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◆12◇


「着いたぁ――――っっ!!」


バスから降りた瞬間、万歳のポーズをとって次々と皆叫んでいく。

隣のバスから降りてきた男子たちなんて、童心にかえった少年のようになぜか追いかけっこまで始めていた。


バスに揺られて3時間ちょっと。

目の前には光が反射してきらきらと輝いている、薄いブルー色の綺麗な海と白い砂浜が広がっていた。


「うひゃーすごいなぁ。これはもう泳ぐしかないね!」

「浮き輪持ってくればよかったぁ!!」


皆もう海しか目に入らないみたいだ。

練習の事なんて完全に頭から抜け落ちているにちがいない。

まあ、気持ちは分からないでもないけど…


「よーしっ、誰が一番先にこっから海にたどり着けるか勝負しようぜ!」

「いいぜ、その勝負乗った!!」


男の子たちがいきなりくだらない勝負を始めようとしていた。なぜか皆ムキになって「負けねーからなあ!」と意気込んでいる。


ちょ、ちょっと!?

はっ、てか女の子たちもいつのまにか砂浜にいるし!!


隣で理子は「いやぁ、青春だなあ」としみじみ和んでいる。


り、理子さん………


「ちょっと皆〜〜〜っ!!」


叫んでみるが、まったく聞こえる気配無し。

皆好き勝手に行動を始めてしまい収集がつかない事態に呆然としていると、先生と話が終わったらしい昂と暁君がバスからやっと降りてきた。


「おい、旅館にまず行くから全員荷物もって―――って、はっ!?お前らなにやってんの!?」

「おーい、昂も暁も勝負しようぜー勝負!」

「お前らなぁ…………」

「おい、全員よく聞けっ!!!」


いきなり樫本先生が大声で叫んだ。

皆なにごとかと振り返る。


「今から1分以内に荷物を運べ!!じゃなきゃ1人でも間に合わなけりゃ全員昼飯抜きだからなあ―――!!!」

『ええ〜〜〜〜っ!!!?』


皆慌てて戻ってきて、荷物をせっせとバスから下ろし始める。


う〜ん……さすが先生……


「かっしー!!旅館ってどれのこと?」

「あ?あれだよ、あれ。割と大きいやつ」


先生はここから少し離れたところにある静かな佇まいをみせる建物を指した。

明るい雰囲気でありながら風格のある純和風の立派な旅館に「おぉーっ」と感嘆の声が口々に沸き上がる。


「すっげぇーかっしー!よくあんなトコ見つけたな」

「かっしーってば素敵!!サイコーッ!!」

「はいはい〜お褒めの言葉に預かり光栄ですよ、おぼっちゃま方。いいからさっさと荷物運べって」

『は〜い!』


旅館に入って出迎えてくれたのは、優しそうな老夫婦だった。

女将さんは嬉しそうに顔をくしゃっとして微笑むと、


「ようこそ¨躑躅荘ツツジソウ¨へいらして下さいました。何もないところですがゆっくりしていって下さいね」


と丁寧にお辞儀をしてから、先生の方に向き直った。

先生も姿勢を正して頭を下げる。


「お久しぶりです、桂のじいさん、ばあさん。今日から3日間お世話になります」

「おぉー、勇君じゃないかぁ。でっかくなりおって!元気にしておったかぁ?」

「ふふっ、勇君ったらしばらく見ない間にさらに男前になっちゃったわねえ」


先生はがしがしと頭を撫でられて「ちょっ、生徒の前ですから勘弁して下さい」と慌てていた。滅多に見れない先生が恥ずかしがってる姿に一同大爆笑が起きる。


すると奥の方から、


「やぁ、勇!元気だった?」


といきなり人影があらわれた。細い眼鏡をかけている顔が整った紳士っぽい男性。隣はちょこんと小さめの可愛らしい女性が立っている。


拓弥タクヤ!?なんでお前がここにいるんだ!?」

「なんでって……相変わらずつれない奴だなあ君は。君がここに来るって言うから、わざわざ帰省する日程をずらしたんだよ。皆さん、初めまして。勇の友人の桂拓弥です。隣は僕の妻の悠子ユウコ

「初めまして」


2人が頭を下げてきたのにつられて、皆ばらばらに頭を慌てて下げ返した。


「そんな所に立っていらっしゃらないで、どうぞお上がり下さいな。二階は本日貸しきりになっていますからよろしければ温泉もご自由にお入り下さいね」

『温泉!?』

『きゃあっ、やったあ〜〜!!』

「あ〜もう!お前らいいから早く二階に上がれっ!あとでこれからの予定伝えるから」


「は〜い」と元気に返事をして騒ぎながらバタバタと皆二階に上がっていく。

理子も「温泉温泉♪」と嬉しそうに鼻歌を歌っていた。


私はそんな様子に苦笑しながら荷物を抱えると、二階へと上がることにした。


背後で樫本先生の盛大にため息をつく音が聞こえた。



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