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愛人~後宮の女たち~  作者: 月島式部
冬の満月
5/21

温妃と麗妃

正月明け、第二夫人として孟華裳(もう・かしょう)が嫁いできた。華裳は「麗」の封号と妃の位を賜った。しかし、それでも彼女は喜べなかった。実は耿家の耿黄玉(こう・こうぎょく)も同時に輿入れしてきたのである。彼女は「温」の封号と妃の位を賜り、華裳と同等の待遇を約束された。第二夫人として重きをなしてもらいたいと言われて嫁いだら、他の女も嫁いでいたことに華裳は憤慨するしかなかった。黄玉の輿入れは皇上が決めたことだった。簡単に言えば黄玉に温情をかけたのである。

華裳は寶壽宮(ほうじゅ)を黄玉は寧福宮(ねいふく)を賜り、宮女と太監と暮らし始めた。皇上は寧福宮ばかりに訪れた。黄玉は温厚で穏やかな気質であったから皇上も安らぐことができたのだ。だが、黄玉を見つめていると七竈の女、金蓉を思い出して仕方がない。

「皇上、また上の空ですよ」

黄玉の柔らかな声で皇上は我に返った。彼女は優しく微笑んで皮を剥いた蜜柑を差し出した。皇上は差し出された蜜柑を手に取り、そのまま口に放り込んだ。甘い蜜柑であった。

「すまない。考え事をしていた」

「あら、邪魔をしてしまいましたか?」

「いや…温妃、そなたに甘えて良いか?」

「何でしょう」

「譚金蓉という宮女を召し抱えたい…今は違う者に仕えている」

「皇上、金蓉という宮女をただただ召し抱えたい訳ではありませんね」

「温妃…!」

「後宮は噂の宝庫、皇上が金蓉を好いているという噂くらい耳にしたことがありますわ。ぜひ、金蓉を側室に迎えたら良いでしょう」

温妃こと黄玉は優しく微笑み、再び蜜柑を剥き始めた。彼女の優しさに皇上は甘えることにした。しかし、これに皇后や華裳は許さないだろう。

「温妃、皇后と麗妃はなんと思うだろうか?」

「さあ、皇后様は天下の母ですよ。寛大な対応をなさります。麗妃はそれに倣いますでしょう」

「わかった…」

皇上は寧福宮を出ると控えていた馬秦に命を下した。それは譚金蓉を答應(とうおう)に封じるというものだった。その命が書かれた聖旨を受け取った金蓉は不思議な気分だった。すぐに「譚答應」と呼ばれ宮女が付き、部屋が与えられた。そして皇上を迎えるために入浴をさせられた。

その迅速な対応は直ぐに皇后と麗妃の耳に入ってきた。勝ち気な皇后は宮女たちのまえでは平然を装った。良妻と呼ばれていたかったからである。だが、麗妃は激しく嫉妬した。そして一人の宮女に目をつけた。その宮女は莫猗(ばく・い)と言った。麗妃は莫猗を入浴させて着飾らせた。

その日の夜。皇上が金蓉のもとに行こうとした時だ。寶壽宮から玉を転がしたような声が聞こえてきた。皇上はその声に耳を傾けた。

「月下に美人有り。君子その美人を得たり。月照らす寝殿で、情を紡ぐ二人かな」

「これは…?」

「巷の流行り歌でございます」

傍らにいた馬秦が答えた。皇宮でしか暮らしたことのない皇上には巷の流行り歌が新鮮に感じた。金蓉のもとに行くのも忘れたほど、流行り歌に興味をひかれた。

「馬秦、この声の主に会いたい。寶壽宮へ参る」

「譚答應は?」

「後にする」

皇上が寶壽宮に向かうと寒空の中で流行り歌を歌う宮女を見つけた。皇上は羽織っていた外套をその宮女へとかけてやった。

「牡丹のような華やかな声だ」

「もしや、皇上…すぐに麗妃様に…」

「いや、そなたに会いに来た。名前は?」

「莫猗と申します」

その頃、金蓉は小さな灯りのしたで時間つぶしに刺繍をしていた。だが、いつまで時間をつぶしていれば良いのかわからない。皇上付きの太監が寶壽宮に向かわれた、と報告に来た瞬間、金蓉の瞳から涙が零れ落ちた。


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