第125話 閑話 年末年始 その3
***ルナ視点***
模擬戦の対戦場所は私共の方が数的に不利(主様的にトウは含まないみたい)の為、主様からは選択権をこちらに譲るとの事。
その主様。
分体の再作成の為にお独りで主寝室へ。恐らくただの“分体の再作成”だけでは無いかと思います。
主様が“ゲーム”とおっしゃった以上、何かしらの策を講じて居られるはず。
主様以外の全員で遊戯室へと移動しながら、早速美の神様と相談です。
『ルナちゃん?
戦う場所は任せるとリュウノスケさんは仰って居ましたが、どう言う事ですか?』
「遊戯室は開閉する時に任意で内部の環境を自由に選択出来るのです。
ですので、今回の“模擬戦”で戦う環境の選択権をこちらが頂いた。と言う訳で御座います」
『なるほど。で、どうしましょうか?』
「私に一任して頂けますか?後ほど、ちゃんと理由はご説明させて頂きますので」
『構いませんわ』
「ミツハル様もそれで宜しいでしょうか」
「任せるよ。と言っても、多分自分が一番の足手纏いだからね。
今回は指示して貰って従う形にした方が良いと思うから」
「承知致しました。では」
選択したのは草原です。
可能な限り遮蔽物が少なく、影の少ない地形を選択した結果です。
氷原でも良かったのですが、大事な場面で万が一足を滑らすなどの不慮の事故を回避する意味でも最適であると考えました。
『草原・・・ですか。かなり広い空間ですわね。これなら十分に散開して戦えるでしょう』
「いえ、今回はむしろ逆を狙っています。
詳細は後ほどご説明致しますので、先に主様が来られるのを待ちましょう」
少しして、主様も遊戯室へ来られました。
「お待たせしました。『出ろ!』とりあえずお昼御飯です。
軽食程度ですが、これから運動しますし、丁度いいですよね?」
『有難うございます。では私達は少し離れて作戦会議をさせて頂きますわね』
「了解です。あぁ!審判は始祖の神様にお願いしますね?
で、戦闘不能の判定が出された者は・・・『出ろ!』そこの観客席に転移させる。と言う事で。
戦闘不能判定者の転移と治療に関しては、始祖の神様にお願いしても問題ありませんか?」
『構わんぞ。その程度ならお安い御用じゃ』
「では宜しくお願い致します。
ある程度の枠は決めましたが、後ほど改めてルールをちゃんと決めましょう」
『承知しましたわ。では』
「はい。楽しみましょう」
美の神様方と連れ立って、主様から離れた場所にシートを広げ、昼食を取りつつ作戦会議と参ります。
『さてルナちゃん。どうして草原にしたのかしら?』
「その前に確認させて頂きたいのですが、美の神様やミツハル様はどの程度の強さをお持ちでしょうか?
もし主様や魂の神様と1対1で戦闘した場合、どちらが優勢となるでしょうか?」
「あ~ごめん。
さっきも言ったけど、自分じゃリュウノスケくんは止められないよ。
あれからかなり努力して強くはなっているだろうけど、まだまだリュウノスケくんの相手にはならないと思う。
魂の神様とは戦った事がないから判らないけど、勝てるとは思えないかな?
自分はまだ中級神だしね」
『私はリュウノスケさんの力量は判りませんが、魂の神様相手ですと少々分が悪いでしょうか?
すぐに負ける事は無いとは思いますが、勝つ事は難しいでしょうね』
「なるほど。承知致しました・・・」
予想以上に厳しい戦いになりそうですね・・・。
「では草原を選択した理由をご説明させて頂きます。
先ずは遮蔽物が少ない場所である事を優先させて頂きました。
可能な限り不意打ち等を防ぐ目的です。
後はリヴィアのブレスを遮る物が無い方が戦いやすい事。
お互いの連携も取りやすい事を第一としました。
次に・・・トウ。影隠れスキルを使用して。私の影でいいわ」
私の影に隠れるトウ。それを見て驚いている美の神様とミツハル様。
「このように影が存在すれば、トウと主様は隠れる事が可能となります。
トウ。もういいわよ・・・。
不意打ちを可能な限り防ぐ目的で“影”が出来る物が少ない環境を選択した次第です。
先程美の神様は散開して戦う事を想定されて居られましたが、私としましては各個撃破される事を危惧して居ります。
むしろある程度固まって、最初は防衛しつつ先ずは相手の数を減らす事を優先すべきと考えました」
『なるほど。
でもそこまでしなくても、リュウノスケさんの感じですと、勝ちを譲ってくれると思うのですが?』
「主様が“ゲーム”と仰った事が気になります。
以前主様は“ゲームに関しては負けず嫌い”だとご自身で仰って居たので、
本当に主様が“ゲーム”だと思って居られるならば、全力で勝ちに来ると思って頂いて間違いありません」
「あぁ!そう言えば昔そんな事も言ってたね。リュウノスケさんは相変らずだなぁ」
『“ゲーム”とはただの“遊戯”の事でしょう?そこまで固執する様な事なのかしら?』
「美の神様。
自分やリュウノスケくんが元居た世界では“ゲーム”に人生を捧げるほど固執する様な人も居たんですよ」
『その気持ち、私には判りませんわ・・・』
「まぁそれはともかく、主様は全力で勝ちに来ると仮定して行動して下さい。
私共も全力で戦う所存ですので」
リヴィアやトウに視線を向けると、了解しているのか頷きが返って来ました。
こちらは大丈夫なようですね。
「ところで、ルナちゃんやリヴィアちゃん。トウくんなんかはリュウノスケさんと比べたらどちらが強いの?
