香り袋
皇后は長椅子にもたれて黒豆茶を飲んでいた。最近、腹の周りに贅肉がついたらしく黒豆茶をかかさず飲んでいる。美容に気をつけていても皇后は孤閏の身であった。そこに舞い込んできた金蓉の懐妊に大きく心を乱されている。そこに宮女の綸子が香り袋を持って現れた。
「綸子これは?」
「薫衣草の香り袋です。気持ちを静め、枕元に置けば安眠できますよ」
「譚婕妤にも分けてあげましょう」
「懐妊したての薫衣草は危険です。贈られるなら橘子がよいでしょう」
「そうなの…」
皇后は綸子から香り袋を受け取った。甘くなく清涼感のある香りが漂っていた。皇后の脳裏に黒い稲妻が走った。
「綸子、莫答應を呼んできて」
「畏まりました」
しばらくして莫答應が現れた。綸子が椅子に案内すると別の宮女が皇后をつれてきた。皇后は微笑みかけた。
「皇后様、お呼びくださり誠にありがとうございます」
「こなたはあなたが心配でね。最近、皇上のお越しがないみたいだけれど」
「皇上は譚婕妤ばかり…夜も眠れません」
「そうね。眠れならいなら、これを枕元に置くと良いわ」
そう言って皇后は香り袋を莫答應に手渡した。莫答應は香り袋を鼻に近づけ香りをかいだ。
「なんと安らぐ香りかしら!皇后様、よいので?」
「こなたは大丈夫よ。さっそく枕元に置いて試すと良いわ」
皇后が席を立つと莫答應も席を立った。宮女に見送られ自室のある梨花房に向かった。その道中、宮女が小さく告げた。
「これを懐妊した譚婕妤に贈られればきっと株があがりますよ。そうしたら皇上も来てくれるかもしれないでしょう」
「そうね!それは良い考えだわ!」
さっそく莫答應は踵を返して碧藍殿へと向かった。外に控えていた瓊花に見舞いと告げて案内をさせた。通されたのは寝所だった。金蓉はつわりのためか顔は青白く、おまけにげっそりとしていた。
「婕妤様、お見舞いに参りました」
「莫答應、香り袋でも持っているの?」
「妊婦は香りにも敏感になると言うけれど本当ですね」
莫答應は袖口から香り袋を取り出した。そして安眠できますよ、っと言って枕元に置いた。莫答應の香り袋を瓊花は怪しんだ。そうして莫答應は茶も飲まず帰って行った。
「婕妤様、香り袋を拝見させてください」
「どうしたの、瓊花?」
渡された香り袋を瓊花はかいだ。そして小刀で袋を裂くと中から薫衣草が出てきた。
「薫衣草!直ぐにこれは捨てましょう!懐妊したての頃は危険です」
「何ですって!莫答應…!」




