第1話 魔性の女との出会い
あれはいつだっただろうか。確か、中学校が冬休みに入り、しばらく経った日の事だったかな。
親戚からお年玉を貰った僕は喜び勇んで繁華街を歩いていた。その時の僕は5人の野口さんと1人の諭吉さんをお供にどんなゲームを買おうかなと楽しみながらおもちゃ屋を巡っていたのだ。
中学2年生になった僕は今までにない大金を得たことで、本当に浮かれていたんだ。おもちゃ屋に入る時ですら、スキップしそうな程の足取りだったからね。
そんな浮かれた僕が繁華街を歩いていると突然に僕の携帯電話が鳴り出したのだ。
僕は悪友からいつも通りに狩りでもしようぜと声が掛かったのだろうと思い、のんびりとポケットから携帯を取り出した。
所が、携帯を取り出してみるとディスプレイに映しだされている番号が叔父さんのものだった。叔父さんが僕に連絡とは一体どうしたのだろうとぼんやりと考えて携帯を耳につけると、
───おまえの親父さんが亡くなった。早く家に戻ってくるんだ。
と大慌てな叔父の声が聞こえてきた。叔父の一声を聞いて僕は混乱した。だって、有り得ないよね。さっきまで元気にしていた。お年玉を手渡してくれた時はピンピンしていたんだ。冗談だよね。今日はエイプリルフールじゃないよ!!
僕は慌てて、きた道を引き返す。父さんが死んだ? 嘘だろうと落ち着かない自分の心を押し込めて、息が切れるほど全力で…
家の前に着くと救急車が僕の住宅であるマンションの前に止まっていた。まさか、嘘だろう。混乱する頭を抑えながら、自分の住む205号室へ向かうために階段を駆け上がる。
205号室に着くなり、僕はすぐに扉を開ける。すると、目の前に倒れている男の姿。僕は呆然とした。
「救急車がきたが、間に合わなかったんだ」
「嘘だ!!」
横浜生まれの僕には母はいなかった。いや、というよりも知らないのだ。父は転勤族で、僕はずっと親と日本各地をまわっていた。それこそ、いろんな地域を札幌、仙台、名古屋、大阪、長崎、那覇と父の仕事場が変わるごとに引っ越していたのだ。つまり、北は北海道、南は沖縄と各地を転々としていたのだ。
父はそんな人だった。だから、きっと母に愛想をつかされたのだろう。僕が記憶をどれだけ手繰っても母を思い出すことはできないくらいに僕と父だけの生活だったのだ。
そう僕にとって父はたった1人の肉親なのだ。とても大切な…
「我々が来た時には既に…」
僕が涙を流しながら、叫んでいると救急隊員の人がこちらを見てそう言ってきた。
「そんな、父さん…」
僕は涙を流しながら近づき、父に抱きつく。まだ、温かい。きっと、生きているんだ。これは悪い冗談だ。僕はそう思って、何度も父の骸を揺らす。だけと、当然のことながら反応はない。当然だ。父は既に死んでいるのだ。
「父が死んだ!? 嘘でしょう? 叔父さん!! なにか言ってよ!!」
僕は父の弟である叔父さんにそう詰め寄りながら叫ぶ。そんな僕を悲しげな瞳で叔父さんが見て、
「すまない。俺が来た時には餅を喉に詰まらせて、しばらくたっていたようだ」
と言ってきた。餅かよ!! 嘘だろう? 馬鹿なの!! 一人息子を残して餅で死んだの? 有り得ないよ!!
「そんな冗談みたいな死にかたないでしょう? 父さんが死んだって嘘でしょ!?」
誰か嘘だっと言ってくれ!! 僕は心からそう絶叫をしていた。そんなことを長い事していたら、
「あら? 思ったよりも、可愛らしいわね」
と言って、僕の部屋から見知らぬ女性が出てきた。
「決めたわ。あなた女の子にならない? それも誰もが1度は憧れる王女さまという特別な存在にね」
そう言ってうなづいているその女性は見たこともないような妖艶さと美貌を持ち合わせていた。だけと、どこか油断がならないような雰囲気を持っているような気がする。そう、例えるならばまるで彼女はその美貌と身体で男を誑かす悪女のようだった。