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「そうか結音ちゃんも軽音部に入ったんだな」
結音が軽音部の入部を決めて次の休みの晩飯時
今日は結音がバイトで4人で晩飯を食べていた
すると何故か父さんが結音が軽音部に入った事を知っていた
それは
「ピアノもギターも弾けるなんて凄いよねお姉ちゃんって!!」
そうこのチビのせい
結音が俺達と初めて練習をしたあの日の夜
ちょうど結音が帰ってきた時に陽菜と鉢合わせしたのだ
そしたら陽菜の注目は結音の背負ってるギターに行く
まあ陽菜は結音の部屋に出入りしてるからギターをやってるのを知ってたみたいだけど
制服を着て背負っているのは初めて見てその事を追求する
もちろん結音は濁していたけど陽菜にはそれは通用せず本当の事を言ってしまったのだった
「いいな父さんも見たいな潤と結音ちゃんがバンドしてる姿
そうだ学祭見に行こうか!!」
「陽菜も行きたい!!」
「絶対に来るな」
「あら残念私も行きたかったのに」
「えっと…勘弁してください…」
父さんと陽菜には強く言えるけど詩織さんにはまだ強く言えない
それに詩織さんのあの笑顔にちょっと弱いんだよな俺
「ところで話が変わるが」
「またかよ」
父さんのこの話の切り返しには最近あまり良い思い出がない
なんか隆と父さんて似てるよなって最近思い始めたぐらいだ
「そう言うなよ潤
これは大切な話なんだ」
「なんだよ改めて」
「6月28日は予定空けといてくれ」
「どうして?」
「お墓参りに行くからだよ」
「お墓参り?お母さんの?」
「いや健二さんのだ
命日なんだよ」
健二さんとは詩織さんの元旦那、結音の本当の父親だ
確か交通事故で亡くなったって聞いたな
「分かった」
「はーい」
「それと6月28日は結音ちゃんの誕生日なんだ
だからお墓参りの後で皆で外食でもしようと思うからよろしくな」
「!?」
「お姉ちゃん誕生日なの!?」
「そうよ」
「じゃあ誕生日プレゼント用意しないとダメだね!!
あとケーキも!!」
陽菜は普通に楽しそうに話してるけど
今聞いた話はすげえ事実だよな?
アイツの誕生日と健二さんの命日が一緒って事だし
てか父さんと詩織さんもなんかさらっと話したけどさ
それって結構なんて言うかキツい事だろ?
でも2人ともしれっとしてるしそんなに気にする事じゃないのか?
それとも陽菜が居るからか?
どっちにしてもあまり気にしない方がいいんだよな多分…
「そうだな誕生日プレゼントか
今どきの高校生は何が欲しいのかな?
同い年でも潤のはなんとなく分かるんだけどな」
「いや分かってねえだろ
毎年毎年変なもん渡して来やがって」
「変なもんとはなんだ変なもんとは
愛が詰まっているだろ」
「どこがだっつーの」
「陽菜もお姉ちゃんにプレゼントあげる!!
お母さん一緒にプレゼント買いに行こう!!」
「ええ今度の休みにでも行きましょう」
「みんながどんなプレゼント選ぶか楽しみだな」
「…俺も買わないといけないわけ?」
父さんの言葉が俺の箸を止める
えっいやいやないない
俺がアイツに誕生日プレゼントあげるとか引くわ
ないないないないない
「もちろん!!
いやー男子高校生の潤くんはそれはそれは素敵なプレゼントを買ってくるんだろうなー
父さんと違ってセンスの塊みたいなプレゼントなんだろうなー」
「さっきの根に持ってんのかよ!!」
《お風呂がわきました》
「おっいいタイミングだな
よし陽菜、父さんとお風呂入ろう」
「えー嫌だよー
陽菜もう子どもじゃないんだからね」
「そう言うなよ陽菜
10歳になるまでは父さんとお風呂入ってくれよー
今度プリン買ってきてやるからさー」
「プリン!?
じゃあいいよー」
「よしっ入ろう!!」
そんな良くある父と娘のお風呂談話を聞いた後
リビングに残されたのは俺と詩織さん2人
するとさっき気にしない方がいいと感じたあの話が直ぐに思い浮かび
なんだかソワソワしてきた
「もう二人とも元気ね
ん?どうかした潤くん?」
「えっ…いやっ…」
「なーに潤くん?」
ソワソワしている俺に気づいて話を振ってくれるもそう簡単に聞ける話題でもなく口ごもる
でも詩織さんは優しい笑顔で聞いてくる
そんな笑顔にはやっぱり勝てなくて俺は詩織さんに分からないように一回だけ深呼吸をする
そしてギュッと手に力を入れ気合を入れると自分の口を動かした
「…健二さんの命日と誕生日が一緒って…本当なんですか?」
「ええそうよ
結音が8歳の誕生日の日だったわ」
「そう…ですか…」
だよなそうなるよな
それを確認すると沈黙が流れる
本当はもう少し聞きたいけどこれは聞いちゃいけないよな
でも気になるんだよな…
「潤くん聞きたいことは聞いていいのよ?
遠慮しなくていいわ」
「…健二さんは交通事故で亡くなったて聞きました
それでその…」
優しく声をかけてくれる詩織さんの優しさに甘えて俺は話を切り出した
しかし聞きたい部分がどうもすんなりとは出てこない
「興味ある?
あるんだったら話しちゃうわよ?」
「…お願いします」
どうしてか凄く聞きたくなった
興味本位かもしれないけどなんか聞いてみたいと思ったから
俺は詩織さんにお願いした
「あの日はね
結音の誕生日だからって3人で外食に行ったの
久しぶりの3人での外食でね凄く楽しかったの今でも覚えてる
それから誕生日に外食だけってにはいかないでしょ?
私と健二で誕生日プレゼントを用意してたの
大きめのクマのぬいぐるみでね
結音がトイレに行ってる間に健二が近くのお店まで取りに行ったの
その時にねたまたまにその時にね交通事故にあっちゃったの
戻ってくるのが遅いしサイレンの音がするし嫌な予感がしたわ
でもそう言う嫌な予感って外れないのよね
よりによって28日であんな時じゃなくってもいいのにね
運命っていうのは分からないわね」
「・・・」
話を聞いて俺は返す言葉が無かった
結構重い話だなって
多分今感想を言ったとしても全部軽いものにしか聞こえない気がして
俺は卑怯かもしれないけど口を瞑った
「でもその運命のせいで結音は自分の誕生日が嫌いになっちゃってね
まあ仕方がないと言ったら仕方がないかもね
だからあまり誕生日を祝っても喜ばないかもしれないけど
許してあげてね潤くん」
「…はい」
笑顔でそう言う詩織さん
詩織さんは吹っ切れたのかな?
いやそんなはずない
人の死を愛した人の死を吹っ切れる訳がない
でも詩織さんは笑顔でそう言った
それはやっぱり親だからか?
自分の子どもの結音のためなのか?
…ダメだ分かんねえ難しすぎる
やっぱり俺もまだ子どもか




