黒くなりゆく
露花は厨房でお湯を沸かしている蘂之を見つけて声をかけた。
「蘂之、慶妃さまがあなたの料理を所望しているわ。作ってくれるわよね」
「もちろんです!」
「そう、なら真心を込めて作らないとね」
そう言って露花は厨房を後にした足で金蓉のもとに戻った。そこには瓊花も控えていた。金蓉は考え事をしているようだった。すると瓊花が小声で金蓉に尋ねた。
「慶妃さま、茶をいれて参りましょうか?」
「大丈夫。瓊花、あなた巫女を知っている?」
「巫女でございますか!?」
瓊花は目を丸くして驚いた。金蓉は巫女など信じない性格だったからである。
「粛妃さまのことを気になさっているのですか?」
「違うわ…今のは忘れて」
再び金蓉は大きなため息をついた。そこに宮女が現れて李貴人の往来を知らせた。金蓉は気だるそうに正殿に通すよう命じると露花、瓊花を伴って正殿へと向かった。正殿にはやつれた李貴人がいた。目の下にはくまができている。李貴人はひれ伏した。
「貴人李氏、慶妃さまに拝謁致します」
「あら、そんなに畏まらなくても…それとも畏まる理由でもあるのですか?」
「い、いえ…妃になられたので分を弁えようとしたのでございます」
「楽にしてちょうだい」
「いえ!できません」
「顔がみれないのね…わたくしが恐ろしく見えるのかしら?」
「そんなことは、慶妃さま!」
李貴人は顔を上げた。やつれていても美しく見える顔に一抹の嫉妬を覚えた。
「私は麗妃に唆されたんです!」
「急に何を仰るのかしら?」
「わたくし…後宮に容児をつれてきて…お願いです!殺さないでください!今後は慶妃さまのお力になりますから!」
「…ありがとう、なら李貴人を妹だと思って良いのね…なら、今までのことは水に流しましょう。そうだわ、食事でも如何かしら?」




