プロローグ
私とコウは物心つく時からずっと一緒だった。家が隣合っていたのもあるせいか家族ぐるみでの付き合いだったから、一緒にいる時間が多くなるのは必然的と言っても過言ではないと思う。幼い頃は朝から晩まで肌が真っ黒になるまで毎日2人で遊んだし、一緒に悪戯してしょっちゅう母親にこっぴどく叱られたし、時にはケンカした事もあった。寝るときでさえずっと一緒だった気がする。私たちは世間一般で言う「オサナナジミ」というヤツなのかもしれないけど、もともとお互いに兄弟がいなかったのと私が男勝りなのもあって、もはや兄弟同然に育ってきたから特別視し合うこともなく。
私とコウがどこかよそよそしくなり始めたのはいつからだったんだろう。記憶は曖昧だけど、中学に入ると男子は男子で女子は女子でつるむようになり、俗に言う「思春期」に入った私たちが昔のようにいつまでも一緒に過ごせるはずもなかった。気がついたら疎遠になっていた、という表現が一番ぴったりくるかもしれない。まあ、これも少女マンガとかによくある「オサナナジミ」の現象の1つなのか?と思うことで、どこか寂しく思う気持ちを無理矢理胸の中に閉じこめた。
私がコウへの恋心を自覚したのは中3の時だった。まあ、同時に失恋したようなものだったけどね。確か夏休みに入る前の頃だったと思う。
空が夕焼けに包まれ、いつもの様に部活が終わり友達と皆で帰ろうと校門を出ようとしたときの事だった。
「ねえ、あれっ!!」
1人の女の子が何かに気付き、慌てて校舎の裏庭の方向を指さした。
ああ、この時ばかりは片目だけで視力1.7ある自分の目をどれだけ本気で恨んだことだろう。
次々に「それ」に気付いた女の子達が小さく悲鳴をあげる。
裏庭に続く木の影で重なる男女のシルエット。女の方はどうやら後輩みたいだけど、男の方は私が良くも悪くも知りすぎた相手だった。
「あれって楠原君だよね!?やだぁーっ、楠原君って彼女がいたの!?」
「あんなとこでキスしてるなんて大胆だねー。さすが!」
「あっ、女の方、楠原君の頭に手をまわしてる」
皆なんだかんだ言って興奮しながら2人に目が釘付けになってしまっている。
何かが心の中で壊れる音がした。
目をそらしたくてもそらせないまま、ただ2人が深くキスしている姿を呆然と見つめていた。言い様のない焦燥感が押し寄せてくると共に、深い痛みが胸を襲う。
わたし、コウの事が好きだったんだ―――……
「オサナナジミ」という事でどこかでタカをくくっていた。どんなに離れても結局コウは自分の事を待っていてくれる気がしていたのだ。だからこそ昔のように一緒にいられなくても耐えることが出来たのだろう。だけど私は何を一体証拠にそんなバカなことを思っていたんだ?いつのまにかコウはぐんと背が伸びて格好良くなってモテだして……。
とっくの昔に遠いどこか知らないところへ行ってしまっていたというのに。コウにとって私はただの「オサナナジミ」でしかなくて、「オサナナジミ」なんて何の枷にもならないというのに。
無意識のうちに「すごいねー」とか言って皆と話を合わせていたけれど、心は張り裂けそうになるぐらい悲鳴を上げていた。
ワタシヲドコニモオイテイカナイデ――――………
中三の夏、失恋が決定した瞬間だった。




