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◆14◇

―――合宿2日目


樫本先生は私たちが海を楽しみにしていたことを知ってか知らずか、早めに練習を切り上げて海に行くことを許可してくれた。


もちろん大騒ぎになったのはいうまでもない。


男の子たちは一体どこにそんなものを隠し持っていたのやら浮き輪やボールを荷物から取り出し、一方女の子たちはというとお肌のお手入れとかいって各部屋で丹念に日焼け止めクリームを塗り始めている。


そして私は、今まさに熱ーい視線が背後から自分に注がれている結構ピンチな状況に立たされていたりした。


「ふっふっふっ。どんなにこの時を私が待ちわびていたことか……」


不気味な、まるで魔女のような台詞にぶるっと全身に寒気が走る。


目に獣のような怪しい光を宿してじりじりと詰め寄ってくる理子が手にしているのは例の水着。

妙な気迫に思わず後ろに後ずさる。


「り、理子?やっぱりそれはちょっと無理かなーなんて…」


この水着を着た自分の姿を部員全員の前に晒すのは恥ずかしい、というかとてもじゃないけど耐えられそうにない。


さりげなく抵抗してみるが、理子はさっきから全く同じ笑みを浮かべたままで何も答えようとはせず、更に一歩、二歩と私との間合いを詰めていく。


こ、こわい…!怖すぎるって……!!!


同室の子達はそんな様子を見て「あははー2人とも何楽しそうなことやってるのー?早くしないと先行っちゃうよお?」とまるで他人事のように(いや、他人事だが)楽しそうに笑っている。


だからこれのどこが楽しそうに見えるんだっ!!?

今まさに「猛獣に迫られてる可哀想な羊」という構造は目に見てはっきりとれるよね?ねえ?


私が救いを求めようとする前に理子は「いいよ、先に行ってて。海はすぐそこだし後から薫と2人で行くからって楠原達に伝えておいてくれる?」と鬼のごとくあっさり逃げ道を遮断し、嬉しそうに出掛けていく女の子達を泣く泣く見送る事になってしまった。


部屋にどこか楽しそうに微笑んでいる理子と部屋に2人っきりで取り残される。


「薫?往生際が悪いわよ?」

「りこ〜〜〜っ」

「そんな仔犬のような目をしたってダ〜メッ!!今日のあのスパルタ倍増練習に耐えられたのも薫がこの水着を着てくれる楽しみがあったからなんだから!!!」


は、はあっ!!?

なに、そのオヤジっぽい発言は!!


「いいから早くっ!せっかく海に行けるのに薫が着てくれなきゃいくらたっても行けないじゃない!!」

「嫌だ!お願い!勘弁してっ!Tシャツのままでもういいからっ」

「・・・・・薫?いつまでも我が儘言ってると強行突破で無理やり服脱がせるわよ?」

「〜〜〜っっ」

「ほら、薫?」


凶悪な笑顔で微笑まれ、もはや抵抗する術は何も残されていなかった。



***** ***** ***** ***** *****



海は夏休みに入ったからか大勢の海水浴客で溢れかえっていた。

特に家族連れやカップルが多いようだ。

青い空、青い海、眩しく輝く太陽……


だけど今は全部かなり恨めしいゾ☆(混乱のためキャラが崩壊しています。ご注意ください)


「「「「・・・・・・・・・。」」」」


砂浜でシートを引いていた女の子達がぽかんとした顔で私に視線を向けている。


……っ!!

だから嫌だって言ったのに…!!!


理子にパーカーまで剥ぎ取られ隠すものは何もなくなってしまい、このありえないぐらい露出度高めの水着を柄でもなく着てきた私に驚いている事は嫌でも分かる。

だって私でさえ現在進行形で自分に驚いているぐらいなんだからっ…!!

こんな私に比べて皆それぞれ自分に似合った可愛い今時の水着着てるし……


「あれえ〜?男子達は?ウザザカもいないし」


そんな事を隣で暢気に聞く理子を本気で憎みたくなる。


「……え、え?あ、えーっとウザザカ含め男子達は海の家で食料と飲み物を調達しに行ったけど……っていうか薫のその格好……」


もう何も聞かず見なかった振りをしてほしい…


「ふふっ♪私の最高傑作なの♪♪すごいでしょ??」


性懲りもなく自慢げに理子がそう言うと、辺りにまたしんとした空気が訪れる。


なに?これ苛め?苛めなの?

昂にも失恋し、唯一の楽しみである海でさえこの始末?

神様、とうとう私を放棄しましたね?


もうここでいっその事失神して神に召されてもいいかなぁ・・・とぼんやり遠い目で空を仰いでいると、いきなり


「!!?」

「きゃああああああ!!!!先輩、かっこいいぃぃ〜〜〜!!!」

「薫っ!!?昨日お風呂入ってるとき全然気付かなかったわ!!アンタそんなにスタイル良かったわけ!!!?」

「足長っっ!!デルモじゃんっ!!つーかデルモやるべきだよ!!」

「いえっ!!グラビアじゃないですか!!?先輩一体何カップあるんですか!?羨ましすぎですうぅ」


と覆いかぶさるようにして次々に抱きつかれた。


はっ!!!?な、なにごと!?


驚いてされるがままになっていると、戻ってきたらしい男子達の騒がしい声が聞こえてきた。


「おーい、トウモロコシとか焼きそばとかジュース買ってきたぞー!!」

「ちょっと買いすぎたか?まぁ、すぐ食べちゃうからいっか♪」

「つーかお前ら何やって…」


私の姿を見た途端、男子達も面白いぐらいに喋るのをやめて固まっていく。


男子にこんな姿を見られるなんて女子とは比にならないぐらい恥ずかしすぎる!!!

そういえばすっかり忘れてたけど、この姿昂にも見られることになるんだよね!?

それだけは嫌だっ…!!

てか絶対キモイって思われるし!!

だって昂は私と泳ぎに行ったときとか昔からスクール水着しか見てないんだよ…!?


昂に今軽蔑の眼差しで見られたらホントに耐えられない…

昂が来る前にそれだけは断固阻止しなきゃっ……!!


私は集まる視線を無視して、慌ててきょろきょろと辺りを見回すと広げられているシートの端に運良く荷物に混ざってパーカーが置いてあるのを発見した。


今だけこの視力の良さに感謝しますっ!神様っっ!!!

誰のかわかんないけど取り敢えず借ります!!


私は抱きつかれて撫で回されていた手を何とかして剥がすと、(かなり無様な格好だったと思うが)這い蹲ってシートの端まで向かった。

そして急いで黒のパーカーに手を伸ばし着ようとしたその時――――


「おい、それ俺の―――…っ!?」


と目の前から突然聞こえてきた声に思わずびくっと体が反応する。


こ、この声は、まさか……


おそるおそる視線を上に向けると……


(…っ、最悪だ―――……!!)


そこにいたのは呆然としてジュースの缶を両手に抱えて佇む昂と暁君の姿だった。




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