第154話 ユメ
「ミツハルさんご一家はこちらからお願いしたので当然なのですが、始祖の神様?何故居られるのですか?」
正直言って“マジで何しに来たんだコイツ?空気読め!”って感じです。
『ふむぅ。連れないのぅ。
聞けば魂の神やミツハルらは1週間程度は滞在するのじゃろ?
じゃったら、ワシが一緒に居っても別に良いでは無いか。
何、ちゃんとお主の子らが元気に誕生するかどうかを見届けに来たんじゃよ?ワシ』
「・・・なるほど。
とりあえず予め言っておきますが、此処に滞在されているとしてもお酒を出したりはしませんからね?
当然ですが、“接待”もしませんから」
『いやいや。祝い事に酒は付き物じゃろうしのぅ。せめて毎日の風呂酒ぐらいは出してくれんかの?』
「・・・ふむ。
始祖の神様は、正直に言って何をしに来られたのでしょうか?」
『それは勿論、サウナと風呂酒を楽しみに・・・』「帰れ!!!」
とりあえず転移魔法で問題が無いだろうと思われる北極大陸の適当な場所に、始祖の神様を強制転移。
モノリスの書だと、神の居住区以外には干渉出来無いはずなので、今頃リザ系銀河外に放り出されて居るハズ・・・。
「ふぅ。やれやれ。始祖の神様にも困ったものですね」
俺、超笑顔。
『始祖の神様相手にこんな事するのって、絶対にリュウノスケくんだけだよ?』
苦笑している魂の神様&美の神様。唖然としているミツハルさんご一家。
ルナ達やトウは特に反応ナシです。
「えっと・・・始祖の神様相手に、こんな事をして本当に大丈夫なんですか?」
「まぁ大丈夫なんじゃないでしょうか?
一時的に放り出しはしましたが、進入禁止措置はしてませんからね。じきに戻って来られるかと。
ただのじゃれ合いみたいな物ですよ?」
「なら・・・大丈夫なんですかね?」
とか言ってたら、客室から始祖の神様が現れました。
『やれやれ。問答無用で此処から排除するとは、リュウノスケも短気じゃのぅ』
「ほら。もう戻ってきた」
『む?』
「少しは反省して頂けましたでしょうか?」
『仕方が無いのぅ。
とりあえずは、無事に生まれるまでは我慢するとしようかの』
「・・・まぁそれなら良しとしますかね。
従ちゃんと接ちゃんに会いに来たと思えば、許容範囲内ですし。
さて、ちょっと始祖の神様で遊んでしまいましたが、それはさておき・・・。
今回は特にですが、ミツハルさん達には色々とご面倒をお掛けすると思いますが、何卒宜しくお願い致します」
「いえいえ。今までお世話になった分を少しでもお返しする機会ですからね。こちらこそ宜しくお願い致します。
一応出産に関する諸々も、ミー達が自分達の世界での遣り方とかも勉強してきましたからね。
お手伝い出来る事も多いと思います。自分共々、精一杯頑張らせて頂きますね」
「それは有難い!
来て頂いて早々ですが、どの程度こちらに滞在可能なのでしょうか?」
「一応は産後5日程度まで、お邪魔しようと思っています」
「そうですか・・・」
『ふむ。ミツハルよ。それはちと短過ぎやせんかのぅ?』
「やはりそうでしょうか?
