第126話 閑話 年末年始 その4
***ルナ視点***
いよいよ模擬戦です。対戦前に改めて主様からルール説明。
「それでは改めてルールの確認を。
始祖の神様に戦闘開始の合図を出して貰った直後から、戦闘開始とします。
で、戦闘中に始祖の神様が戦闘不能と判断したら、その者は始祖の神様に戦線離脱者として観客席に転移して頂きます。
それ以外の戦闘に関しては、一切の制限を設けません。
此処に居るのは全員が不死ですし、ちゃんと殺す気で”ゲーム”を楽しみましょう。
勝利条件はただ単に、戦闘終了時に“戦闘不能状態になっていない事”とします。
ただし、相手チームの過半数以上が戦闘不能となっている場合のみ、降伏を可能とさせて下さい。
また、勝利報酬の命令は1つだけとし、対象も1人に対してだけ、と限定させて下さい。
戦闘に関しては、どちらかのチーム全員が戦闘不能になるか降伏しない限り、無制限に続行とします。
以上ですが、何か補足や疑問等はありますか?」
・・・“降伏”ですか。恐らく魂の神様や美の神様、ミツハル様限定の措置でしょうね。
ルールとしては存在するのでしょうが、私共は“主様に従う者”として降伏はお認めになられないでしょう。
正確にはお認め頂けるのでしょうが、その後の事を考えれば私共が“降伏”する事はマイナスにしかなりません。
勝利条件に関しても同様、主様が意図的におっしゃったのでしょうが、私共には明確に“勝利する事”が求められます。
でなければ、私共は“主様に従う者”として主様より“不適格”と判断される事でしょう。
それにしても、主様が常には秘めて居られる一面が滲み出て居られます。
私共がまだまだ未熟だった頃にたった1度だけ表に出された冷酷で残忍な一面。
私共の魂に焼き付いた、本能的に恐怖を抱かせる雰囲気。
トウだけは知らないでしょうが、私共“主様の契約従魔”にとって、悪夢とも言うべき記憶。
ただただ蹂躙される事しか出来無かった無力感が再び蘇り、逃げる事が出来るのであれば逃げ出したい思いです。
『ルールに関しては概ね承知しましたわ。ところで“ゲーム”なのですか?』
「ええ“ゲーム”ですよ。
全員が不死ですし、面白おかしく“本気で”殺し合いを楽しみましょうね?」
『少しリュウノスケさんを見誤っていた様ですわね。
なるほど、ルナちゃんの言った通りの様ですわ。私も本気で頑張らないといけませんわね』
「ふふふ。ルナから何を聞いたのかは判りませんが、楽しみましょうね?」
『ええ。では、お互いの健闘を祈りますわ』
「はい。頑張りましょう・・・。
全員、ルールに関して依存はありませんか?無ければ決定としますが?
・・・無いようですね。では、各々御武運を」
主様方から距離を取りつつ、こちらも戦闘準備です。
『ルナちゃんの言った通りでしたわね。全く。ただの“遊戯”だと言うのに・・・』
【主様が殊更“ゲーム”だと仰って居られた以上、手加減は有り得ません。
決して油断なされません様お願い致します。
・・・正直に申し上げますが、今の主様はかつて私共を蹂躙していた頃の雰囲気を纏って居られます。】
『承知しましたわ』
「は~。自分は不安要素しかありませんよ・・・」
【ミツハル様は回避に専念して下さいませ。
リヴィア。初撃の防御は任せましたよ?】
【はい。
皆様、最初はなるべく固まって下さい。防壁の展開範囲を狭めて逆撃を致しますので】
【リヴィア。判っているとは思いますが・・・】
【はい。主様のご様子を見てから悪寒が止まりません。
全力を出さなければ主様による蹂躙だけで終わってしまいそうです】
【トウ。くれぐれも主様には注意なさい。
お前の役割は主様の足止めです。必ず役目を果たしなさい】
【承知しました】
こちらの準備が完了して間もなく、始祖の神様が手を挙げ、振り下ろすと同時に開始の合図。
『模擬戦始めっ!』
始祖の神様の合図と同時に、主様の気配と言うか威圧感が一瞬強くなった後、私共の後方より魔法の発動を感知。
【リヴィア!】
【くっ!】
ズッ・・・ドゴォォォン!
「がぁぁっ!」『きゃぁっ!』
【くっ。まさか後方で爆発させ・・・えっ?】
リヴィアの防壁が発動してかろうじて爆風だけの影響で抑えられましたが、気が付けば辺りは完全に闇の世界。
何よりも先程感じた主様の気配が一切感じられません。これは・・・。
【危険です!主様の「つぅ・・・ごめんリヴィアちゃん。助かっ!」ミツハル様!すぐに「ミツハルさん甘いですよ」】
『・・・ミツハル。戦闘不能』
唐突に始祖の神様がミツハル様の戦線離脱を宣言。
しかし主様の気配は一切ありませんでした。
何が起こっていると言うのですかっ!?このままでは完全に主様を補足出来ない!
【美の神様!完全に闇の中では不利です。何かしら光源を!っっ!!】
美の神様へ念話を送った直後に美の神様を囲むように主様の気配が。
しかも複数!?どういう事です??
