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現実主義者の運命  作者: 水樹亜由
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「いいなあ」


ちょっと時間あるからって、iPhoneでフィエスブックなんか開けなければ良かった。


坂咲真理はげんなりしながらも指は勝手に画面をスクロールしていき、誘惑に勝てず目が写真を次々と追っていく。

懐かしいれんが造りの校舎。大好きだった先生たち。懐かしい食堂の食事。友達の笑っている姿。


いいな。いいな。私も行きたかったな。

皆、大人っぽい。あんなに綺麗になっちゃって。


ため息を一つつく。


高校を卒業して5年。

特別仲の良い高校の同級生以外に殆ど会っていない。

大学で2、3人と会うことは会ったが、全員と会うなんてもってのほか。

多分、次にまとめてみんなに会えるのは5年先の10年目の同窓会。



漫画や小説で、「同窓会」は特別だ。

主人公の女の子が卒業して5年後だとか、10年後だとかに元同級生と再会して恋に落ちたり。

昔は冴えなかったのに今は綺麗になっていて皆を驚かせたり。

とにかく、色々面白い展開になる。だから、真理もずっと同窓会を楽しみにしていた。憧れだった。



高校の頃の真理は別に可もなく不可もなくという感じで、特別人気があった訳でも、いじめられていた訳でもない。はっきりいって地味と言ってもいい。

どちらかというと、成績優秀、男関係皆無、女の子同士でつるんでいるグループに入っていた。

その女友達の1人と一緒に、「お洒落していって皆を驚かせようね」って言っていたのに。

もしかしたら小説みたいなドラマチックな出会いがあるかもってとか密かに期待していたのに。


ついてなーい。

SNSで写真をリアルタイムで見られるから、さらに辛い。


「真理」

「さや」


同僚の青木さやは一足先の4月入社だったが、真理とは気が合い、真理が6月に入社して以来仲良くしている。営業部のホープで、まだ二年目で比較的新人なのに、もう既に昇進?と陰でささやかれているくらいだ。


「どうしたの、浮かない顔して」


真理は椅子をくるりと廻すとさやに向き直った。


「今日がね、高校の同窓会なのよ。卒業して5年目の」

「あー、真理がずっと行きたがってたやつ?」

「そう。有給とって行く覚悟だったのに・・・」

「あー真理暫く同級生に会ってないもんね」

「そう、もう1年は誰とも会ってないよーう。もー本当にこの会議の所為でこんなことに」


「♩♩♩」


言っているそばから友達たちからの写真がメールで届いた。


「あーみんな酔っぱらってる〜」

「よしよし、落ち込むな落ち込むな。お姉さんがアイス後でおごっちゃる」

「おはようございまーす。あれ、先輩どうしたんですか」


ずどん、と机に額をくっつけて落ち込んでいる真理の頭をさやが撫でていると、後輩の水野菜乃香がやってきた。4月に入社したばかりの菜乃香は真理のいる宣伝部に配属されたばかりだが、将来頼りになるだろうというのが明らかな期待の新人で、真理とも仲が良い。


「今ねー高校の同窓会をやってるのよ。それで友達から酔っぱらい写真がきたわけ」

「え、先輩、でも今8時台ですよね」


ぎょっと時計を見上げる菜乃香を見て、あれ、とさやが真理をみやる。


「水野さん、知らなかったの?」

「何をですか?」

「真理、アメリカの高校を卒業してるのよ。だから昼夜が逆なのよ、逆」

「あ、そうなんですか。大学はイェール卒業だって知ってますけど、高校もそうだったんですか?」

「そう、しかも寮制だったみたいよ」

「へえー。どうりで英語の発音も綺麗な訳ですね」



そう。

真理が同窓会に行けなかった理由とは、ただ単に都合どうのこうのていうだけではなく、遠すぎたから。


真理は中学の頃、英語が得意で試しにプレップスクールを受験してみたら、なぜか奨学金付きで受かったので行ってみたらそのまま大学までアイビーで行ってしまったという端から見たら天才、本人から見たらラッキーという経歴の持ち主だった。


寮制だったからこそ、卒業した後は仲間と会うのが難しい。実家が皆遠い上、アメリカの大学生の夏休みはインターンで終わる。夏休みが4ヶ月もあるのを日本の友達には羨ましがられたが、実際は休む暇もなく、毎日仕事で終わった。こんなんだったら日本の大学生の夏休みの方がよっぽど楽なのに、と愚痴ったのはまだ二年前でまだ記憶に新しい。

でもだからこそ、楽しみにしていたのに!