前からちょくちょく聞いていたけど、リュウノスケさんの“分体”よりは強いらしいけど?」
「主様が“分体”で戦われる以上、トウを除けば単独で負ける事は無いと思います。
主様と戦闘訓練をしていたのは昔の話となりますが、あの時点で既に各々が主様の“分体”の強さを超えて居りましたので。
個の戦闘能力としては主様よりも魂の神様やタリズ達の方が脅威になるかと考えます。
個の戦闘能力としてはリヴィアが最も強い事が、こちらが優位である点になるでしょうか?
美の神様?魂の神様の戦闘能力としてはどの程度なのでしょうか?」
『分かりませんわね。
少なくとも戦闘特化のお方ではありませんので、それほど脅威とはならないと思いますが』
「でしたら第一に、如何に早くタリズ達を討伐するかによって勝敗が決すると考えて良いかと思われます」
『分かりましたわ。
戦闘に関しては私も素人同然ですので、ルナちゃんにお任せしますわ。
ミツハルさんもそれで宜しいですか?』
「ルナちゃんの話を聞く限りでも、自分は完全にお荷物ですからね。お任せ致します」
「では僭越ながら、私が指揮を執らせて頂きますね」
『ルナちゃん。リュウノスケさんの戦闘方法としてはどういったスタイルですの?』
「主様は特に固定したスタイルをお持ちではありません。
が、奇策や奇襲。搦め手などを多用する傾向が強いと思います」
『魂の神様は戦闘特化のお方ではありませんので、リュウノスケさんが指揮を執ると考えて動いた方が良いですわね』
「はい」
『では、此処までを決定事項として、ルナちゃん?どういった作戦で戦いますの?
今までの話を総合した限りでは、こちらが若干不利だと思いますが?
ミツハルさんやトウちゃんが戦力外ならば、ですが』
「そうですね・・・。
恐らくですが、主様が指揮を執った場合、先制攻撃としてこちらの視覚を奪う攻撃をされるでしょう。
我々の眼前に爆発系統の魔法を使われるか、闇系統の魔法を使用し、一時的にでも視覚を奪う可能性が高いと考えます。
そうした上で真っ先にミツハル様を襲い、数的有利を確定させた上で各個撃破を狙ってくるかと。
次に奇襲等による不確定要素を排除する目的でトウを狙ってくると思われます。
それらを想定した上で・・・リヴィア。初撃の防御に関しては任せます。防ぎなさい」
「はいルナ姉様」
「初撃から一連の流れでミツハル様を守り切れれば勝機も見えてきます。
トウ。恐らく主様なら防御力的な観点から、お前はリヴィアか美の神様の影に隠れて居ると考えるはずです。
あえて私の影に隠れつつ、主様を発見し次第主様を襲いなさい。
倒せずとも足止めが出来れば十分です。
倒されない事に重点を置いた動きで、持ち堪えなさい。私かリヴィアが主様を討伐します」
「承知致しました」
「美の神様は神としての格からして、恐らく魂の神様の相手をして頂く事になるかと思います。
主様ご自身の性格的にも、ご自身が美の神様に対して積極的に戦う事は無いと思われますので。
タリズ達の誰かを先に倒すことが出来れば、私共が救援する事も可能となりますので、守る事に重点を置いた動きでお願い致します。
ただ、シファードからのブレスなど、思わぬ攻撃は予想されますので、
可能な限り攻撃を回避する事のみに集中して下さい」
『分かりましたわ。ですが、ルナちゃん達の負担が大きいのでは?』
「恐らく主様ならば私の相手はフェン。リヴィアの相手はタリズ。遊撃としてシファードを使ってくると思います。
私とフェンならば私の方が優勢ですので、シファードの遊撃としての攻撃を封じつつ、戦闘も可能です。
ただ、やはり主様の存在が厄介です。
初撃を防げたとしても、何かしらの手段で撹乱して攻撃してくると思いますので。
皆様、主様の動向には十分にご留意下さい。
ミツハル様には誠に申し訳御座いませんが、遊撃として的になる事をお願い致します。
美の神様と同じく、攻撃ではなく回避に重点を置いた動きで、可能な限り戦線を維持して頂きたく思います」
「了解。まぁ妥当な判断だと思うけど、負けちゃったらごめんね」
「はい、承知して居ります。
その上で皆様。くれぐれも手を抜いたりしないようにお願い致します。
少しでも油断した瞬間に、主様から襲われると思いますので。
これに関しましては、美の神様も同様で御座います。
また、初撃以後の主様の行動は私でも正確には計りかねます。
その代わりに、先に主様を討伐出来れば我々の勝ちが確定した。
と思って頂いて構いません」
『手抜きしないなど当然ですわね。私は負けられませんもの。ルナちゃん達も同様でしょう?』
「「はい」」
『ミツハルさん。すみませんが、お付き合い下さいね?』
「了解致しました・・・けど、余り期待はしないで下さいね?
