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◆5◇



「昂っ…………!?」


廊下がざわめく。

振り返ると予想通り。喜ぶべきなのか悲しむべきなのか…昂の姿があった。その後ろには暁君もいる。


毎度のことながらこの2人はやはりどこか異質だ。

廊下に姿を現した途端に空気ががらりと変わった。


いわゆる芸能人のオーラというもの?マンガとかで言うならかっこいい男の子の周りにとんでるキラキラしたやつ。ほら、よくいるじゃん。その場にいるだけで目を引く人って。

廊下にいる生徒も教室にいる生徒も目が自分達に釘付けになっているという事実を彼らは自覚しているんだろうか?


………てか冷静に分析なんかしてる場合じゃないって自分!!

むしろこの2人が(正確に言うと1人だけど)声をかけてきてくれちゃったおかげで状況はますます悪化してるから!!

あ〜〜〜っっ、もう!!!だから目立ちたくないんだって!!


このまま速やかに通り過ぎてくれることを願わずにはいられなかった。

だがそんなに事がうまく運ぶわけもなく……理子は私から腕を離すと、にっこりと微笑んだ顔を私の背後に向けて、


「あれ〜?誰かと思えば楠原じゃない。どうしたの?何か用でも?」


と、どこか挑発するような口振りで声をかける。


セイセイセイ……(←古い)ちょっと待って理子さん!!

なんで喧嘩腰?


「うん?どっかで見かけた顔が廊下のど真ん中でレズってるから友人として軌道を修正してあげようと思っただけだけど?」


昂も曇りのない笑顔で答える。


ってオイ!!なんで昂まで挑発にのってるわけ!?


「あらぁ…。それにしちゃあ目がとても友人を気遣ってくれるような優しいもんじゃなかった気がするけど?」

「なんだ、俺に優しくしてほしかったわけ?お望みならばいくらでも優しくしてあげるよ?」


バチバチバチ…まさに効果音はこんな感じ。

お互い笑っていても何故か挑むような目つきで睨み合っている。


な、なんでこんな事になってんの!?


助けを求めるように暁君を見つめてみたが、暁君はかぶりを振っただけで2人を半ば呆れたように見ている。


なんなんだこの状況は……

さしずめ縄張り争いしている犬2匹と無力なアリ2匹?むしろ縄張りに入っただけで踏みつぶされそうなんですけど(汗)周りの生徒たちもはらはらとしながら、2人の行く末を見守っている。


はあぁ〜〜……

なんかすごい面倒くさくなってきた気がする……


いっその事この2人を放置して蟻らしく静かに退散してしまおうと目論んでいると、


「そこにいるの―――!!全員早く教室に入りなさいっ!!」


といきなり廊下に鼓膜が破れる勢いで大声が響きわたった。


「…っ!?まつもっちゃん!?」

「あんたたちっ、チャイムとっくに鳴り終わってんのよ!!いつまで待たせる気なのっ」


ぶんぶんと出席簿を振り回しながら廊下にいる生徒たちに怒声を次々と浴びせる。


昂と理子の冷戦状態が中断された事にほっとしながらも私達は慌てて自分たちの教室に戻った。



***** ***** ***** ***** *****



「ちょっと理子!!なにやってんの!?」


朝礼が終わって理子に詰め寄ると、理子は気まずそうに笑いながら


「ごめんごめーん。だってあまりにも楠原が面白い反応するからさー、調子に乗っちゃったよ」


と謝ってきた。


「もう…廊下で喧嘩始めるのだけは勘弁してよね」

「はぁ〜い!以後気を付けま〜す」


理子の隣の席の彼氏でもある裕樹君が(たまたま今回の席替えで隣になったというからすごい偶然だ) 心配そうに理子をおろおろと見つめている。


「理子ちゃん……あんまり無茶しちゃだめだよ?」

「はいはい、分かってますってー。もうこれっきりだからさ。心配してくれてありがと〜裕樹」

「理子ちゃん………」


うわっ……!ラブラブ光線が目につきささってきて痛い。

ただでさえ暑いというのにこの2人は室温を更に上昇させる気かっ!

見ていられなくて、しょうがないから一限目の英単語の小テストの勉強をしようと単語帳を開こうとしたら、


「波風さーん!呼ばれてるよぉ!」


とクラスの女の子に言われた。教室のドアのところに行くと見知らぬ男子生徒が立っている。靴ひもの色は薄いブルーだから一年生のようだ。


誰だろう?後輩みたいだけど……


「あの……何か?」


話しかけてみるが口ごもっていて何を言いたいのか分からない。心なしか顔が赤くなっている気がする。熱でもあるのか?


「だ、だいじょうぶ?顔が赤いけど」


ちょっとごめんね、と断って私より少し背の高い男の子の額に手を当ててみるが特に熱はなさそうだ。


「うーん…熱はないみたいだけど。どうする保健室に行く?あっ、ていうか私に何か用があったん……」


私は思わず吃驚して、言葉を途切れさせてしまった。男の子の顔がみるみる赤くなっていく。


「………っ、あのっ……今日の放課後、体育館裏で待ってます………!!」


男の子は絞り出したような声でそれだけ伝えると廊下を走り去っていってしまった。


えー…っと…これってもしかして……


「相変わらず鈍い上に罪作りなやつだよねー、薫は。今ので絶対後輩君イカレたな」


背後からの揶揄するような声に振り返ると、理子がニヤニヤと笑いながら立っている。


「あの後輩クンの態度を見れば一目瞭然なのにねー。クラスの子達も皆気づいてたのに、気づかなかったのは薫だけだよ。何度もこのパターンで呼び出されてんだから、少しは学習能力を身に付けなよね」

「はい……」


ごもっともです。

理子に反論など出来るはずもなく黙り込む。


はぁ〜………


自分のバカさ加減を本当に呪いたくなった。



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