しかし・・・それ以上となると自分達の世界での新年会まで、余り時間が無くなるのですが?」
『いやの?その程度の日数じゃと、ワシらが十分に風呂酒を楽しむ日数が・・・』「帰れ!!!」
「「「「「「『『・・・』』」」」」」」
「ふむ。
こういうお約束は3回目以降が“天丼”なんですけど、始祖の神様は何回目まで続けるおつもりですかね?」
『いや、リュウノスケくん。始祖の神様は“お笑い”担当じゃないから・・・』
「まぁいいや。
とりあえず客室へどうぞ。部屋は今年の正月に使って頂いた部屋でお願い致します。
その間にお茶の準備をしておきますので」
とりあえず皆さんを客室にご案内。
その間に、お茶とお茶請けを人数分配膳して終了。
今回はリンゴのハーブティーとフィナンシェにしてみました。
改めて全員集合したら雑談タイムです。しれっと始祖の神様も同席してます。
まぁどうせ戻ってくるだろうと思って、お茶とかも配膳済みだったから別にいいけどね。
で、先ほどミツハルさんが気になる事を言っていたので再確認してみたら、
ミーさん達(海ちゃん含む)はミツハルさんの世界で何度か出産のお手伝いの経験を積んできてくれたらしいです。
ちょっとだけですが、ミツハルさんの世界の“産婆さん”にも師事してから来てくれたらしいので、非常に助かります。
美の神様もサポートに就いてくれるらしいし、トウにもサポート係を予定しているので、男連中には仕事が無い感じ。
赤ちゃん達のお世話ぐらいかな?それも陸くん達で十分らしいので、マジで俺ら男神様連中は要らん子扱いです。
その流れでまた始祖の神様がボケた発言をかましたので、3度目の強制退去にしたのは余談。またすぐに帰ってきたし。
日々の食事に関しても、以前からミーさん達がウチの食材を自由に使ってみたかったって事と、
“産婆さん”から、授乳期や妊娠中に良い食事なんかも教えて貰ったらしいので、ついでにお願いしておきました。
まだまだミツハルさんの世界では量産化が出来て居ない食材なんかもあるらしく、いい機会なので腕を上げたいそうな。
その点で言えば、確かにウチは食材が本当に色々と豊富に取り揃えてありますからねぇ。
ついでに従者経験の長いミーさん達から、ルナ達も刺激を受けてくれれば言う事無しです。
授乳期や妊娠中に良い食事なんかに関しても、ルナ達にもレクチャーして貰えるらしいので、非常に助かります。
って事で、早速今晩からミーさん達が主となって毎食の調理も担当してくれる事になりました。ありがたや~♪
まぁミーさん達だけだと食材のコピーなんかが出来無いので、俺かルナ達の立会いは必須なんですけどね。
無くなったからって、また創造魔法で思い出して出すのも正直面倒臭いし。
そんなこんなで夕食にはまだ時間があるし・・・って事で男連中でお風呂へ。
女性体組みは、今後の段取りとか諸々の予定を相談しつつ雑談タイムに突入しました。
「ふぃ~。風呂はいいですねぇ」
「あれ?リュウノスケさん?お疲れですか?」
「あ゛~かも知れないですねぇ。
私に子供が出来ると思うと、正直不安でちょっと寝不足気味なのかも知れません」
『のぅリュウノスケよ?酒は出さんのじゃな?』
「あ゛ぁ?始祖の神様もしつこいですよ?」
『いやいや。ただの確認じゃよ?
頼みなんじゃが、酒は出さんで良いから升だけは出してくれんかの?』
「あ~。手持ちがあるって事ですか。それならば私がとやかく言える問題でも無いか。
全く・・・仕方ないですね。『出ろ!』とりあえず、人数分です。ちゃんと分けてくださいね?」
『ちゃっかりしとるのぅ。まぁ良いわ。
で、魂の神よ。お主は残っておるじゃろ?出せ』
『え?始祖の神様がお持ちなのでは?』
『ワシの分は下賜したり何だりで、とうの昔に残っておらんわい。
今年も・・・いや昨年も一昨年もじゃが、ワシが此処に来る様になってから、お主から献上を受けた覚えは無いがの?』
『ぐっ・・・分かりました』
幻の酒を取り出す魂の神様。
つーか、今まで渡してた分は始祖の神様に献上してたって事ですかね?
だったら始祖の神様が来る様になってからの分は、どうやって処理してたんだ?
『何じゃ。“マナ酒”は無いのか?』
『それは“原初の3柱”で飲む時の楽しみとしたいので、ご容赦のほどを・・・』
『ふむぅ。まぁそういう事ならば仕方が無いのぅ。
陸、空。酌を頼む。お主らも遠慮なぞしとらんと、こっちに来て一緒に飲め』
そんな感じで風呂酒開始です。
神様4柱&お酌しつつ飲む陸くん達でわいのわいのと楽しい時間。
そう言えば・・・と思ったので、ミツハルさんのその後について聞いてみる。
「ミツハルさん?
