◆9◇
「ねぇ理子………」
「ん?なあに?あっ、この花柄も可愛いかも」
「………なんでこんな所にいるんだっけ、うちら」
今、理子と来ているのは何故か4階にある水着売場。
この時期夏本番前という事で新作の水着がたくさん出ているせいか、水着売場は多くの客で賑わっていた。
「なんでって水着を買いに決まってるでしょ」
「いやいや……だから何でそうなる?」
「薫が言ったんじゃない。合宿中に海行けるって」
「そうだけど、私水着ならもう―――」
言いかけたところで「ストーップ」と理子に言葉を遮られた。
「薫君、この私が当ててあげよう。君が持ってる水着というのはどこぞやのスクール水着じゃないかね?」
えっと?理子サン。
その変な口調は一体………
「そうだけど………?」
スクール水着と言っても学校のじゃなくて、いわゆる本格的な水泳教室で習ってた時に着ていたヤツ。
シンプルなデザインが割と気に入ってたんだけど……
するといきなり理子は何着かの水着を私の手に押しつけ、そのまま店員を呼ぶやいなや私を試着室に押し込んだ。
「ちょ、ちょっと!?」
慌てる私に、理子は鋭い睨みをくれる。
「薫、アンタ男のロマンを壊す気!?」
「は?ろ、ろまん?」
「そうよっ!!誰が海に行ってスクール水着をわざわざ拝みたいなんて思うの!?そんなのは変態だけよ!男はねぇ、水着姿になってより一層輝く女の子たちに夢という名の希望をもって海にやってくるんだから!第一、そのイヤらしい体を¨海¨という絶好の場で解放しなくてどうする!!」
「はあっ!?」
ぎょっとして思わず理子を見つめる。
彼女は一体なにを言ってるのだ…?
「ほらっ、薫!諦めてさっさと着替えなさい。集合時間に間に合わなくなってもいいわけ?楠原がさらに不機嫌になってもいいっていうなら話は別だけど」
うっ………
それはちょっと勘弁してほしい…かも。
結局言われるがままに(言いくるめられた感もあるが)水着をしぶしぶ試着することとなった。
―――――が。
「………っ!?」
な、な、なにこの水着っ……!?
鏡に映し出された自分の姿に唖然として口が塞がらない。
何でこんなに生地が薄いのっ!?っていうかほとんどこれじゃあ胸が丸見えみたいなもんじゃん……!!下着なんか比べもんになんないってどんだけ!?
ないない絶対ありえないって、コレ……!!
「薫ー?試着できたー?」
「無理っ!!てか絶対イヤだっ!!こんなの着るぐらいならスクール水着着たほうが10000倍ましっ!!!」
いや、むしろ死んだほうがマシだっ……!!
さっさと脱いで着替えてしまおうとズボンを手に取ろうとした瞬間、試着室のカーテンがばっと開かれた。
「はっ!?ちょっと!!?」
理子ってばなにやってんの!?
なんでカーテン断りもなく全開にしてるの!?
着替えてる途中だったらどうするつもりなわけっ!?
理子の信じがたい行動に固まっていると、理子は下から上まで人の体を勝手に眺め回してから、なぜが一人で納得したように頷いた。
「店員さーん、この水着どう思われます?」
「え?アラー!すごいお似合いですよ!!お客様、すごいスタイルがよろしいからかしら。実はこの水着、着こなせるのはモデルぐらいじゃないかと雑誌でもとりあげられてるぐらいなんですよ。でもお客様ほどお似合いでいらっしゃる方を初めて見ましわ」
店員もなぜか驚いたように見ている。
「ですよねー、私もそう思います♪他の水着を試着するまでもないな………じゃあ店員さん、コレください!」
「はい、かしこまりましたー!」
もはや、反論の余地無し。
私が呆然として突っ立ってる間に、理子は手早く話をつけて結局水着を買い上げることになってしまった。しかもいつのまにか自分の水着までちゃっかり買っている。
「じゃ、これは私が持って帰るね。薫のことだからわざと水着家に置いてきそうだし」
ギクッ。
す、鋭い………!
だめだ、やっぱりどう足掻いても彼女に勝てる日は一生来る気がしない。
有無を言わさず理子は買い物袋を奪って、上機嫌で歩き始めた。
はあ…………
波風薫、完敗です。




