第168話 拉致られてみる
さて。目の前に4本のワインと人数分のワイングラス(飲酒出来無いミーさんとクレマチスさんの分は除く)。
ちなみに、現在。残った夕食や使った食器類を女官さん達が片付け中です。
【さてと。始祖の神様?何らかの薬物が混入されていると思うのですが、どうでしょうか?】
【そうじゃなぁ・・・ふむ。それなりに強力な睡眠薬が入っておるな。
ミツハルらには影響があるやも知れんが、ワシや魂の神、リュウノスケには影響が無さそうじゃなぁ】
【ん~じゃぁ敵側の段取りとしては、これを飲んで私達が寝入った後、窓から侵入。
その後、私を拉致して撤収って流れですかね?
・・・いや、薬物入りのワインを寄こして来た以上、多少の疑惑は覚悟の上。
なので、あわよくば天ちゃん達を人質に取れれば上出来。
で、捕捉される前に早々に自国内へと逃亡する。以上で目標達成って感じですか。
魂の神様?この見立てでどうでしょうか?】
【大体そんな感じで合ってるんじゃないかな?
とは言っても、単純にそれだけだとしたらかなり杜撰な計画なんだよねぇ。
ミーちゃん達は飲酒出来無いんだし、トウくんだって居るってのにさ。
ついでに言えば、リュウノスケくんがミーちゃん達にあげたぬいぐるみだって十分な戦力として数えられる。
外の気配の数からすると、完全に相手側の戦力不足だね。
他に腹案があるなら別だけど・・・この感じだと無さそうだしなぁ。
もし我々全員が寝入った所を“強襲”したとしても、あっさり撃退して終わっちゃうんじゃないの?
多分だけど、トウくんとぬいぐるみだけで十分に撃退出来ちゃう程度の戦力しか無いよ?
う~ん。正面から叩き潰すって手も十分にアリだと思うけど?】
【そうですかね?・・・ん~。程度が低過ぎて、返って対処がしづらい・・・。
でも、正面から叩き潰したとして、確実に黒幕と言うかハゲ皇帝を潰せるかどうか怪しいんですよねぇ。
世界各国の食料供給を担う国だったら、“知らぬ存ぜぬ”を強引に通せそうですし。
私としては確実に叩き潰したいのですが・・・。
・・・あ!現時点で誰か犠牲者とか居ますか?】
【ん~っと・・・巡回していた警備兵数名が昏倒されてるみたいだね。
まぁ昏倒しているだけで命に別状は無いみたいだから、特に心配は要らないみたいだけど】
【そうですか。とりあえずは無駄に血を流して居ないだけで良しとしますかね。
んじゃ、どうしましょうか?
あえてこちらからノコノコ計画に乗ってみるってのが現状妥当かと思うのですが?
一番面倒がありませんし、ミーさん達や他の方達に、わざわざ危険な思いをさせなくて済みますし】
【それではつまらんのぅ。もう少し楽しめるかと思ぅて居ったのに】
【まぁまぁ。そこはミツハルさんの“お手伝い”だと思って妥協しましょうよ。
と言いますか、ハゲ皇帝が余りにもお粗末だったので仕方が無いかと。
お楽しみはハゲ皇帝を捕縛していびり倒す方向で行きませんか?
何なら私は捕縛だけに留めて、始祖の神様にぶちのめす役を譲りますよ?】
【まぁよかろう。しかしそ奴には、もう潰す価値も無いわ。面倒臭い。リュウノスケの好きにするが良い。
ワシは顛末だけを楽しませて貰うとするかのぅ】
【では、基本方針としてはその方向で。
始祖の神様や魂の神様は、私が行動開始してから15分後ぐらいに行動開始して下さい。
その後、ミツハルさんを叩き起こして手勢を集めて貰った方がいいのかな?