ミツハルさん達ってご自身の世界では顔出ししてて、上級神の昇格とかミーさん達の“神化”とかありましたけど、
ミツハルさんの世界で、何か変化がありましたか?」
「いえ、ありませんよ?
一応公表はしたので、お祭りとか付き合いのある各国からの祝賀の訪問は受けましたが、世界としては特に」
「ふ~ん。“何か世界に影響があるのかな?”って思いましたが、そんなもんなんですね」
『それはそうだよ。神そのものが変化する訳じゃないからね。リュウノスケくんの時もそうだったでしょ?
ただまぁ神々の中ではそうも言ってられないから、結構な話題にはなったね』
『そうじゃったのぅ』
「へー。そうなんですか?」
「あぁ!そっちは色々とありましたね。
自分も色々な神々から“どうやってこの短期間で”とか散々聞かれました」
『あ!その件については、一応“オド酒”の影響が大きいと思うから、口外しないでね?
始祖の神様からも、今後はミツハルくんの世界に過剰に接触する事は禁止されたし』
「あぁ!それで最近は落ち着いたんですね。了解しました。あと、お手数お掛けしました。
口外に関しても大丈夫です。と言いますか、アレに関しては始祖の神様に丸投げしましたし」
『良い良い。元を正せば“オド酒”のせいじゃしの。
そこの“のほほん”としておる1柱のせいじゃから、ミツハルは悪くないわ』
「いや、もうその件については勘弁して下さいよ。私も意図してやった訳じゃ無いんですから」
『まぁね。
とは言っても、今回の輪廻転生の輪の件で神になった者としてはリュウノスケくんに続いての昇格だからね。
当然神々の注目を浴びる事にはなるし、話題にもなるよ』
「ふ~ん」
「ところで、他の神々の場合だとどの程度の期間で上級神になれるものなんですか?」
『リュウノスケくんを除けば、ミツハルくんの昇格が過去最速になるんじゃないかな?
それまでは数万年単位が最速記録だったんだし』
「「ほ~」」
『前にも軽く言ったと思うけど、“日本”と言うか“地球”から来た魂は優秀な神になる確率が高いね。
ある意味、異常とも言っていいんじゃないかな?』
『そういう意味では、あの世界を統治して居った“あ奴”も評価出来るんじゃがのぅ』
「具体的にはどれぐらい違いがあるんですか?」
『ん~リュウノスケくんに判り易く言うと・・・。
今までの神がF-16Cだとすると、ミツハルくん達がF-15C。リュウノスケくんがF-22って感じかな?
別にMiG-21bisとSU-27、T-50でもいいよ?あぁ!T-50って言っても、パクファの方ね?』
「いや、魂の神様?それは逆に分かり難いですよ?
それに戦闘機で比較した所で、余り意味が無い気がするんですが?
大体、T-50って言ってから、あえてパクファを指定するとか・・・どんだけ詳しいんですか・・・」
『そう?じゃぁ各駅停車のローカル列車と特急列車と新幹線ぐらい違うって言ったら分かる?』
「最初からそちらで言って貰った方が、自分は分かり易いです・・・」
「確かにそちらの方が分かり易いですね。
と言いますか、何でそこまで“地球”に関して詳しくなってるんですか?」
『まぁその辺はリュウノスケくん達を見てたら面白いからね。当然、興味も湧いてくるでしょ?』
「そんなもんなんですかねぇ」
『特にリュウノスケくん達は見てて面白いよ?
ミツハルくん達もそうだけど、やってて気になった事を“地球”で元ネタ探ししてると楽しいしね。
で、元ネタを見つけたら“あぁコレか~”って感じ』
「完全にミーハーになってるじゃないですか・・・“聖地巡礼”じゃ無いんだから・・・。
大体今だったらもっと“地球”も進歩して居るんじゃありませんか?」
『今の“地球”に関しては内緒。当然ミツハルくんにもね?