正直足手纏いにしかならないと思いますので」
「ミツハル様。要は負けなければ良いので、多少の犠牲は承知の上です。
申し訳ありませんが、ご了承願います」
「要は体の良い犠牲要因な訳ね。ははは。自分ももっと強くならなきゃな」
「リヴィア。隙があれば、ブレスで魂の神様を狙いなさい。
貴女なら被弾する事を覚悟していれば何とかなるかも知れません。
正直、嫌な予感がします。もし主様に隙があれば、刺し違えてでも狙いなさい。場合によってはトウごとでも構いません。
少しでも早く、不確定要素は排除すべきです。
主様さえ倒せれば、数的不利の状況であっても何とかなるでしょう」
視線を向けると、頷くリヴィア。
ちゃんとリヴィアも主様を侮って良い相手だとは思って居ない様ですね。
「皆様。繰り返しとなりますが、くれぐれも主様の動向には注意して下さい。
先程“分体の再作成”に戻られましたが、ただそれだけの為に戻られたと安易に考えてはいけない気がします。
少なくとも、簡単に勝てる相手では無いとご留意願います。
それと・・・失礼かとは思いますが、美の神様?少々宜しいでしょうか?」
『何かしら?』
「予備知識として、上級神様のお力を理解しておきたいと思います。魂の神様の力量を推測出来ますので」
『構いませんが・・・どうやって確かめますの?今此処で我々同士での“模擬戦”は出来ませんわよ?』
「・・・1発だけ全力で私を殴って頂けますか?殺す気で構いません。
リヴィア。回復は任せるわ」
「はいルナ姉様」
『大丈夫ですの?幾ら戦闘に特化して居ないとは言え、私は上級神ですわよ?』
「私共は不老不死ですので構いません。
それよりも上級神様方の力量を把握出来た方が遥かに意味があります。
魂の神様の力量を推定する為にも、宜しくお願い致します」
『まぁそこまで言うのでしたら・・・行きますわよ?』
「どうぞ」
ガシィィッ!
拳を振り抜こうとして、私の顔で止まった美の女神様の拳。
これが上級神様の全力であるならば、認識を改める必要がありますわね・・・。
「・・・今ので全力でしょうか?」
『・・・全く。呆れますわね・・・今のが私の全力ですわ。
ルナちゃんにはダメージがありませんの?』
「そうですね。
リヴィア。予定変更です。隙を見て魂の神様を倒しなさい。恐らく我々でも可能でしょう。
それと、初撃に関しては確実に防ぐ事。
下手を打てば主様やタリズ達の初撃で決まってしまいます。
また、美の神様は全力で回避に尽力して下さい。
タリズ達の攻撃の余波だけでも、致命傷になる可能性があります」
『承知しましたわ。はぁ、私は上級神ですのに。自信が無くなりますわ・・・』
「いえ、おかげで私共でも魂の神様を倒せる可能性が高い事に気付けました。
むしろ勝機かと」
『そう願いますわ』
「美の神様。“模擬戦”とは言え、絶対に勝ちましょう」
『当然ですわね。やる以上負けるつもりはありませんわ!」
昼食を再開して片付けをした後、主様方と相対します。
いよいよです。私共も本来の姿に戻り万全を期して居ます。
久しく主様と戦闘訓練をして居なかったとは言え、圧倒されるほどの事態には陥らないはず。
主様が何かしら仕込んで居られるであろう事は予想して居りますが、それでも不安は残ります。
が、私共が負ける訳には参りません。御覚悟下さいませ、主様?