天子の過ち
莫猗と夜を過ごした皇上は目覚めてから己の過ちを気づくのだった。身支度を整えて金蓉のもとに向かった。寝殿に入ると瞼を腫らした金蓉が力無く座っていた。皇上は彼女に駆け寄り抱き寄せた。
「すまない!」
「いいのです…全ては皇上のお気持ち次第です」
「何も良くない!」
「皇上…」
金蓉は皇上を見上げた。目の下にくまができて醜い容姿であるのには違いない。しかし、皇上は彼女の頬を優しく撫でた。非情さと温情を併せ持つ皇上が恨めしく、同時に愛しく感じられた。この不思議な気分は彼女を一層、混迷へと誘った。
「今夜、また来る。だから、今はゆっくり休め。金蓉、そなたを妻にしたのはお前を思慕してのことだ。わかってくれ。天子といえども完璧ではないのだ」
「はい。しかし、皇上の妻は皇后様だけです。私は末端の妾に過ぎません」
「そなたを妻と思ってはいけないのか?」
「わたくしめには勿体ないお言葉ですもの」
二人は強く抱きしめ会った。しばらくそうした後、金蓉は体をはなし朝食を作ると言い出した。皇上はその申し出を快く聞き入れた。金蓉は粥や菜といった軽めの食事を用意してくれた。皇上はそれらを平らげて自宮に戻っていった。
「露花」
「譚答應、お呼びですか?」
「皇上は昨晩、どこの宮に行かれたの?」
「寶壽宮でございます」
「昨晩は麗妃様の差し金ね…疎まれて当然ね」
露花は言葉を返せなかった。ただ、暗い表情をして主を見つめるしかできなかった。この後宮というのは実に悲しく嫉妬と私欲が渦巻いている。それでも金蓉は皇上の愛を信じるしかなかった。
「…譚答應、しばらくお休みください。皇上もそう仰っていましたし…皇后様の挨拶はわたくしめが代わりに参ります」
「お願いね」
弱々しい声でそう言うと金蓉は寝間着に着替えて寝台に身をゆだねた。その瞬間、一気に疲労と睡魔が襲ってきた。金蓉が深い眠りについたのを確認した露花は皇后の康坤宮へ急いだ。宮の正殿には麗妃、温妃、そして答應となった莫猗がいた。
「あら、譚答應はどうしたの?」
皇后が露花に尋ねた。露花は申し上げます、っと言ってから譚答應が体調不良ということを伝えた。
すると莫猗が隣にいた麗妃と笑い出した。
「体調不良ではなく寝不足ですわ、麗妃様」
「ふふふ…声が大きいわよ」
それに気がついた皇后はわざとらしく咳払いをした。露花は金蓉の言った「麗妃様の差し金」という言葉を思い出した。
「露花、譚答應にゆっくり休むよう言っておきなさい。それと麗妃、莫答應は無闇に口を開かぬよう。第二夫人がそれではこなたが心配だわ…今日はもういいから帰りなさい」
「お先に失礼いたします」
注意されたのが面白くなかったのか麗妃と莫答應はそそくさと正殿を後にした。温妃も軽く皇后にお辞儀をして正殿を後にするのだった。