「そうだよなーそうだよなー。お前、楽しみにしてたもんなあ」

「大輔」


わいわいと騒いでいると、真理と同期で同じく帰国子女の大輔がやってくる。大輔も真理と同じ宣伝部の第二課所属で、仕事を一緒にすることが多い。

もっとも、大輔の場合は生まれも育ちもイギリスという、生粋のイギリス出身だ。背が高く、程よく焼けた肌にぱっちりとした目、高い鼻、そして薄い唇。きりっとした眉。美男子な上に帰国子女。当然大輔は、モテる。相当、モテる。社内恋愛は絶対にしないが、彼女がとっかえひっかえだって真理は聞いている。本人曰く、「23で1人と落ち着けるか」らしい。


「大輔はいいよねー・・・ちゃんと行けたもんね」

「まあタイミングが悪かったんだよ、お前。諦めな」

「ううううう」

「そんなお前にニュースを一つ、今日からうちの課にくる新人もアメリカ出身だぞ」


真理はその言葉に反応し、がばっと起き上がった。


「え、あ、今日だったっけ。忘れてた」

「そう、課長がわざわざアメリカに行って面接してきたらしいぞ」

「へえー」

「楽しみですねえ、先輩。目の保養になる人だといいなあ」

「水野さんあんた何言ってんの、このラブラブ彼氏持ちが」

「え、青木さんこそ何言ってるんですか。付き合うのとは別ですよ、べ、つ!誰だって毎日拝む顔は格好良い方がいいって言いますよぅ」

「それはさておきー」


ちらり、とさやが真理を見る。にんまり。


「同窓会でベタなシチュエーションを夢見てた真理ちゃん、新人君と知り合いだったりして[運命の再会]とかになっちゃったりして。きゃー!普段現実主義なのにー!」

「ちょ、さや!」

「え、何それ」

「このコねー。同窓会に行くの楽しみだったのってねー」

「く、九時三分前だから!ほら、早く席に着いた着いた!」



真理は慌てて3人を各自の席に追いやり、一息ついた。さやはまだにんまり笑ってるし、大輔は訝しげな視線を投げかけてくる。やっぱり気になるらしい。




「おはよう」


挨拶とともに、課長がやってきた。

その後ろには背の高い男が一人。短い髪、少し細いけど意志の強そうな目によく通った鼻筋。形の良いあご。典型的な美形の大輔とは違う系統だが、純日本人という感じで感じが良い。


へえ、いけるじゃん、この新人君。

あーでもこりゃあ周りがうるさいだろうなあ。今日は業務、邪魔が入るな。経理辺りから仕事がてら偵察ってのが多そう。でもくる仕事が多分そんなに難しいことじゃなくて・・・


脳内で計算をする。現実主義者といわれている真理。部の他の女性が新人に見とれて、その中の数名は既に新人を落として結婚することまで考えているであろう中、真理は仕事一筋だ。



「・・・ってあれ?」



はた、と思考が止まる。どこかで見たことがあるような。


ふと、新人の視線が真理のと交差する。あれ、と彼の方も瞬いた。


「・・・Marieマリー?」


真理の名前の英語の発音。

あ。やっぱり。


「トシ君?」





「ぶはっ。良かったじゃん真理!同窓会じゃなくてもハプニング起きた!ドラマドラマ!」


宣伝部の皆が真理と新人の男をシーンと見比べている中、いつの間にか側にきていたさやの(少々下品な)笑い声がオフィス中に響いた。




少し海外要素の入ったお話にしてみました。

よろしくお願いします。

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