『判りましたわ!“我が光よ!闇を打ち消せ!”・・・なっ!』
完全な闇の中、美の神様の周囲だけ明るくなったのでちらりと視線をやると、複数の主様のお姿が。
【まさか幻影!?分身!?そんなっ!】
確かにその様なスキルは私共にも使えます。
私共であれば気配で幻影と分身を見分けられますが、美の神様には厳しいご様子。
美の神様の周囲だけ明るくしてしまった為、ある意味良い的となってしまいました。
状況把握しようとした事が裏目に出ましたか。
完全に後手に回ってしまった!と思った瞬間にフェンからの攻撃が。
幾ら私と言えども、他の事を考えつつフェンの相手をしていれば倒されかねない為、十分に思考する余裕もありません。
何とかフェンと相対しつつ、たまに攻撃してくるシファードの相手もせねばなりません。
リヴィアもタリズと戦闘を開始している様子ですし、こちらは完全に押されています。
このままではただ圧倒されて終わってしまう!何とかしなければ・・・。
フェンの攻撃を捌きつつ、シファードの目を美の神様へと向かわせない為に牽制もしなければなりません。
この状況、トウで逆転の一手を打つべきなのでしょうが、主様の事を考えると迂闊にトウを使えません。
唐突に暗闇が解除されると、何処からか主様の指示が。
「フェン!タリズと一緒にリヴィアを潰せ!ルナは俺がやる!」
【!!!リヴィア!魂の神様を!】
暗闇が解除されたせいで、一瞬目が眩みましたが、視界の隅で魂の神様が無防備に居られました。
どうやら魂の神様も目が眩んだご様子。この隙は逃せません!
『魂の神!戦闘不能!』
阿吽の呼吸で素早く状況を理解したリヴィアのブレスの直撃を受け、魂の神様は戦線離脱。
ですが、状況は相変らず芳しくありません。
未だタリズ達は健在ですし、何より主様が何処に居られるのかが不明。
美の神様を囲んでいる中に紛れて居られるのか、何処かの影に潜んで居られるのかが不明な為、思い切った手も打てません。
しかしこのままでは負ける事も確実。早々に手を打たねば状況は悪化する一方でしょう。
フェンが私を牽制しつつ、主様の指示通りリヴィアの相手をすべく離れた一瞬を見計らい、美の神様へ念話を飛ばします。
もし美の神様を囲んでいる中に主様が居られれば、これで終わらせられるはず・・・。
【美の神様!爆炎魔法で美の神様の周囲に居る主様の分身を一掃致します!タイミングを合わせて下さい!
爆炎ですので一瞬ですが視覚が奪われます!】
『判ったわ!ルナちゃん!お願い!』
【・・・今!】
カッ!ドゴォ・・・
美の神様を中心とした爆炎魔法で主様の分体は一掃出来ました、が。
始祖の神様より主様の戦線離脱が宣言されない以上、何処かに潜んで居られるはず・・・。
「シファード!協力してリヴィアの相手を!」
『フェン!戦闘不能!』
どうやらリヴィアも被弾覚悟でフェンを討伐出来た模様。これでかなり楽に・・・。
「ちっ『幻影』『分身』行けっ!」
今聴こえた主様のお声は・・・影からではない??
主様の幻影と分身に囲まれはしましたが、どうやら幻影と分身は積極的には攻めて来ない模様。
ならばまた爆炎魔法で一掃すれば。
と考えた瞬間、猛烈な悪寒とほんの僅かな空気の揺らぎを感じ、反射的に回避行動を取ってしまいました。
ヒュッ
私が居た場所で風を斬る音が。
これは主様!?姿が見えないと言う事ですかっ!?
ガッ!
【しまっ!】
ザシュッ!
『トウ!戦闘不能!』
反射的に回避した為十分に回避出来ず、主様によって私の影が攻撃され、トウの影隠れがキャンセル。
そのままトウは戦線離脱。
全く見えませんでしたが、トウの死に様や音から判断して、主様は“剣”の様な物で戦って居られるご様子。
恐らく幻影や分身が持っている形状の武器と同じでしょう。
そうと判れば、音や空気の動きだけを頼りに主様の攻撃を避け続けます。
出来れば周りを囲む主様の分身ごと魔法で一掃したい所ですが、主様がお持ちの武器は猛烈に嫌な予感がします。
実際にぎりぎりで回避が間に合った場合など、私の毛が何の抵抗も無く切り裂かれて行きますので、直撃すれば危険です。
周りを囲む主様の分身が持つ剣も同様。
気配がある分、余計に主様本体の攻撃が何処から来るのか油断も出来ません。
私の集中力が切れるのが先か、状況が動くのが先か・・・。
極度の緊張状態の中、タリズとリヴィアの戦線離脱が始祖の神様より宣言されました。
リヴィアが頑張った以上、長姉である私が簡単にやられる訳には行きません。
「シファード!美の神様の相手を! くっ!」
主様の声が聞こえた瞬間、反射的にその声の発生源を中心に爆炎魔法を発動。
・・・これでも主様は倒せませんか。
ですが、囲まれていた状況からは脱した以上、先にシファードを倒さねば。
また状況が悪化してしまいます。
頭の片隅に主様の攻撃が来る事を予測しつつ、シファードの討伐を最優先とし、行動をおこします。
美の神様へ念話で周囲に居るのは幻影と分身であり、積極的に動かない限りは問題無い事。
幻影と分身は気配で判断し、分身だけを攻撃して頂く様にお伝えし、私はシファードの討伐に専念します。
私共の中で最速を誇るシファード。
こちらの攻撃を中々命中させる事が出来ません。
先程から主様からの攻撃も止まっていますし、一旦主様の事を忘れ、一刻も早くシファードを討伐した方が良いかも知れません。
魔法によりシファードの退路を潰した後、突進しつつシファードの首に噛み付き、食い千切れました!
これで主様に・・・。
そう思った刹那。私の首を通り抜ける冷たい刃。
あぁ。やはり主様は侮って良い相手ではありませんでしたね・・・。




