裏切りは、時として
ーーーこの世には、不思議なことがたくさんある。
俺は世には存在しないとされている組織に属している。
上からの命令は、絶対とされる組織に。
感情など関係ない。
ただ上からの命令に従っていればいい。
そんな組織に属している。
「市川」
「んー?」
「行くぞ」
「・・・分かった」
都会から少し離れた大学。
そこに2人の青年が通っている。
身分を隠し、ただの学生と偽って。
「ここの理事長は、黒だと分かった」
「だから、殺さないといけないなんてな」
「感情は捨てろ、市川」
「丹羽、お前は優秀な奴だな」
市川、丹羽の2人は日が暮れる頃、教授のいる棟へ向かった。
学生たちに紛れても、なんの違和感のない2人。
中庭を歩いていると、声を掛けられる。
(もう、ここに通えないのか)
市川は女子学生へ手を振る。
「市川くん、また明日ね」
「あぁ」
「丹羽ー!言ったもん明日持ってこいよ!」
「分かってるよ」
(明日にはもういない)
市川は作り笑いの裏で、考えていた。
(俺も、みんなのように過ごしたかったな)
「市川、用意しろ」
「・・・分かった」
教授の棟。
最上階に理事長はいる。
エレベーターを降りるとスーツ姿の男たちが、待ち構えていた。
「学生か、なんのようだ」
「理事長に話があってきた」
「アポを取ってから出直してこい」
「そんな時間はない」
男たちに囲まれる中、丹羽は冷静に話を進める。
そして、肩を掴んできた男の手を捻りあげる。
「丹羽、やっていいか」
「あぁ、さっさと済ませよう」
「何者だ!貴様ら!」
襲いかかってくる男たちをなぎ倒していく。
急所に的確に突いていく。
「失礼します」
理事長室の扉を開け、丁寧な挨拶をしながら中に入る。
「・・・君達が組織の駒か」
「覚悟は?」
「出来ているよ」
丹羽、後ろを向いて座る理事長に銃を向ける。
「心残りがあれば聞いておくが?」
「心残りか。孫の晴れ姿が見たかったな」
理事長の言葉を聞いて、市川が部屋を見渡す、
(家族の写真がいっぱいある)
そんなことを考えていると、乾いた音が部屋の中に響いた。
「丹羽・・・」
「処理班を呼べ」
「・・・分かった」
「市川、感情を捨てろ。俺たちは命令に従うただの駒だ」
「・・・分かってる、分かってるさ」
「・・・ならいい。俺は外で寝てるやつを見てくる」
市川、携帯を取り出し電話を掛ける。
棚に置いてある写真立てを手にする。
(家族、か・・・)
絶命している理事長に寄り、顔を覗く。
幸せそうな表情をしていた。
手に握っているペンダントを取り、ポケットへ入れる。
(家族に渡しといてやるよ)
「処理班をお願いします、学生に見つからないように」
携帯を切り、部屋から出て行く。
ーーー命令に従っていればいい。
けれど、幸せな家族から奪っていいのか?
感情を捨てろ。
俺には出来ない。
理事長の殺害は、他殺として処理させた。
理事長に関わるものに恐怖を与えるため。
「ここともおさらばだな」
「あぁ」
「悪いな、丹羽」
「俺も感情を捨てられなかったということだ」
理事長のこともあり、ここ数日大学は封鎖されていた。
その大学に2人はいた。
誰もいない静かな教室。
「なんで俺なんだ?」
「丹羽とは家族みたいなもんだろ?だから最後の姿を見てほしかった」
「そうか」
「丹羽」
「さっさと済ませよう、日が暮れる」
「あぁ」
丹羽の言葉に笑いが溢れる。
ジャケットの裏から2丁、銃を取り出す。
「組織のじゃない・・・」
「たまたま手に入った」
「たまたまね・・・」
市川、携帯を出し、誰かにメッセージを送る。
そしてロックを解除し、お互いに銃口を向けあう。
乾いた音が、響いた。
教室に倒れる2人。
けれど、起き上がる影。
「ごめんな、丹羽」
市川がゆっくりと起き上がる。
丹羽の握る銃を回収し、教室を出る。
廊下に歩きながら、携帯を出し電話を掛ける。
「丹羽を処分しました」
「そうか、よくやった・・・と言いたいところだが、裏切り者はお前だったんだな」
「?」
「じゃあな、感情のある駒はいらない」
乾いた音が、響いた。
市川の胸に弾丸が刺さる。
階段から落ちる。
乾いた音が、響いたのを聞いて丹羽が目を覚ます。
「市川・・・」
床に広がる赤い水。
丹羽はすぐに教室を出て行く。
階段の踊り場に倒れている市川から、赤い水が流れる。
携帯を取り上げ、通話に出る。
「丹羽くんかい?」
「はい」
「君の演技は素晴らしかった」
「ありがとうございます」
「市川くんはそのまま放置しておいていい。銃だけを持ってきてくれ」
「分かりました」
携帯を閉じ、階段を降りる。
2丁の銃を回収する。
「 」
市川の耳元に寄り、何かを呟く。
ポケットから、何か出し市川のジャケットに忍ばせた。
そして大学を出て行く。
日が暮れはじめた。
市川の目が、パッと開いた。
「丹羽・・・」
ーーー「お前は外から、組織を潰してくれ」
耳元で呟かれた言葉を繰り返す。
「あの組織は、正義じゃない」
お互いに銃口を向けた2人。
だが、市川はペイント弾を丹羽に撃ち、丹羽を殺していなかった。
そして市川は防弾チョッキを着用していた。
銃弾を受けると、赤く着色した血に似たものが飛び出す仕組みになっていた。
そのことを丹羽は分かっていた。
だが、それを丹羽は知らぬフリをして、市川に未来を託した。
丹羽が市川のジャケットに忍ばせたものを手にし、大学を出て行った。
ーーー裏切りは、時として・・・仲間を変える