第5話 新しい友だちは日本語が話せない?
きっとこれは夢だ。本当の僕は正月にオコタで温ぬとしていて、みかんでも頬張っているのだ。そう、朝起きたら友達とゲームショップに買い物しに行くんだ。
「Hallo,Ich freue mich, Sie kennenzulernen!」
…現実逃避してる場合じゃない。突然、緑色の目をした茶髪のイケメンが話しかけてきたぞ。何言っているんだろう。わからない!!こいつは何語を話したんだろう!? ああ、日本が恋しいよ。
外国人が必修のバレリア語の授業が終わった後、机の上で現実逃避をしていた僕に突如として、前の座席に座っていたイケメンが急に話しかけてきたのだ!!
「hallo, Ich heiße ...」
ダメだ、何を言っているかわからない。どうしよう!! ぼ、僕がわかる他国の言葉は…
『あいきゃんのっとすぴーくいんぐりしゅ!!』
どうだ!? 僕の完璧な英語!! きっと、言いたいことが通じたに違いない…
『いや、彼が話しているのはドイツ語』
って、日本語を話せる人が隣に居たよ!! と日本語を話しかけてきた黒髪を後ろで一つにまとめた女性を見る。ま、まさか、こんな所に日本人がいたの? やった!!
『あなたは日本から来たのかしら? 私はリー・シェンメイよ。同じ女子だからシェンメイと読んでね! 日本語は難しいから、間違えてたらごめんなさい』
『はい、先週、日本から来たばかりです。斉藤夏海と言います。僕のことは夏海と読んでください』
リーって、ことは日本人じゃないのか。でも、日本語を話せる人がいるだけで助かった。リーさん、本当にキレイだし、日本語を話せるから僕にとっては神。いや、美人だから女神様だ!!
『…なぜ、あなたは日本語が話せるの?』
『昔、少しだけ日本に住んでいたことがあるから』
こ、こんなヨーロッパの聞いたこともないような国に日本語を話せる人がいるとは…
『え、え? なんで泣くの!?』
あれ? 僕の瞳から知らぬ間に涙が滴っていたんだ。それだけ、会話が一切できない学園に馴染めてなかったのか。
…って、今日が転校初日じゃん。友達がいるわけないだろう!!
というか、編入者には自己紹介の機会すら用意しないこの学園は何なんだ!! 僕は学園の座席に案内された後、言葉がわからない授業をひたすら聞かされていたんだぞ!?
「おい、おい、君が泣かせてどうするんだい。仕方がないな」
なにか、このイケメン野郎がこっちに言ってきてるよ。でも、何を言っているかわからないな。
『コンニチハ!! アリガトウ。サムライ、フジヤマ、ゲイシャ、ハラキリー』
日本語? 彼は何が言いたいのだ?
「あんたは黙ってなさい。知ってる日本語の単語を並べてるだけでしょ!!」
「こんな綺麗な女性が悲しげにしているんだ。元気づけようとするのが紳士の努めだろう?」
「アンタのせいで、余計にこの子が怯えてるじゃない!! 見なさいよ!!」
「ふ、イケメンのオレの前に照れているだけさ。では、次はどんな女性も黙りこむイケメンのテクを見せてやる。これをやれば彼女の悲しみて彩られた表情も歓喜にかわるだろうよ!!」
ハァハァ言って、この変態男が僕に抱きついてきたぞ!? や、やめてくれ、僕の身体を撫で回さないでくれ!!
「どうだい? 嬉しいだろう?」
気持ち悪いわ!! なにか得意気にこの変態は言っているけど。わけわからんわ!! 離れろ!! 僕が無理やり、相手を自らの身体から引揚はそうと奮闘していると、
「彼女が嫌がっているでしょう!! 離れなさい!!」
とシェンメイが大声と怒鳴ってくれた。
「そんなわけないだろう。あれ? それにしても彼女は硬いな。胸の感触が一切感じられないな。ああ、なんということだ!! よく見るとペチャパイだ!! 女性の象徴がない!! ナイチチ女だ!!」
突如として、変態男が口を開いたと思ったら、残念そうなモノで見るような目でこちらをチラ見してきた。なんだろう。言葉はわからないけど、すごくムカつくような気がする…
「世の中にはね。言っていいことと悪いことがあるのよ?」
シェンメイがなぜか、徐ろに拳を握りしめてワナワナと手を震えさせている。
「ああ、君も残念だもんね」
この変態男は僕の胸元とシェンメイの胸元を比較するように交互に見た後、ため息を盛大についてそういった。
この変態男が言いたいことがわかったよ。シェンメイのは、男の僕と同じくらいのサイズだもんね。でもさ、女性にそんな態度を取るとね…
「ぼ、暴力反対」
うん、こうなるよね。顔面にパンチを打ち込まれた変態は泣きそうになりながらそう言う。
「セクハラ反対よ。この女子の敵め!!」
シェンメイはイケメンの男を掴むと突如として投げ飛ばし、彼はそのまま教室の床に沈む。
編入学初日、僕は新しい友人ができたようだ。でも、言葉を早く覚えないとやはり彼らとコミュニケーションが取れないんだよな。床に沈んだ変態男にトドメを刺そうとするシェンメイを見ながら、僕の人生は前途多難だなと思ってため息を付くのであった。




