもんなんじゃないの?
まぁこの“魔封じの腕輪”の素材自体が、普通の一般人からしたら硬い素材なのかも知れないし、
食事を与えるのに後ろ手じゃぁ自力で食べられないから・・・かも知れないけどさぁ。
色々ヌルいね。あのハゲ皇帝御一行様達は。
向かいの牢屋の中に転移。
で、「おいお前。しっかりしろ」とか声を掛けつつ揺すってみる。
と、吃驚した様子でこちらに気付き、慌てて土下座(ガチな奴です)してきました。
“フガフガ”言うてますが、猿轡のせいで訳が判らん。なので、即外してあげました。
「有難う御座います。
異世界の神様におかれましては、我が帝国の者達が大変失礼な事をしてしまい、誠に申し訳御座いません!」
うん。とりあえずはコイツはまともっぽい。
さてと、それじゃぁ本格的に情報収集と参りましょうか。
色々と疑問が満載だしね!
・・・結果。大体の事は判りました。
つーか、尋問の過程でコイツはすぐに泣きながらペコペコ土下座&謝罪するんで、無駄に時間を食いました。
なので尋問過程は割愛。あぁ!非人道的な尋問とかはしてませんよ?逆にめっちゃ協力的だったぐらいだし。
色々と尋問(と言うよりは質問?)した結果、得られた情報を纏めると・・・。
この若者。ベラン=グラネイアって名前で、グラネイア帝国の先代皇帝の長子で間違い無いらしい。
それで、あのハゲ皇帝は先代皇帝の実弟なんだそうな。
ちなみに代々皇帝となった者は、“グラネイア○世”と名前が変わるんだと。
で、あのハゲ皇帝はグラネイア20世。(ミツハルさん惜しい!微妙に1世代間違えてますよ!)
旧名はアーネスト=グラネイアと言うらしいです。 まぁどうせ潰すんだし、どうでもいいですが。
で、そもそもグラネイア帝国どんな国?って話。
地理的には“地球”で言う所のオーストラリアに当たる場所にあるらしいです。
かなりの農業大国で、輸出も盛んな分、海運力&海軍力は世界随一なんだそうな。
その代わりに陸軍は貧弱だったらしいけど、ハゲ皇帝がテコ入れして軍事強国を目指しているみたい。
帝国自体の治世も長いらしく、完全な中央集権国家で皇帝の権力も極めて強大であるらしいです。
実際問題として、食料輸出先がミツハルさんの国を含めてかなりの国々に及ぶらしく、
国際的な発言力や影響力も、ものすごく大きいんだそうな。
あと、グラネイア帝国は俺の予想通り、直系の男系長子が代々皇帝となる世襲制。
もし直系男子が居ない場合は、より先代と近親の男子が継ぐのが伝統らしい。
ちなみに皇帝を名乗っては居ますが、単に初代がそう名乗り始めただけで、実際の所は自称なのだそうです。
まぁ中華思想で言うのならば、天帝に当たるミツハルさんが任命するのが皇帝な訳ですから、当然の話かも。
さて、此処で問題です。
先代の直系の男子が居るにも関わらず、どうしてベラン君は皇帝に成れなかったのでしょうか?
答えは、先代(グラネイア18世)が病気のせいでベラン君が10歳の時に早世したせいらしい。
先代がかろうじて存命の間は、ハゲ皇帝(20世)がベラン君の摂政として政治を行っていたらしいのですが、
先代が亡くなった後に、ハゲ皇帝(当時は摂政)が“政治の勉強の為に”って指示で、
半強制的にミツハルさんの国の大使へと放り出して、ベラン君不在の間に帝位を簒奪したらしい。
つまりベラン君はグラネイア19世だった時があるんだけど、既に廃帝とされたんだそうな。
先代が亡くなる以前から。つまりハゲ皇帝が摂政だった時から色々と裏で動いて居たらしくて、
既にグラネイア帝国の中枢部はハゲ皇帝の息の掛かった者達へと多数派工作が進行済み。
ベラン君がその状況に気付いた時には、もうその流れが止められない状態だったんだと。
で、ベラン君こと元グラネイア19世。
まだまだ若くて未熟なりにも、何とか頑張って自国に戻ろうと努力はしたみたいなんだけど、
ベラン君の周りと言うか、大使館の連中全員がハゲ皇帝の息の掛かった者だけで固められてて、
最初は全く身動きが取れなかったそうな。
後に、何とか自国の情報を得られる様な人員を確保したそうなんだけど(頑張ったんだねぇ・・・)、
その時点で既に、先代皇妃(ベラン君の実母)と実の妹が軟禁状態に。
グラネイア帝国の要職も全てハゲ皇帝の息の掛かった者に挿げ替えられて居て、手も足も出せない状況。
(話を聞いただけでも、完全に詰んでますな)
今のベラン君は21歳。先代皇妃は39歳。妹さんは13歳。
このままだと、妹さんが勝手に政略結婚させられる可能性があるんじゃね?・・・って俺は思ったんだけど、
どうも完全に隔離されている上、結婚させられる相手にしてみれば、現状デメリットしか無い訳で。
このままだと、良くてもハゲ皇帝の妾。最悪の場合だと、先代皇妃共々暗殺コースが確定っぽいです。
ハゲ皇帝は45歳。現皇妃の他にも多くの妾が居るらしいんだけど、未だに子供は居ないそうな。
(ハゲ皇帝は種無しさんなんですかね? つーか、多過ぎる妾のせいかも知れませんが)
数年前に、妾の1人が子供を生んだらしいんだけど、生まれたのは獣人種の子。
ハゲ皇帝もその妾も人間種だから、当然不貞の子な訳で・・・。すぐにその妾と赤ちゃんは処刑されたらしい。
それ以来、ハゲ皇帝は元々獣人種嫌いだったのが、さらに悪化したらしい。
ちなみに、なんで大使館なんぞに地下牢があるのか?って話ですが、それもベラン君がらみ。
要はベラン君の協力者や、ベラン君自身がハゲ皇帝に叛意を抱いた時点で地下牢に拘束する為だったみたい。
その話も、俺を担いで走っていたリーダー格っぽい奴から、ベラン君は直接言われたんだそうな。
(それって完全に脅しだよね!)
