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皇上と宮女
大新帝国5代皇帝・文宗が崩御すると、貴妃・夏侯氏の息子、諾が皇位を継いだ。
諾は皇上と呼ばれ、玉座に上がり政治をすることがなによりも大切だと教え込まれていた。
その諾の後宮に上がったひとりの娘がいた。
譚金蓉である。彼女は先帝・文宗の側室、安太嬪付きの目立たない宮女になった。それは目立つことを嫌った為だったし、先帝が後宮でたいへん苦労したのを聞かされていたからである。諍いに巻き込まれるのも巻き込むのも自分次第だ。しかし、金蓉には穏やかな日々など残ってはいなかったのである。
後宮には八階級に妃嬪の位が別れていた。皇后、皇貴妃、貴妃、妃、嬪、貴人、婕妤、答應である。金蓉はそのどれにもなりたくなかった。この後宮で真実の愛など皆無であると悟っていたからだ。妃嬙嬪御は栄華を手にしても愛は残らない。
皇后との夫婦ごっこにも疲れた皇上は「妻」を捜した。心から愛せる女を求めていた。勝ち気な皇后に愛などなかったし、媚びを売る宮女などもってのほかだった。
ただ心から愛せる人が欲しいだけなのだ。