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「ふぅ…」
結音はマイク前に立つと小さく深呼吸する
すると空気が変わった
背筋がピンと伸びしっかりと立ち真剣な表情で前を見据える
さっきまでオドオドしていたあいつはもうそこには居なかった
そして口が開くと同時に結音から音が生み出された
「っ」
結音から生み出された音に俺は息を飲んだ
今まで聞いたことがない結音の迫力があり存在感のある声
しかしそれはとても綺麗な声で聞き心地のいい声だった
そして結音が弾くギターは正確なリズムを刻み
余計な音は鳴っておらず必要な音だけが鳴っている綺麗な和音を奏でた
何よりもその歌声とギターの音は俺の好みの音だった
ダンッ
「っ!!」
隆のドラムが入ってきて俺はハッっとする
その音で我に返り慌てて俺も曲に入っていく
――なんだよその音
なんだよその歌
なんだよその完璧なギターソロ
なんでそんな音出せるんだよ
根暗のくせに
協調性無いくせに
猫かぶりのくせに
ムカつくんだよ!!
聴けば聴くほど一緒に弾いているから余計に結音の生み出す音がすごい事が分かり逆にムカついてきた
だから対抗心が出てきて喰らいつくように最後まで俺もベースを弾いていった
ジャジャンッ
「すっげええええええええええええええ!!」
曲が終わると一瞬の無音の後に隆が大声で叫んだ
「すげえ!!かっけえ!!うめえ!!」
「うん本当にすごかったよ
想像以上を遥かに超えてた」
隆は目を輝かしながらテンションMAXで褒める
奏斗も珍しく驚いた表情を見せる
それに大して結音は苦笑いを返す
…いつも通りに戻ってんじゃねえかよ!!
さっきのあいつは何処に行ったんだよ!!
あー余計にイライラしてきた!!
「いやマジですげえよ結音!!
なあもっとやろうぜ!!時間が惜しい!!」
そう言って熱がまだ冷め病まないまま隆は勝手に次の曲を結音のウォークマンから探す
「あっこれ!!
なあ結音もしかして時雨弾けんの!?」
「えっ…うん」
「マジかよすげえ!!
俺ら奏斗が歌えないって言ったから諦めたんだよ
まあもちろん潤もだけど」
「っ…しゃあねえだろあんなの歌えるかよ
第一弾くだけでいっぱいいっぱいな曲なんだよ」
「これは潤に同感だね
俺もあんな声出せないしギターも難しいから
でもそんな曲を弾けるって本当にすごいね」
「そんな事…
家に居てもする事無くて練習する時間いっぱいあるから」
「努力の賜物ってやつだね」
――家でも練習してたのか全然気づかなかった
てか帰ってから家事やってるのにいつやってんだよ
陽菜の相手だってしてんのに
1ヶ月経つのに全然知らない事ばっかりだな
まだ俺の知らない事あんだろうな…
って!!
俺はコイツの事なんで興味無いけどな!!
「俺すげえ好きなんだよ時雨!!
だから一回音源流しながらやろうぜ!!」
「それって結音に1人でやってもらうって事だよね
さすがに可哀想だと思うけど?」
「大丈夫だって俺も叩くから!!」
「隆お前叩けるのかよ」
「全然!!難しすぎて無理!!
でも雰囲気で叩く!!
まあ音源流すから多少違っても大丈夫でしょ
だからベースとコーラスとたまにドラムは音源に任せるって事でやろうぜ結音!!」
「えっとあの…私時雨のギターは弾けなくて…」
「えーそうなの!?
でもさっき弾けるって言ったじゃんかー」
「ごっごめんなさい…」
ガクリと肩を落とす隆に申し訳なさそうに謝る結音
――まあそうだよな
1年そこらで歌いながら弾けるような曲じゃねえしな
うん、全然負けてねえ
弾けないと言う結音の言葉に俺は何故かニヤッとしてしまう
「あの…私時雨の時はベースやっててギターは練習してなくてごめんなさい…」
「っ!?」
「ええ!?ベース!?」
「うっうん…ベースの子がコーラス高すぎて出ないから
交代して私がベースやってるの
ごめんなさい…」
驚く俺達に怒られたとでも思ったのか謝りながらそう答えた
「マジかよ…」
「すごいね結音」
「ああ!!マジですげえよ結音!!
潤、ベース結音に貸してやって!!」
「はあ?なんで俺の」
「だったら潤弾きながら歌えんの?」
「うっ…分かったよ」
「と言うわけだから結音よろしく!!」
「うっうん…」
仕方がなく俺はベースとスタンドに置く
そして結音が申し訳なさそうに俺のベースを手にする
「それじゃあミュージックスタート!!」
隆はウォークマンの再生を押し曲が流れた




