戸籍
三人は寧福宮へ向かった。危険だと分かっていても温妃の安否が気がかりだった。寧福宮は紅蓮の炎に包まれた。顔や腕を煤で汚した太監や宮女たちが必死に盥やら桶やらで火を消している。その中から一人の宮女が駆けてきた
「皇上!」
「盈盈、温妃は!?」
「この混乱で…春玉殿と一緒だったはずです」
そうこうしている間も寧福宮は燃え続けた。ふらふらになりながら春玉が現れて中に温妃がいると告げた。金蓉は打ち掛けを脱ぎ捨て、それに水をかけた。
「慶嬪、まさか寧福宮に入るの?!」
「皇后様、何かあったら皇子を頼みます」
一礼をして濡れた打ち掛けを頭から被ると金蓉は燃え盛る寧福宮に突入していった。灼熱の炎と熱気がすぐに襲いかかってきた。金蓉は寝所に向かう。すると温妃が寝台にもたれるように倒れていた。
「温妃様、温妃様」
「け、慶嬪…」
「しっかりしてください!」
金蓉は温妃の体を支える。温妃は死ぬ気なのか腕をふりほどこうとする。
「死んではなりません!陰謀で命を投げ捨てる必要はありません!」
「慶嬪…」
温妃は体に力を入れた。そして金蓉と共に炎の道を全力で駆け抜けた。二人は火傷をおいながらも命からがら助かった。
「慶嬪、温妃!」
二人の姿をみつけた皇后は泣きながら駆け寄ってきた。そして命を大切にしろだの、痛いところはないかなど嗚咽混じりに言葉を吐き出してきた。
「皇后様、この戸籍を…」
温妃は懐から戸籍を取り出した。皇后は驚いた。
「皇后様、明日にでも、いえ今日にでも拝見を」




