第7話 僕の騎士(ナイト)
厳かな雰囲気の中で、黒髪の美男子が頭を垂れている光景をゲーム以外で見ることになるとはね。そんなことは日本にいる時は考えたこともなかったよ。
「サー、セシル・ヒフミ・ハイランダーよ。あなたをこれより、私の妹であるナツウミ・サイトウ・バルシアの騎士に任命します」
アリシア王女曰く、こう言うのは雰囲気が大切とのことだ。彼女のお掛けで、王女の部屋のLED電灯はすべて消されて、部屋は蝋の灯りで照らされている。
「プリンセス、アリシア、謹んでお受けいたします」
アリシアが持ってきた剣を黒髪の男の前に差し出して、彼が何かを言って受け取る。
───まだ、あなたには荷が重いでしょうから姉である私が代わりにあなたの騎士を任命する儀式を行ってあげるわ。次からは自分でやりなさいよ。いいわね。
って、言われてこの騎士任命の儀式とやらを見てたんだけど、
「セシル、彼女がナツウミよ! どう、私の妹はいいでしょう?」
とアリシアがなにを言っているかわからないが、僕を指して笑いながら話している所を見る限り、きっと儀式は終わったんだろう。よし、そろそろ、彼女の下に行こうかな。
僕が儀式が無事に終了した思って、彼女らの下まで近づいて行くと、
「これは、これはとても美しい女性だ」
と何かを言った後に黒髪の男が僕の顎をクイって持ち上げてこちらを覗きこんできた。
ちょ、やめてよ。顔を覗きこまないで! なんなんだよ。このシチュエーション!! いくら、そんな瞳で見つめられたってね。
イヤ、ダメだ!! そんな綺麗な瞳で見つめられると男の僕でも参ってしまうよ。
「セシル、貴方と言えどその態度は無礼よ? 彼女は私の可愛い妹なのだから!!」
「おう、怖い怖い、相変わらずだね。アリシア王女様はさ。誰も君の妹なんて取って喰おうとするわけないじゃなか。そんな怖いことできるわけがないよ」
黒髪の男はアリシアを見てニヤリと笑う。
「…どうだか。まぁ、セシルとナツウミのカップリングも面白そうだから良いかしらね」
グフゥフゥとなんか不気味な笑いに反応して姉を見ていたら、
『紹介するわ。ナツウミ、あいつはね。セシルっていうのよ。加虐性愛者だから気おつけてね?』
と急に話しかけてきた。いや、ニヤリと口元にイヤらしい笑みを浮かべて
『えぇぇえ!? そんな変態を僕の騎士にしたの?』
『嘘よ』
半分くらいはねって、アリシアさんよ。それ聞こえてるからね!! と、とりあえず挨拶をしなくては…
そういえば、彼は日本語が通じるのだろうか?? 見た感じどう見ても、ヨーロッパのイケメン男だよな。日本語が通じる気がしないな。外人さんと話すのは緊張するな。って、僕がここでは外人だったね。
『あ、あの日本語は話せますか?』
「I can not speak Japanese」
ど、どうしよう。日本語が話せないって言ってるよ。これからどうやって彼とコミュニティを取ればいいんだ!! 僕はそう思って頭を抱えると
『コラ、私の可愛い夏海を揶揄って良いのは私だけよ!! 夏海もいい加減に気が付きなさい。どうして言葉がわからないのに彼は英語で日本語わかりませんと言えたと思うの!』
とアリシアお姉様はそう指摘した。
『ははは、バレでは仕方がない』
…よ、良かった。本当に日本語が話せるみたいだ。フー、これら自分の護衛についてくれる人とコミュニケーションが取れないと辛いもんな。
『もう、この子は仕方ないわね』
僕の察しの悪さにため息を吐いた後、アリシアはそう言う。
『彼はセシル・ヒフミ・ハイランダーと言うのよ。一二三という名前から分かる通り、日本の血が入っているのよ。だから、日本語が話せて当たり前よ』
『おい、おい、クオーターのオレが日本語を簡単に覚えれる環境にある訳ないだろう。勉強したに決まってるだろ。まったく、人の努力をこうも軽く扱われると嫌になるな』
嫌になるなと言いながら首を振るセシルの表情はどこか戯けていた。
『プリンセスナツウミ、ワタシのことはセシルとお呼びください。ワタシは貴方の騎士ですからね』
そう言って、僕に忠誠を誓うように手を取り、手の甲にキスをした。
『こいつの甘いマスクに騙されちゃダメよ? セシルは私よりも性格が…』
セシルは傷ついたと言わんばかりの顔をして、身分が上の王女の話に割り込んで、
『フッ、君に言われるとは心外だな。こんなにも紳士なのに。そう思うだろう?』
と言って、ウインクをして同意を求めてきた。姉の王女に対してもこのような態度を取る彼を見ながら、僕の生活は一癖も二癖もありそうな護衛の騎士の存在のせいで、これからも前途多難になりそうだなと思わざる得なかった。