さっき出たベラン君の協力者がきっかけで造られたそうなんだけど、その協力者はとりあえず逃げ切ったらしい。
(ハゲ皇帝御一行って、お粗末過ぎじゃね?)
ここまでの情報は割りとすんなり聞き出せました。問題はこの先。
ベラン君がやたらと恐縮&全力で謝罪してしまって、聞き出すのに時間が掛かりました。
先ずはハゲ皇帝の目的ですが、強大な権力を背景に“不老不死になる事”を目指していたみたいです。
(秦の始皇帝と同じノリですな。面倒臭い。水銀でも飲んで、中毒死すればいいのに・・・)
現状実子が居ない以上、益々“不老不死”に執着しているらしいです。
(実兄が早世したって事実がある以上、まぁ焦っているのでしょうな)
そのついでに、と言っては何ですが、いずれは“神”として、この世界を統一する野望もあるそうな。
この辺は、ハゲ皇帝がベラン君にベラベラと上から目線で喋った内容だから、信憑性は高そうです。
んで、俺を拉致った奴らって、グラネイア帝国の諜報機関に所属する者達だそうな。
ハゲ皇帝が帝位を簒奪した後に、皇帝直属の隠密部隊として新設した部署らしいです。
(まだまだ新人さん達だったから、色々とお粗末だったのかもね)
次に、力を奪う件に関して。
こちらはベラン君も詳しくは知らないみたいでした。
ただ、既に人類同士の実験では、力を奪う事に関する実験は成功しているらしい。
と言うか、実際の成功例として諜報機関所属の奴らがそうらしくて、普通の人類よりも数倍強いんだとか。
(力は強くても、頭の良さは強化出来無いのかな? その辺はさすがにベラン君も知らないみたい。
まぁ、ベラン君の協力者に逃げられている事を考えると、お察し・・・な感じかな)
でも、さすがに“神”の力を奪えるかどうかまでは、ベラン君も知らないらしい。
研究自体は進んでいるっぽいので、“不可能では無いのかも・・・”と言うのがベラン君の見解。
ついでに海ちゃんの件。
どうやらミツハルさんご一家は、皆さん全員がこの世界でのアイドル的な存在らしいです。
だから海ちゃんだけでは無く、ミーさんやクレマチスさん。女性の間では陸くん達も大人気らしい。
いわゆる高嶺の花って奴? 理想の恋人や結婚相手らしいです。
(そのうち、天ちゃん達もその中に含まれるのかなぁとか思ったり・・・)
当然ミツハルさんはこの世界の創造神だし、顔出しして世直ししているので崇拝の対象だから別としますが、
ミツハルさんと同じ様に人間と獣人とで結婚する事は、そう珍しい事でも無いそうな。
さっき漏れ聴こえていた発言は、単純にハゲ皇帝が獣人種嫌いで、人間種至上主義者なだけみたいですわ。
不貞の子が生まれたって事も、原因かも知れませんがね。
とりあえず聞き出せた情報としてはこんな感じ。
ハゲ皇帝御一行様は真っ黒って事で、遠慮無く潰せますな。
まぁ後から情報を引き出せる程度にしておきますが。せいぜい“ダルマ”にするぐらいかな?
その後の現状の理想としては、ベラン君に皇帝として復帰して貰うのがベストな感じかな?
それなりに頭もいいみたいだし、尋問中もずっと俺やミツハルさん達を自分よりも上位の存在として、
ちゃんと敬意を持った言動をしていたしね。
んじゃ、その方向で行きますか。まぁ俺は情報だけ渡したら、後はミツハルさんに丸投げしますが。
とりあえずミツハルさん達が到着するまで、存分に暴れますかねぇ。
っとその前に、魂の神様達に得られた情報を念話で連絡。 情報の共有って大事な事だよね!
あっちの状況を聞いてみたら、既にミツハルさん達は魂の神様と一緒にこっちに向かっているらしいです。
ついでに言うと、案の定海ちゃんの件で、ミツハルさんはブチギレしてるみたいです。
まぁ俺に虐められた後から、追加でミツハルさんにボコられてくれや。ご愁傷様。
準備OKみたいなんで、俺の方も反撃を開始しますかね。
とりあえずベラン君を拘束している“魔封じの腕輪”を完全破壊してっと。
その上で、暫くは何があっても絶対に牢から出ない様にベラン君に念押ししたら、俺はそのまま牢の外へ。
「今から“神として”の力を使う。巻き込まれたくなければ暫くの間、牢の中で大人しくしていろ」
とか言ったら、ベラン君からすんなりと了承を得られました。 牢の中で大人しく正座しているベラン君。
いやね?本当は“神としての力”なんて使いませんよ?
つーかそもそもですが、分体である今の俺だと“神としての力”なんて使え無いんだし。
それとね?「牢の中で大人しくしていろ」って俺が暴れる際に巻き込みたくないから言っただけだからね?
正座はしなくていいんだよ?
丁度良いタイミングで誰かが来たみたいだし、ちゃんと後から情報が取れる様にちょっとだけは自重してっと。
んじゃま、誰が来たのかは知らないけれど、思う存分に暴れちゃうぞ~♪