背後関係やこの国・・・グラネイア帝国でしたっけ?それに対する対応なんかは丸投げしましょう。
そこまでは面倒見きれませんし、そっち方面はミツハルさんに頑張って貰いましょうか。
まぁ魂の神様に尋問を担当して頂けるのなら、その辺も楽に済みそうなんですが?】
【面倒だねぇ。でもまぁ暇だしいいか。
あれ?そう考えると、一番の貧乏くじを引いたのは私って事になるんじゃ・・・?】
【かも知れませんねぇ。でもまぁ今回だけでしょうし、諦めて下さい。
とりあえず私が黒幕の所に到着したら、改めてミツハルさん共々行動開始って事で宜しくお願いします。
到着したら、念話で連絡を入れますので】
【やれやれだね。了解だよ】
詳細が決まったので、早速行動開始・・・の前に。
ミツハルさん達全員には念話で決まった内容を連絡して、こちらの動きに合わせて貰います。
一応、さりげなくトウには天ちゃん達を抱っこしているミーさん達の近くに移動して貰ってっと。
んじゃ、オペレーションスタート!
そう言えば、睡眠薬って始祖の神様が言ってましたが、”睡眠耐性”ってスキルは俺の世界じゃ無かったな。
“不眠耐性”スキルはあったけど、アレって眠気に対する耐性だからそっちがアクティブになってるのかな?
それとも、一応毒とも言えるから“毒耐性”の方か?もしかして状態異常耐性系が効いてるのか?
あ~。そうだとしたら、俺って麻酔の類が一切効かないって事になるのか?
外科手術とかする機会があったとしたら、それってマズイかな?
あ?そもそも分体でもヒール系魔法で治療出来るから、そんな心配は要らないか~。
とか考えつつ“睡眠薬入り”のワインを飲み進めます。
陸くん達は1杯目を飲みきった時点で即ダウン。結構強い睡眠薬だったみたいです。
安全面を考慮して、信頼出来る女官さん達に寝室へと運んで貰いました。
ちなみに、ミツハルさん達の寝室も祭壇(?)部屋近くの場所だそうです。
どうせならって事で、ミーさん達も天ちゃん達を連れて寝室へ。
これで一応は襲撃があっても問題無し!なんだけど・・・あっけな過ぎる・・・。
ミツハルさんも2杯目でダウン。こちらは“薬が効きましたよ~”って目安の為に放置。
一応、トウをテーブルの下に待機させておきます。
それじゃ、無駄に窓を破壊されるのも何なので自分から出て行ってみますかね~。
「あ~多少酔ったみたいだ。少し失礼して夜風に当たってくる」
食堂の窓を開けて外庭に出たら、一応窓を閉めてっと。
酔った風を装いながら、フラフラと10mほど壁伝いに歩いて、壁に寄りかかって座り込みます。
で、寝た風を装う為に意図的に呼吸回数を減らしてみる・・・。
・・・どうでしょうか?
ほら!皆さんの目の前に、丁度良いエサがありますよ!早く食いついて!!
そうじゃないと、俺が大根役者みたいで恥ずかしいからさぁ!!!
あれから数分が経過。余りにも時間が掛かる様なら、待機時間延長を始祖の神様達に連絡しないと・・・。
じれじれしながら寝たフリを続けていたら、ようやく数人がこちらに近づいてくれました。
つーか近づいたら近づいたで、足先で軽く俺に蹴り入れるとかどうよ?