私は今まで“輪廻転生の輪の改修”に時間を取られてたからね。
それもとりあえずは区切りがついたし、今は時間があるから色々と楽しんでるんだよ?』
「「ん?“輪廻転生の輪の改修”って何ですか?」」
『あぁソレね。
最初はリュウノスケくんが始めた事なんだけど“輪廻転生の輪”に魂の修復機能を付けられないかな~?と思ってさ。
まぁ結論としては“無理”って結論が出たから、付属品を作って対応する事になったんだけどね?』
「あ!自分の世界に来られた時に、設置された“アレ”ですか?」
『そうそう。単純にリュウノスケくんの真似に近くなっちゃったんだけどね?』
「あれ?それならリュウノスケさんの所にも、一応は設置しないのですか?」
『大元はリュウノスケくんが始めた事だからね。この世界に設置しても、余り意味が無いんだよ?
単にリュウノスケくんがやった事の真似をしているだけだからね』
「何の話ですか?」
『リュウノスケくんの世界の“始祖世界樹”の簡易版を作りましたよって話』
「へ~」
『そういう訳だから、私は今、時間的に結構余裕があるんだよね。
だから今後は、今まで以上に此処に来る頻度は多くなると思うから。今後とも宜しくね。
そうは言っても、後2~3年ほどは各世界へ行っての設置作業と、その後の問題が無いかのチェック作業があるけどね。
ま、5年後ぐらいには落ち着いてるんじゃないかな?』
「ほ~。なるほど了解です。
まぁ“パパさん”するならなるべく従ちゃん達と接する機会があった方がいいでしょうしね。
美の神様も助かるでしょうし。
っと、そろそろお酒も無くなりましたし、女子組みを放置してるのも何なので上がりますか~」
そんな感じでさっさと上がって女性体組み&赤ちゃん達と交代。
晩御飯はミーさん達がお風呂から上がってから準備を開始する予定なので、男連中はコーヒー牛乳でまったり雑談。
女性体組み&赤ちゃん達が上がってきたら、ミーさん達と一緒に晩御飯の準備です。
ルナ達&男連中はリビングで従ちゃん達赤ちゃん組みと戯れながら、まったり休憩中。
そうそう。天ちゃんと大地くん用に、従ちゃん達と同じく揺り篭&ベビーカーを創ってお渡ししておきました。
で、揺り篭同士を向かい合わせにしてみたら、従ちゃん達も天ちゃん達も、お互いに“じー”っと見つめ合ってます。
見ているだけで癒されるし、そんな姿も実に可愛らしい。赤ちゃんってマジ天使です。
後ろ髪を引かれつつ、調理&給仕担当はとっとと晩御飯の準備へ。
今夜のメニューは野菜たっぷりポトフとナンっぽいパン。後は各種フルーツ類といつもの野菜ジュース。
一応お代わり自由な様に、量だけは多めに作りました。
“ポトフなら俺でも出来るわ~”と思って、俺とミーさん達でそれぞれ別の種類を作ってみました。
やっぱり俺とミーさん達とでは味の根本や趣味嗜好が違うせいか、それぞれ微妙に味が違うポトフが出来ました。
ま、お好みでお好きな方をどうぞって感じ。
晩御飯後は軽い食休みがてら、適当にお茶しつつ雑談したら、今日は早めに解散。
“お母さん方”は授乳やら夜泣きやらでしんどいだろうと思うので、休める時に休んで貰います。
後片付けなら俺独りで十分なので、片付けが済んだら俺も就寝。
・・・
夢を見た。
幸せな。 何もかもが満ち足りた夢。
希望に満ち溢れ。男の目には何の迷いも無い。
冴えない男の隣に、不似合いなほど美人の女が寄り添い、微笑んでいる。
お互いに心の底から幸せそうな2人。
手を取り合って、共に泣き、共に笑う。
そんな男の夢。
でも俺は知っている。
ほら、もうすぐだ。
この夢は。
全てが砕け散る様な悪夢に変わるのだと。