第二夫人
安太嬪は下賜された七竈を見つめた。七竈は夏に花を咲かす。花を見るなら来年である。
「金蓉、この七竈は季節はずれね」
「はい。今の季節なら菊か金木犀でしょう」
「そうね」
「安太嬪様、もう少しで夕暮れです。冷えますから中へお入り下さい」
「そうね」
二人は部屋に入る。秋の夕暮れ時に季節はずれの七竈は寂しく見えた。だが、同時に来年の楽しみが増えた。寝殿で安太嬪が読みかけの書を読んでいると宮女の小繧が夏侯太后の往来を告げた。息子が皇上に即位した夏侯氏は貴妃から一気に太后になったのである。嫡母の元氏は三年前に亡くなっているため彼女が最も高位であった。夏侯太后は正殿で安太嬪を待っていた。安太嬪が向かうと太后は神妙な面もちで座している。
「太后様、遅くなりました」
「急に来て悪いわね。座って」
「感謝致します」
安太嬪が座ると太后はため息をついた。
「安太嬪、最近の皇上はいつも独り寝でね。皇后のもとにも行かないし…」
「元太后の喪が明けたばかりですし仕方ありませんわ」
「違うのよ。皇后は勝ち気で皇上とうまくいっていないの。慎み深くて皇上の意を汲める賢い妃嬪がいればよいのだけれど」
「思い当たる方でもおいでで?」
「耿家と孟家の令嬢を考えているわ」
「第二夫人となれば高貴な身分でなくてはなりませんからね」
「どういうこと?」
安太嬪は金蓉のことを太后に話した。しかし、身分が宮女であることや彼女が御前に仕える気がないことを伝えた。第二夫人は慣例として高貴な家のものが選ばれる。太后は金蓉が宮女であることに落胆した。
「太后様、この先、側室は増えます。きっと金蓉のような妃嬪が現れますわ」
「そう…?でもね、あなたの話を聞いて金蓉に興味を抱いたわ。御前に仕える気がないのは残念だけれどもね」
太后は微笑んで安太嬪を見つめた。先ほどの神妙な面もちは消えていた。彼女と話して気が紛れたのか、それとも金蓉に興味をひかれて悩みを忘れたのかはわからない。安太嬪としばらく雑談した太后は夕食を告げる声で帰っていった。安太嬪も寝殿に移り夕食を待った。今夜の夕食は松の実粥だった。