ちょっとイラッとしたけど、ここは我慢我慢・・・。
「・・・コイツには十分に効いたようだな。創造神らはどうだ?」
「創造神は既に寝入った様子です。残りの異世界の神2柱は相変らず飲み続けて居ますが・・・」
「アレを飲み続けていられるなど・・・化け物の類か。 こちらに気付かれた様子は?」
「大丈夫かと」
「創造神の従者一族の方は?」
「奥の部屋で寝入った事を確認しました」
「奥の部屋か。我々ではそちらに手は出せんな・・・。
仕方が無い。主目標であるコイツだけを確保して、速やかに撤収する」
「宜しいのですか?」
「やむを得んだろう。それよりも起きている残りの異世界の神達に気付かれる方が厄介だ。
こちらの全戦力で強襲したとしても、奥の部屋には手が出せんし、
異世界の神の戦闘能力も未知数である以上、無理は出来ん。
別の人質を取る事は出来無いが、コイツ自身を人質にも出来る。ならば今が引き際だろう。
それにしても、ノコノコ出てくるなど馬鹿な奴だ。この機会を逃す手は無い。
早急に引くぞ!別働隊にも撤収の連絡を!」
ひょいと肩に担がれて、すぐに移動開始。
ふむ。妙に時間が掛かったのは、始祖の神様達が平然と飲み続けていたせいっぽい。
無駄に時間食ったわ・・・。
一応化け物呼ばわりしてた事と、予定通り釣れた事だけ連絡しとこ~っと。
で、周囲の人達の様子からすると、俺を担いでいるのがリーダー格っぽいです。
他に追従しているのは・・・10人ちょっとぐらいかな?多分だけど。
現状としては、俺を担いでいるリーダー格を中心に、逆紡錘形の陣形で人気の無い路地を疾走しているっぽい。
つーかね。そんな事よりも、俺の運び方が雑過ぎ!
肩に担いだまま跳んだり走ったりするものだから、がんがん俺の顔面が担いでいる奴の背中に当たってます。
黒っぽい装束の下に、鎖帷子か何かを着込んでいるのか、顔面と言うか俺の鼻が背中に当たる度に痛いです。
まぁ寝たフリを続けている以上、脱力していないとおかしいので我慢してますけど・・・。
50kgぐらいの俺を肩に担いだまま、跳んだり走ったり出来るパワーとスタミナはすごいと思いますよ?
その上鎖帷子みたいな装備までしてるんだから、かなりしんどいはず・・・でもね?
オイコラ!そんな運び方をしていたら、幾ら何でも起きるだろうが!
頑張って寝たフリをしている俺の身にもなってみろよ! もっと丁寧に扱え!
雑な運び方と、地味な痛さに我慢すること数分。
目を閉じていたから周りの様子は分からないけど、ちょっとした閑静な住宅街っぽい所に到着したのかな?
明かりも乏しいし、かなり静かな場所だから、多分それで合ってると思います。
で、何処かの屋敷っぽい所に到着した模様です。門を開ける音がしました。
ここまで全部俺の感覚的なイメージです。
“衛星の視点”スキルを使えばすぐに場所が判るんだろうけど、楽しみが減っちゃうと思って使ってません。
まぁ別に何処に運ばれようが、こっちは構いませんからね。
どうせ転移系スキルは使えるんだろうし。万が一使えなかったとしても、派手に暴れれば済むしね。
それをしないのは、単純に黒幕を逃がさない為ですよ。うん大丈夫、今はまだ我慢しよっと。
憂さ晴らしは、後のお楽しみに取っておこう。
・・・とりあえずは此処が目的地なんでしょうかね?
それじゃ、先ずは忘れないうちに始祖の神様達に到着の一報を入れてっと・・・。
連絡完了!
もうミツハルさんは魂の神様に起こされて、既に手勢を集め始めて居るらしいです。
あっちはあっちでちゃんと動き出してるみたいだし、こっちも少しは時間稼ぎもしなきゃいけませんねぇ。
さてと。んじゃ、俺の方もコソッと軽い悪戯程度から反撃を開始しますか。
先ずは“衛星の視点”スキルでこの屋敷の大きさを確認してっと・・・。
・・・もう誰一人として、此処から逃がすつもりなんてありませんよ?
とりあえずは俺を運んでいた奴。お前は仕返し決定済みだからな?
鼻の痛みを我慢した分だけはやり返さないと気が済まないので、ちゃんと覚悟しとく様に。




